SHARE:

高齢者向け運動教室、同世代のインストラクターが果たす役割

高齢化が進む中、健康寿命の延伸は各国共通の課題となっている。
2026年4月30日/米ワシントン州ショアライン、高齢者向けの運動教室(AP通信)

高齢者向けの運動教室で、同世代の指導者が果たす役割に注目が集まっている。若いインストラクターにはない共感力や人生経験が参加者の心をつかみ、運動習慣の定着だけでなく、孤立防止や地域コミュニティ形成にもつながっているという。

米ワシントン州シアトル近郊のYMCA(キリスト教青年会 / Young Men's Christian Association)で活動する72歳のベンジー・サントス(Bengie Santos)さんはその代表例だ。30年間ダンサーや振付師として活躍した後、引退後の新たな挑戦として運動指導の道に進んだ。現在は14年にわたり高齢者向けクラスを担当し、多くの受講者を集めている。教室には80代や90代の参加者も多く、ストレッチや筋力トレーニングに加え、ダンスを取り入れたプログラムが人気を集める。

サントスさんのクラスの特徴は音楽選びにある。往年の歌手ドリス・デイ(Doris Day)の楽曲からヒップホップ、カントリーダンスまで幅広いジャンルを取り入れ、参加者が楽しみながら体を動かせる環境をつくっている。高齢者施設で指導する際には、ジュディ・ガーランド(Judy Garland)やルイ・アームストロング(Louis Armstrong)など、入居者が若い頃に親しんだ音楽を流すこともある。音楽が記憶を呼び起こし、普段は消極的な人でも自然に体を動かし始めることが少なくないという。

参加者からの評価も高い。81歳のシャロン・ラフ(Sharon Ruff)さんは、以前は運動が好きではなかったが、サントスさんの教室に通うようになってから継続できるようになった。「楽しいから続けられる」と話す。91歳のアン・カシワ(Ann Kashiwa)さんもコロナ禍をきっかけに参加を始め、がん治療中も教室に通い続けた。教室で築いた人間関係が精神的な支えになったと振り返る。

専門家は高齢期において運動と社会的つながりの両方が健康維持に欠かせないと指摘する。人間には本来、できるだけエネルギー消費を避けようとする傾向があるため、運動を習慣化するには動機づけが重要になる。身近なロールモデルの存在は、その壁を乗り越える有効な手段だとされる。

こうした考えを裏付けるように、高齢の運動指導者は各地で活躍している。米サウスカロライナ州で活動する83歳のパーソナルトレーナー、ハリー・キング(Harry King)さんもその一人だ。保険会社で働いた後に引退したが、座ったままの生活に物足りなさを感じ、フィットネスクラブで働き始めた。現在は主に50歳以上の顧客を指導している。「自分の年齢でも運動できるのだから、他の人にもできるはずだ」と語る。

YMCA側も高齢指導者の価値を認識している。年齢による採用制限は設けず、受講者の中から指導者を育成する取り組みも進めている。運動教室は単なるフィットネスの場ではなく、精神的な健康や交流の機会を提供する場でもあるからだ。

67歳の受講者トム・クライネッケ(Tom Kleinecke)さんは「若い指導者は教えるが、サントスさんは人を動かし、励ましてくれる」と話す。週に3回参加するうちに体力や持久力が向上し、今では妻と週末にダンスを楽しむまでになったという。

高齢化が進む中、健康寿命の延伸は各国共通の課題となっている。専門家は運動プログラムの内容だけでなく、「誰が教えるか」も重要な要素だと指摘する。同世代の指導者は参加者の不安や身体的な制約を理解しやすく、成功体験を共有できる存在でもある。

サントスさんは「これは私のクラスではなく、参加者のためのクラスだ」と語る。高齢者が運動を義務ではなく楽しみとして受け入れられる環境づくりこそが、長く健康で活動的な人生を支える鍵になりそうだ。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします