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メキシコ・マヤ鉄道、厳しい現実に直面「赤字を垂れ流すハコモノ」

この鉄道は全長約1500キロに及び、ユカタン半島の主要観光地や遺跡を結ぶことで、歴史的に貧困に苦しんできた南部地域に経済成長と雇用をもたらすことを目的として建設された。
2023年12月16日/メキシコ・キンタナロー州郊外、部分開通したマヤ鉄道(Martin Zetina/AP通信)

メキシコ政府が巨額の資金を投じて進めた観光インフラ「マヤ鉄道」が、開業から約2年を経ても地域開発の約束を十分に果たしていない実態が明らかとなり、期待と現実の乖離が浮き彫りになっている。

この鉄道は全長約1500キロに及び、ユカタン半島の主要観光地や遺跡を結ぶことで、歴史的に貧困に苦しんできた南部地域に経済成長と雇用をもたらすことを目的として建設された。観光振興とインフラ整備を軸に、地域住民の生活水準向上が期待されていた国家的プロジェクトである。しかし、開業後の実態は当初の構想とかけ離れている。

鉄道沿線のある集落では、その象徴的な光景が見られる。近代的な鉄道の施設が明るく照らされる一方で、そのすぐ外側にある集落ではいまだに電力網が整備されておらず、住民は太陽光パネルや発電機に頼る生活を続けている。学校でさえ安定した電気がなく、扇風機やコンピューターも使えない状況だ。政府が掲げた「インフラ整備による生活改善」は、少なくともこうした地域では実現していない。

経済面でも課題は深刻である。建設期には一時的に景気が押し上げられたものの、その効果は長続きせず、例えばキンタナロー州では2023年に大きな成長を記録した後、2025年には大幅な景気後退に転じた。雇用は一定程度増加したものの、依然として約6割の労働者がインフォーマル経済に従事しており、安定した収入や社会保障の恩恵を受けられていない。地域の貧困構造は根本的には変わっていないと指摘されている。

鉄道事業そのものの採算性も厳しい。乗客数は想定を大きく下回り、平日の列車では200席以上ある車両に数十人しか乗っていないケースも報告されている。年間利用者数の見込みは当初の300万人から120万人へと下方修正され、収入は運営コストの13%程度しか賄えていない。総事業費も当初の約70億ドルから250億ドル超へと膨張し、財政負担の重さが際立っている。

観光振興の柱として整備された沿線ホテルも同様に苦戦している。政府主導で建設された複数のリゾート施設は稼働率が低く、月平均で1桁から2割程度にとどまる。豪華な設備を備えながら利用者が少ない現状は、需要予測の甘さを示しているとの批判を招いている。

さらに、開発の影響を巡る不満も根強い。マヤ系先住民のコミュニティでは森林の分断や土地利用の変化により生活基盤や文化が脅かされているとの声が上がる。過去に保護区設置のため移住を余儀なくされた住民が、現在では同じ土地に観光施設が建設されている状況に強い不公平感を抱くなど、歴史的な疎外の問題も再燃している。

環境面や法的手続きに関する批判もあったが、政府は国家安全保障を理由に計画を推進し、最終的にプロジェクトは実現した。現政権はこの鉄道を長期的な投資と位置付け、将来的には貨物輸送への活用なども視野に入れていると説明している。しかし、現時点では地域社会への直接的な利益が乏しいとの認識が広がっている。

巨大インフラによって貧困地域を活性化するという構想は、開発政策の典型例であるが、その成果は必ずしも均等に分配されるわけではない。マヤ鉄道の事例は、観光主導の成長モデルが地域社会にどのような影響を与えるのか、そして国家主導の大型プロジェクトが掲げる「約束」がどこまで実現されるのかを問いかけている。期待を背負った国家プロジェクトは、いまやその持続可能性と社会的正当性の両面で厳しい検証にさらされている。

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