フィリピン議会上院発砲、元国家警察長官が逮捕を免れた経緯
デラローサ氏は2016年から2018年まで国家警察長官を務め、ドゥテルテ政権の強硬な薬物犯罪対策を指揮した。
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国際刑事裁判所(ICC)から「人道に対する罪」で逮捕状が出されているフィリピンのデラローサ(Ronald dela Rosa)上院議員が当局による拘束を寸前で回避した経緯が明らかになり、国内外で波紋を広げている。デラローサ氏はドゥテルテ(Rodrigo Roa Duterte)前大統領による「麻薬戦争」の実行責任者の一人とされ、ICCが進める超法規的殺害事件の捜査対象となっている。今回の騒動はフィリピン政治における権力闘争や司法制度への不信を改めて浮き彫りにした。
デラローサ氏は2016年から2018年まで国家警察長官を務め、ドゥテルテ政権の強硬な薬物犯罪対策を指揮した。ICCは麻薬撲滅作戦の過程で数千人規模の超法規的殺害が行われた疑いがあるとして、ドゥテルテ氏とその側近らを人道に対する罪で起訴している。ICCは今月、デラローサ氏に対する逮捕状の発行を正式に認めた。
騒動が発生したのは13日夜、首都マニラの上院施設だった。ICCとの協力を進める捜査当局がデラローサ氏拘束に向けて動いているとの情報が流れる中、同氏は数日間にわたり上院議員室に立てこもっていた。支持者やドゥテルテ派議員らは「ICCに引き渡すな」と主張し、施設周辺には抗議者や報道陣が集結した。
その後、国家捜査局(NBI)関係者が施設に接近した際、上院警備隊との間で衝突が発生し、銃声が響く混乱状態となった。政府は発砲の経緯を調査しているが、混乱の最中にデラローサ氏は施設から離脱したとされる。同氏の妻はメディアに対し、「奇跡的な脱出だった」と語った。当時の混乱は「犯罪スリラー映画のようだった」と形容されている。
マルコス政権は現在、デラローサ氏の所在確認を進めている。司法省は15日、「ICCから正式な協力要請があれば確実に従う」と述べ、国外逃亡阻止に向けた措置も取る考えを示した。一方で、マルコス・ジュニア(Ferdinand Marcos Jr.)大統領は「政府が逮捕を命じたわけではない」と説明し、政治的緊張の沈静化を図っている。上院の警備責任者は今回の騒動を受けて停職処分となった。
背景には、マルコス家とドゥテルテ家の深刻な対立がある。かつて選挙協力関係にあった両家は、2028年大統領選を見据えて対立を激化させている。ドゥテルテ派はICC捜査を「政治迫害」と批判し、デラローサ氏自身も「ICCにはフィリピンに対する管轄権がない」と主張して最高裁に緊急申し立てを行った。フィリピンは2019年にICCを脱退しているが、ICC側は加盟期間中の犯罪については裁判権を持つとしている。
一方、麻薬戦争の犠牲者遺族や人権団体はデラローサ氏の逮捕と裁判を求めている。遺族の一人はロイター通信の取材に対し、「この国の司法は金持ちのためだけにある。ICCだけが希望だ」と語った。人権団体は今回の逃走劇が「政治エリートは法の支配を逃れられる」という国民の不信感をさらに強めると警告している。
