笑顔は気分だけでなく健康にも効果、ストレス軽減や人間関係の改善に期待、無理強いには逆効果も
この考え方の背景にあるのが「表情フィードバック仮説」だ。
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笑顔を浮かべることは、気分を明るくするだけでなく、ストレスの軽減や身体の健康にも良い影響を与える可能性がある。楽しい出来事を待つのではなく、意識的に口元を緩めることが、感情の変化につながる場合もあるという。
この考え方の背景にあるのが「表情フィードバック仮説」だ。顔の筋肉の動きが、本人の感情や気分に影響を及ぼすという理論である。スタンフォード大学で感情と文化を研究する心理学者ジーン・ツァイ(Jeanne Tsai)氏によると、過去の実験では、参加者に鉛筆を口にくわえさせて笑顔やしかめ面に近い表情を作らせ、漫画などの映像を見せたところ、笑顔を作った人の一部は、より強い面白さを感じたという。ただし、笑顔が必ず気分を改善するわけではなく、その効果には個人差がある。
健康面では、笑顔がストレス反応に関係する可能性が指摘されている。臨床神経心理学者のジュディ・ホー(Judy Ho)氏は、笑顔によってストレスに関係するホルモンであるコルチゾールの水準や、エンドルフィン、ドーパミン、セロトニンなど、肯定的な感情に関連する脳内物質の働きに影響が及ぶ可能性があると説明する。また、ストレスのかかる課題に取り組む際、笑顔を保った人は無表情の人に比べ、課題終了後の心拍数が低くなる傾向を示した研究もあるという。
ホー氏は、笑顔をうつや不安への唯一の対処法と位置づけているわけではない。あくまで、心理的な負担に対処するための選択肢の一つとして活用できるという立場だ。日常生活で意識的に笑顔を作ることが、感情を整えるきっかけになる可能性がある。
一方、笑顔の意味は文化によって異なる。ツァイ氏の研究では、米国では大きく歯を見せる笑顔が親しみやすさの表れと受け取られる場合があるのに対し、東アジアの一部では、状況にそぐわない過度な笑顔が不自然さや信頼性への疑念につながることが示された。感情を積極的に表現することを重視する文化もあれば、喜びや悲しみを含む感情の均衡を重んじる文化もある。
さらに、笑顔を強制することには注意が必要だ。職場で従業員に笑顔やアイコンタクトを義務づければ、本人の感情と表情が一致しなくなり、かえって心理的負担を増やす恐れがある。フロリダ大学のニコラス・A・コールズ(Dr. Nicholas A. Coles)博士は笑顔が本来の効果を発揮するのは、本人が自然に、また自発的に表情を作る場合だと指摘する。
専門家の見解から浮かび上がるのは、笑顔を常に保つこと自体が目的なのではないという点だ。無理に明るく振る舞う必要はなく、気持ちに余裕があるときに自然な笑顔を交わすことが、ストレスへの対処や人とのつながりを支える一助となり得る。
