ハイチ首相が大統領選の再延期示唆、ギャング戦争激化
フィスエイム氏は地元ラジオ局のインタビューで、「8月に選挙を行うために必要な安全条件は整っていない」と明言した。
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中米ハイチのフィスエイム(Alix Didier Fils-Aimé)首相は11日、8月に予定されている大統領選挙について、「現時点の治安状況では実施できない」と述べ、延期は避けられないとの認識を示した。ハイチでは武装ギャングによる暴力が拡大し、首都機能そのものが揺らいでおり、約10年ぶりとなる大統領選の実施は不透明となっている。
フィスエイム氏は地元ラジオ局のインタビューで、「8月に選挙を行うために必要な安全条件は整っていない」と明言した。一方で、「年内の実施が目標だ」と述べ、完全な白紙撤回ではないと強調した。ハイチでは2021年にモイーズ(Jovenel Moise)大統領が暗殺されて以降、大統領不在の状態が続き、国家統治の空白がギャング勢力拡大の大きな要因となっている。
今回の選挙は2016年以来となる大統領選として計画されていた。当初は2025年中の実施も検討されていたが、治安悪化と資金不足を理由に延期が繰り返され、8月30日に第1回投票を行う日程に変更。大統領だけでなく、上院・下院議員や地方自治体首長も選出される予定だ。
しかし、首都ポルトープランスを中心に武装ギャングの支配が急速に拡大している。国連によると、ギャングは首都圏の約85%を実効支配し、主要道路や港湾、物流網も掌握している。誘拐、放火、略奪、住民襲撃が日常化し、今年だけで数千人が死亡、100万人以上が避難生活を強いられている。農村部や中部地域にも暴力が広がり、政府の統制力低下は深刻だ。
選挙準備も大きく停滞している。4月開始予定だった有権者登録は各地で中断され、選挙管理機関の活動も十分に進んでいない。候補者登録や投票所確保、投票用紙輸送といった基本作業すら、安全確保の観点から難航している。フィスエイム氏はインタビューの中で、「国家が存在しなければ民主主義も成立しない」と述べ、まず治安回復が最優先との考えを示した。
ハイチでは現在、国際社会による支援も限界に直面している。ケニア主導の国連多国籍部隊が昨年から展開しているものの、兵力不足や資金難から期待された効果を十分に上げられていない。米国や国連は選挙実施を支援条件の一つとしているが、現地では「安全な投票環境そのものが存在しない」との悲観論が広がる。
さらに政治的混乱も続いている。ハイチには現在、280を超える政党が存在し、フィスエイム氏は「候補者数が多すぎる」として制度改革の必要性にも言及した。政治勢力の分裂に加え、汚職や権力闘争への不信感も根強く、民主化プロセスへの国民の期待は大きく損なわれている。
ハイチはカリブ海地域で最も貧しい国の一つであり、地震やハリケーン、感染症流行など度重なる危機にも苦しんできた。そこへ長期的な政治空白とギャングの台頭が重なり、国家機能は崩壊寸前との見方も出ている。国際社会は年内選挙実施を求めているが、治安回復の道筋は見えず、ハイチの民主化は再び大きな試練に直面している。
