アレクセイ・ナワルニー氏が回復
9月14日、ドイツの医師は、ロシア産の神経ガス「ノヴィチョク」を投与されたアレクセイ・ナワルニー氏が自力で呼吸し、ICUおよびベットから一時的に離れることができたと語った。
一方、ドイツ政府は、フランスとスウェーデンの研究所で行われていた調査の結果、ナワルニー氏に投与された毒物が、ノヴィチョクであることを突き止めたと断言した。
ロシアの野党党首を務めるナワルニー氏は、8月20日にロシアを離陸した航空機の中で倒れ、ベルリンのシャライト病院に搬送、治療を受けていた。
ドイツ政府はロシアに対し、野党党首を狙った悪質かつ非道な神経ガス攻撃の調査を要請。これに対しクレムリンは、「西側の中傷攻撃。我々は一切関与しておらず、ノヴィチョクという兵器の存在自体知らない」とドイツおよび西側諸国を非難した。
ナワルニー氏は人工呼吸器を外せる状態にまで回復し、短時間ベッドから離れることができたという。
ナワルニー氏は、ロシアを代表する腐敗防止運動家であり、ウラジーミル・プーチン大統領の独裁政権に反対する最も著名な人物として知られている。
シャライト病院の声明はナワルニー氏が回復傾向にあると述べる一方、長期的な見通しについては言及していない。
以前、メディアの取材に答えた同院の医師は、「ナワルニー氏は回復傾向にあるものの、ノヴィチョクがもたらす長期的な健康問題を除外することはできず、完全に回復するか否かは分からない」と警告していた。
ドイツのメルケル首相は、他の指導者および関係機関を代表してクレムリンに公式回答を求めていた。しかし、当局は関与ならびにそれに関わる回答を拒否している。
ナワルニー氏が回復兆候にあるというニュースは、同氏の仲間がロシア国内の地方選挙でいくつか勝利した日にもたらされた。
ナワルニー氏がロシア産の猛毒を盛られる前に訪れたノヴォンビルスクでは、同氏の団体事務所の地域本部長を務めるセルゲイ・ボイコ氏が市議会の議席を獲得した。
なお、ナワルニー氏が「詐欺師と泥棒の党」と呼ぶクレムリンの主要独裁政党「ユナイテッドロシア」は、評議会で過半数を失ったという。
さらに、同じく団体事務所の代表を務めるクセニア・ファデイエヴァ氏は、シベリア西部のトムスクで議席を獲得した。
ドイツ政府は、フランスとスウェーデンの研究で行った実験の結果、ナワルニー氏に投与された毒物は、ドイツの軍事研究所が2018年に調査した旧ソビエト連邦の神経ガス、ノヴィチョクと合致したと述べ、クレムリンの関与を改めて強調した。
ドイツ政府報道官の、ステフェン・セイバート氏は以下のように述べた。
ステフェン・セイバート氏:
「ナワルニー氏の体内から抽出した新たなサンプルを、フランス、スウェーデンの3つの研究所で調査した結果、旧ソビエト連邦の神経ガス、ノヴィチョクがもたらす効果と合致した」
「現在、オランダ、ハーグに本部を置く化学兵器禁止機関(OPCW)でも、指定された研究所でナワルニー氏に投与された毒物の調査を行っている」
「フランスとスウェーデンで調査された結果は独立機関に持ち込まれ、成否を再チェックする」
セイバート報道官は、再度ロシアに事件の調査を行うよう声明を出すと述べた。
ドイツ政府はEU諸国と連携し、ロシアへの圧力を強めたいと考えている。
なお、フランスとスウェーデンの研究所名は公表されていない。
スウェーデン国防研究庁の責任者を務めるアサ・スコット氏はスウェーデン通信社の取材に対し、「調査の結果、ドイツの研究所と同じ答えが得られた。つまり、ナワルニー氏に投与された物質は間違いなくノヴィチョクということだ」と語った。
メルケル首相がロシアの関与について言及
ロシア産の猛毒
マクロン大統領の報道官、イブラヒム・カルン氏は以下の声明を発表した。
イブラヒム・カルン報道官:
「大統領は14日にロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナワルニー氏を標的にした犯罪行為への懸念を表明した」
「フランスで行われた調査の結果、ナワルニー氏に投与された毒物は旧ソビエト連邦で使用されたノヴィチョクという結論に達した」
これらの声明に対しプーチン大統領は、「ロシアに対する根拠のない誹謗中傷」と述べ、研究所で調査した結果およびサンプルを引き渡すよう要求した。
またプーチン大統領は、ドイツとロシアの医師および科学者による共同調査を強く提案。これに従わない場合、クレムリンは今後の調査要請等を拒否すると警告した。
ロシア外相のセルゲイ・ラブロフ氏は、民間テレビネットワークRTVIの取材に対し、「西側はナワルニー氏毒殺未遂事件をクレムリンに対する新たな制裁の口実にした」と非難した。
セルゲイ・ラブロフ外相:
「ナワルニー氏の命は、離陸後すぐに着陸を決断した飛行機のパイロットが救った。西側はそのことを理解しておらず、初めからクレムリンが関与したと決めつけ、誹謗中傷を繰り返している」
「ロシアのパイロット、救急隊員、医師の完璧な行動がナワルニー氏の命を救った」
「西側はロシアの医師、研究者たちの専門性を疑問視している。ドイツは己の傲慢さと、”我々(ヒトラー)こそが神、120%正しい”という不可謬性がもたらした結果を忘れてはいけない」
ラブロフ外相は、15日に予定されていたベルリンへのフライトをキャンセルした。
ロシア当局は、ナワルニー氏がフライト前に行った行動を全て調査したと述べ、「まずは必要な証拠およびナワルニー氏本人の状態を確認しなければ何も始まらない。犯罪捜査を開始するためにも、西側は手元にあるものを全て提供すべきだ」とコメントした。
これに対しドイツ政府は、クレムリンの要求する証拠の提出および共有を拒否した。
ドイツのハイス・マース外相は、記者団に対し以下のように述べた。
ハイス・マース外相
「ドイツの調査結果は海外の独立した研究所によって裏付けされている」
「我々は標的、ナワルニー氏が再攻撃されることを望んでいない。瀕死の彼を引き渡せば、悪いニュースが流れることはまず間違いないだろう」
ドイツ外務省の報道官、マリア・アデバー氏は記者団に対し、以下のように述べた。
マリア・アデバー氏;
「オムスクでナワルニー氏を治療したロシアの医師は、中毒の可能性は一切見つからなかったと主張し、さらに、彼の移送は体調が不安定過ぎて難しいと答えた。しかし、我々はナワルニー氏を移送できた」
「ドイツの医療専用旅客機はナワルニー氏を無事ベルリンに送り届けた。この時、ドイツの医師は、彼の体調は非常に安定しており、空輸は全く問題ないと述べている」
「クレムリンはナワルニー氏のサンプルを保有している。そして、我々が3つの研究所でもたらした答えも、彼らは最初から持っている。ノヴィチョクとそれに関連する情報を保有している以上、我々の情報を提供する意味はない」
ナワルニー氏はノヴィチョクの解毒剤を投与され、1週間以上昏睡状態が続いていた。
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