◎エチオピア北部ティグライ地域の難民キャンプで支援を受けている「隣国エリトリアの難民」は推定10万人。
◎多くのエリトリア難民が、ティグライ紛争の影響で、首都アディスアベバなどに避難した。
◎ティグライ地域の難民キャンプでは、1カ月以上食料やその他の物資を受け取ることができなかった
12月11日、エチオピア政府は北部ティグライ地域の難民キャンプから逃れた「エリトリア難民数千人」を元の難民キャンプに戻すと発表した。
ティグライの難民キャンプでは、隣国エリトリアの市民、約10万人が支援を受けている。
政府は声明の中で、「ティグレ人民解放戦線(TPLF)に対する軍事行動中、エリトリア難民は脅威にさらされなかった」と述べた。
エチオピアとエリトリアは、2018年に戦争状態を正式に終結させる共同声明に署名した。
しかし、米当局によると、エチオピアの領土内にエリトリア軍が侵攻し活動している可能性があるという。当局の報道官は「信頼できる報告を得た」と述べたうえで、「エリトリア軍に撤退を要請する」と警告した。
一方、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は今週、昨年ノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビィ・アハメド首相との会話について、「彼はエリトリア軍がティグライに入っていないことを保証した」と語った。
エリトリアは世界で最も抑圧された国のひとつであり、エチオピア政府に敗れたTPLFの宿敵である。
国連難民高等弁務官事務所は声明で、「エリトリア難民の強制移送は事前に知らされていなかった」と述べた。
国連難民高等弁務官事務所:
「今朝、数百人のエリトリア難民がティグライ地域の難民キャンプ行きのバスに乗せられたことが確認された」
「ティグライの安全は保証されておらず、強制移送は絶対に受け入れられない。ティグライの難民キャンプでは1カ月以上食料やその他の物資を受け取ることができなかった。彼らは別の場所で保護されるべきだ」
エチオピア北部ティグライ地域
国際移住機関(IOM)はエリトリア難民の強制移送について、「非常に懸念している」と述べ、エチオピア政府に首都アディスアベバの難民関連施設を乗っ取られたと発表した。
IOMやその他の支援団体によると、数千人のエリトリア難民が首都アディスアベバとティグライの州都メケレに逃れたという。エチオピア政府はこの動きについて、「安全の確保を困難にし、無用な混乱を招く」と述べた。
しかし、ティグライの紛争エリア周辺および難民キャンプへの支援は行き届いておらず、食糧などの物資が届いているかどうかは分からない。また、通信網もほぼ遮断されており、数百人が虐殺されたという情報も伝えられている。
エリトリア難民を支援しているデンマーク難民評議会(DRC)によると、ティグライの難民キャンプでスタッフ3人と国際援助委員会(IRC)の職員1人が殺害されたという。
IRCは声明の中で、「同僚の死に打ちのめされている。私たちの活動を継続するためには、エチオピア政府の支援と協力が欠かせない」と述べた。
エチオピア政府は「支援活動の安全を確保する責任がある」と主張しているが、紛争とそれに関連する民族間の緊張により、多くのエリトリア人は政府軍の動きに警戒を強めている。
ティグライ地域で生活する市民は約600万人と推定されており、そのうち約100万人が今回の紛争で避難を余儀なくされたと伝えられている。国連は民間人への影響について、「恐ろしい規模に達している」と述べた。
国連難民高等弁務官事務所の報道官、ババル・バロック氏は記者団に対し、「最近、ティグライから隣国スーダンに逃れた集団はひどく疲れ、憔悴していた。彼らは2週間歩き続けたと話した」と語った。
ババル・バロック氏:
「彼らは武装集団に進路を妨害され、所有物を奪われたと私たちに話した」
ティグライについて知っておくべきこと
・12月8日、エチオピア政府、ティグライ地域の検問所を突破しようとした国連職員に発砲。
・2020年12月、国連とエチオピア、ティグライ地域への援助を許可する協定に署名。
・2020年12月1日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、難民の栄養失調と飢餓を警告。
・2020年11月29日、赤十字病院、医療用物資が「危険なほど不足」していると警告。
・2020年11月28日、アビィ・アハメド首相、州都メケレを「完全に支配した」と宣言。
・2020年11月25日、政府軍、州都メケレへの攻撃を開始。
・2020年11月22日、国連、エチオピア政府軍によるティグライ地域への「最後通告」について、市民を巻き込む致命的な戦争犯罪につながると懸念を表明。
・2020年11月22日、アビィ・アハメド首相がティグレ人民解放戦線(TPLF)に降伏する機会を与える。
・2020年11月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、「即時の一時停戦」を求める。
・2020年11月、国連、「本格的な人道的危機」が発生していると警告。
・2020年11月14日、TPLFが、近隣地域の空港などをロケット弾で攻撃。
・2020年11月13日、国連はマイカドラの町で発生したと伝えられている大量殺戮について、事実であれば「戦争犯罪」の可能性もあると述べた。
・2020年11月、ティグライ地域、南西エリアに位置するマイカドラの町で、数百人が刺されるなどして死亡した。
・2020年11月4日、TPLFが政府軍の軍事キャンプを攻撃。TPLFは関与を否定している。
・2020年9月、アハメド政権はコロナウイルスへの対応として国内での選挙活動を禁じ、TPLFはこれに猛反発した。TPLFはこの制限を、「中央政権の独裁体制を強化する違法行為」と見なしている。
・国内最大の民族グループはオロモ民族。TPLFはこれに属する。
・オロモ民族グループとソマリア民族グループの衝突が長年続いてる。
・1970年代~1980年代、政府の崩壊、干ばつ、飢饉で100万人以上が死亡、約800万人が影響を受けたと伝えられている。指導者はマルクス主義の独裁者、メンギスツ・ハイレ・マリアム。
・1989年、TPLFは他の反政府組織と合併、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成。
・1991年、EPRDFの軍事攻勢により、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権崩壊。
・1991年7月、EPRDF、オロモ解放戦線(OLF)などが87名の国民議会を形成。エチオピア暫定政府(TGE)を設立。
・2018年4月2日、アビィ・アハメドが首相に就任。
・2018年7月、エチオピアとエリトリア国の首脳が20年ぶりに会談、和平協定に署名。
・2018年10月25日、サーレ・ワーク・ゼウデが大統領に就任。エチオピア初の女性大統領。
・2018年の避難民数は推定140万人。
・2019年、アハメド首相がノーベル平和賞を受賞。
・政府とTPLFの緊張関係は年々悪化している。
・TPLFはエリトリア国との和平を認めていない。
・オロモ民族グループによる虐殺(数十人規模)が横行。オロモに属するアハメド首相はこれを非難している。