政治的分裂と経済危機

ラテンアメリカがコロナウイルスの震源地になってから早数カ月。ご存じの通り、南米諸国の指導者たちはコロナショックに対して異なった対応をとっている。

適切な感染予防対策が行えるか否かは、国の経済状況によって異なる。社会的距離をとることが難しいブラジルの貧困外、アルコール消毒液はおろか、手を洗うための水すらまともに入手できない地域もある。

家族を養うために、毎日市場でお金を稼ぎ、その日の食料を確保しなければならない人々が数百万人規模で存在する。非公式労働者たちはロックダウンによって日銭を稼げず、死にかけた。

最も脆弱な貧困層は、感染予防より生存を優先せざるを得ない。社会的距離や感染予防対策を気にする余裕などないのである。コロナウイルスに感染するか、餓死するか、だ。

貧困と不平等はコロナウイルスの感染拡大に影響を与えた要因のひとつである。そして、それらを引き起こし放置した政治も同じくらい重要な要因と言えるだろう。

サンパウロ大学のグローバルヘルス倫理学教授を務めるデイジー・ベンチュラ氏はBBCの取材に対し、「政府がパンデミックから何かひとつでも学んだのであれば、次に活かすことができる」と述べた。

アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は政権を握ってからわずか数カ月で危機に直面。しかし、迅速に街を封鎖したことが幸いした。

7月11日時点のアルゼンチンの累計感染者数は約94,000人、1,774人の死亡が確認されている。この数字に対しベンチュラ教授は、「政治的分裂と経済危機に直面しながらも、検疫措置の必要性を認め、早急に対応したことで、他の南米諸国に比べ大きな成果を上げることができた」と述べた。

ウルグアイとパラグアイも同様である。両国の経済状況は決して良くなく、政治も安定していない。さらに、ブラジルと国境を共有している。しかし、両国の死者数は100人以下に抑えられているのだ。

南米の雄、ブラジルは大変なことになっている。その大きな要因と言われるのがジャイール・ボルソナロ極右大統領である。大統領は終始コロナウイルスを軽視し、「風邪と同じ」「軽いインフルエンザ」「感染しても大丈夫」など、一国の主とは思えない発言を繰り返してきた。

ボルソナロ大統領はコロナウイルスを「スニッフル(鼻がグズグズする)」と呼び、国内で命を落とした70,000人近くの人々に敬意を表することもない。また、世界中で推奨されている社会的距離のルールを認めず、保健省のガイドラインにも同意していない。

州知事がロックダウンを発出したことに憤り、「一刻も早く解除し、経済を回さねばならない。ウイルスを必要以上に恐れ過ぎだ。メディアのプロパガンダに乗せられてはならない」とも述べている。

現在、大統領はコロナウイルスに感染し療養中の身である。しかし、世界中の優秀な科学者や医療関係者に否定された抗マラリア薬こと「ヒドロキシクロロキン」をいまだに服用。体調は万全だとアピールし、根拠のない危険な治療方法を広めようとしている。

混乱と破壊をもたらしたボルソナロ大統領についてベンチュラ教授は、「ブラジルはコロナウイルスと大統領が引き起こした混乱にかき回されている。他国でも政治的混乱は大なり小なり発生した。しかし、ブラジル政府の対応は常軌を逸しており、最悪中の最悪と言っても過言ではない。大統領と政府は失敗から学ばなければならない。犠牲になるのは国民である」と憤った。

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ラテンアメリカは一生震源地なのか?

チリの首都、サンティアゴは同国で最悪の被害を受けた地域のひとつ。チリは南米諸国の中で見ると比較的裕福な国である。しかし、ここ数週間で感染数と死者数が急増した。

7月11日時点のチリの累計感染者数は約31万人、6,800人以上が死亡した。

首都サンティアゴで医師として働くマティ・リバイ・リオース氏は、直近の勤務中に10人の死亡を見届け、その事実を遺族に伝えねばならなかった。

リオース氏はBBCの取材に対し、「コロナウイルスとの戦いは、私の人生の中で最も厳しい経験になるかもしれない。最愛の人の死を家族に伝えることは本当に苦しく、難しい。私は自分の準備不足を痛感している」と述べた。

昨年、チリでは社会的および経済的不平等をめぐる抗議活動が全国に拡大、政府は火消しと対応に追われた。それからわずか数か月後、今度はコロナウイルスとパンデミックの侵攻を許したのである。

チリ政府は昨年の混乱、それによって生じた経済危機や失業率の悪化を解消できずにいた。そして、混乱状態の中でコロナショックに見舞われ、ロックダウンのタイミングを逸してしまった

人々は大きな経済格差を抱え、大多数を占める貧困層はその日を生き残るために働かねばならない。リソース氏は、「PCR検査体制を拡充し、もっとたくさん検査を行うべきだった。感染者を把握し、濃厚接触者を可能な限り追跡していれば、ここまで酷い状況にはならなかっただろう。我々は機会を逃した」と述べた。

ブラジルの著名な科学者兼医師のミゲル・ニコレリス氏はBBCの取材に対し、以下のように語った。

「ウイルスを軽視した国、ウイルスをジョークで片付けようとした国は、莫大な代価を払った。政治家が生物学に冗談半分で挑戦しても、勝てない。ブラジルが置かれている状況は非常に悪い。私たちは準備しなかった。感染爆発は始まったばかりである」

7月11日、同じく感染爆発に直面しているアメリカ、フロリダ州の「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」が無事(?)営業を再開した。

大人気アトラクションのマジックキングダムとアニマルキングダムがオープンし、来場者は沸きに沸いた。なお、エプコットとディズニー・ハリウッドスタジオも7月15日から営業を再開する予定。

フロリダ州の累計感染者数は25万人超、4,197人が死亡した。

ディズニー社は、3月のロックダウン発出に合わせてリゾートを閉鎖した。当時、アメリカの感染者は東部ニューヨーク州とニュージャージー州に集中していたが、フロリダ州に人が集まることを懸念し、早めに手を打ったのである。

競合他社のユニバーサル・オーランド・リゾートとシーワールド・オーランドは、数週間前に営業を再開している。これに負けじとディズニー社も反転攻勢に出たことで、街は大いに賑わい、人々が大挙して押し寄せた。

ディズニー・テーマパークの会長を務めるジョシュ・ダマロ氏はニューヨークタイムズ紙のインタビューの中で、「私たちは安全かつ責任を持ってテーマパークを再開させた。コロナウイルスはすぐ近くにいる。新たな生活様式が定着し、いつでもアトラクションを楽しめる時代は必ず来る。私たちは来場者を守る最良のアプローチを模索し続ける」と語った。

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