◎欧州の電気代、ガス代、ガソリン価格は劇的に上昇し、市民と企業の活動に圧力をかけている。
2022年3月18日/ドイツ、エムリヒハイムの油田(Martin Meissner/AP通信)

ロシア・ウクライナ戦争が始める前、欧州のエネルギー政策の主要目標は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を削減することだった。

しかし欧州は現在、最優先目標をロシア産の原油や天然ガスへの依存度を下げることに変更した。

ロシアの化石燃料から卒業するためには、より多くの石炭を燃やし、他の地域から燃料を輸入するためのパイプラインやLNG基地を建設する必要がある。

欧州の電気代、ガス代、ガソリン価格は劇的に上昇し、市民と企業の活動に圧力をかけている。

EUを統括する欧州委員会のデータによると、EUは昨年、天然ガスの約40%、原油の25%をロシアから輸入したという。

ロシアに禁輸制裁を科すべきという声が上がる一方、欧州委員会は年末までにロシアの天然ガス輸入を3分の2に減らし、2030年までにゼロにする計画を発表した。

EUの経済担当高官はAP通信のインタビューの中で「簡単な問題ではない」と述べる一方、「不可能ではない」と強調した。

EUはロシアとのエネルギー関係を解消するために別の取引先を探すことになる。しかし、長期的に見ると、今回の戦争が引き起こした地政学的・価格的圧力が再生可能エネルギーへの移行を加速させるかもしれない。

一部の専門家は、「この戦争は再生可能エネルギーが気候だけでなく、安全保障にも役立つことを再認識させた」と指摘している。これが事実であれば、風力や太陽光発電の開発が加速し、自然保護やエネルギー効率化の取り組みにも弾みがつくかもしれない。

EUは2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減し、2050年までの排出量実質ゼロを目指している。アナリストや政府関係者は、これらの目標はまだ達成可能であると述べている。

ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルのエネルギー専門家であるザックマン氏はSNSに、「ロシア依存を解消するためには目標のわずかな見直しが必要」と投稿し、さらに、「長期的には自然エネルギーやエネルギー効率への投資が増えるという効果が期待できる」と希望を表明した。

ほんの数カ月前には考えられなかったような計画が今では活発に議論されている。ドイツ政府は2030年以降も石炭火力発電所の稼働を維持すると示唆している。

ドイツのハベック副首相(緑の党)は、「タブーがあってはならない」と述べている。

チェコ政府も石炭火力の延命を検討している。

チェコのエネルギー安全保障委員会委員長は地元メディアのインタビューの中で、「代替燃料と発電設備が整うまで石炭は必要だ」と述べた。「体制が整うまで、どんなに環境に優しい政府でも石炭を廃止することはできないだろう」

EUはタンカーによるLNG輸送を強化する予定である。

米国とEUは先週、EUへのLNG輸送を増やす計画を発表した。ただし米国政府は、今年どの国がEUにLNGを追加輸送するかは明らかにしなかった。

LNGタンカー用の基地を持たないドイツは、北海沿岸で数十億ユーロ規模のプロジェクトを2つ進めている。

スペイン政府は、ピレネー山脈を越えてフランスに至るガスパイプラインの延長に再び関心を寄せている。フランスは当初、4億5,000万ユーロ(約600億円)と見積もられているこの延伸プロジェクトにほとんど関心を示さず、欧州の事業調整会議でも採算が合わないと判断され、2019年に廃案となった。延長すればスペインとポルトガルが輸入したLNGを欧州の他の地域に輸送できるようになる。

イギリスのジョンソン首相は「エネルギー供給の主導権を取り戻す時が来た」と述べている。

イギリスは今年、ロシア産原油の輸入を段階的に減らす予定である。さらにジョンソン首相は北海での新たな石油・ガス探査を承認すると示唆した。

イギリスは昨年のCOP26の主催国であり、多くの公約を発表した。しかし、与党保守党の一部議員は2050年までにネットゼロを達成するという約束を撤回すべきと指摘している。

保守党のダウデン議員は先週、「イギリス国民はネットゼロではなく別の道を見たいと思っている」と述べた。

環境活動家や団体は化石燃料を擁護する発言や考えに猛反発している。

電気、ガス、ガソリン価格の高騰やロシア依存から抜け出したいと思う一方で、国産の自然エネルギーや省エネルギーを推進すべきという圧力は確実に高まっている。

国際エネルギー機関(IEA)は最近、欧州が1年以内にロシアの天然ガスへの依存度を3分の1に減らす計画を発表した。

計画によると、建物の暖房のサーモスタット(温度を調整するための装置)を平均1℃下げるだけで、年間100億㎥、欧州がロシアから輸入している天然ガスの約6%を節約できるという。

ドイツの屋上用ソーラーパネル会社ゾーラ社のメルザーCEOはAP通信の取材に対し、「顧客からの問い合わせが殺到している」と述べた。「多くのドイツ国民が今回のウクライナ危機で、ドイツはロシアから石油やガスの購入をやめるのか、電気やガス代はどうなるのかと本気で心配するようになりました」

メルザーCEOによると、太陽光パネルの初期投資には2万ユーロ(約270万円)ほどかかるが、多くの顧客が「地球を救う」ことに関心を示しているという。自家発電する家庭や企業が増えれば、電力会社やガス会社の負担を軽減することができる。

2021年11月5日/ドイツ、エムリヒハイムのBP製油所(Martin Meissner/AP通信)
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