◎ベラルーシの国内オリンピック委員会(NOC)は、ヨーロッパ最後の独裁者ことアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と息子のヴィクトル・ルカシェンコ会長の支配下に置かれている。
8月5日、東京2020五輪の陸上競技に出場し、その後ポーランドに亡命したベラルーシのクリスティーナ・ツィマノスカヤ選手がワルシャワの会見場で記者団の取材に応じた。
ツィマノスカヤ選手は7月30日の陸上女子100mの予選に出場し、8月2日の同200mにも出場する予定だったが、急遽経験のない4×400mリレーに出場するよう命じられ、インスタグラムでコーチを批判した。
ベラルーシの国内オリンピック委員会(NOC)は、ヨーロッパ最後の独裁者ことアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と息子のヴィクトル・ルカシェンコ会長の支配下に置かれている。
ルカシェンコ当局はコーチを批判したツィマノスカヤ選手に帰国を命じたが、同氏はこの命令を却下し、その後、ポーランドから人道ビザを与えられた。
ベラルーシは一連の騒動について、「ツィマノスカヤ選手のメンタルを考慮しチームから除外した」と主張したが、同氏はこの主張も却下した。
ツィマノスカヤ選手は記者団に対し、「批判メッセージをソーシャルメディアに投稿した後、荷物をまとめるよう命じられた」と述べた。また、羽田空港に向かう途中、祖母と電話で話したことも明らかにした。
「祖母は私のニュースがテレビで流れている、メディアはあなたを批判していると言いました。その後、祖母は私に帰国してはいけないと忠告しました。両親も同じでした。父と母はポーランドに行くことも考えてはと言いました...」
ツィマノスカヤ選手は空港の警察に助けを求め、Google翻訳を使って自分が置かれている状況を説明したと述べた。
帰国便への強制搭乗を免れたツィマノスカヤ選手は欧州諸国に支援を求め、日本のポーランド大使館にたどり着いた。昨年8月のベラルーシ大統領選後、ルカシェンコ大統領の独裁に反対する多くの活動家が弾圧に直面し、隣国ポーランドに亡命した。
EUの外交政策責任者、ジョセップ・ボレル上級代表はツイッターに、「ツィマノスカヤ選手が無事ポーランドに到着したと知り、安心した」と投稿し、ルカシェンコ大統領を非難した。「ルカシェンコ政権はオリンピックの停戦規則を破り、誇り高きベラルーシ人は亡命を余儀なくされました」
ツィマノスカヤ選手は日本政府を含む全ての関係者の支援に謝意を示した。「世界が私をサポートしてくれました。支援は私を強くします。私は今、安全だと感じています...」
またツィマノスカヤ選手は困難に直面している全てのベラルーシ人に、「圧力を受けているのであれば、声を上げてほしい」と訴えた。「私は全てのベラルーシ人に恐れないでと言いたい。圧力を受けている人は声を上げてほしい」
ツィマノスカヤ選手の夫、アルセニ・ズダネービッチ氏もポーランドの人道ビザを取得し、ベラルーシを離れることになった。しかし、両親と親戚はベラルーシにとどまっている。
ベラルーシ国家保安委員会(KGB)は昨年8月の不正大統領選挙に抗議した市民35,000人以上を逮捕し、数千人を残酷に殴打し、独立系メディアを襲撃し、多くの野党指導者が拘束もしくは隣国への亡命を余儀なくされた。
ルカシェンコ大統領は5月、英ライアンエアーの旅客機を首都ミンスクの空港に強制着陸させ、搭乗していた反対派ジャーナリストを逮捕した。
先日ウクライナで死亡が確認されたベラルーシ人活動家のヴィタリー・シショフ氏は、ベラルーシ当局の監視下に置かれている可能性があると示唆していた。警察は他殺の可能性も含めて調査を行っている。国連は「シショフ氏の死はベラルーシで進行中の問題に追加される可能性がある」と警告した。
ツィマノスカヤ選手はAP通信の取材に対し、「私は政治活動家ではなく、ベラルーシから逃げるつもりもなく、オリンピックにベラルーシ代表として出場することだけを望んでいた」と語った。また、事件の調査を呼びかけたうえで、「国際オリンピック委員会(IOC)は事実を立証するための調査委員会を立ち上げた」と述べた。
「私はオリンピックに出場したかっただけです。それが私の夢でした。東京大会が私の最後のオリンピックにならないことを願っています」