死刑制度復活か?
死刑反対派は、狂犬ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の死刑制度復活要求との激しい戦いを予想している。
ドゥテルテ大統領は、何千人ものフィリピン人を殺した「薬物戦争」の一環として、死刑制度復活を望んでいる。
先月、ドゥテルテ大統領は薬物犯罪者に対する死刑の導入を再度要求した。なお、この発言に驚いた国民はほとんどいなかったようだ。
2016年の就任以降、フィリピン国内における薬物犯罪者への取り締まりは、世界最高レベルの厳しさになった。
薬物を所持している可能性のあるディーラー、そして薬物使用者には致命的な取り調べが行われた。
当時、ドゥテルテ大統領は国民に向けメッセージを発信し世界を震え上がらせた。
「薬物を使用する者、販売する者は容赦なく撃ち殺す。撃ち殺されたくなければ、薬物から手を引けばいい。簡単なことだ」
警察当局が発表した公式データによると、ドゥテルテ大統領就任以来、これまでに薬物関係の容疑で8,000人以上が殺害されたいう。
しかし、フィリピンの人権委員会は、少なくとも27,000人以上が射殺されたと見積もっている。
狂犬による「薬物撲滅戦争」は、自宅のプールで射殺され、真っ赤な水の中に浮かぶ容疑者の遺体や、道端に転がる大量の射殺体の写真を世界に発信し、衝撃を与えた。
国際的な人権NGO団体、ヒューマン・ライツ・ウォッチで活動するカルロス・コンデ氏はBBCの取材に対し、「死刑制度復活は、現在進行中の麻薬との戦いにおいて、国家に別の武器を与えるだろう」と述べた。
就任当時、ドゥテルテ大統領は元老院(上院)の過半数を獲得することができず、彼の願う法律の制定はブロックされていた。
しかし、昨年の中間選挙で与党が元老院の過半数を獲得。上院を支配し、死刑反対派は法律が成立するかもしれないと恐れている。
所有と販売を含む薬物犯罪への死刑を復活させるべく、23の法案が両院に提出され、先週から審議が始まっている。
コンデ氏は死刑制度復活の間違いを指摘したいと考えている。しかし、法律によって復活が決まってしまえば手も足も出ないと頭を抱える。
現在、論争の的になっている「反テロ法」は、恐ろしく迅速な勢いで議会を通過、2020年7月18日に成立した。
ドゥテルテ大統領の強権的なやり方に真っ向から反発するABS-CBNは、法率が半強制的に通過していると指摘、「国民の生活や安全を一切考えない無茶苦茶なやり方であり、国際人権法違反にあたる」と吐き捨てた。
しかし、「人権無視」「命の軽視」だ、とドゥテルテ大統領を非難しても、聞く耳を持たないだろう。
昨年、フィリピンは、国際刑事裁判所(ICC)に麻薬取締キャンペーンの違法な調査有無をチェックされていたが、ドゥテルテ大統領はこれを無視。ICCからの脱退を表明した。
現在進行中の薬物戦争に対する強権的な取り締まりは、国民から圧倒的な支持を得ている。また、その多くが死刑制度の復活を認めており、法の成立は時間の問題と考えられている。
しかし、一部の人々は別の解決策があることも理解しつつあるようだ。人権弁護士ネットワーク、無料法的支援グループの事務長を務めるマリア・ソコロ・ディオクノ氏は次のように指摘した。
「一部の国民は、薬物使用や所持の処罰が”死”だけではないと考え始めている。人々は、違法薬物に関連する犯罪者に対し、死刑の代替案が提示されることを歓迎した」
死刑反対派のグループを率いるディオクノ氏は、ドゥテルテ大統領が死刑制度を復活させると発言したことに対し、「彼の目の前に立ち、戦う覚悟がある」と述べた。
フィリピンの死刑制度は2度廃止されている。最初は1987年、1993年に再開し、2006年に再び廃止された。
薬物犯罪に対する死刑を求める
薬物戦争
2006年に死刑制度を廃止に追い込んだ最大の推進力は、カトリック教会だった。
カトリック信者のフィリピン人は、教会の発する言葉に従う傾向が強いため、2020年も何かしらのアクションを起こせば、法律の成立に影響を与えるかもしれない。
先週、マニラ大司教区の聖職者は、死刑制度に関連する大統領の発言を支持した一部の議員について、「知識が著しく欠如している。好き勝手に振舞う行為は、国民の利益や信頼を裏切るものであり、ドゥテルテ政権の強権的なやり方を支持すれば、何もせず、ただ権威に屈服したと見なされるだろう」と厳しく非難した。
先月、ドゥテルテ大統領は国民に向けた年次演説の中で、薬物注射による死刑の復活は、「犯罪を防止する抑止力になる」と主張した。
しかし、死刑が抑止力になり得る、と証明する証拠はほとんどない。それどころか、最も不利な立場にある貧困層などの労働者にばかり影響を与えると指摘されている。
2004年、フィリピン最高裁判所は、下級裁判所が提示した死刑判決のうち、71.77%が間違った判決を下していたと述べた。
「薬物犯罪は一律死刑」と決めつけると、世界中の薬物犯罪者に適用され、国際標準になりつつある国際ハームリダクション協会の「ハームリダクション(危害削減)」から逸脱することになる。
これは、「処罰でなく、支援を与える」という考えに基づき制定されたプログラムである。薬物使用者の中には、メンタル不調や、家族関係のトラブルなどで薬物に手を染めてしまった者たちが少なからずいる。
ハームリダクションは、「やめたい」と思っている薬物使用者を助け、社会復帰を促す。しかし、ドゥテルテ大統領の手にかかると、彼らはチャンスを一切与えられず、死ぬしかない。
現在、35の国と地域が薬物犯罪者に対する死刑制度を保持している。しかし、定期的に死刑を行っている国は少数だという。
南イリノイ大学、犯罪学の准教授を務めるレイマンド・ナラグ氏はBBCの取材に対し、フィリピンの刑事司法制度の問題点を指摘した。
ナラグ氏は「裁判前の被拘禁者」としてフィリピンの刑務所に7年間投獄された。
ナラグ氏は国内の大学キャンパス内で発生した殺人事件の容疑者のひとりと疑われていたが、証拠は一切出てこず、純然たる誤認逮捕であることが7年後に判明した。
逮捕当時、死刑制度は機能しており、容疑者10名に対し、検察は全員一律、死刑を求めた。
ナラグ氏は覚えのない罪に問われ、裁判を受けることもできず7年間投獄された。なお、フィリピンの刑務所は超過密状態、暴動も頻繁に発生したが、期間中一番苦しかったのは、「7年間何もできず、ただ裁判を待っていたこと」だったという。
アメリカに移住したナラグ氏は当時の記憶を振り返り、「警察は捜査も行わずに容疑者と思われる者を逮捕する。もし、あの時司法が私の言うことを信用せず、死刑になっていたら、考えるだけで恐ろしい」と述べた。
なお、大学キャンパス内で発生した殺人事件のうち、無罪を言い渡された者は10名中5名。いずれも言いがかりによる逮捕で、貴重な20代の数年を棒にふった。
残りの5名には有罪判決、終身刑が言い渡された。
46歳になったナラグ氏は、不当逮捕の経験を仕事に活かしている。現在、フィリピンの刑事司法改革を提唱し、長期拘留されている人々の調査を行っている。
フィリピン国内ではいまだにコロナウイルスが蔓延しており、「死刑制度復活の議論を行っている場合ではない」と主張する議員もいる。
国際麻薬政策コンソーシアムのアジア局長を務めるグロリア・ライ氏はBBCの取材に対し、「死刑制度が薬物犯罪の問題を解決すると思ったら大間違いである。また、刑事司法裁判の厳しい取り締まりや冤罪などで不利益を被っているのは、貧しい人たちであることも忘れてはいけない」と警告した。
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