パンデミックにより、多くの国際的ニュースは忘れ去られてしまったが・・・
コロナウイルスの登場により、多くの国際的な問題、ニュースが議題から外された。国民の多くは、他の問題など無視しパンデミックを食い止めることに尽力すべきと考えているが、陰に隠れた5つの問題をうやむやにすることはできない。
危機は目の前に迫っている。そして現在、それらへの対応を必要とする多くの国が、コロナショックに振り回され、予定通りに計画を進めることができない状況下にある。ここでは数週間から数か月後先に迫る5つの問題を紹介する。
長距離核兵器
アメリカとロシア間で締結されている長距離核兵器を制限する「新戦略兵器削減条約(New START)」は、来年2月に期限を迎える。同条約は、冷戦時代から受け継がれる「第一戦略兵器削減条約(START1)」の内容を更新するものであり、新たな核の拡散および開発を防止するうえで欠かせない。
しかし、仮に何らかの理由で条約が延長されなければ、新たな核兵器の開発および開発競争につながる。驚くほど速く、かつ精密な核ミサイルでも、ノウハウとプルトニウムさえあれば、容易く造れてしまう時代なのだ。
ロシアは条約を延長する用意があると思われる。しかしトランプ政権は、同条約に中国を加盟させると明言しており、それが失敗に終わればNew STARTの延長は断念すると決心しているようだ。そして、中国共産党はそれに全く関心を示していない。
アメリカと中国がいがみ合っている今、トランプ政権に代わる新政権が誕生しない限り、同条約の延長は夢物語に思える。
イラン
アメリカは、イランの核開発を制限する「包括的共同行動計画(JCPOA)」からの脱退を望んでおり、それを巡るイランおよび欧州各国との交渉はかなり悪化している。
JCPOAは今年10月18日に期限を迎える予定である。イランのハッサン・ロウハニ大統領は、アメリカがJCPOAから脱退し、同国に対する経済制裁を再開させた場合、重大な事態を招くと警告している。
しかし、トランプ大統領の望むロシアーイラン間の武器禁輸が同意される可能性はほとんどない。その場合トランプ大統領は、イランに対する広範な経済制裁を実行可能とする新たな核合意の策定および締結を欧州各国に呼び掛けるものと思われる。
イランがJCPOAに違反したこと事実である。しかし、トランプ大統領のビジネス(賭け事)でいたずらにそれから脱退し、イランに対する経済制裁を強めれば、同国は新たな核開発を強行しかねない。
イスラエル
長期間に渡るイスラエル総選挙は、主要野党との権力分担契約の後、現政権の続投が決まった。そしてネタニヤフ首相は、自身に対する汚職事件が係争中であるにも関わらず、同国ヨルダン川西岸を併合。同地はイスラエルの恒久的かつ永続的な一部であると宣言した。
この行為により、イスラエルとパレスチナ間の平和を望む交渉は粉々に打ち砕かれた。二国間の解決策を模索してきたトランプ大統領および平和計画の協定も雲散霧消したのである。
パレスチナ人もいくつかの過ち、反則を犯しており、欧州およびその他の国々は注意を促していた。イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合を受け、関係各国は同国に対する制裁も辞さない態度を示している。そして、ここでもトランプ政権が非常に重要な役目を担うことになる。
トランプ大統領がイスラエルの米国大使館をエルサレムに移すと決定したことにより、ネタニヤフ首相の行動はより大胆になった。同国の占領下にあるシリアゴラン高原の併合を望み、さらに今回の事態である。
アメリカの立場は非常に曖昧である。現在同国は、イスラエルとパレスチナを巡る交渉を再開する条件として、パレスチナ側にヨルダン川西岸地域の併合を認めさせることを示唆している。
EU離脱
コロナウイルスの登場で、「ブレグジット(Brexit)」は完全に忘れ去られてしまった。恐らく皆(私も含めて)、「イギリスはコロナで大変だ。移行期間を5年ぐらい伸ばせば良いんじゃないか?」と勝手に思っているが、そういうわけにはいかない。
イギリスのEU離脱に伴う移行期間は2020年12月31日まで。将来についての話し合いは暫定的に始まっていたが、ボリス・ジョンソン首相および政権が今後必要とされる措置、もしくは移行期間の延長、遅延を検討しているようには見えない(準備は進めているのかもしれないが)。
パンデミックはEU各国に強烈過ぎるダメージを与えた。恐らく、経済の回復には途方もない時間がかかる。現在、イギリス国内でもこの話題を取り上げるつもりはないように思える。国民の一部は、「ブレグジット?ブリジット・ジョーンズの日記か?」と冗談を言う始末である。
欧州の感染状況は徐々に沈静化してはいるものの、イギリスでは再び死者が増加しており、依然予断を許さない状況にある。
今年初め、イギリスのEU離脱は、双方に大きな負担をかけるが、移行期間内に山積する課題をクリアすべく、話し合いが行われる予定であった。しかし、コロナウイルスが事態を一変させ、イギリス、EU、アメリカ、中国、そして世界を巻き込む経済的、外交的決定の難易度は格段に上昇した。
気候変動
コロナウイルスとの闘いは、全世界が今すぐ取り組まねばならない気候変動対応への「試練」と言っても過言ではない。
共通の敵と戦うべく、世界はひとつになりつつある。パンデミックへの対処方法を各国間で共有し、マスクや防護具を融通しあう。治療薬の開発、支援部隊の派遣。アメリカと中国の溝は深まっているが、世界各国の協力体制は今年初めに比べると間違いなく強化された(ように思える)。
最も重要なことは、パンデミックを抑え込んだ後である。ありとあらゆる経済活動が再開され、世界の工場中国はプラスチック製品を大量生産、世界中に輸出する。そして、アメリカや欧州、中東各国は、自国の復活に大金を投入する。
経済活動はフル回転。新しい道路が整備され、そこを車が走る。世界がパンデミック以前の状態を目指し、二酸化炭素をフル排出するのである。
各国は、気候変動を巡る新たな対策、環境破壊の防止、二酸化炭素の排出量を抑える、といった昨年までの潮流も、忘れず元の状態に戻さねばならない。なお、今年11月にグラスゴーで開催される予定だった「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」およびその他の重要会議は、軒並み来年に延期されている。
コロナウイルス終息後も、世界は環境問題への取り組みを継続させねばならないが、それを実行に移せるか否かは未知数である。経済活動だけを優先させれば、これまで行ってきた様々な努力は台無しになってしまうだろう。
BBC News - A world in crisis even without the pandemic: Five looming problemshttps://t.co/7asyMqk5a9
— Mr Smith (@geo_curious) May 14, 2020