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21世紀における「縮退都市」という考え、人口減の先進国で有効?実践における主な課題

21世紀の先進国において、人口減少は一部地域だけの特殊な問題ではなく、都市政策そのものの前提を変える要因になっている。
縮退都市のイメージ
現状(2026年9月時点)

21世紀の先進国では、都市政策の前提そのものが変わりつつある。20世紀の都市政策は、人口増加、住宅需要の拡大、産業集積、郊外化などを前提として道路、公園、上下水道、学校、公共施設などを整備してきたが、少子化と高齢化が進む地域では、人口を増やすことを前提とした都市経営そのものが成立しにくくなっている。

日本はその変化を先行して経験している国の1つである。総務省統計局によると、2026年8月1日時点の日本の総人口は1億2268万人で、前年同月から59万人減少している一方、65歳以上人口は増加しており、人口減少と高齢化が同時に進行している。

さらに重要なのは、人口減少が全国一律に発生する現象ではないことである。大都市圏に人口が集まる一方、中小都市、地方圏、農山村などでは人口減少がより強く表れるため、国全体の人口だけを見ても都市政策上の問題は把握できない。

経済協力開発機構の2025年の分析でも、加盟国では人口減少と高齢化が広範囲に進行し、2001年から2022年に人口が減少した加盟国が7か国存在するほか、2060年までにさらに7か国が人口減少に転じると予測されている。また、都市部についても例外ではなく、人口100万人以上の大都市圏が成長する一方、加盟国の都市圏の5分の1以上では人口が減少している。

この状況は、都市政策の目標を「都市を大きくすること」から「人口が減っても都市として機能し続けられる状態をつくること」へ転換する必要性を示している。ここから登場するのが「縮退都市」という考え方である。

「縮退都市」という考え方の本質と有効性

縮退都市とは、人口減少によって都市の規模が縮小することを単純に放置する概念ではない。人口、住宅、土地利用、公共施設、交通網、上下水道などの都市機能を将来人口に合わせて再編し、都市の規模を適正化しながら住民の生活水準を維持するという発想である。

つまり、縮退都市の本質は「都市を小さくすること」ではなく、「人口減少後も維持可能な都市構造へ計画的に移行すること」にある。この点を理解しなければ、縮退都市という言葉は単なる衰退や撤退を意味するものとして誤解される。

経済協力開発機構は、人口減少地域への対応として、人口減少を無理に反転させる政策だけではなく、人口減少を前提としてインフラや公共サービス、住宅、土地利用を調整し、住み続ける住民の生活の質を確保する「適応」の考え方を示している。さらに、既存施設の再利用や都市機能の集約によって、限られた資源をより効率的に使うことを重視している。

ここで重要なのは、「人口を増やす政策」と「人口減少に適応する政策」は必ずしも対立しないことである。若者や企業を呼び込む努力を続けながら、それでも避けられない人口減少に備えて都市構造を再設計するという二重の対応が必要になる。

人口減少を食い止めることだけを都市政策の最終目標にすると、将来の人口規模を過大に想定した公共施設や道路を維持し続ける危険がある。逆に、人口減少を完全な衰退とみなして投資を停止すれば、公共サービスの低下がさらなる人口流出を招き、都市の縮小が加速する可能性がある。

この問題を経済協力開発機構は、人口減少によってインフラが過剰になり、公共サービスが弱体化し、投資が減少することでさらに人口が流出する悪循環として整理している。したがって縮退都市の考え方は、人口減少そのものを止める万能策ではなく、人口減少がもたらす悪循環を都市構造の再編によって緩和する政策として位置づけるのが適切である。

日本ではすでに、この方向への政策転換が始まっている。国土交通省が進める「コンパクト・プラス・ネットワーク」は、住宅や医療、福祉、商業などの都市機能を一定の地域に集約し、そこを公共交通などで結ぶことで、人口減少下でも生活サービスを維持することを目指している。

2026年3月31日時点で、立地適正化計画を作成し、または具体的な取組を行っている市町村は971都市に達している。この数字は、人口減少への対応として都市機能の集約や居住地域の再編を検討する自治体が、すでに相当数に及んでいることを示している。

ただし、ここで「縮退都市は有効である」と結論づけるのは早計である。都市を集約すれば必ず行政コストが下がるわけではなく、住民が移動しなければならない場合には新たな負担が発生し、中心部への集約によって周辺地域の空洞化が進む可能性もある。

したがって、縮退都市の有効性を評価する際には、人口密度だけを見るのでは不十分である。重要なのは、どこに人口と都市機能を配置するのか、どのインフラを残しどのインフラを縮小するのか、どの程度の移動時間で医療や買い物などの生活サービスへアクセスできるのか、そして地域住民の負担をどのように抑えるのかという複数の指標である。

経済協力開発機構も、人口減少地域では行政区域単位だけでなく、実際の通勤・通学、買い物、医療などの生活圏を考慮した政策が必要だとしている。人口減少の程度や原因は地域ごとに異なるため、全国一律の縮退モデルを導入するのではなく、それぞれの地域特性に合わせた政策設計が必要になる。

したがって、21世紀の縮退都市論を評価する際の核心は、「都市を縮小させることが正しいか」という問いではない。むしろ、「人口が減少するという現実を前提にしたとき、どの程度の都市規模と都市機能なら、住民の生活、行政財政、環境負荷を長期的に両立できるのか」という問いに置き換える必要がある。

この視点に立てば、縮退都市は人口減少時代の都市政策における一種の撤退戦ではなく、都市の資源配分を組み替えるための計画論として理解できる。次に問題となるのは、その再編を具体的に進める際、道路、上下水道、公共施設、住宅などの維持費をどのように最適化するかという点である。

インフラ維持コストの最適化

人口減少時代の都市経営で最も重い問題の1つが、人口規模に対して過大になったインフラの維持管理である。道路、橋梁、上下水道、公園、学校、公共施設などは、人口が減ったからといって自動的に維持費が比例して減少するわけではなく、利用者が減少しても一定の固定費が残る。

特に地方都市では、広い市街地に住宅が分散し、その間を道路や上下水道が長距離にわたって結んでいるケースが少なくない。人口密度が低下すると、1人当たりのインフラ維持負担が増加し、自治体の財政を圧迫する構造が生まれる。

国土交通省は、今後、建設後50年以上を経過する道路橋やトンネルなどの社会資本が急速に増加すると見込んでいる。人口減少によって税収や利用料収入が伸びにくい一方、老朽化した施設の更新需要は増えるため、従来と同じ規模のインフラを維持することは難しくなる。

ここで縮退都市の考え方が意味を持つ。すべての道路や公共施設を均等に維持するのではなく、人口や利用状況、重要度などを基準に都市機能を整理し、維持すべき場所に公共投資を集中させることで、限られた財源を効率的に使うのである。

ただし、これは単純な「廃止」の論理ではない。例えば利用者の少ない公共施設を閉鎖する場合でも、近隣施設への統合、交通手段の確保、オンラインサービスへの移行などを組み合わせなければ、単に住民の負担を増やす結果になりかねない。

縮退都市におけるインフラ最適化とは、施設数を減らすことそのものではなく、「人口規模と生活圏に対して、どのインフラをどの水準で維持することが合理的か」を再設計する作業だといえる。

「スポンジ化」への歯止め

人口減少による都市問題を考える際、重要な概念が「スポンジ化」である。これは都市の内部で空き家、空き地、低未利用地などが発生し、土地利用がまだら状に歯抜けになる現象を指す。

スポンジ化が進むと、人口密度が低下するだけではなく、商店や医療機関などの生活サービスも維持しにくくなる。さらに、住宅地の中に空き家や空き地が増えることで、防災、防犯、景観、地域コミュニティなどにも影響が及ぶ。

重要なのは、都市の面積が変わらないまま人口だけが減少することである。人口10万人の都市が人口7万人になった場合でも、市街地の道路や上下水道が同じ距離のまま残れば、人口1人当たりの都市インフラ負担は上昇する。

そのため、縮退都市では「都市を無秩序に薄くする」のではなく、一定の範囲に居住と都市機能を集めることが重要になる。人口減少そのものを止められなくても、人口減少が都市全体に均等に広がることを抑えれば、公共サービスを提供しやすい地域を維持できるからである。

もっとも、空き地や空き家をすべて住宅や商業施設で埋め戻す必要があるわけではない。人口減少を前提とするなら、従来の都市計画とは異なり、「空いた土地を再び建物で埋める」のではなく、緑地、公園、防災空間、農的空間などへ転換する発想も必要になる。

つまり、スポンジ化対策の目的は、都市をかつての人口規模に戻すことではない。人口密度の低下によって生じた空間を新しい用途へ転換し、都市全体の管理負担を抑えながら、安全性や生活環境を維持することにある。

生活サービスの維持(コンパクトシティ)

縮退都市と密接に関係するのがコンパクトシティの考え方である。住宅、医療、福祉、商業、行政などの機能を一定の範囲に集約し、それらを公共交通などによって結ぶことで、人口減少下でも住民が必要なサービスを利用しやすくするという考え方である。

日本では国土交通省が「コンパクト・プラス・ネットワーク」を都市政策の重要な方向として位置づけている。これは都市機能を集約するだけではなく、集約された地域と周辺地域を公共交通などのネットワークで結び、広域的な生活圏を維持することを狙った政策である。

この仕組みが成立すれば、医療機関や商業施設を人口の少ない地域に分散配置する必要性を抑えられる。高齢者など自家用車を自由に利用できない住民にとっても、公共交通によって生活サービスへアクセスできる地域を形成することには一定の意味がある。

一方で、コンパクトシティには重大な注意点がある。都市機能を中心部へ集約するだけでは、周辺部に住む住民の生活利便性が低下し、結果として中心部と周辺部の格差が拡大する可能性があるからである。

特に高齢者にとって、長年住み慣れた住宅から中心部へ移転することは容易ではない。住宅の売却や処分、引っ越し費用、地域コミュニティとの関係、農地や家族墓など、単純な経済計算では評価できない問題も存在する。

そのため、縮退都市における集約は「住民を中心部へ移住させる政策」と同義ではない。中心部への居住誘導、公共交通の維持、周辺地域での最低限の生活サービス確保、移動販売や訪問型サービスなどを組み合わせ、複数の生活圏を現実的に維持することが求められる。

また、コンパクト化の効果についても一律に考えることはできない。2026年に公表された日本の都市を対象とした研究では、都市のコンパクト化と脱炭素化の関係は都市規模や人口密度などによって異なり、単純に都市を集約すれば環境負荷が低下するとは限らないことが示されている。

したがって、縮退都市とコンパクトシティを組み合わせる場合には、「中心部へ集める」という空間政策だけではなく、交通、住宅、医療、福祉、商業、環境を一体的に設計する必要がある。都市の規模を縮小することよりも、人口が減った後も住民が必要なサービスへアクセスできる構造を残すことが重要なのである。

集約だけでは解決しない問題

ここまでを見ると、縮退都市には、人口減少によって増大するインフラ維持費を抑え、スポンジ化を制御し、生活サービスを効率的に提供できる可能性がある。しかし、実際の都市では土地所有者、居住者、事業者、自治体など多くの主体が存在するため、合理的な都市構造を描いただけでは再編は進まない。

さらに、都市の縮小には「どこを残し、どこを縮小するのか」という極めて難しい選択が伴う。中心部への集約を進めれば周辺部の不利益が生じる可能性があり、逆に全地域を維持しようとすれば財政負担が膨らむという矛盾が生じる。

この問題こそ、縮退都市論が単なる都市計画の技術論ではなく、社会政策、財政政策、土地政策、交通政策を含む総合的な政策課題になる理由である。

実践における主な課題

縮退都市の考え方は、人口減少と高齢化が進む社会において一定の合理性を持つ。しかし、実際の都市で縮退を進める場合には、都市計画の合理性だけでは解決できない問題が多い。

最大の難しさは、都市を縮小する政策が「将来のための効率化」である一方、現在そこに住んでいる人にとっては「生活環境の変更」になる点にある。公共施設の統廃合、学校の閉鎖、路線バスの再編、居住誘導区域の設定などは、それぞれ具体的な住民の生活に直接影響する。

さらに、都市の縮退は長期間を必要とする。人口減少の速度、住宅の老朽化、土地所有者の意向、財政状況などは地域ごとに異なるため、短期間で都市構造を完成させることは難しい。

そのため、縮退都市政策では「何を縮小するか」だけでなく、「どの順番で縮小するか」が重要になる。行政サービスを急激に削減するのではなく、将来人口、施設の老朽化状況、利用者数、交通アクセス、災害リスクなどを組み合わせて、段階的に再編する必要がある。

心理的・政治的抵抗

縮退都市の実現を難しくする最初の壁は、住民の心理的抵抗である。人口が減っているから公共施設を減らすという説明が行政側にとって合理的であっても、住民側から見れば、長年暮らしてきた地域の価値を否定されたように受け止められる場合がある。

特に学校や公民館、病院、鉄道駅などは、単なる施設ではない。地域の記憶や人間関係を形成してきた場所でもあるため、施設の廃止には経済的な損得だけでは測れない抵抗が生じる。

また、政治的にも縮退政策は難しい。新しい道路や公共施設を建設する政策は成果が目に見えやすいのに対し、施設を廃止したり、維持する範囲を限定したりする政策は、その効果が見えにくい。

自治体の首長や地方議会にとっても、特定地域の施設を閉鎖する判断は政治的な負担になりやすい。人口減少が明確になっていても、「地域を守る」という名目で既存施設を維持する方向に政策判断が傾く可能性がある。

ここには、人口減少地域に共通する難しい構造がある。人口が減っているからこそ再編が必要なのに、人口減少によって地域社会の不安が強まるため、再編への合意形成がさらに難しくなるのである。

したがって、縮退都市政策では行政が一方的に「効率化」を決定するのではなく、住民に対して将来の人口推計、施設維持費、更新費用、交通条件などを示し、地域の選択肢を具体的に提示することが重要になる。

私有財産権の壁

もう1つの大きな問題が土地と住宅の所有権である。都市全体として居住を集約したいと考えても、行政が個人所有の住宅や土地を自由に移動させることはできない。

人口減少地域では、空き家や空き地が増加する一方、その所有者が遠隔地に住んでいる、相続関係が複雑になっている、売却しても買い手が見つからないなどの問題が生じる。都市計画上は利用価値が低下した土地でも、所有者にとっては処分が難しい資産として残る場合がある。

この問題は、縮退都市の「集約」と「撤退」の双方に関係する。行政が中心部への居住集約を進めても、周辺部の住宅を撤去できなければ、市街地は依然として広がったままになる。

さらに、土地価格が下落している地域では、住宅を売却して中心部へ移転するという方法も簡単ではない。住宅の売却価格よりも解体費や引っ越し費用などが大きくなれば、所有者には移転する経済的な動機が生まれにくい。

そのため、縮退都市では所有権を尊重しながら、空き家の解体支援、土地の集約、公共利用への転換、税制上の措置などを組み合わせる必要がある。ここでは都市計画だけでなく、不動産制度や相続制度、税制との連携が不可欠になる。

財政的ジレンマ

縮退都市政策には、一見すると財政負担を減らせるという利点がある。しかし、実際には都市を縮小するためにも相当な費用が必要になる。

例えば、公共施設を統廃合する場合には、新しい施設の整備費、既存施設の解体費、移転費用などが発生する。上下水道や道路についても、単純に撤去できるものばかりではなく、最低限の機能を維持しながら段階的に更新規模を調整する必要がある。

つまり自治体は、「現在の都市構造を維持する費用」と「都市構造を変更する費用」の両方を考えなければならない。人口減少が進む自治体ほど財政余力が小さい場合が多いため、必要性が分かっていても再編投資を行えないという問題が起こる。

ここには縮退都市特有の財政的ジレンマが存在する。将来の維持費を削減するためには現在の投資が必要だが、その投資を必要とする自治体ほど財政的な余裕を持っていないという構造である。

このため、縮退都市政策では、すべてを一度に再編するのではなく、更新時期を利用した段階的な集約が現実的になる。老朽化した施設をそのまま建て替えるのではなく、周辺施設との統合や複合化を検討することで、新規投資を都市構造の再編に結びつける方法である。

周辺地域の切り捨て問題

縮退都市を考える上で最も慎重な議論が必要なのが、周辺地域の切り捨て問題である。都市機能を中心部に集めれば、中心部の効率性は高まる可能性がある一方、中心部から離れた地域に住む人々は不利益を受ける可能性がある。

特に高齢者、障害者、低所得者、自動車を持たない世帯などは、交通機関や医療機関、商業施設が遠くなることで生活上の負担が増える可能性がある。単純な人口密度だけを基準に地域の存続価値を判断すれば、人口の少ない地域ほど政策上の優先順位を失うことになる。

さらに、周辺地域には農地、森林、水源、防災上重要な土地など、都市中心部とは異なる機能が存在する。人口が少ないからといって、そこに人が住む意味がなくなるわけではない。

このため、縮退都市を「中心部への全面的な集中」と理解することは適切ではない。必要なのは、都市中心部に高度なサービスを集約する一方、周辺地域にも最低限必要な生活機能と交通手段を確保する多層的な都市構造である。

経済協力開発機構も、人口減少地域への対応では、行政区域の境界だけでなく、実際の生活圏や交通圏を考慮する必要性を指摘している。人口減少地域同士が連携し、行政単位を超えて公共サービスを共有することも、サービス維持の手段となる。

したがって、縮退都市の成功条件は「中心部にどれだけ人口を集められるか」だけではない。中心部と周辺部をどのような交通・サービス網で結び、人口密度の低い地域に住み続ける人々の生活をどこまで保障できるかが重要になる。

「縮小」ではなく「再配分」として考える

以上の課題を踏まえると、縮退都市という言葉そのものにも注意が必要になる。都市の縮小を単純な撤退として捉えると、住民の抵抗を強め、地域間対立を生み、政策を進めることが難しくなる。

むしろ必要なのは、人口減少によって生じた限られた資源を、どこに、どのように再配分するかという視点である。人口が減ることによって利用されなくなった空間を、住宅、商業施設、公共施設だけでなく、緑地、防災空間、農的空間などへ転換することもその一部となる。

つまり、縮退都市は「都市を捨てる政策」ではなく、「都市の形を人口規模に合わせて変える政策」と捉える必要がある。問題は縮小するかどうかではなく、縮小する過程で何を残し、何を変え、どのように生活の質を維持するかにある。

そして、この再配分を実現するためには、従来の「人口を増やせば都市は維持できる」という発想だけでは対応できない。人口減少を前提に都市の価値そのものを再定義し、環境、公共空間、地域交通、デジタル技術などを組み合わせる新しい都市経営が必要になる。

今後の展望と持続可能な方向性

人口減少が不可避となった都市にとって、重要なのは人口規模を過去の水準へ戻すことだけではない。人口が減った後も、住民が安全に暮らし、必要なサービスを利用でき、自治体が財政的に維持できる都市構造を形成することが、今後の都市政策における重要な課題となる。

この意味で、縮退都市は「小さくなる都市」を意味するだけではなく、「小さくなった都市をどのように再設計するか」という積極的な政策概念として捉えることができる。経済協力開発機構も、人口減少地域では、都市の成長を追求する政策だけでなく、人口構造の変化に適応しながら生活の質を維持する政策を組み合わせる必要があるとしている。

そこで重要になるのが、都市の評価基準を人口や建物の量から、住民が実際に得られる生活の質へと転換することである。これが「量から質」への都市価値の再定義である。

「量から質」への都市価値の再定義

これまでの都市政策では、人口増加、住宅戸数、商業施設の数、道路の延長、公共施設の規模など、都市がどれだけ拡大したかを示す指標が重視されてきた。人口が増えれば税収が増え、商業が成長し、住宅や交通への需要も拡大するため、都市規模の拡大は行政にとって分かりやすい政策目標だった。

しかし、人口減少社会では、この考え方をそのまま維持することが難しい。人口が減少しているにもかかわらず、過去と同じ規模の施設や道路を維持し続ければ、利用者1人当たりの負担は上昇するからである。

そのため、今後は人口そのものよりも、医療機関や商業施設へのアクセス時間、公共交通の利用可能性、住宅の安全性、公共空間の質、行政サービスの持続性などを都市政策の評価対象として重視する必要がある。

例えば人口5万人の都市が人口7万人を目指すことだけを政策目標にするのではなく、人口5万人でも医療、買い物、教育、福祉、交通などを効率的に利用できる都市構造を形成するという考え方である。これは人口減少を肯定することではなく、人口が減少した場合でも都市としての機能を維持できる条件を明確にすることである。

また、人口密度についても単純な数値だけで評価するべきではない。高密度化によって交通や施設の効率が高まる地域がある一方、過度な集約によって住宅価格の上昇や混雑が生じる可能性もあり、都市ごとに適切な密度は異なる。

したがって、縮退都市の目標は「できるだけ人口を狭い地域に集めること」ではない。住民が必要なサービスへ到達でき、行政が維持でき、環境負荷を抑えられる範囲で、都市機能と人口を適切に配置することである。

グリーンインフラや農的空間の活用

人口減少によって発生する空き地や低未利用地は、都市政策上の負担になる一方、新しい都市空間を形成する資源にもなり得る。すべての空き地を再び住宅や商業施設で埋めるのではなく、緑地、雨水貯留空間、防災空地、都市農地などへ転換する方法が考えられる。

これは、都市を「建物が密集する空間」だけとして捉えない発想である。人口が減少したことで生まれた余白を、暑熱対策、浸水対策、生物多様性、防災、景観形成などに活用すれば、都市の縮小そのものを環境改善につなげることができる。

特に気候変動によって集中豪雨や猛暑への対応が求められる現在、都市の空間をすべて人工構造物で埋める必要性は低下している。雨水を一時的に受け止める緑地や植栽空間、河川沿いの自然地などは、都市インフラを補完する機能を持つ。

農的空間についても同様である。人口減少地域では、住宅地としての需要が低下した土地を、家庭菜園、市民農園、地域農園などに転換することで、土地管理、防災、景観、食料生産、地域交流など複数の機能を持たせることができる。

ただし、こうした土地利用転換にも維持管理の問題がある。緑地や農地にすれば自動的に価値が生まれるわけではなく、誰が管理費を負担し、誰が利用し、長期的にどのような土地利用として維持するのかをあらかじめ設計する必要がある。

その意味では、縮退都市における空き地は「都市から失われた土地」ではなく、「別の都市機能へ転換できる土地」と考えることが重要になる。

デジタル技術(スマートシティ)の活用

人口減少によって物理的なサービス拠点をすべて維持することが難しくなった場合、デジタル技術によって一部のサービスを補完することも可能になる。行政手続き、遠隔医療、オンライン教育、公共交通の需要予測などは、人口密度が低い地域におけるサービス提供を支える手段になり得る。

特に公共交通では、固定された路線を常時運行する方式だけでなく、利用状況に応じて運行する予約型交通などを組み合わせることで、人口密度の低い地域でも移動手段を確保できる可能性がある。これは「すべての地域に同じサービスを配置する」という考え方から、「地域の需要に応じてサービスを届ける」という考え方への転換でもある。

行政分野でも、デジタル化によって窓口業務の一部をオンライン化すれば、人口の少ない地域に多数の行政窓口を配置する必要性を減らせる。経済協力開発機構も、人口減少地域への対応では、デジタル技術を活用した公共サービスの提供や行政サービスの効率化を政策手段の1つとして位置づけている。

ただし、デジタル技術を導入すれば問題が解決するわけではない。高齢者や障害者などデジタル機器の利用が難しい人への支援、通信環境の整備、個人情報の保護、システム導入費用など、新たな課題も発生する。

したがって、スマートシティ化は対面サービスを全面的に置き換えるものではなく、人口減少によって維持が難しくなった物理的なサービス網を補完するものとして位置づけることが現実的である。

「破綻を回避するための不可欠な処方箋」

縮退都市を進める上で最も重要なのは、人口減少を認識した後に対応するのではなく、将来人口とインフラ更新時期を先に見通しておくことである。人口が減少してから施設を廃止するのではなく、人口推計、施設の老朽化、維持管理費、交通需要などを組み合わせ、将来の都市構造をあらかじめ設計する必要がある。

第2に、都市機能の集約と周辺地域の交通確保を一体化する必要がある。中心部だけを強化すれば周辺地域が取り残されるため、中心部と周辺部を結ぶ公共交通、移動販売、訪問型サービス、デジタルサービスなどを組み合わせなければならない。

第3に、施設の廃止や土地利用の転換を「削減」としてのみ扱わないことが重要である。老朽化した施設を統合する場合でも、その跡地を緑地、防災空間、農的空間、住宅などへ転換できれば、都市の縮小を新たな価値の創出につなげることができる。

そして第4に、住民との合意形成を政策の中心に置く必要がある。縮退都市は行政が地図上で効率的な配置を決定するだけでは実現できず、住民がどのサービスを残すのか、どの地域を維持するのか、どの土地を転換するのかについて、長期的な選択を共有する必要がある。

今後の展望

今後の縮退都市政策では、「人口を増やす政策」と「人口減少に適応する政策」を対立させないことが重要になる。出生率の改善、雇用創出、産業振興、移住促進などを進めながら、同時に人口が減少しても機能する都市構造を構築するという二重の戦略が必要になる。

また、自治体単独で都市全体を維持するという発想も見直される可能性がある。複数自治体が医療、廃棄物処理、公共交通、文化施設などを共同で運営すれば、人口減少によって単独維持が難しくなったサービスを広域的に支えることができる。

今後の都市政策では、都市の境界よりも実際の生活圏が重要になる可能性が高い。住民がどこで働き、どこで買い物をし、どこで医療を受けるのかという現実の行動範囲を基準に都市機能を設計することが、人口減少時代の都市経営において重要になる。

縮退都市は、人口減少を止めるための政策ではない。人口減少という条件の中で、限られた土地、財源、労働力、インフラをどのように再配分し、都市としての機能を維持するかを考えるための政策枠組みである。

そして、その最終的な成否は、都市の面積をどこまで縮小できたかではなく、縮小後の都市で住民がどのような生活を送れるかによって判断されるべきである。

ここまで検証してきたように、「縮退都市」という考え方は、人口減少そのものを解決する政策ではなく、人口減少によって変化する都市の規模、土地利用、インフラ、行政サービスを現実に合わせて再設計するための考え方である。2026年時点では、この発想は日本だけの特殊な議論ではなく、人口減少と高齢化に直面する先進国が共有する都市政策上の課題になっている。経済協力開発機構は2025年の報告書で、加盟国の7か国が2001~2022年に人口減少を経験し、2060年までにさらに7か国が人口減少に転じると予測している。また、都市圏についても5分の1以上で人口が減少していると整理している。

日本はこの問題を特に先行して経験している。総務省統計局によると、2026年8月1日現在の日本の総人口は1億2268万人で、前年同月から59万人、率にして0.48%減少している。人口減少が一時的な景気変動ではなく長期的な人口構造の変化として進んでいる以上、都市政策も人口増加を当然の前提とする制度から転換する必要性が高まっている。

ただし、ここで重要なのは、人口減少している都市を一律に「縮退都市」として扱うことではない。経済協力開発機構の分析でも、人口減少の原因や速度、年齢構成、都市規模、中心都市との距離などは地域によって大きく異なるため、地域ごとの実態に合わせた政策が必要だとされている。

縮退都市はどこまで有効なのか

以上を踏まえると、縮退都市という考え方には一定の有効性が認められる。ただし、その有効性は「人口を減らせば都市経営が効率化する」という意味ではなく、人口減少によって発生する過剰な都市インフラや低未利用地を計画的に整理し、住民1人当たりの行政サービスを持続可能な水準に調整できる場合に成立する。

特に有効なのは、人口が減少しているにもかかわらず、市街地の範囲だけが過去の人口規模のまま残っている都市である。人口が減少した地域で道路、上下水道、公共施設、住宅地などが広範囲に残れば、固定的な維持費を少ない人口で負担することになり、行政財政への圧力が高まるからである。経済協力開発機構も、人口減少地域では税基盤の縮小とサービス提供の規模の経済の低下によって、1人当たりの固定的なインフラ費用が上昇する問題を指摘している。

したがって、人口密度を一定程度確保し、医療、福祉、商業、教育などを利用しやすい場所に配置し、公共交通によって周辺地域と接続するという考え方には合理性がある。日本で進められてきた立地適正化計画や「コンパクト・プラス・ネットワーク」は、こうした方向を制度面から支える仕組みとして位置づけられる。

一方で、縮退都市には明確な限界もある。中心部へ集約するだけでは、周辺地域の交通弱者や高齢者などが不利益を受ける可能性があり、土地所有者の移転を強制することもできないため、都市全体を短期間で集約することは現実的ではない。

したがって、縮退都市は「全住民を中心部へ移住させる政策」ではなく、「中心部には高度な都市機能を集約し、周辺部には必要最低限の生活機能と移動手段を残す」という多層的な構造として考えるべきである。この点を外すと、都市経営の効率化を目的とした政策が、地域間格差を拡大する政策へ転化する危険がある。

「量から質」への都市価値の再定義

今後最も重要になるのは、都市の成功を人口規模や建物の量だけで評価しないことである。人口が増加している都市だけを成功とみなし、人口が減少している都市を失敗とみなす評価方法では、人口減少時代の都市政策を適切に評価できない。

例えば、人口が減少しても、医療機関への移動時間が短くなり、公共交通が維持され、空き家が適切に管理され、緑地や公共空間が増え、行政サービスの財政負担が抑えられているなら、その都市には別の価値が存在する。経済協力開発機構も、人口減少地域では成長の管理から生活の質の向上へ政策の重点を移す可能性を示している。

この考え方は、縮退都市を「衰退する都市」ではなく「規模を調整しながら質を高める都市」として捉え直すことにつながる。人口が少ないこと自体を問題とするのではなく、その人口規模でどの程度の生活水準と公共サービスを持続できるかを評価するのである。

グリーンインフラと農的空間の可能性

人口減少によって発生した空き地や低未利用地についても、すべてを住宅や商業施設に戻す必要はない。緑地、防災空間、雨水の貯留空間、都市農地、地域交流空間などに転換すれば、人口減少によって生じた都市の「余白」を新しい公共的資産として利用できる。

国土交通省も、都市のスポンジ化対策において、空き地などの低未利用地を地域の交流空間や農的土地利用、防災性を高める空間などへ転換する制度を整備している。これは、空き地を単純な「都市の穴」として処理するのではなく、適切に管理すれば地域の生活の質を支える資源になり得るという考え方である。

この方向性は、気候変動への適応という観点からも重要になる。人口減少によって建物を必要としなくなった土地を緑地や雨水処理空間として活用すれば、浸水対策や暑熱対策など、従来とは異なる都市機能を持たせることが可能になる。

つまり、縮退とは必ずしも「建物がなくなること」を意味しない。建物中心の都市から、建物、緑地、農地、水、防災空間などが組み合わされた都市へ転換することも、人口減少時代の縮退の一形態になり得る。

デジタル技術による補完

人口密度の低い地域では、すべての行政サービスを物理的な施設として配置することが難しい。そのため、行政手続き、遠隔医療、オンライン教育、需要に応じた交通など、デジタル技術によって物理的なサービス網を補完することが今後さらに重要になる。

経済協力開発機構も、人口減少地域においてデジタル基盤やデジタル技能への投資を進め、教育、医療、行政サービスへのアクセスを補完することを政策手段として挙げている。特に高齢化と人手不足が同時に進む地域では、遠隔対応や事務作業の効率化がサービス維持を支える可能性がある。

ただし、デジタル化は対面サービスを完全に代替するものではない。高齢者などへの利用支援、通信環境の整備、情報格差への対応などが必要であり、最終的には「デジタルか対面か」という二者択一ではなく、両者を組み合わせることが現実的である。

「破綻を回避するための不可欠な処方箋」

縮退都市を実行する上で最も重要なのは、人口減少が深刻化してから慌てて対応するのではなく、人口推計とインフラ更新時期を前もって結びつけることである。将来人口に対して明らかに過大な施設を新設すれば、その施設は長期的な財政負担となるため、人口、需要、施設寿命を同時に考慮した公共投資が必要になる。

第2に、行政区域ではなく実際の生活圏を基準にする必要がある。医療、教育、買い物、交通などが複数自治体にまたがっている地域では、自治体ごとに同じ施設を維持するより、広域連携によって機能を共有した方が持続可能な場合がある。経済協力開発機構も、人口減少への対応では行政境界を越えた機能的な地域単位での協力を重視している。

第3に、施設の統廃合と交通政策を切り離さないことである。公共施設を中心部へ集約するなら、周辺部からそこへ移動できる手段を確保しなければならない。施設を減らす政策だけを先行させれば、行政の効率化ではなく住民の生活条件の悪化につながる。

第4に、土地所有者と住民の合意形成を長期的な政策として位置づける必要がある。縮退都市は行政だけで完成させることができず、土地、住宅、商業施設、交通、公共空間などを所有・利用する多様な主体の協力が必要になる。

そして第5に、「何をなくすか」だけでなく「何を新しくつくるか」を同時に議論することが重要である。公共施設の廃止によって生まれた空間を緑地や防災空間へ転換するなど、縮小と再生を同時に進めることが、縮退政策に対する住民の理解を得る上でも重要になる。

まとめ

21世紀の先進国において、人口減少は一部地域だけの特殊な問題ではなく、都市政策そのものの前提を変える要因になっている。人口減少、高齢化、税収基盤の縮小、インフラ老朽化、空き家や空き地の増加が同時に進む地域では、人口増加を前提とした従来型の都市経営をそのまま続けることが難しい。

その意味で、縮退都市という考え方は人口減少の先進国において有効な政策枠組みになり得る。ただし、それは「都市を小さくすれば問題が解決する」という単純な話ではなく、人口規模に合わせてインフラ、土地利用、公共交通、生活サービス、財政、環境を再設計することによって初めて効果を発揮する。

特に重要なのは、縮退を「撤退」ではなく「再配分」と捉えることである。人口が減った空間を単純に放置するのではなく、必要な都市機能を集約し、余剰となった土地を緑地、防災空間、農的空間などへ転換し、デジタル技術や広域連携によってサービスを補完することが求められる。

一方で、私有財産権、住民の移転問題、政治的抵抗、周辺地域の切り捨て、再編費用など、縮退都市には容易に解決できない問題も存在する。したがって、すべての人口減少都市に同じ縮退モデルを適用することは適切ではなく、地域ごとの人口動態、産業構造、交通条件、地形、災害リスク、財政力などを踏まえた個別設計が不可欠である。

結論として、縮退都市の本質は「小さな都市をつくること」ではない。それは、人口減少という避けにくい社会変化を前提として、都市の規模、密度、機能、土地利用を再調整し、限られた資源によって住民の生活の質を長期的に維持するための都市経営論である。

今後の都市政策では、「人口を増やせる都市」だけでなく、「人口が減っても破綻しない都市」を同時に目指す必要がある。この二つを組み合わせることこそ、人口減少時代における持続可能な都市政策の現実的な方向性といえる。


参考・引用リスト

  • 経済協力開発機構『人口減少に賢く持続可能に対応するための戦略』2025年。人口減少、高齢化、都市・地域政策、インフラ、公共サービス、財政、土地利用などを包括的に分析した国際的な政策報告書。
  • 経済協力開発機構『人口減少地域の分類』2025年。人口減少地域を地域単位で把握し、人口変化の程度や要因を踏まえた地域別政策の必要性を分析している。
  • 総務省統計局『人口推計』2026年8月20日公表。2026年8月1日現在の日本の総人口を1億2268万人、前年同月比59万人減としている。
  • 国土交通省『都市のスポンジ化対策』。人口減少によって発生する空き地・空き家などの低未利用地への対応、土地利用の再編、地域による公共空間の創出などを扱っている。
  • 国土交通省『スポンジ化した都市空間における低未利用ストックの利活用促進に向けた地域マネジメント手法に関する調査研究』。空き地、空き家、空き店舗、空き公共施設などを地域資源として活用する可能性を分析している。
  • 国土交通省『都市のスポンジ化への対応』。人口減少下における「コンパクト・プラス・ネットワーク」の必要性と、低未利用地への制度的対応について整理している。
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