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建設ラッシュ続くインドの鉄道、利用者が伸びない路線も


インドでは1980年代に最初の地下鉄が導入されて以降、近年急速にネットワークが拡大し、2026年時点で20以上の都市にメトロが整備されている。
インド、ムンバイの駅(Getty Images)

インド各地で都市鉄道(メトロ)の建設が急速に進む中、多額の投資にもかかわらず、想定されたほど利用者が伸びていないという問題が浮き彫りになっている。中央政府は都市交通の近代化と渋滞緩和を目的に数十億ドル規模の資金を投じ、鉄道網を拡張してきたが、専門家の間では「需要予測と実態の乖離」が深刻だとの指摘が出ている。

インドでは1980年代に最初の地下鉄が導入されて以降、近年急速にネットワークが拡大し、2026年時点で20以上の都市にメトロが整備されている。総延長は1000キロを超え、世界でも有数の規模に成長した。全体としての利用者数は1日あたり1000万人規模に達するとされるが、その多くは首都ニューデリーなど一部の大都市に集中している。

問題は多くの新規路線で当初の需要予測を大きく下回る乗客数にとどまっている点である。計画段階では混雑緩和や自動車利用からの転換が期待されていたが、実際には空席が目立つ路線も少なくない。専門家は「多くのメトロが計画時に想定した利用者数のごく一部しか達成していない」と指摘している。

その背景としてまず挙げられるのが、路線網の未完成である。多くの都市では建設が段階的に進められており、主要な住宅地やビジネス地区を結んでいないケースが多い。このため、利用者にとって利便性が低く、日常的な通勤手段として定着しにくい。実際、路線が延伸されると利用者が急増する事例も報告され、ネットワーク全体の完成度が需要を左右する重要な要因となっている。

次に指摘されるのが「ラストワンマイル問題」である。駅から最終目的地までの移動手段が整備されていないため、利用者がメトロを選びにくい状況がある。バスや自転車、徒歩環境などの補完的な交通手段が不足している都市では、メトロが孤立した存在となり、利用が伸び悩む傾向が見られる。実際、一部の都市では駅周辺の接続交通の不備が利用拡大の障害となっている。

さらに運賃の問題も大きい。メトロは建設費や運営費が高額であるため、運賃もバスなどに比べて割高になりがちである。これにより、低所得層を中心に利用が敬遠されるケースがある。近年、一部都市では運賃引き上げが批判を招き、公共交通としての役割との間で矛盾が生じている。

都市構造そのものも影響している。インドの都市は人口密度が高く、非計画的に拡大してきた経緯があるため、効率的な鉄道網の設計が難しい。また、既存の交通手段、特に安価で柔軟性の高いバスやオートリキシャが広く利用されており、メトロへの移行が進みにくいという事情もある。

一方で、すべてのメトロが不振というわけではない。デリーやベンガルールなど一部の大都市では利用者数が増加し、ピーク時には混雑が問題となるほどである。特にネットワークが成熟し、主要拠点を結ぶ路線が整備された都市では、メトロが日常的な移動手段として定着している。

また、短期的には利用が少なくとも、長期的な都市成長を見据えた投資として評価する声もある。人口増加や都市化の進展に伴い、将来的には需要が拡大する可能性があり、現時点の低利用率だけで事業の成否を判断すべきではないとの見方である。実際、燃料価格の上昇や交通渋滞の悪化といった外部要因によって、一時的に利用者が急増する事例も報告されている。

しかし、巨額の公的資金が投入されている以上、効率性や持続可能性への懸念は無視できない。採算性の低い路線が増えれば、財政負担が拡大し、他のインフラ投資に影響を及ぼす可能性もある。特に中小都市でのメトロ建設については、需要予測の妥当性や代替手段との比較を慎重に検討すべきだとの議論が強まっている。

インドのメトロ政策は都市の未来像を左右する重要なテーマとなっている。利用者不足という現実は、単に鉄道網の問題ではなく、都市計画や交通政策全体の課題を映し出している。今後は路線の拡張だけでなく、他の交通手段との統合、運賃政策の見直し、歩行環境の整備など、総合的なアプローチが求められる。巨額投資の成果が真に発揮されるかどうかは、こうした改革にかかっている。

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