◎BBCは世界で最も信頼度の高いメディアのひとつであり、世界で初めてのテレビ放送を行った放送局として知られている。
BBC（英国放送協会）のスポーツ番組「マッチ・オブ・ザ・デイ（Match of the Day）」は11日、同番組の司会者であるギャリー・リネカー氏を降板させた問題で批判の嵐に直面し、大混乱に陥った。
サッカー元イングランド代表のリネカー氏は今週、スナク政権の移民政策をツイッターで批判。BBCから「公平中立に違反する」として番組を降板させられた。
人権団体はスナク政権の物議を醸す移民政策を「非人道的」「破滅的な間違い」と糾弾している。
リネカー氏はスナク政権の政策を1930年代にナチスが使用した論法になぞらえ、「最も弱い立場の人々に対する非常に残酷な政策だ」と批判した。
BBCはこのツイートをガイドライン違反と指摘し、リネカー氏をクビにした。
BBCは世界で最も信頼度の高いメディアのひとつであり、世界で初めてのテレビ放送を行った放送局として知られている。プレミアリーグのハイライト番組マッチ・オブ・ザ・デイ（土曜夜放送）は1964年にスタートした長寿番組である。
BBCの決定は批判の嵐を巻き起こし、同番組の共同司会者は11日の放送をボイコット。BBCテレビ・ラジオ放送サービスは番組の再編成を余儀なくされた。
評論家で元イングランド代表のストライカー、イアン・ライト（Ian Wright）氏とアラン・シアラー（Alan Shearer）氏もマッチ・オブ・ザ・デイに出演しないとツイートし、番組のコメンテーターもそれに続いた。
ライト氏は自身のポッドキャストで、「リネカーが戻らないなら、BBCを辞める」と宣言した。
人権活動家たちは「俺たちの税金で活動している公共放送が言論の自由を弾圧した」「BBCは今すぐロシア放送協会に名前を改めるべきだ」などとSNSに投稿。政治家や公人も批判に加わった。
テレビ司会者のピアーズ・モーガン（Piers Morgan）氏はこうツイートしている。「自分の意見を表明しただけで職を失うような国にイギリスがなってしまうなんて。信じられないし、正気の沙汰とは思えない」
最大野党・労働党のスターマー（Keir Starmer）党首は「BBCは保守党の要求に屈した」と非難した。「BBCは保守党の政策を批判したリネカー氏を罰するよう圧力を受け、屈服したのです！」
BBCのティム・デイビー（Tim Davie）会長は11日、批判の嵐を受け流し、辞任しないと表明した。
論争に巻き込まれたスナク氏も11日、「この論争は放送局の問題だ」と主張した。
首相府は声明で、「ギャリー・リネカー氏とBBCの問題が適切に解決されることを望むが、それは彼らの問題であり、政府の問題ではない」と述べている。
BBCはマッチ・オブ・ザ・デイを初めて評論家や司会者なしで放送すると発表した。
またBBCはリネカー氏を支持するプレミアリーグの選手たちがインタビューに応じないと示唆したため、プレミアリーグの番組にもかかわらず、選手のインタビューなしで番組を進めるとした。
週末のハイライト番組「フットボール・フォーカス（Football Focus）」と「ファイナル・スコア（Final Score」もプレゼンターや評論家が降板したため放送中止となった。
BBCスコットランド、ウェールズ、北アイルランドのスポーツ番組も同様の措置を取るとしている。
BBCは「番組を変更して申し訳ありません」と謝罪したが、リネカー問題には言及しなかった。「我々はBBCのスポーツファンを失望させたことを認識しており...問題が解決することを望んでいます」
全英ジャーナリスト組合（NUJ）はリネカー氏に対する今回の措置を「壮大なオウンゴール」と評している。
NUJの書記長は声明で、「このような持続的な政治的圧力に屈することは、愚かであると同時に危険である」と述べている。
リネカー氏はBBCのフリーランス放送作家であり、常任のスタッフではなく、ニュースや政治的な内容を担当しないため、ニュースに携わるスタッフのように公平性に関する厳しい規則を守る必要はない。
この論争はブレイバマン（Suella Braverman）内相がドーバー海峡を頼りない小舟で渡りイギリスに亡命しようとする移民を阻止する計画を発表したことから始まった。
スナク政権は海上の国境警備を強化したうえで、不法移民の亡命申請を非合法化し、ルワンダなどの協定を結んだ国に移送するとしている。
政府の統計によると、昨年ドーバー海峡を渡った不法移民は4万5000人を超え、2021年の2万8000人を大きく上回った。2020年は約8500人だった。
イギリスとルワンダ政府は昨年4月、イギリスに不法入国した移民・難民・亡命希望者をルワンダに移送する協定に署名した。
