◎全国7000人の裁判官を国民投票で選ぶという今回の改憲は司法の独立性に深刻な打撃を与え、法律よりも有権者や与党に忠実な裁判官が選出される可能性もある。
2024年9月6日/メキシコ、首都メキシコシティの国会議事堂近く、政府与党の司法制度改革案に抗議する女性(AP通信)

メキシコ議会上院は11日未明、政府与党の司法制度改革法案を賛成86ー反対41で可決した。これにより、オブラドール(Andrés Manuel López Obrador)大統領が目指す憲法改正が現実となった。

現行制度では、裁判官とその補佐役である裁判所秘書官は、その記録に基づいて徐々に高い地位に就く資格を得る。

しかし、改正案は「すべての裁判官を国民投票で選出する」としている。さらに、最低限の資格を持つ弁護士であれば誰でも裁判官に立候補できるようになる。

法学部の学位と数年間の弁護士経験があれば、ほぼ誰でも裁判官になる権利を得ることができるのだ。

一部の専門家は経験の浅い政治的に偏った裁判官を生む可能性があると警告している。

全国7000人の裁判官を国民投票で選ぶという今回の改憲は司法の独立性に深刻な打撃を与え、法律よりも有権者や与党に忠実な裁判官が選出される可能性もある。

また、麻薬カルテルやギャングが自分たちに近い優秀な人物を国民投票に送り込む可能性も否定できない。

野党は憲法裁判所に異議を申し立てるとしているが、改正案を覆せるかどうかは不明である。

上院が改正案の採決を始めようとした直後、数百人のデモ隊が議会に乱入し、与党・国家再生運動(MORENA)の議員に迫った。この事態を受け、採決は一時中断された。

その後、改正案は3分の2以上の賛成で可決。議場は歓声に包まれた。

オブラドール氏は以前から、多くの裁判官が汚職に手を染め、犯罪者を優遇していると批判してきた。

司法当局はこの主張を否定。麻薬カルテル、ギャング、その他犯罪組織への対応に苦慮しているオブラドール政権がその責任を司法に負わせようとしていると批判している。

一部の専門家はこの改憲が司法の独立性に深刻な打撃を与えると指摘。全国の裁判官を投票で選ぶこと自体間違いであり、麻薬カルテルや犯罪者に近い人物が立候補する可能性があると警告している。

オブラドール氏はこの改正案に深刻な懸念を示した米国との関係を「一時停止」すると主張していた。

地元メディアによると、上下両院を通過した改正案を阻止することは非常に難しいという。

この改正案はメキシコが独立した公平な司法機関を持つことを約束した国際条約に違反する可能性があるため、米州人権裁判所で争われる可能性がある。

しかし、その手続きには年単位の時間がかかるとみられる。

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