インド、エタノール混合ガソリンへの不満高まる、環境政策と利用者負担のバランス
インドは世界第3位の石油消費国であり、原油需要の約85%を輸入に依存している。
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インド政府が進めるバイオ燃料政策が社会的論争を呼んでいる。政府はガソリンにバイオエタノールを20%混合した「E20燃料」を全国で導入し、原油輸入の削減や温室効果ガス排出量の抑制を目指している。しかし、多くのドライバーから燃費の悪化や車両への悪影響を訴える声が相次ぎ、「環境政策の負担を消費者が一方的に負わされている」との不満が広がっている。政府は安全性に問題はないと強調するが、政策の導入に対する批判が強まっている。
インドは世界第3位の石油消費国であり、原油需要の約85%を輸入に依存している。国際原油価格の変動は経済全体に大きな影響を及ぼすため、政府はエネルギー安全保障の強化を重要課題としてきた。その柱の一つが、サトウキビやトウモロコシ、米などから生産されるエタノールをガソリンに混合する政策である。エタノールは植物由来であるため、燃焼時に排出される二酸化炭素は植物の成長過程で吸収された炭素と相殺されると考えられ、化石燃料より環境負荷が低いとされる。
インド政府は2014年時点で約1.5%に過ぎなかったエタノール混合率を急速に引き上げ、2025年には当初予定より5年早く全国でE20燃料の供給を実現した。政府によると、この政策によって過去10年間で巨額の原油輸入費用を削減するとともに、大量の二酸化炭素排出を抑制する効果が得られたとしている。また、エタノール需要の拡大は農家の新たな収入源となり、地方経済の活性化にも寄与すると期待されている。
一方で、現場では政策への不満が高まっている。最大の理由は燃費の低下である。エタノールはガソリンより発熱量が低いため、同じ距離を走るにはより多くの燃料が必要になる。このため、多くの利用者が「給油回数が増えた」「燃料代が実質的に高くなった」と訴えている。SNSには「走行距離が短くなった」「エンジン音が変わった」「始動しにくくなった」といった体験談も数多く投稿されており、政府への不信感が広がっている。
特に問題視されているのは、2023年以前に販売された車両への影響である。近年発売された新型車の多くはE20対応として設計されているが、それ以前の車両はE5やE10を前提に開発されたものが少なくない。エタノールは水分を吸収しやすく、金属やゴム部品への腐食性も指摘されているため、長期間使用した場合の燃料系統への影響を心配する利用者も多い。メーカー側は新型車では問題ないと説明する一方、旧型車への影響については慎重な姿勢を示しており、不安は解消されていない。
利用者からは「E20しか販売されておらず、従来のガソリンを選ぶことができない」という点への不満も大きい。ブラジルや米国などエタノール利用が進む国では複数の燃料を選択できるケースが多いが、インドでは選択肢が事実上存在しない。消費者団体や野党は政府が十分な検証や説明を行わないまま全国導入を急いだと批判し、最高裁判所には政策の見直しを求める訴えも起こされている。
さらに、エタノール生産拡大による農業への影響も課題となっている。サトウキビやトウモロコシなど燃料向け作物の需要が増えれば、食料生産との競合や水資源の大量消費を招く可能性がある。干ばつが頻発する地域では、エタノール原料作物への依存が環境負荷を高めるとの懸念も専門家から指摘されている。環境対策として始まった政策が、新たな資源問題や食料問題を生む恐れも否定できない。
政府は今後もエタノール利用を拡大する方針を維持しており、将来的にはさらに高濃度の混合燃料やフレックス燃料車の普及も視野に入れている。しかし、政策を成功させるためには環境面や経済面の効果だけでなく、消費者の理解と信頼を得ることが不可欠だ。脱炭素社会への移行を進める中で、環境政策と利用者負担のバランスをいかに取るかが、インド政府にとって大きな課題となっている。
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