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EVは乗り心地が良いのになぜ酔うのか、研究が示す「動きを予測できること」の重要性

電気自動車で乗り物酔いが起こる理由は、静粛性や滑らかな乗り心地と、人体が車両の動きを感じ取る仕組みが必ずしも一致しないことにある。
車酔いのイメージ(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

電気自動車は、エンジンを搭載した従来の自動車と比べて振動や騒音が少なく、加速も滑らかに感じられることが多い。停車中のエンジン振動がなく、走行中もエンジンの回転数や変速に伴うショックが少ないため、乗り心地の面では優れた特性を持つ。

ところが、こうした長所を備えているにもかかわらず、電気自動車に乗ると吐き気や頭痛、めまい、冷や汗などを感じるという声がある。運転している本人は快適だと感じていても、助手席や後部座席の乗員は不快感を覚える場合があり、運転者と同乗者の間で評価が分かれることもある。

この現象を考えるうえで重要なのは、乗り心地の良さと、乗り物酔いの起こりにくさは必ずしも一致しないという点だ。乗り心地は主に振動、騒音、加速時の感覚などから評価される一方、乗り物酔いには視覚、内耳の前庭器官が検知する加速度や回転、身体が受ける揺れなど、複数の感覚情報が関係している。

したがって、車内が静かで振動が少ないからといって、脳が車両の動きを正確に予測しやすいとは限らない。むしろ、音や振動によって得られる動きの手掛かりが減ることで、身体が感じる加速と目から入る情報との食い違いが目立つ可能性がある。

ただし、現時点で「電気自動車はガソリン車より必ず酔いやすい」と断定することはできない。車種や走行条件、運転操作、座席位置、乗員の体質によって結果は異なり、電気自動車特有の仕組みが乗り物酔いにどの程度影響するかについても、個々の要因を分けて検証する必要がある。

EV酔いを引き起こす主な原因

電気自動車で乗り物酔いが起こる仕組みを理解するには、車両の運動特性と、人間の感覚・神経系の働きを分けて考える必要がある。主な検討対象は、回生ブレーキによる減速や電動機の加速特性、静粛性による聴覚情報の変化、そして車体重量や慣性が走行時の揺れに及ぼす影響である。

回生ブレーキと急激な加減速

電気自動車の特徴の1つが、減速時に電動機を発電機として利用し、運動エネルギーの一部を電気エネルギーに変換して蓄える回生ブレーキだ。この仕組みはエネルギー効率を高める一方、設定やアクセル操作によっては、アクセルを戻したときの減速が強くなり、乗員の身体が前後に揺さぶられる要因となる。

極端な静粛性と予測の難しさ

従来の自動車では、エンジン音や振動、変速時の感覚が、加速や減速を予測する手掛かりの一部となっていた。電気自動車ではこれらの情報が少なくなるため、車両の動きを事前に予測しにくくなり、視覚や内耳から得られる情報との不一致が乗り物酔いに関係する可能性がある。

重量バランスと慣性

電気自動車は、大容量の駆動用電池を搭載するため、同クラスの一部のエンジン車より車両重量が大きくなる傾向がある。ただし、電池を床下に配置する設計は重心を低くする利点もあり、重量が大きいことだけを理由に乗り物酔いが起こりやすいとはいえない。

これらの要因は独立して作用するとは限らず、減速時の身体の揺れ、動きを予測する手掛かりの少なさ、道路の曲線や起伏などが重なることで、不快感が強まる可能性がある。次回は、回生ブレーキと急激な加減速に焦点を当て、物理的な仕組みと研究上の証拠を詳しく検証する。

回生ブレーキと急激な加減速(物理的要因)

電気自動車による乗り物酔いを考えるうえで、最初に検討すべきなのが加速と減速の特性である。電気自動車はアクセル操作に対する反応が速く、回生ブレーキによってアクセルを戻した際にも減速力が生じるため、運転操作によっては乗員の身体に前後方向の加速度変化が繰り返し加わる。

ただし、電気自動車の加速が速いことと、乗り物酔いが起こりやすいことは同じ意味ではない。問題になるのは加速力の大きさだけでなく、その変化の速さ、減速の強さ、加減速が繰り返される頻度、そして乗員が車両の動きを予測できるかどうかである。

アクセルオフ時の強い減速G

回生ブレーキは、アクセルを戻したときに電動機の働きで車両を減速させる機能である。設定によっては、アクセルを完全に戻すだけで比較的強い減速が生じ、ブレーキペダルを踏む頻度を減らせるため、運転者にとっては扱いやすい機能となる。

一方、同乗者にとっては、運転者がブレーキを踏んでいないように見えるのに車両が減速するという状況が生じる。前方を見ていない乗員や、車両の挙動を予測しにくい乗員では、身体が減速に備えるタイミングが遅れ、頭部や上半身が前方に揺れることがある。

ここで重要なのが、加速度を表す「G」という考え方だ。車両が前進している状態で減速すると、乗員の身体には進行方向に対して前方へ動こうとする慣性が働き、減速が強いほどシートベルトや座席によって身体の動きを抑える力も大きくなる。

ただし、一定の減速が続く場合よりも、減速が突然始まったり、減速の強さが短時間に変化したりする場合のほうが、不快感につながることがある。回生ブレーキそのものが乗り物酔いを直接引き起こすと断定するのではなく、減速の強さと変化の仕方が、乗員の身体にどのような刺激を与えるかを評価する必要がある。

瞬時のトルク立ち上がり

もう1つの特徴が、電動機による駆動力の立ち上がりの速さである。電気自動車は、発進時から大きな駆動トルクを発生させやすく、アクセルを踏み込むと短時間で加速が始まるため、操作が急であれば乗員の身体に強い加速度変化が生じる。

特に、信号待ちからの発進、交差点での右左折後の加速、渋滞中の停止と発進の繰り返しは、乗り物酔いを考えるうえで注意すべき場面である。発進時に身体が背もたれに押し付けられた直後、アクセルを戻して減速すれば、身体は前後方向に繰り返し動かされることになる。

この問題は、電動機の性能そのものよりも、駆動力をどのように制御するかという設計と運転操作の問題として捉えるべきだ。加速性能に余裕のある車両でも、駆動力の立ち上がりを穏やかに制御すれば、乗員が感じる加速度変化を抑えられる可能性がある。

実際に、2024年に公表された車両運動に関する研究では、電動機の応答の速さや高いトルク出力が、乗員の快適性と両立させるうえでの課題として取り上げられた。加速性能を優先する制御と、乗員の不快感を抑える制御との間には調整の余地があり、単純に加速性能が高いほど優れた車両だとは評価できない。

また、運転者と同乗者では、同じ加速でも受け止め方が異なる。運転者はアクセルを踏むタイミングを自分で決め、加速を予測できるが、同乗者は運転操作を直接行わないため、車両の動きに備える時間が短くなりやすい。

研究結果から見た回生ブレーキの影響

2025年に学術誌で公表された実路走行実験では、乗り物酔いを起こしやすい参加者16人を対象に、回生ブレーキの強さと、車両の動きを知らせる音の有無が検証された。その結果、回生ブレーキが強い条件では乗り物酔いが生じやすくなり、車両の動きを示す音を加えることで症状が軽減する傾向が確認された。

この研究は、回生ブレーキの強さが乗り物酔いに影響する可能性を、実際の走行環境で示した点で重要だ。ただし、参加者が16人と少なく、乗り物酔いを起こしやすい人を対象としているため、結果をすべての乗員や電気自動車にそのまま当てはめることはできない。

さらに、2025年末に公表された別の研究では、回生ブレーキの設定とエネルギー回収効率の関係がシミュレーションによって分析された。回生ブレーキを強めることでエネルギー回収に有利になる一方、乗り物酔いの評価指標が悪化する可能性が示されており、省エネルギー性能と乗員の快適性を両立させる必要性が浮かび上がっている。

もっとも、これらの研究から、回生ブレーキを弱くすれば必ず乗り物酔いが防げると結論づけることはできない。車両の速度、道路の形状、加減速の頻度、乗員の感受性などが影響するため、回生ブレーキは重要な要因の1つとして評価するのが妥当だ。

極端な静粛性と「予測の欠如」(感覚・神経的要因)

電気自動車の乗り物酔いを考えるうえで、回生ブレーキと並んで重要なのが、車内の静かさである。エンジン音や振動が少ないことは快適性を高めるが、車両がこれからどのように動くのかを乗員が予測するための手掛かりまで減らしてしまう可能性がある。

人間は、目で見た景色だけでなく、耳から入る音、内耳で感じる加速度や回転、座席や身体に伝わる振動などを組み合わせて、自分がどのように動いているかを把握している。これらの情報が一致していれば、車両の動きを理解しやすいが、情報が食い違ったり、予測と実際の動きが異なったりすると、乗り物酔いが起こりやすくなると考えられている。

エンジン音・振動の消失

エンジンを搭載した自動車では、加速時にエンジン音が高まり、減速時には音が変化するほか、エンジンや変速機から伝わる振動も生じる。乗員はこうした変化を無意識に手掛かりとして利用し、車両が加速しているのか、減速しているのか、あるいは一定の速度で走っているのかを推測できる。

一方、電気自動車ではエンジン特有の音や振動がなく、低速走行時や穏やかな加減速時には、車両の動きを知らせる聴覚的な手掛かりが少なくなる。車両が実際には減速を始めていても、その変化を音から予測しにくければ、乗員の身体が動きに備えるタイミングが遅れる可能性がある。

ただし、静粛性が高いこと自体が乗り物酔いの直接的な原因だと確定しているわけではない。道路から伝わる音、タイヤの音、風切り音、車体の振動などは電気自動車でも残るため、実際にはどの情報がどの程度減少するかを、車種や走行状況ごとに考える必要がある。

また、エンジン音がなくなることによる影響と、車両の加減速が激しいことによる影響は区別しなければならない。静かな車両であっても、加速や減速が穏やかで予測しやすければ不快感が抑えられる可能性があり、反対に、音がある車両でも急な加減速や不規則な動きが続けば乗り物酔いは起こり得る。

脳の混乱(感覚の不一致)

乗り物酔いを説明する代表的な考え方に、感覚不一致説がある。これは、目から得られる視覚情報、内耳の前庭器官が検知する加速度や頭部の回転、筋肉や関節などから得られる身体の位置情報が、互いに一致しないときに不快感が生じるという考え方だ。

例えば、車内で下を向いて携帯端末を操作している乗員を考えてみる。目には車内の動かない画面が映っている一方、内耳は車両の加速や減速、旋回を検知しており、視覚と身体感覚の間に食い違いが生じやすい状況となる。

前方の道路を見ている場合は、景色の流れや道路の曲がり方から、これから起こる加速や旋回を予測できることがある。しかし、視線を下に向けている場合や、背もたれに深く寄りかかって外の景色が見えにくい場合には、こうした予測の手掛かりが乏しくなる。

このとき、電気自動車の静粛性や回生ブレーキの特性が重なると、音による予測の手掛かりが少ない状態で加減速が生じることになる。結果として、乗員は車両の動きを予測しにくくなり、身体が受ける刺激との食い違いが大きくなる可能性がある。

ただし、感覚不一致説だけですべての乗り物酔いを説明できるわけではない。身体の姿勢を安定させる仕組みや、過去の経験、個人差、疲労なども関係するため、単一の原因に還元しないことが重要だ。

研究が示す「動きを予測できること」の重要性

2025年に学術誌で公表された研究では、視覚によって誘発される乗り物酔いについて、音による予告が症状を軽減する可能性が検証された。合計180人が参加した実験では、動きに先立って提示する音の種類やタイミングによって症状に差が生じ、特に発話を伴わない音による予告が有効となる条件が確認された。

また、2024年に公表された実路走行実験では、車両が車線変更や加減速を行う前に、振動によって動きを知らせる方法が検証された。乗員に事前の手掛かりを与えることで、乗り物酔いの症状が軽減される結果が得られており、車両の動きを予測できることが乗員の快適性に関係することを示している。

これらの研究は、電気自動車の静粛性が直接的に酔いを引き起こすと証明したものではない。しかし、車両の動きを知らせる情報を補うことで症状が軽減する場合があるという結果は、聴覚情報の減少と動きの予測の難しさが、乗り物酔いの対策を考えるうえで重要であることを示唆している。

静粛性だけでは説明できない理由

電気自動車の静粛性を乗り物酔いの原因として評価する際には、音が少ないことと、乗員が車両の動きを予測できないことを分けて考える必要がある。音が少なくても、前方の景色や車体の動きから加減速を予測できれば、不快感が抑えられる可能性があるためだ。

反対に、音や振動が十分に存在する車両であっても、カーブが連続する道路や渋滞時の頻繁な停止と発進では、乗り物酔いが生じることがある。したがって、静粛性は単独の原因というより、加減速や視覚情報、乗員の予測能力と組み合わさって影響する要因として理解するのが適切だ。

重量バランスと慣性(車体特性の要因)

電気自動車の乗り物酔いを検証するうえで、車両重量と重量配分も無視できない要素である。電気自動車は大容量の駆動用電池を搭載するため、同程度の大きさの一部のエンジン車より重くなる傾向があるが、重量が大きいことだけで乗り物酔いが増えると結論づけることはできない。

乗り物酔いに関係するのは、車両の重さそのものよりも、加減速や旋回、路面の起伏によって車体がどのように動き、その動きが乗員の頭部や身体にどのように伝わるかという点だ。車両の重心、サスペンションの特性、座席の位置、車体の揺れを抑える制御などを合わせて評価する必要がある。

大容量バッテリーによる重量増

電気自動車では、走行に必要なエネルギーを確保するために、車体の床下などに大容量の駆動用電池を搭載する。電池は車両全体の重量に大きく影響し、航続距離を延ばすために搭載容量を増やすと、車両重量も増加する傾向がある。

重量の増加は、加速や減速に必要な力、タイヤにかかる荷重、サスペンションの設計などに影響する。車体が重くなるほど、同じ加速度を得るためには一般に大きな力が必要となる一方、実際の加減速の強さは電動機の出力や制御、ブレーキ性能などによって決まるため、重い車両が必ず大きく揺れるわけではない。

また、駆動用電池を床下に配置する設計には、車両の重心を低くできる利点がある。重心が低い車両は、旋回時の車体の傾きを抑えやすく、安定した走行につながる場合があるため、電池による重量増加をそのまま乗り心地の悪化と結び付けるのは適切ではない。

重要なのは、車両重量と車体の運動特性を区別することだ。重量は慣性やサスペンションの設計に影響するが、乗り物酔いの発生には、車体がどの方向にどれほど加速するか、揺れがどのくらい続くか、乗員がその動きを予測できるかといった要素が関係する。

挙動の重さと「うなずき」現象

車両の重量や慣性が乗員に及ぼす影響を考える際には、加速・減速時に頭部や上半身が前後に動く現象に注目する必要がある。車両が加速すると身体は背もたれ側に押され、減速すると前方へ動こうとするため、頭部が前後に揺れる動きが繰り返されることになる。

このような頭部の前後運動は、日常的には「うなずき」に似た動きとして感じられる場合がある。ただし、車両の加減速に伴う頭部運動と、乗り物酔いとの関係は、車体重量だけで決まるものではなく、座席の形状、姿勢、頭部の支持、加速度の変化などによっても左右される。

電気自動車では、強い回生ブレーキによる減速と、アクセル操作に対する素早い加速が組み合わさると、前後方向の身体の動きが繰り返されることがある。こうした動きが頻繁に発生すれば、乗員が頭部を安定させにくくなり、不快感につながる可能性がある。

一方、車体が重いことには、路面の細かな凹凸による動きが車内に伝わりにくくなる場合があるという側面もある。実際の乗り心地は、ばねやダンパーの設定、タイヤの特性、車体剛性などとの組み合わせで決まるため、重量の大小だけから乗り物酔いの程度を予測することは難しい。

車体の揺れと乗り物酔いの関係

乗り物酔いの研究では、身体が受ける動きの方向や周波数、持続時間などが重要な検討対象となっている。特に、前後方向の加減速だけでなく、旋回時の左右方向の加速度や、道路の起伏による上下方向の揺れが重なると、身体が受ける刺激は複雑になる。

車両がカーブを曲がるときには、乗員の身体に横方向の加速度が加わるほか、頭部が傾いたり、視線が道路の動きとずれたりすることがある。さらに、頭部の傾きと旋回による加速度が組み合わさると、内耳の前庭器官が検知する情報も変化するため、車体の動きと頭部の姿勢を合わせて考えることが重要となる。

したがって、電気自動車の乗り物酔いを重量だけで説明することはできない。車両の重量配分やサスペンション、加減速の制御、座席位置などが複合的に作用するという見方が、現時点ではより妥当である。

要因のまとめ

ここまで検討した3つの要因を整理すると、電気自動車の乗り物酔いは、単一の機械的な特性ではなく、車両の動きと人間の感覚処理が組み合わさって生じる現象として捉える必要がある。

回生ブレーキ・高トルク

回生ブレーキの強い設定や急なアクセル操作は、前後方向の加速度変化を大きくし、乗員の身体が揺れる原因となる。特に、停止と発進を繰り返す場面では、加減速の変化を穏やかにすることが快適性の改善につながる可能性がある。

静粛性の高さ

エンジン音や振動が少ないことは、電気自動車の長所である一方、車両の動きを予測するための手掛かりが減る可能性もある。ただし、静粛性だけで酔いやすさが決まるわけではなく、視覚情報や加減速の特性との組み合わせが重要だ。

車両重量の重さ

駆動用電池による重量増加は、車両の慣性やサスペンションの設計に影響するが、それ自体が乗り物酔いを引き起こす直接的な原因とはいえない。車体の揺れ方、頭部の動き、加速度の変化などを含めて評価する必要がある。

以上から、電気自動車の乗り物酔いについては、回生ブレーキや加速特性が生み出す物理的な刺激と、静粛性などによって変化する感覚情報の両面から検討することが重要となる。

EV酔いを防ぐための対策

電気自動車による乗り物酔いを軽減するには、車両の加減速を穏やかにすること、乗員が車両の動きを予測しやすい環境をつくること、そして身体の揺れを抑えることが重要となる。回生ブレーキ、静粛性、車体重量という個々の要因に対処するだけでなく、車両の制御と乗員の行動を組み合わせた対策が必要だ。

車両側の設定調整

最初に検討したいのが、回生ブレーキの強さや走行モードの設定である。回生ブレーキを弱められる車種では、減速時の身体の揺れが小さくなるように設定を変更し、加速と減速の切り替わりを穏やかにすることが考えられる。

ただし、回生ブレーキの設定方法や減速の感覚は車種によって異なり、回生を弱めれば必ず乗り物酔いが改善するわけではない。車両によっては、回生ブレーキを弱めることでブレーキペダルの操作が増えるため、運転者が減速を滑らかに行える設定を選ぶことが大切だ。

また、急加速を抑える走行モードや、アクセル操作に対する駆動力の変化を緩やかにする機能が備わっている場合は、その利用も選択肢となる。設定を変更する際は、車両の取扱説明書を確認し、安全性を損なわない範囲で調整する必要がある。

将来的には、乗員の体調や走行状況に応じて、加減速の変化を自動的に調整する制御技術も有望だ。道路の曲率や交通状況を予測し、急な減速や加速を避けることで、エネルギー効率と乗員の快適性を両立できる可能性がある。

ドライバーの操作(穏やかな運転)

運転操作の改善は、特別な装備を必要としない実践的な対策である。発進時にはアクセルをゆっくり踏み、減速時には早めに速度を落とし、アクセルを踏む操作と戻す操作を急激に繰り返さないことが基本となる。

特に、信号や交差点の手前では、周囲の交通状況を早めに確認し、停止直前に強く減速する状況を避けることが望ましい。カーブでは十分に速度を調整してから旋回し、曲がりながら急加速することを避けると、乗員が受ける横方向と前後方向の刺激を抑えやすくなる。

運転者自身は操作のタイミングを把握しているため、加減速を不快に感じにくい場合があるが、同乗者は同じ動きを予測できるとは限らない。乗員が酔いやすいことを把握している場合には、急な車線変更や速度変化を避け、一定のリズムで走行することを優先すべきだ。

乗員への声かけと視線

同乗者側の対策では、できるだけ前方の道路や遠くの景色を見ることが基本となる。走行中に携帯端末を操作したり、読書を続けたりすると、目から得られる景色の変化と身体が感じる動きとの食い違いが生じやすくなるため、症状が出やすい人は控えたほうがよい。

座席位置については、前方の視界を確保できる席が役立つ場合があるが、どの座席が最も酔いにくいかは車種や体質によって異なる。頭部をできるだけ安定させ、無理のない姿勢を保ち、車内の温度や換気にも気を配ることが望ましい。

運転者は、同乗者の様子を確認しながら、必要に応じて速度を落としたり、安全な場所で休憩したりするべきだ。吐き気や冷や汗、めまいなどの症状が現れた場合には、我慢して走行を続けるのではなく、安全を確保したうえで休息を取ることが重要となる。

今後の展望

今後の電気自動車では、加速性能やエネルギー効率だけでなく、乗員が感じる快適性を制御設計の段階から考慮することが重要になる。とりわけ、加速度の大きさだけでなく、その変化の速さや繰り返し方を評価し、乗り物酔いにつながりやすい動きを抑える設計が求められる。

研究面では、2023年に発表された乗り物酔いの体系的な文献レビューと統合分析が、車両の動き、視線、頭部の運動、車内での作業、人工的な動きの予告など、複数の要因を整理している。この研究は、乗り物酔いが単一の車両特性で決まるものではなく、車両と乗員の相互作用によって変化することを示している。

また、2025年に公表された電気自動車の実路走行研究では、回生ブレーキの強さと、車両の動きを知らせる音の有無が検証された。乗り物酔いを起こしやすい16人を対象とした実験では、強い回生ブレーキの条件で症状が生じやすくなり、音による動きの手掛かりが症状の軽減に役立つ場合が確認された。

この結果を踏まえると、将来の車両では、必要に応じて加減速の予告音や触覚による通知を利用する方法が考えられる。ただし、音や振動を追加すれば常に症状が改善するわけではなく、回生ブレーキの強さや走行条件によって効果が異なるため、実際の車両で検証することが欠かせない。

さらに、自動運転技術が進歩すれば、乗員が運転操作を行わずに画面を見たり、読書をしたりする時間が増える可能性がある。こうした環境では、車両の動きを事前に知らせる表示や音、加減速を予測して滑らかにする走行計画などを組み合わせ、乗り物酔いを抑える設計が重要になる。

一方、研究結果を一般の利用者に適用する際には慎重さが必要だ。実験の参加者数や走行条件には限界があり、車種、年齢、体質、道路環境などの違いを含めた検証を重ねなければ、すべての乗員に有効な対策を確立することは難しい。

まとめ

電気自動車で乗り物酔いが起こる理由は、静粛性や滑らかな乗り心地と、人体が車両の動きを感じ取る仕組みが必ずしも一致しないことにある。回生ブレーキによる減速や電動機の素早い加速は身体に加速度変化を与え、エンジン音や振動の減少は動きを予測する手掛かりを変化させる可能性がある。

一方、駆動用電池による重量増加は、車体の慣性や設計に影響するものの、それ自体が乗り物酔いの直接的な原因であるとはいえない。車体の重心やサスペンション、加減速の制御、頭部の動きなどを総合的に評価する必要がある。

対策としては、回生ブレーキや走行モードの適切な設定、穏やかなアクセル操作、前方の景色を見ること、頭部を安定させることなどが挙げられる。車両メーカーにとっては、乗員の動きを予測しやすくする技術と、急激な加減速を抑える制御を組み合わせることが、今後の重要な開発課題となる。

最も重要なのは、電気自動車の乗り物酔いを「静かだから酔う」「重いから酔う」と単純化しないことだ。現在の研究からは、車両の動き、感覚情報、乗員の予測能力が相互に影響するという理解が妥当であり、今後も実車実験や乗員の特性を考慮した研究によって、原因と対策をより明確にしていく必要がある。


参考・引用リスト

1. Xie, W. et al.(2025) “Exploring the Effects of Regenerative Braking and the Auditory Cues for Alleviating Motion Sickness in Electric Vehicles.” International Journal of Human–Computer Interaction. 回生ブレーキの強さと聴覚的な動きの手掛かりを、16人の参加者による実路走行実験で検証した研究。

2. Xie, W., He, D. & Wu, G.(2023) “Inducers of motion sickness in vehicles: A systematic review of experimental evidence and meta-analysis.” Transportation Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour, 99, 167–188. 車両の動き、視線、頭部運動、車内作業など、乗り物酔いに関係する要因を整理した体系的レビューと統合分析。

3. Xin, X., Chen, X. & Liu, W.(2025) “Effects of Auditory Anticipatory Cues and Lead Time on Visually Induced Motion Sickness.” Human Factors. 180人を対象とした2つの研究を通じて、音による事前予告と予告時間が視覚誘発性の乗り物酔いに及ぼす影響を検証した研究。

4. Diels, C., Ye, Y., Bos, J. E. & Maeda, S.(2022) “Motion Sickness in Automated Vehicles: Principal Research Questions and the Need for Common Protocols.” SAE Technical Paper. 自動運転車における乗り物酔いの評価方法や、視覚、予測、乗員の姿勢などに関する研究課題を論じた資料。

5. International Organization for Standardization(国際標準化機構) ISO 2631-1: Mechanical vibration and shock — Evaluation of human exposure to whole-body vibration — Part 1: General requirements. 全身振動の健康影響、快適性、知覚などを評価するための国際規格。車両の乗り物酔いを単独で説明する規格ではないが、振動評価の基礎資料となる。

6. Emond, W., Bohrmann, D. & Zare, M.(2024) “Will visual cues help alleviating motion sickness in automated cars? A review article.” Ergonomics, 67(6), 772–800. 自動運転車において視覚的な手掛かりを用い、乗員が車両の動きを予測しやすくする対策を検討したレビュー論文

総合評価: 電気自動車の乗り物酔いについては、回生ブレーキと感覚的な手掛かりに関する実験的な証拠が存在する一方、静粛性や車両重量が独立してどの程度影響するかについては、さらなる検証が必要である。現段階では、複数の要因が重なって症状を引き起こすという説明が、研究結果と最も整合的である。


追記:EV酔いはガソリン車より本当に起こりやすいのか

これまでの検証では、電気自動車の回生ブレーキ、加速特性、静粛性、車両重量などを取り上げてきた。しかし、原因を体系的に理解するためには、そもそも電気自動車はガソリン車やハイブリッド車よりも乗り物酔いを起こしやすいのか、という比較の問題を整理する必要がある。

電気自動車で酔ったという体験談があっても、それだけで電気自動車全般に乗り物酔いが多いと結論づけることはできない。乗り物酔いの発生率を正確に比較するには、乗員の年齢や体質、走行距離、道路環境、運転操作、座席位置などの条件をそろえたうえで、複数の車両を比較する必要がある。

車種間の比較で注意すべき点

電気自動車とガソリン車では、動力源だけでなく、車両重量、重心、サスペンション、タイヤ、座席の構造、加速性能なども異なる場合がある。仮に電気自動車で乗り物酔いが多く確認されたとしても、その差が回生ブレーキによるものなのか、車体の揺れや運転操作によるものなのかを切り分けなければ、原因を特定することはできない。

また、電気自動車の運転者が強い回生ブレーキを好んで使用している場合、車両の動力源そのものではなく、運転設定の違いが比較結果に影響する可能性もある。比較実験では、同じ道路、同程度の速度、同じ運転者による操作などの条件をそろえ、車両の特性と運転方法の影響を可能な限り分離することが重要だ。

したがって、現時点で適切なのは、電気自動車は必ず酔いやすいと断定することではなく、特定の加減速特性や感覚情報の違いが、乗り物酔いを起こしやすい条件を生み出す可能性があると評価することだ。

運転者は平気なのに同乗者が酔う理由

電気自動車の乗り物酔いを理解するうえでは、運転者と同乗者の違いも重要である。同じ車両に乗っていても、運転者はアクセルやブレーキを自ら操作し、次に起こる車両の動きをある程度予測できる一方、同乗者は他人の操作によって生じる動きを受け身で経験する。

運転者は、加速する前にアクセルを踏む準備をし、減速する前にはブレーキ操作を予測するため、身体を動きに合わせて調整しやすい。これに対して同乗者は、運転者がいつアクセルを戻すのか、どの程度減速するのか、いつ旋回を始めるのかを正確には把握できず、身体の準備が遅れることがある。

この違いは、電気自動車に限らず、バスや船舶などの乗り物でも重要となる。乗り物酔いは、単に身体に加わる加速度の大きさだけでなく、動きを予測できる程度や、実際の動きと予測との食い違いにも関係するためだ。

さらに、自動運転技術が普及すると、乗員が運転操作を行わず、車内で画面を見たり、読書をしたりする時間が増える可能性がある。車両の動きを自ら制御しない状況では、加減速を予測する手掛かりが重要になるため、将来の車両設計では乗員の行動まで考慮する必要がある。

EV酔いの検証に必要な研究

今後、電気自動車による乗り物酔いの原因をより明確にするには、実験条件を統一した比較研究が必要となる。例えば、同じ参加者が複数の車両に乗り、回生ブレーキの強さ、加速の仕方、車内の音、視線の向きなどを段階的に変更すれば、それぞれの要因が症状に及ぼす影響を比較しやすくなる。

評価方法についても、参加者の自己申告だけでなく、吐き気やめまいなどの症状の強さ、発症までの時間、頭部の動き、車両の加速度などを組み合わせることが望ましい。こうした情報を統合することで、どのような走行条件で症状が強くなり、どのような対策が有効なのかを、より客観的に評価できるようになる。

ただし、乗り物酔いには個人差が大きく、短時間の実験で得られた結果が、長距離移動や日常の通勤にも当てはまるとは限らない。年齢、乗り物酔いの経験、睡眠不足、疲労、体調などの影響を考慮し、十分な参加者数と多様な走行条件によって結果を検証する必要がある。

消費者がEVを選ぶ際の注意点

電気自動車の購入を検討している人が乗り物酔いを心配する場合には、航続距離や充電性能だけでなく、加速の感覚や減速時の挙動にも注目するとよい。試乗では、発進と停止を繰り返す市街地走行、カーブのある道路、一定速度で走る場面などを経験し、自分や同乗者にとって快適かどうかを確認することが望ましい。

特に、回生ブレーキの強さを変更できるか、加速を穏やかにする走行モードがあるか、車内から前方の景色を見やすいかといった点は、車種選びの参考になる。ただし、短時間の試乗で酔わなかったからといって、長時間の移動でも症状が起こらないと保証されるわけではない。

同乗者に乗り物酔いを起こしやすい人がいる場合には、購入前に可能な範囲で一緒に試乗し、座席位置や車両設定による違いを確かめることが実用的だ。車両の性能を数値だけで評価するのではなく、実際に乗ったときの身体への負担を含めて判断することが重要となる。

最後に:EV酔いをどう評価すべきか

電気自動車の乗り物酔いについて、科学的に確認された知見と、今後検証すべき仮説を区別することが欠かせない。加減速や旋回などの車両運動が乗り物酔いに関係すること、視覚情報と前庭感覚などの不一致が重要な説明要因であることは、乗り物酔い研究の蓄積と整合する。

一方、電気自動車の静粛性、駆動用電池による重量増加、高いトルク出力が、それぞれ独立して乗り物酔いをどの程度増加させるのかについては、条件をそろえた比較研究が必要である。特に、静粛性が高いほど必ず酔いやすい、車両が重いほど必ず酔いやすいといった単純な関係は、現時点では一般則として扱うべきではない。

結局のところ、電気自動車の乗り物酔いを考える際の中心的な問いは、車両が静かかどうかではなく、車両がどのように動き、その動きを乗員がどれだけ予測でき、身体が受ける刺激と視覚情報がどの程度一致しているかという点にある。

今後は、車両制御の改良、乗員に動きを知らせる技術、運転支援機能、乗り物酔いを客観的に評価する手法を組み合わせることで、快適性とエネルギー効率を両立させる開発が期待される。電気自動車の静粛性や滑らかさという長所を維持しながら、乗員が不快感を覚えにくい車両を実現することが、今後の重要な課題となる。

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