ヨルダンの死刑制度:女性や未成年者への適用規定の課題
ヨルダンは2026年9月時点で死刑制度を維持しており、2026年6月には約9年ぶりとなる死刑執行が行われた。

現状(2026年9月時点)
ヨルダンは2026年9月時点で死刑制度を法律上維持している国である。国際的な分類でも死刑存置国に位置づけられており、殺人、国家の安全に関わる重大犯罪、テロ関連犯罪など一定の犯罪について、裁判所が死刑判決を言い渡すことが可能な法制度となっている。
もっとも、ヨルダンの死刑制度を評価する際には、死刑が法律上存在することと、実際に死刑が執行されることを区別する必要がある。ヨルダンでは長期間にわたり死刑執行が停止されていたため、制度自体は存続している一方、実際の刑罰としての運用には大きな変動が存在してきた。
この点で2026年は重要な転換点となった。ヨルダン当局は2026年6月、6人に対する死刑を執行し、約9年ぶりに執行を再開したと国際人権団体などが報告している。
この再開は、単に6人の刑が執行されたという個別事件にとどまらない意味を持つ。長期間にわたって形成されていた事実上の死刑執行停止が終了したことによって、死刑判決を受けている多数の人々について、今後どのように刑が扱われるのかという問題が改めて現実的な政策課題となったからである。
ヨルダンにおける死刑制度の現状と枠組み
ヨルダンの死刑制度は、主として刑法を中心とする国内刑事法制の中に組み込まれている。死刑は最も重い刑罰として位置づけられ、裁判によって有罪が確定した場合であっても、実際の執行には司法手続だけでなく国家元首による承認など、複数の段階が関係する仕組みとなっている。
したがって、ヨルダンにおける死刑は、裁判官が死刑判決を出せば直ちに執行されるという単純な制度ではない。死刑判決後の上訴、確定手続、恩赦や減刑の可能性、さらに執行に必要な国家的手続が存在するため、死刑判決の件数と実際の執行件数には大きな差が生じ得る。
2024年末時点の状況を示す資料として、ヨルダンの国家人権機関の報告を引用した人権団体の調査では、死刑判決を受けている者は276人で、その内訳は男性254人、女性22人だったとされる。2023年には284人だったため、死刑囚全体の人数は減少しているものの、依然として数百人規模の死刑判決が存在していたことになる。
この数字から重要なのは、死刑制度を執行実績だけで判断できないことである。執行されていない死刑判決が多数存在する場合、死刑制度は刑務所内で長期間にわたり死刑囚を拘束する制度としても作用するため、生命権だけでなく、拘禁環境、上訴、恩赦、家族への通知など複数の人権問題と結びつく。
法的根拠と執行方法
ヨルダンでは死刑を定める犯罪類型が刑法などに規定されており、死刑判決を受けた被告人には上訴などの司法上の救済手段が認められている。死刑事件では刑事責任の有無だけでなく、死刑を適用できる犯罪に該当するか、証拠が十分であるか、適正な裁判が行われたかなどが重要な争点となる。
死刑執行については、過去のヨルダン政府による国際機関への説明からも、刑の執行に国家的な承認手続が必要とされていることが確認できる。ヨルダン政府は以前から、死刑判決について厳格な手続を要求し、執行についても国家元首の承認が必要であることを説明してきた。
実際の執行方法については、ヨルダンでは絞首による執行が行われてきた。2014年12月には8年間続いた非公式の執行停止が終わり、殺人罪で有罪となった11人が絞首刑により処刑され、2017年3月には15人が執行されたと報告されている。
一方、死刑制度には誤判という不可逆的な問題が存在する。自由刑であれば再審や釈放によって誤判を一定程度是正できるが、死刑を執行した後には原状回復ができないため、証拠の評価、弁護人へのアクセス、上訴手続、取調べの適正などが特に重要となる。
モラトリアムと執行の再開
ヨルダンでは2006年から2014年まで約8年間、死刑の執行が行われなかった。この期間は法律上死刑が廃止されていたわけではなく、いわゆる事実上の執行停止、すなわち法制度として死刑を残しながら実際の執行を行わない状態だった。
しかし2014年12月、ヨルダン政府は死刑執行を再開した。さらに2017年3月には15人が執行され、そのうち10人は国家安全保障裁判所でテロ関連の罪により有罪判決を受けていたとされる。これによって、死刑制度が単なる法典上の規定ではなく、国家安全保障や重大犯罪に対する現実の刑罰として運用されることが明確になった。
その後、ヨルダンでは再び長期間にわたって死刑執行が行われない状態が続いた。国連の人権機関も、ヨルダンについて過去に事実上の死刑執行停止が存在していたことを確認しており、死刑制度そのものを廃止する方向への移行を繰り返し検討するよう求めてきた。
2026年6月の6人に対する執行は、この長期的な停止状態を終わらせる出来事となった。国際人権団体によれば、今回執行された6人のうち3人は、麻薬取締り活動中の法執行機関職員の殺害に関係する事件で国家安全保障裁判所により有罪とされていた。
さらに2026年には、ヨルダン政府が一定の麻薬関連犯罪について死刑の対象を拡大する方針を示したと国際的な人権団体が報告している。これは、死刑制度の縮小や廃止という方向だけではなく、重大犯罪や治安問題への対応を理由として死刑の適用範囲を維持・拡大する方向も存在していることを示す。
ここで重要なのは、ヨルダンの死刑制度が単純に「廃止へ向かっている」あるいは「維持されている」という二分法では説明できないことである。法制度上は存置され、過去には長期の執行停止があり、2014年と2017年に執行が再開され、その後再び停止し、2026年に再開したという経緯から見ると、死刑制度の実態は司法制度だけでなく、治安政策、犯罪対策、政治的判断、人権政策の交差点に位置している。
この点は、次に検証する未成年者への死刑適用問題を理解するうえでも重要である。未成年者については成人とは異なる刑事責任と保護の原則が適用されるため、ヨルダンの国内法がどの年齢を境界として死刑から除外しているのか、そして年齢をどのように証明するのかという問題を切り分けて検討する必要がある。
未成年者に対する死刑適用の規定と課題
ヨルダンの死刑制度を検討する際、未成年者については成人と明確に区別する必要がある。現在のヨルダン法では、犯罪を行った時点で18歳未満だった者に死刑を科すことは認められておらず、この原則は国内法だけでなく、児童の権利に関する国際的な基準とも結びついている。
ただし、未成年者への死刑禁止が法律上明確になっていることと、未成年者が刑事司法制度の中で十分に保護されていることは同じではない。ヨルダンでは刑事責任年齢が比較的低く設定されていること、年齢を確認できない子どもの存在、拘禁や裁判手続における脆弱性などが、死刑とは別の重要な問題として残っている。
法規上の規定
ヨルダン政府は国連の人権機関に対し、18歳未満の者には死刑を適用できないと繰り返し説明してきた。過去の政府報告では、少年司法に関する法律の規定として、少年に死刑または重労働刑を科してはならないことが明記され、死刑犯罪に該当する場合でも少年には成人と異なる刑罰が適用されると説明されている。
ここで重要なのは、基準となる年齢が「死刑を執行するとき」ではなく、「犯罪を行ったとき」である点である。したがって、18歳未満で犯罪を行った者が裁判や上訴手続の長期化によって18歳を超えたとしても、それだけを理由として死刑を科すことはできないというのが制度上の基本原則となる。
この考え方は、児童の権利に関する条約の規定とも一致する。国際法上、犯罪時に18歳未満だった者に死刑を科すことは認められないとされており、ヨルダンの国内法もこの年齢基準を採用している。
また、少年に対する刑罰は成人の場合より軽減される仕組みとなっている。ヨルダン政府の過去の国連報告では、死刑に該当する犯罪についても少年には死刑を科さず、一定期間の拘禁など、成人とは異なる処遇が取られることが説明されている。
この制度設計から見る限り、現在のヨルダン法における未成年者の死刑問題は、「法律上、未成年者に死刑を科すことが認められているか」という段階ではなく、「実際の刑事司法手続で犯罪時の年齢を正確に確認し、その保護規定を確実に適用できるか」という問題へ移っていると考えることができる。
刑事責任年齢と除外規定
一方、死刑を科せる年齢と、そもそも刑事責任を問える年齢は別の問題である。ユニセフによると、ヨルダンの刑事責任最低年齢は現在12歳であり、これは児童の権利委員会が一般的に適切と考える最低年齢14歳を下回っている。
つまり、ヨルダンでは12歳以上の子どもが一定の条件の下で刑事司法手続の対象となり得る一方、18歳未満であれば死刑の対象からは除外されるという二重の年齢線が存在する。12歳から17歳までの子どもについては、刑事責任そのものが完全に否定されているわけではないが、成人とは異なる少年司法上の保護を受けることになる。
この点には政策上の緊張がある。国際的な児童司法の考え方では、子どもの刑事責任をできるだけ教育的・更生的な方向へ導くことが重視されるが、12歳という最低年齢は、国際的な児童権利基準から見ると低い水準にあると評価されている。
さらに、刑事司法制度に実際に入る子どもの数も無視できない。ユニセフによると、2024年には8,000人を超える子どもがヨルダンの司法制度に入っており、そのうち拘禁を伴わない処分を受けた割合は16%にとどまったとされる。
この数字は、未成年者に死刑が科されないことだけでは児童司法上の問題を解決できないことを示している。死刑から除外されていても、捜査、逮捕、拘禁、弁護、裁判、判決後の処遇という各段階で子どもの権利が十分に保障されなければ、成人とは異なる保護を実質的に実現したとは言いにくい。
主な課題
未成年者に対する死刑問題で最大の論点の1つは、「18歳未満かどうか」をどの時点で、どの証拠によって確定するかである。法律上の年齢基準が明確であっても、出生記録などの公的資料が存在しなければ、捜査機関や裁判所が本人の年齢を正確に把握できない可能性が生じる。
この問題は国際的にも重要視されている。国連人権機関は、出生登録の不足や年齢確認の困難さが、犯罪時には18歳未満だった者について死刑判決が出る危険につながり得ると指摘してきた。
もっとも、こうした過去の国連資料に記載された懸念を、そのまま2026年現在のヨルダンで実際に死刑執行が行われていることを意味すると解釈してはならない。ヨルダンの現在の国内法では未成年者への死刑は禁止されており、現在の問題は、むしろその禁止を捜査・裁判の各段階で確実に機能させるための制度的保障にある。
年齢証明の不確実性
年齢証明の問題は、成人と少年の境界が18歳で設定されている制度では特に重大である。17歳11か月の者と18歳0か月の者では、重大犯罪について刑事司法上の扱いが大きく異なるため、出生日時を確認できる公的記録の有無が極めて重要になる。
国連の児童権利に関する資料では、過去のヨルダンにおいて年齢の確認が困難な事例が問題として取り上げられてきた。こうした問題は、単なる行政上の記録不足ではなく、最終的には死刑という不可逆的な刑罰から少年を保護できるかどうかに直結するため、特別な注意を必要とする。
ヨルダン政府側も、年齢が確認できない場合には司法上の判断が必要になることや、未成年者に死刑を適用しないことを説明してきた。したがって制度上は安全弁が設けられているものの、重要なのは、年齢について疑義が残る場合に成人として扱うのではなく、少年保護を優先する実務が確立しているかどうかである。
国連の資料には、年齢が確認できない場合に専門家の判断を利用する制度についての説明も存在する。これは年齢確認を制度化する試みとして意味を持つ一方、医学的な年齢推定には一定の限界があり、推定値を絶対的な年齢として扱うことには慎重さが必要となる。
したがって、出生証明書、身分証明書、学校記録、家族関係資料など複数の証拠を総合的に評価する仕組みを整え、なお年齢に合理的な疑いが残る場合には、死刑から保護される方向で判断することが重要になる。これは死刑制度そのものの是非とは別に、誤った年齢認定による不可逆的な刑罰を防ぐための最低限の司法的保障といえる。
司法手続上の脆弱性
未成年者の場合、年齢確認だけでなく、弁護人へのアクセスや捜査段階での処遇も重要となる。ヨルダン政府は、重大犯罪の被告人について弁護人がいない場合には裁判所が弁護人を選任する制度が存在し、捜査記録へのアクセスなども保障されていると国連に説明している。
しかし、法律上の弁護権が存在することと、子どもが実質的に十分な弁護を受けられることは同じではない。子どもは成人と比べて捜査や裁判の意味を理解する能力が十分に発達していない場合があり、取調べにおける心理的圧力、家族や弁護人へのアクセス、証言の信頼性などについて特別な配慮が必要となる。
ユニセフも、ヨルダンの児童司法制度について、子どもを裁判や拘禁から代替的な制度へ移す基準が十分明確ではなく、拘禁が最後の手段として扱われるべきであるにもかかわらず、その原則が必ずしも十分に実施されていないと指摘している。
この問題は死刑制度と直接結びつく場合だけでなく、死刑に至らない事件でも重要である。児童司法制度の段階で子どもを成人と同じように扱う傾向が残れば、年齢による保護を形式的に定めても、その実効性は限定されるからである。
さらに、過去の国連資料では、少年の拘禁施設における長期拘禁、過密状態、虐待、医療へのアクセス不足などが問題として指摘されている。これらは現在の制度状況を直接示す最新統計ではないものの、ヨルダンが少年司法制度を改革する過程で、死刑禁止だけでなく拘禁・捜査・裁判を含む包括的な制度改善を求められてきた背景を理解するうえで重要である。
以上を踏まえると、ヨルダンにおける未成年者への死刑問題は、現在の法文だけを見れば比較的明確である。18歳未満で犯罪を行った者は死刑から除外されるが、刑事責任年齢が12歳と低いこと、年齢証明の問題、拘禁や司法手続における子どもの脆弱性などを考えると、実質的な児童保護という観点ではなお検討すべき課題が残されている。
特に2026年に死刑執行が再開されたことを考えると、未成年者を死刑から除外する規定の重要性は以前より高まっている。死刑判決を受けた者が増減するだけでなく、長期拘禁された死刑囚の年齢認定を改めて確認する必要性も生じ得るため、今後は年齢証明と司法審査の透明性が重要な論点となる。
女性に対する死刑適用の規定と課題
ヨルダンの死刑制度では、女性であること自体を理由として死刑の対象から除外する一般的な規定は存在しない。したがって、女性も重大犯罪について死刑判決を受ける可能性があり、2026年9月時点では、女性に対する死刑制度上の問題は「女性には死刑を科せないか」ではなく、女性が置かれていた社会的・家庭的状況が刑事責任や量刑判断で十分に考慮されているかという問題として現れている。ヨルダンの国家人権機関の報告によれば、2024年には276人が死刑判決を受けた状態にあり、そのうち22人が女性だった。
女性の死刑囚は全体から見ると少数であるものの、その存在は制度分析上無視できない。特に国連女性差別撤廃委員会は、ヨルダンの女性死刑囚について、家庭内暴力、ジェンダーに基づく暴力、経済的圧力、幼少期の結婚、心理的外傷などが犯罪に至った背景として存在する場合、それらが量刑上の軽減事情として十分に考慮されているかについて懸念を示している。
法規上の規定
ヨルダンの刑法は、女性だけを一般的に死刑から除外する制度を採用していない。その一方で、女性について特別な扱いを定める規定があり、特に妊娠している女性については死刑の執行方法と時期に関する重要な例外が設けられている。
この制度は、女性の生命を全面的に死刑から保護するものではない点に注意が必要である。つまり、妊娠していない女性は男性と同様に死刑判決の対象となり得る一方、妊娠という特定の身体的状態にある場合には、死刑の執行について特別な法的保護が働く構造となっている。
また、ヨルダンでは女性に対する刑事司法上の扱いを考える際、刑法上の量刑規定だけでなく、家庭内暴力や性別による社会的圧力をどのように裁判所が評価するかが重要となる。国連女性差別撤廃委員会は、女性に対する死刑について、ジェンダーに固有の事情を考慮した弁護や量刑上の軽減事情を整備するようヨルダンに勧告している。
妊婦に対する特別規定
妊娠中の女性について、ヨルダン刑法には死刑をそのまま執行しないための特別規定が存在する。過去の法令資料によると、刑法第17条は妊婦について死刑を終身の重労働刑に置き換える仕組みを定めており、女性本人が妊娠している場合には、通常の死刑執行とは異なる扱いが取られる。
一方、過去の刑事訴訟法には、妊婦への死刑執行を出産後一定期間延期するとの規定も存在すると説明されてきた。このため、法体系の各規定を比較すると、妊婦について「死刑そのものを別刑に置き換える規定」と「執行時期を延期する規定」が並存してきた経緯があり、条文間の関係を正確に確認する必要がある。
この点は、女性に対する死刑制度を単純に「男性と同じ」と説明することができない理由の1つである。妊娠という身体的条件については特別な保護が認められている一方、妊娠していない女性については、家庭内暴力や性的搾取、強制、経済的依存などの事情が自動的に死刑から除外する根拠になるわけではないからである。
国連女性差別撤廃委員会は、ヨルダンに対し、妊婦や乳幼児を養育する女性について死刑を執行しないことだけでなく、女性死刑囚についてジェンダーに関連する事情をどの程度考慮しているのかを明確にするよう求めてきた。これは、女性に対する保護を「妊娠」という身体状態だけに限定せず、犯罪に至った社会的・家庭的背景まで司法手続の中で検討すべきだという問題意識につながっている。
死刑囚における女性の割合と背景
2024年のヨルダンでは、死刑判決を受けていた276人のうち女性は22人であり、全体の約8%に相当する。男性が254人であることから、死刑制度の対象者は圧倒的に男性が多いものの、女性についても一定数の死刑判決が存在することが確認できる。
2023年には死刑囚284人のうち女性が20人だったため、2024年には女性死刑囚の人数が2人増加している。この数字だけから女性に対する死刑判決が構造的に増加していると結論づけることはできないが、少なくとも女性死刑囚が例外的な1人、2人という規模ではなく、継続的に存在していることは示されている。
さらに2025年について、国際人権団体がまとめた死刑統計では、ヨルダンで新たに死刑判決を受けたことが確認された6人の中に女性1人が含まれていた。この女性は殺人、テロ関連犯罪、薬物関連犯罪など複数の類型のうち、どの犯罪について判決を受けたかを確認する必要があるが、少なくとも女性への死刑判決が2025年にも存在したことが記録されている。
ただし、死刑囚の女性比率だけを見て、女性が死刑制度によって特に不利に扱われていると結論づけることはできない。必要なのは、それぞれの事件について、犯罪類型、被害者との関係、共犯関係、暴力を受けていた期間、経済的依存、子どもの存在、精神的外傷、弁護人の活動などを比較し、男性被告人との量刑判断にどのような差が生じているかを検証することである。
主な課題
女性に対する死刑制度の主要な問題は、犯罪行為そのものだけではなく、その犯罪に至る過程を裁判所がどこまで評価できるかにある。国連女性差別撤廃委員会は、ヨルダンの刑事司法において、女性の事件で家庭内暴力、ジェンダーに基づく暴力、経済的圧力、幼少期の結婚、外傷性の経験などが十分に量刑上考慮されていない可能性を指摘している。
これは死刑制度に特有の問題ではないが、死刑事件ではその重要性が大きくなる。懲役刑であれば後に再審や刑の変更によって是正できる可能性があるのに対し、死刑は執行後に取り返すことができないため、犯罪の背景事情を見落とさないための弁護活動と裁判所による事実認定が極めて重要になる。
さらに、女性死刑囚について独房での拘禁や法的支援へのアクセスも問題となっている。国連女性差別撤廃委員会は、ヨルダンの女性死刑囚が独房拘禁の対象となっていることや、死刑事件について専門的な知識を持つ人員が不足しているため、すべての手続段階で法律扶助を十分に受けられていない可能性を指摘している。
したがって、女性に対する死刑制度の検証では、刑法の条文だけでなく、弁護人へのアクセス、捜査方法、証拠収集、被害経験の認定、精神的外傷の評価、判決理由の透明性、上訴手続などを一体として見る必要がある。女性であることだけを理由に刑を軽くするのではなく、女性であることによって生じた具体的な脆弱性が事件に影響していた場合、それを個別に評価できる制度が必要だというのが重要な論点となる。
家庭内暴力(DV)や虐待との連関
女性死刑囚をめぐる最も重要な背景の1つが、家庭内暴力や虐待との関係である。ヨルダンでは2017年に家庭内暴力防止法が制定され、家庭内暴力への公的対応を強化する法的枠組みが整備されたが、国連の専門委員会は近年も家庭内暴力の増加や、公式統計に十分反映されていない可能性のある死亡事例について懸念を示している。
女性が長期間にわたって暴力や脅迫を受けていた場合、その後に自ら犯罪行為を行ったとしても、その犯罪だけを切り取れば事件の全体像を把握できない可能性がある。例えば、継続的な暴力から逃れるための行動、配偶者や家族からの強制、経済的依存、子どもをめぐる脅迫などが犯罪行為の背景に存在する場合、それらを証拠として適切に収集し、量刑判断に反映させることが求められる。
国連女性差別撤廃委員会は、女性に対する死刑判決について、トラウマ、ジェンダーに基づく暴力、経済的圧力、人身取引などを死刑事件における軽減事情として考慮するための制度を整えるよう勧告している。この勧告は、女性犯罪者を一律に保護するという意味ではなく、犯罪に至った事情について男性の場合と同じように具体的な証拠評価を行うことを求めるものである。
また、女性が暴力を受けていたとしても、それが必ずしも裁判所で十分に立証されるとは限らない。被害者が警察に相談していなかった場合、医療記録が存在しない場合、家族や地域社会からの圧力によって証言を避けていた場合などには、長期的な虐待の事実が刑事裁判の証拠として表面化しにくいという問題がある。
この点では、女性が犯罪を行った後に初めて司法制度と接触するのではなく、それ以前から家庭内暴力の被害者として保護される仕組みが重要になる。ヨルダンでは2017年の家庭内暴力防止法によって保護の枠組みが設けられているため、今後の課題は、法制度の存在だけでなく、被害女性が実際に安全な場所へ避難し、警察・医療・法律支援を利用できるかという実効性にある。
女性死刑囚の問題をこのように見ると、死刑制度は最終的な判決段階だけの問題ではないことが分かる。女性が家庭内暴力から逃げられなかったこと、被害を訴えても十分な保護を受けられなかったこと、あるいは経済的・社会的に強く依存させられていたことが犯罪に影響していたなら、それらを捜査段階から把握できるかどうかが、その後の量刑判断を左右する可能性がある。
そして、この問題は次に検討する「名誉」をめぐる刑法上の歴史的規定ともつながっている。ヨルダンでは過去、「家族の名誉」を理由とする女性殺害について加害者の刑を軽減し得る規定が存在し、その後の法改正によって一定の是正が進められてきたが、その考え方が司法実務や社会規範にどのような影響を残しているかは、女性に対する刑事司法を理解するうえで重要な論点となる。
ジェンダー規範と「名誉」をめぐる偏見
ヨルダンにおける女性と死刑の問題を理解するには、刑法の条文だけでなく、女性の行動や性に対する社会的評価が刑事司法に及ぼしてきた歴史を考慮する必要がある。特に家族の「名誉」を守ることを理由として女性の殺害が正当化される、あるいは男性加害者の刑事責任が軽く扱われるような考え方は、女性の生命に対する法的保護を弱める要因として国際的に批判されてきた。
ここでいう「名誉」は、単純な宗教上の概念として理解するべきではない。問題となるのは、女性の婚姻、交際、性的行動、離婚などを家族全体の社会的評価と結び付け、その結果として女性の自由や生命を家族の統制下に置く社会的規範である。
国連女性差別撤廃委員会は、ヨルダンにおける女性に対する暴力について、いわゆる「名誉」を理由とする暴力を含め、女性に対する差別的な社会規範や固定観念が暴力の背景となり得ることを問題としてきた。こうした規範が残る場合、女性が犯罪被害者である場合と、犯罪の被告人となった場合の双方で、司法判断に影響を及ぼす可能性がある。
女性死刑囚の問題との関係では、特に重要なのが「被告人となった女性が、それ以前にどのような社会的・家庭的環境に置かれていたか」という視点である。女性が家族から監視や暴力を受けていたとしても、その事情が裁判記録に十分に反映されなければ、犯罪行為だけが切り離され、背景にある長期間の支配や虐待が見えなくなる可能性がある。
この点で、ジェンダーに関する偏見は女性に対して一方向に作用するとは限らない。女性が「家族の名誉を傷つけた」と評価される場合には被害者としての保護が弱くなる可能性がある一方、女性が犯罪を犯した場合には、逆に「母親」「妻」「女性」として期待される役割から逸脱したことが強く非難される可能性もあり、刑事司法におけるジェンダー中立性を考えるうえで慎重な検討が必要となる。
「名誉殺人の減刑規定」の歴史的残滓
ヨルダンの刑法には、かつて「名誉」に関連する殺人について加害者の刑を大幅に軽減することを可能にする規定が存在した。特に刑法第340条は、妻や女性親族が不法な性的関係を行っている場面でその女性を殺傷した男性について、一定の条件下で刑罰を軽減し得る規定として長く国際的な批判の対象となってきた。
この規定をめぐっては、ヨルダン国内でも改革を求める議論が続いてきた。2001年には一部の刑罰軽減を制限する方向の改正が行われ、その後も女性に対する暴力を「名誉」の名の下に正当化する法的余地を縮小するための改革が進められた。
さらに2017年には、刑法第98条の適用を制限する改正が行われた。これは、重大な犯罪を犯した者が「激しい怒り」などを理由として刑罰の軽減を受ける制度が、いわゆる「名誉犯罪」の加害者によって利用されることを防ぐことを目的としたものである。
この改革によって、ヨルダンの法制度は「名誉」を理由とする女性への暴力を無条件に軽く扱う方向からは明確に離れている。ただし、法律を改正したことだけで社会的な固定観念が消滅するわけではなく、警察、検察、裁判所、家族、地域社会などが女性に対する暴力をどのように認識するかという実務上の問題は残る。
したがって、「名誉殺人の減刑規定の歴史的残滓」という問題は、現在も同じ減刑規定がそのまま存在しているという意味で捉えるべきではない。むしろ、過去の法制度が示していた価値判断、すなわち女性の性的行動を家族の名誉と結び付け、女性に対する暴力を特別な事情として扱う発想が、制度改正後の司法実務や社会意識にどの程度影響を残しているかという問題として捉える必要がある。
この点は、女性死刑囚の問題とも表裏一体である。男性による女性への「名誉」を理由とする殺人については過去に刑罰軽減の余地が存在した一方、家庭内暴力や虐待を経験した女性が犯罪行為に及んだ場合には、その被害経験が十分に評価されなければ、同じ社会的規範が別の形で女性に不利益をもたらす可能性があるからである。
国連女性差別撤廃委員会が女性死刑囚について、家庭内暴力、ジェンダーに基づく暴力、トラウマ、経済的圧力などを量刑上の軽減事情として考慮する必要性を指摘しているのは、このような背景とも関係している。女性の犯罪責任を否定することではなく、犯罪に至った具体的な事情を男女双方について公平に認定することが、死刑という最も重大な刑罰を適用する場合には特に重要となる。
また、女性に対する暴力については、殺人に至った事件だけを問題にするのでは不十分である。暴力が深刻化する前に警察や司法が介入できるか、被害女性が安全な場所に避難できるか、経済的に加害者から自立できるか、子どもを連れて保護を受けられるかといった制度的条件も、最終的には女性の生命を守ることにつながる。
今後の展望
2026年の死刑執行再開を踏まえると、ヨルダンにおける死刑制度の今後を考える際には、制度の存廃だけでなく、死刑判決を受けた者に対する手続的保障をどこまで強化できるかが重要になる。特に女性と未成年者については、一般的な死刑制度の運用とは別に、年齢、妊娠、家庭内暴力、虐待、強制、性的暴力などの個別事情を裁判所が適切に把握できる仕組みが必要となる。
未成年者については、18歳未満で犯罪を行った者に死刑を科さないという原則を、捜査から判決確定まで一貫して保障することが第一の課題となる。出生登録などの公的記録が不十分なケースを想定し、年齢に疑いがある場合の立証責任や証拠評価について明確な基準を設けることも重要である。
さらに、12歳という刑事責任最低年齢についても、児童の権利という観点から引き続き検討する余地がある。死刑を禁止する年齢を18歳未満とすることと、子どもを刑事司法制度へ入れる最低年齢をどこに設定するかは別問題であり、後者については更生、教育、社会復帰を重視した制度設計が求められる。
女性については、妊婦に対する特別規定を維持するだけでは十分ではない。女性死刑囚の事件について、家庭内暴力や虐待、性的暴力、人身取引、強制的な関係、経済的依存などが存在したかを捜査段階から調査し、それらを裁判所が量刑判断に利用できるようにすることが重要となる。
また、女性に対する暴力を防止するためには、犯罪が発生した後の刑罰だけではなく、犯罪に至る前の保護制度を強化する必要がある。家庭内暴力を受けている女性が警察、医療機関、保護施設、法律扶助へ安全にアクセスできる制度が整備されれば、暴力の長期化や重大化を防ぐ可能性が高まる。
死刑制度全体については、2026年6月の執行再開によって、ヨルダンが長期的な事実上の執行停止から再び執行を行う段階へ移ったことを重視する必要がある。国際的には死刑廃止または執行停止を求める動きが続いている一方、ヨルダン政府は重大犯罪や治安上の問題への対応として死刑制度を維持しており、今後の方向性については国内の治安政策と国際人権基準の双方から検討する必要がある。
特に2026年の再開後には、死刑判決を受けている人々について、判決に至る証拠、弁護活動、上訴の状況、犯罪時の年齢、妊娠の有無、家庭内暴力などの事情を個別に再確認することが重要となる。死刑は執行されれば回復できないため、手続上の疑義を後から修正することができず、通常の刑事事件以上に厳格な司法審査が必要となる。
まとめ
ヨルダンは2026年9月時点で死刑制度を維持しており、2026年6月には約9年ぶりとなる死刑執行が行われた。長期間の事実上の執行停止と複数回の執行再開を経験してきたことから、ヨルダンの死刑制度は固定された制度というより、治安政策、刑事司法、人権政策の変化によって運用が大きく変動してきた制度と位置づけることができる。
未成年者については、犯罪時に18歳未満だった者への死刑適用は禁止されている。この点は重要な法的保障であるが、刑事責任最低年齢が12歳であること、年齢確認に関する問題、少年の拘禁や弁護へのアクセスなどを考えると、死刑禁止だけでは児童の権利を十分に保障したとはいえない。
女性については、女性であることだけを理由に死刑から除外される制度は存在しない。一方、妊婦には特別な法的保護があり、また女性死刑囚の中には家庭内暴力や虐待などの経験を抱えている者がいる可能性があるため、事件の背景を十分に調査して量刑に反映させることが重要となる。
「名誉」をめぐる問題については、過去の刑法に存在した減刑規定が大きな歴史的問題となってきた。現在は法改正によって一定の是正が進んでいるが、法文の変更だけでジェンダーに関する固定観念が消えるわけではなく、女性に対する暴力をどのように認識し、捜査し、裁判で評価するかという実務上の問題が残されている。
したがって、ヨルダンの死刑制度を評価する際には、単純に「死刑制度があるか、ないか」だけを見るのでは不十分である。未成年者については年齢確認と少年司法、女性については妊娠とジェンダーに基づく暴力、さらに全死刑事件については弁護権、証拠評価、上訴、恩赦などを一体として検討する必要がある。
2026年の執行再開は、こうした問題を改めて検証する契機となっている。とりわけ女性や未成年者については、形式的な法的保護が存在することだけでなく、その保護が実際の捜査、裁判、拘禁、判決、執行の各段階で機能しているかを継続的に検証することが、今後のヨルダンの刑事司法における重要な課題となる。
参考・引用リスト
1.ヨルダンの死刑制度・執行状況
ヒューマン・ライツ・ウォッチ「ヨルダン、死刑執行を再開、6人を処刑」2026年6月23日。
2026年6月の6人に対する死刑執行、2014年の執行再開、2017年の15人に対する執行、2023年・2024年の死刑囚数などを確認するための主要資料である。ヨルダンの国家人権機関の報告として、2023年は284人、2024年は276人が死刑判決を受けた状態にあり、2024年の内訳は男性254人、女性22人だったことも記録されている。
アムネスティ・インターナショナル「死刑判決・死刑執行に関する2025年の世界的状況」2026年。
2025年にヨルダンで確認された死刑判決など、各国の死刑制度の運用状況を比較するための国際的な統計資料として使用できる。ヨルダンだけでなく世界全体の死刑制度を比較する場合にも有用である。
国連人権高等弁務官事務所・国連条約機関資料。
ヨルダン政府による死刑制度の説明、死刑事件における弁護人の選任、刑事手続、国際人権規約との関係などを確認するために利用した。ヨルダン政府の説明と国際機関側の懸念を分けて把握するうえで重要な資料群である。
2.未成年者と少年司法
ユニセフ・ヨルダン「子どもの保護」。
現在のヨルダンにおける少年司法制度について、刑事責任最低年齢が12歳であること、国連子どもの権利委員会が14歳以上を推奨していること、2024年に8,000人を超える子どもが司法制度に入ったことなどを確認するために使用した。拘禁を伴わない処分が全体の16%にとどまるとの現在の説明も重要である。
ユニセフ・ヨルダン「ヨルダン少年司法制度の状況分析」。
2014年少年法を中心に、刑事責任年齢、年齢認定、少年司法手続、代替措置などを詳細に分析した資料である。特に公的な年齢証明が存在しない場合、医学的な年齢推定によって12歳、15歳、18歳付近の境界にいる子どもが不利益を受ける可能性が指摘されており、本稿の「年齢証明の不確実性」の分析に重要である。
この資料からは、ヨルダンの未成年者に関する問題が単純な「死刑適用の有無」に限定されないことも分かる。犯罪時の年齢が正確に確定されなければ、12歳以上か、15歳以上か、18歳以上かによって刑事司法上の扱いが変わるため、年齢認定そのものが実質的な権利保障となる。
3.女性死刑囚と女性に対する死刑
国連女性差別撤廃委員会「ヨルダンに関する総括所見・女性の司法アクセスおよび死刑に関する勧告」。
女性死刑囚について、事件におけるジェンダー関連事情が死刑判決の決定過程でどの程度考慮されているのかという問題を取り上げている。特に、トラウマ、ジェンダーに基づく暴力、経済的圧力、人身取引などを死刑事件における軽減事情として考慮する必要性が示されている。
同委員会はさらに、女性死刑囚に対する独房拘禁、法律扶助へのアクセス、司法関係者へのジェンダーに配慮した研修などについても勧告している。したがって、女性に対する死刑の問題は、刑法上の適用規定だけでなく、捜査、弁護、拘禁、量刑、上訴という一連の刑事司法手続として分析する必要がある。
4.妊婦に対する特別規定
ヨルダン刑法および刑事手続に関する国際資料。
ヨルダン刑法上、妊娠している女性について死刑の執行を通常とは異なる形で扱う特別規定が存在してきたことを確認するために使用した。過去の法令資料では、刑法第17条について、妊婦に対する死刑を終身の重労働刑に置き換える規定が示される一方、刑事手続法には出産後の執行延期に関する規定が記載されており、両規定の関係については法改正を含めた現行条文の確認が必要となる。
したがって、本稿では妊婦について「女性だから死刑を免れる」と一般化せず、妊娠という特定の身体的状態に対して法的な特別保護が設けられていると整理した。この区別は、女性全体への死刑適用と妊婦への特別規定を混同しないために重要である。
5.家庭内暴力とジェンダーに基づく暴力
国連女性差別撤廃委員会・ヨルダンに関する資料。
2017年に家庭内暴力防止法が制定されたことを踏まえつつ、2023年に家庭内暴力が増加したとの報告、公式に把握されている数以上の家庭内暴力関連死が存在するとの情報、こうした死亡が自殺など別の類型として処理されている可能性などが指摘されている。
この資料は、女性死刑囚について犯罪行為だけを見るのではなく、犯罪に至る前の家庭環境を確認する必要性を裏付ける。特に長期間の暴力、脅迫、経済的依存、性的暴力などが存在した場合、それらが刑事事件の証拠として適切に把握されているかどうかが重要になる。
6.「名誉」を理由とする犯罪と刑法上の歴史的規定
フリーダム・ハウス「中東・北アフリカにおける女性の権利――ヨルダン」。
ヨルダン刑法第340条および第98条をめぐる歴史的な問題について確認するために参照した。過去の第340条が、妻や女性親族の不貞を理由として男性が女性を殺傷した場合に刑罰を軽減し得る規定を含んでいたこと、第98条も「激しい怒り」を理由とする刑罰軽減に利用され、いわゆる「名誉犯罪」と関連して問題となっていたことが説明されている。
その後の法改正により、「名誉」を理由とする女性への暴力を刑罰上有利に扱う余地は縮小された。特に2017年の刑法改正は、第98条がいわゆる「名誉犯罪」の加害者による減刑手段として利用されることを防ぐ方向で行われたものであり、現在の制度を評価する際には、過去の条文と現行法を明確に区別する必要がある。
7.国際的な法的基準
国連・児童の権利に関する条約。
犯罪時に18歳未満であった者への死刑を禁止する国際的な基準を確認するうえで基本となる資料である。ヨルダンの国内法における18歳未満の者への死刑禁止を検討する際にも、この国際基準との関係を確認する必要がある。
国連・女性差別撤廃条約。
女性に対する差別、ジェンダーに基づく暴力、司法へのアクセス、女性被拘禁者、死刑におけるジェンダー固有の事情などを検討するための基礎資料である。ヨルダンについては国連条約機関の国別資料が継続的に公開されており、2026年にも市民社会からの情報提出が行われていることが確認できる。
資料の読み方と本稿における留意点
本稿で使用した資料には、ヨルダン政府による公式説明、国連条約機関による評価、ユニセフによる制度分析、国際人権団体による調査など、それぞれ異なる立場と目的を持つものが含まれている。そのため、政府資料に記載された制度上の保障と、国連や人権団体が指摘する実務上の問題を同じ種類の事実として扱わず、制度上の規定と実際の運用を分けて検討することが重要である。
また、過去の資料に記載された問題を、そのまま2026年9月現在の状況として扱うことにも注意が必要である。特に「名誉」を理由とする犯罪に関する刑法規定、妊婦に対する死刑の扱い、少年司法制度などは法改正によって変化しているため、過去の資料は現在の法制度を直接証明する資料ではなく、制度の歴史的背景や改革過程を確認する資料として利用する必要がある。
2026年については、死刑制度をめぐる状況が大きく変化した年である。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2026年6月の6人に対する執行によってヨルダンが死刑執行を再開したと報告しており、2024年時点で276人の死刑囚が存在していたことと合わせると、今後の執行政策と死刑囚の処遇を継続的に確認する必要がある。
最後に
ヨルダンの死刑制度は、法律上存続しているだけでなく、2026年に実際の執行が再開されたことで、制度上の規定と現実の刑罰執行を改めて一体的に検証する必要が生じている。特に未成年者については18歳未満への死刑禁止が重要な保障となる一方、12歳という刑事責任最低年齢や年齢認定の問題が残り、女性については妊婦への特別規定に加えて、家庭内暴力、虐待、経済的圧力、ジェンダーに基づく暴力などを死刑事件の量刑判断で適切に考慮できるかが重要となる。
また、「名誉」を理由とする犯罪については、過去の刑法が女性への暴力を軽く扱う余地を持っていたこと自体が、ヨルダンのジェンダーと刑事司法を考えるうえで重要な歴史的背景となっている。現在は法改正によってそのような制度的余地が縮小されているが、社会的固定観念や司法実務に残る影響については、法改正後の運用を継続的に検証する必要がある。
最終的に、ヨルダンの死刑制度をめぐる最大の論点は、単に死刑を存置するか廃止するかという二択だけではない。2026年の執行再開という現実を前提とするならば、少なくとも犯罪時の年齢が18歳未満だった者を確実に死刑から除外できる制度、年齢に疑いがある場合の適切な認定手続、女性の家庭内暴力やジェンダーに基づく被害を量刑判断に反映できる制度、十分な弁護と上訴を保障する制度が実際に機能しているかを検証することが不可欠である。
以上の観点から見ると、ヨルダンの死刑制度は、刑罰制度そのものだけでなく、児童司法、女性の司法アクセス、家庭内暴力対策、ジェンダー規範、証拠法、弁護制度など複数の制度が交差する領域として理解する必要がある。2026年9月時点では、死刑執行が再開されたことによって、この制度的保障を実際の事件でどこまで確保できるかが、今後の重要な検証対象となっている。
