月経前不快気分障害(PMDD)、知っておくべきこと
PMDDは月経前症候群(PMS)の一種とされるが、単なる気分の浮き沈みとは異なり、重度の抑うつ、不安、絶望感、自殺念慮などを引き起こす深刻な疾患である。
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月経前になると、突然自分が別人になったように感じる。「月経前不快気分障害(PMDD)」は多くの女性を長年悩ませてきた。
PMDDは月経前症候群(PMS)の一種とされるが、単なる気分の浮き沈みとは異なり、重度の抑うつ、不安、絶望感、自殺念慮などを引き起こす深刻な疾患である。専門家によると、症状は排卵後から月経開始までの「黄体期」に集中し、月経が始まると改善するケースが多い。
英BBCの取材に応じた42歳のアニカ・ワヒード(Annika Waheed)さんは、PMDDによって毎月のように自殺衝動に襲われてきた。実際に過量服薬を試みた翌朝、生理が始まると絶望感が嘘のように消え、「なぜ自分があんな行動を取ったのか理解できなかった」と振り返る。彼女は「毎月、死神が迎えに来るような感覚だ」と表現する。症状が出る期間には、動悸、激しい腰痛、腹部膨満感など身体的症状も伴い、生活は著しく制限される。
PMDDは決して珍しい病気ではない。イギリスでは100万人以上が影響を受けていると推計されており、世界的には月経のある人の5〜8%が発症するとされる。しかし、その認知度は低く、診断まで平均12年かかるという調査もある。
21歳のケイティ・クック(Katie Cook)さんも12歳で初潮を迎えて以降、激しい気分変動や身体の痛みに苦しみ続けた。光や音に過敏になり、日常生活すら困難になることもあったが、医師からは「思春期特有のもの」と片づけられていた。大学進学後、ようやくPMDDの可能性を指摘され、自身の症状が月経周期と一致していると理解したという。彼女はBBCのインタビューで「ジキルとハイドのようだ」と語り、月の半分は普通に生活できても、残り半分は暗闇に閉じ込められる感覚だと説明した。
PMDDの危険性として特に深刻視されているのが、自殺リスクの高さである。国際月経前障害協会(IAPMD)によると、PMDD患者は一般人口より自殺企図率が大幅に高いとされる。英紙ガーディアンはPMDD患者の34%が自殺未遂を経験しているとの研究を紹介している。
近年、研究者たちはPMDDへの理解を進めようとしている。スコットランドの西スコットランド大学では、医師がPMDD関連の自殺リスクを見抜くための新たな評価ツールを開発した。研究を主導するリンジー・マシューズ(Lindsey Matthews)博士は、「女性の精神状態と月経周期の関連性は長年軽視されてきた」と指摘する。医療現場では診察時間の短さもあり、月経周期について十分な聞き取りが行われないことが多いという。
治療法としては、抗うつ薬や低用量ピル、ホルモン療法などが用いられる。重症例では排卵を止める「化学的閉経」や、卵巣摘出に至るケースもある。ただし、それは妊娠の可能性を失うことも意味する。アニカさんさんは現在、ホルモン抑制注射を受けているが、「PMDDが母親になる未来を奪った」と語る。
SNSの普及によって、PMDD経験者同士がつながる動きも広がっている。ティックトックでは「#PMDD」の関連投稿が数億回再生され、症状や対処法を共有するコミュニティが形成された。これまで「気のせい」「性格の問題」と片づけられてきた症状が、実はホルモン変動に起因する病気だったと知り、救われたと語る女性も少なくない。
PMDDは外見からは見えにくい病気であり、周囲から理解されにくい。だが当事者にとっては、人生そのものを左右する深刻な問題である。専門家は診断の遅れを防ぐためには医療従事者だけでなく、社会全体の理解向上が必要だと訴えている。
