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エチオピア内戦再燃、連邦政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)の対立激化、和平合意崩壊か

2026年9月時点のエチオピア情勢は、2022年11月のプレトリア和平合意によって終結したティグレ戦争が、同じ形で再開したという単純な状況ではない。
2022年11月2日/南アフリカ、握手を交わすエチオピア政府交渉官とTPLF交渉官(Themba Hadebe/AP通信)
現状(2026年9月時点)

2026年9月のエチオピア北部では、2022年11月に成立したプレトリア和平合意によって抑え込まれていたティグレ情勢が、明確に再び危険な段階へ入っている。連邦政府軍とティグレ人民解放戦線の対立は政治的な駆け引きの範囲を越え、ティグレ州と周辺地域で軍事的緊張が急速に高まっている。

特に9月下旬の情勢悪化は重大である。アフリカ連合は9月23日、ティグレ側によるメケレ、アクスム、シレの空港占拠や連邦要員の拘束、南ティグレ州とアファール州での敵対行動を確認し、2022年合意に基づく直接対話への復帰を求めた。

さらに9月21日には、ティグレ人民解放戦線を含む7つの武装勢力が、アビー政権の打倒を掲げる反政府連合を結成した。そこには、2020~2022年のティグレ戦争でティグレ側と対立したアムハラ州のファノ勢力も含まれており、従来の民族・地域単位の対立構造が再編されつつある。

したがって、2026年9月時点の情勢を単純に「2022年和平合意が完全に崩壊した」と表現するのは正確ではない。アフリカ連合は現在もプレトリア合意を和平の基礎として扱っている一方、その履行を支えてきた政治的・軍事的条件が大きく損なわれ、合意が実質的に空洞化する危険が高まっていると評価する方が適切である。

今回の危機を理解するには、2026年に突然戦闘が始まったと考えるべきではない。2022年以降、武装解除、領土問題、避難民の帰還、ティグレの政治的地位、連邦政府と州政府の権限関係、エリトリアとの関係など、戦争を生み出した根本問題が十分に解決されないまま残されてきたことが、今回の再燃の背景にある。

2022年プレトリア和平合意の崩壊と現状

2020年11月に始まったティグレ戦争は、エチオピア連邦政府とティグレ人民解放戦線を中心とする勢力との大規模な武力衝突だった。2年以上にわたる戦争では多数の死者と大規模な避難民が発生し、インフラや医療、食料供給にも深刻な被害が生じた。

2022年11月2日、南アフリカのプレトリアで連邦政府とティグレ人民解放戦線が恒久的な敵対行為停止に関する合意を締結した。この合意は大規模戦闘を停止させるうえで大きな効果を発揮し、ティグレ州では戦争によって寸断されていた交通、通信、金融、行政サービスなどの回復が進んだ。

合意の柱は、敵対行為の恒久停止だけではなかった。ティグレ側武装勢力の武装解除、動員解除と社会復帰、連邦政府機関の復帰、人道支援の確保、避難民の帰還、政治対話など、戦争を終わらせるための複数の課題が同時に設定されていた。

しかし、戦争を止めることと戦争の原因を解決することは同じではなかった。2022年の合意によって銃撃戦の大規模な連鎖は止まったものの、領土、政治権力、武装解除、避難民、エリトリアとの関係といった問題は残されたままだった。

2026年8月以降にはティグレ州西部などで再び激しい戦闘が報告され、9月には情勢がさらに悪化した。2026年9月23日の段階では、ティグレ側と連邦政府側の双方について戦闘再開に関する主張が出されており、アフリカ連合も軍事的緊張の再拡大を公式に認めている。

ここで重要なのは、プレトリア合意が「紙の上で消滅した」というより、「合意が想定していた戦後秩序を維持できなくなりつつある」という点である。2026年8月に発表された研究でも、プレトリア合意は大規模戦闘を終わらせたものの、西ティグレの領土支配、政治的再統合、エリトリアとの緊張などが残り、和平構築機能が弱体化したと分析されている。

合意のほころび

最大の問題は、和平合意の履行が当初から完全ではなかったことである。特に武装解除については、ティグレ側の重火器引き渡しや元戦闘員の社会復帰が進められた一方、ティグレの政治組織と旧軍事組織との関係を完全に切り離すことは容易ではなかった。

合意はティグレ側に徴兵、軍事訓練、部隊展開、動員、再戦準備を行わないことを求めていた。しかし2026年にはティグレ州で新たな動員や徴募が行われているとの報告が出ており、これが事実であれば、和平合意の軍事的基盤そのものを揺るがす問題となる。

一方、連邦政府側についても、和平後の政治的統合が十分に進まなかったという問題が残った。ティグレ側では、戦争によって失われた領土や避難民の帰還が実現しないことに対する不満が強く、連邦政府とティグレ州政府との間で「戦争を終えた後、どのような政治秩序を作るのか」という基本問題が決着していなかった。

とりわけ西ティグレは和平の弱点となった。ここはティグレ、アムハラ両勢力の領土的主張が衝突する地域であり、戦争中に住民の大規模な移動が発生したため、単純な行政区域の変更だけでは解決できない問題となっている。

人権団体なども、領土問題、避難民の安全な帰還、武装解除が未解決であることを和平合意への主要な脅威として指摘している。つまり、プレトリア合意は「戦闘を止める仕組み」としては機能したが、「戦争を再発させない政治的仕組み」への転換が十分に進まなかったのである。

断続的衝突から全面化へ

2026年の危機は、一度に全面戦争へ移行したわけではない。まず政治的対立が強まり、次に地域的な武装衝突や軍事動員が発生し、その後に無人機攻撃や重火器を伴う軍事的緊張へと拡大するという段階を踏んでいる。

この過程では、双方が相手側の軍事動員を問題視し、自らの行動を防衛措置として説明する構図が形成されている。こうした相互不信が続けば、局地的な衝突が「相手が先に攻撃してくる前に攻撃する」という先制的行動へ転化しやすくなる。

9月下旬には、ティグレ側が空港など重要施設を掌握したとの報告が出る一方、連邦政府側とティグレ側の双方から異なる戦闘原因の説明が発信されている。アフリカ連合が双方に即時の自制と直接対話を求めたこと自体、現在の状況が単なる政治的緊張ではなく、和平合意の軍事的基盤を直接脅かす段階に入ったことを示している。

さらに重大なのは、今回の対立がティグレ州だけの問題ではなくなっている点である。アファール州やアムハラ州を含む周辺地域でも軍事的緊張が報告され、9月にはティグレ人民解放戦線と複数の反政府武装勢力が政治・軍事的に連携する動きまで表面化した。

このため現在のエチオピアでは、「2020~2022年型のティグレ内戦がそのまま再現されるのか」という問題だけではなく、「ティグレ紛争を中心に複数の地域紛争が結合するのか」という新しい問題が生まれている。2026年9月21日に結成された7勢力の反政府連合は、その変化を象徴する動きである。

連邦政府とティグレ人民解放戦線の対立が再燃した主要因

現在の対立を単一の原因で説明することはできない。領土問題、戦後の権力配分、ティグレ人民解放戦線内部の政治変動、アビー政権と各地域勢力との対立、エリトリアとの緊張、紅海をめぐる地政学的競争が相互に結びついている。

特に重要なのは、2022年の和平合意が「戦争を停止すること」には成功した一方で、「誰がエチオピアの北部を政治的・軍事的に支配するのか」という問題について最終的な答えを出していなかったことである。したがって、和平後の政治過程そのものが、新たな権力闘争の舞台となった。

① 領土問題(西ティグレなど)と権限闘争

2022年のプレトリア和平合意が抱えた最大の構造的問題の一つが、ティグレ州西部を中心とする領土問題である。西ティグレはティグレ州、アムハラ州、さらにスーダンとの国境に近接する戦略的地域であり、2020~2022年の戦争では連邦政府側についたアムハラ勢力が支配を拡大した地域でもある。

和平合意は戦闘停止とティグレ側の武装解除を定めた一方、戦争中に変更された行政境界を最終的にどうするかという問題について、明確な解決を実現しなかった。その結果、ティグレ側から見れば「戦争によって失われた領土が返還されていない」という不満が残り、アムハラ側から見れば「自らの歴史的・行政的権利を失わせる動き」と受け止められる余地が残った。

この問題は単なる境界線の争いではない。土地を誰が行政的に支配するのかによって、住民の帰還、地方税、警察権、土地登記、農地利用、道路や交易路の管理まで変わるため、西ティグレの帰属問題は戦後秩序そのものを左右する政治問題になっている。

さらに西ティグレはスーダンとの国境に接しているため、スーダン内戦との関係でも重要である。2026年8月に同地域で連邦側とティグレ側の衝突が発生した際には、戦闘から逃れた人々や負傷した戦闘員がスーダン側へ流入したとの報告もあり、ティグレ問題が国境を越えて波及する危険性がすでに現れている。

領土問題と並んで重要なのが、ティグレ州そのものを誰が統治するのかという権限闘争である。プレトリア合意では、戦後のティグレ州に暫定行政機構を設置し、その後の選挙を通じて通常の州政府へ移行する枠組みが設定された。

しかし2026年に入ると、この暫定行政機構の任期や正統性をめぐって連邦政府とティグレ人民解放戦線の対立が激化した。連邦政府は暫定行政機構の存続を前提としたのに対し、ティグレ人民解放戦線側はその継続を問題視し、5月には戦前の地域議会を復活させ、デブレツィオン・ゲブレミカエルを地域大統領に再任するなど、戦前の政治体制を再構築する動きに出た。

この動きは、単なる州内の政党対立ではない。ティグレ人民解放戦線が自らをティグレの主要な政治的代表として再確立しようとする一方、連邦政府はプレトリア合意によって設けられた暫定行政機構を通じて戦後秩序を維持しようとしており、双方の統治権限が正面から衝突する構図になった。

つまり、2026年のティグレ危機では「どこまでがティグレなのか」という領土問題と、「誰がティグレを統治するのか」という権限問題が一体化している。領土問題だけを解決しても政治的対立は残り、政治的代表権だけを調整しても領土と避難民の問題が残るため、和平合意の履行を難しくしている。

② アビー政権の強権化と政治的排除

もう一つの重要な要因は、アビー・アハメド政権と地域勢力との関係が、2018年の政権発足当初と比較して大きく変化したことである。アビー政権は発足当初、旧与党体制を再編し、2019年には繁栄党を結成して民族・地域別の政治勢力を一つの全国政党へ統合する方向を進めた。

しかしこの中央集権化は、民族や地域の自治権を重視する勢力との摩擦を生んだ。特にティグレ人民解放戦線は、連邦政府による権限集中を自らの地域自治に対する脅威とみなし、2020年の紛争以前から政治的対立を深めていた。

2026年の状況では、この問題が再び前面に出ている。米外交問題評議会は8月の分析で、アビー政権が2026年6月の選挙後に権力をさらに集中させる一方、アムハラ州やオロミア州でも武装勢力との対立を抱えていると指摘している。

ティグレ側から見れば、連邦政府がティグレの政治制度を直接管理しようとすることは、2020年以前から続く中央政府と州政府の権限争いの再現に見える。一方、連邦政府側から見れば、ティグレ人民解放戦線が独自の議会や政府機構を再構築することは、国家の統一的な統治構造に対する挑戦となる。

この相互認識の違いが、現在の危機を非常に不安定なものにしている。双方が自らの行動を「自治権の防衛」あるいは「国家統一の防衛」と位置づけるため、相手側の政治的行動を妥協可能な要求ではなく、安全保障上の脅威として処理しやすくなる。

さらに、和平後のティグレ政治そのものも一枚岩ではない。暫定行政機構を率いていた勢力と、戦前のティグレ人民解放戦線指導部との間で政治的路線の違いが生まれ、それが2026年の政治危機を複雑化させた。

この内部対立は、連邦政府にとってはティグレ政治を分断する機会にもなり得る一方、ティグレ側にとっては中央政府との対抗姿勢を強める圧力にもなる。結果として、ティグレ州内の政治的対立と、アディスアベバとの連邦・州関係が連動する状態になっている。

③ エリトリアの影と「紅海へのアクセス」をめぐる地政学的緊張

ティグレ問題をエチオピア国内だけで説明できない最大の理由が、隣国エリトリアの存在である。2020~2022年のティグレ戦争では、エリトリア軍がエチオピア連邦政府側に立って軍事行動を行ったが、エリトリアは2022年のプレトリア和平合意の署名国ではない。

したがって、和平合意によって連邦政府とティグレ人民解放戦線の戦闘が停止しても、エリトリアとティグレ、エチオピア連邦政府の三角関係まで自動的に解消されたわけではなかった。むしろ戦後、アビー政権とエリトリア政府との関係にも再び緊張が生じている。

2026年2月、エチオピア政府はエリトリアに対し、エチオピア領内への軍事的関与や武装勢力への支援を停止するよう正式に要求した。エチオピア側は同時に、エリトリアのアッサブ港を含む紅海へのアクセスについて交渉する用意があるとの姿勢も示しており、安全保障と海上交通問題を同時に扱う外交政策を展開している。

ここにはエチオピア特有の地政学的事情がある。エチオピアは1993年のエリトリア独立以降、海への直接的な領土接続を失った内陸国であり、現在の国際貿易の大部分をジブチ経由に依存しているため、紅海への安定した経済・物流アクセスを確保することは長期的な国家戦略となっている。

しかしエリトリアにとってアッサブ港は自国領土に存在する主権上の資産であり、エチオピアによる海へのアクセス要求を単純な経済問題として処理することはできない。エチオピアの海上アクセス要求とエリトリアの主権維持が衝突すれば、両国間の安全保障問題へ発展する可能性がある。

そして、このエチオピア・エリトリア関係の悪化がティグレ問題と結びつく。ティグレはエリトリアと長い国境を共有しており、戦争中にはエリトリア軍とティグレ人民解放戦線が直接交戦したため、ティグレ情勢が再び悪化すればエリトリアが無関係でいられる保証はない。

2026年8月の分析では、ティグレ人民解放戦線、ファノ勢力、エリトリアの関係が北部エチオピアの戦線を再編していると指摘されている。また、エチオピアとエリトリアの対立が紅海へのアクセス問題によってさらに強まっているとの分析も出ている。

ただし、エリトリアが現在のティグレ情勢をどこまで直接支援しているのかについては、慎重な区別が必要である。エチオピア政府はエリトリアが国内武装勢力を支援していると非難しているが、エリトリア側はこうした主張を否定しており、すべての軍事的動向について独立した確認が得られているわけではない。

それでも、エリトリアとエチオピアの対立がティグレ和平の脆弱性を高めていることは重要である。2026年8月に発表された研究でも、プレトリア合意後の和平構築を弱体化させた要因として、西ティグレの領土問題、ティグレの政治的再統合の不完全さ、そして紅海へのアクセスをめぐるエチオピア・エリトリア間の緊張が相互に作用していると分析されている。

この点から見ると、ティグレ問題はもはや「エチオピア連邦政府対ティグレ人民解放戦線」という二者間紛争ではない。西ティグレをめぐるアムハラ勢力、北東部のアファール勢力、エリトリア、スーダン情勢、さらに紅海の海上交通までが重なり、北部エチオピアを中心とする広域的な安全保障問題へ変質している。

「反アビー政権」の多極化と全国的危機への波及

この変化を象徴するのが、2026年9月に表面化した反政府勢力の連携である。9月21日、ティグレ人民解放戦線、アムハラ州のファノ勢力、オロモ解放軍など7つの武装勢力が、アビー政権の打倒と移行政府の樹立を掲げる「エチオピア人民生存同盟」を結成した。

ここで注目すべきなのは、ティグレ人民解放戦線とファノ勢力がかつて同じ戦争で正反対の陣営にいたことである。2020~2022年にはアムハラ勢力が連邦政府側としてティグレ人民解放戦線と戦ったが、現在はアビー政権への対抗という共通項によって連携する構図が生まれている。

ただし、この同盟を直ちに統一軍事組織とみなすことはできない。参加勢力は民族的背景、領土要求、政治制度に対する考え方が異なり、過去には互いに戦闘を行った勢力も存在するため、共通の敵を失った場合に連携を維持できるかは不明である。

それでも、この動きが示す政治的意味は大きい。ティグレだけの反政府運動ではなく、アムハラ、オロミア、アファールなど複数地域の武装勢力が同時に連邦政府と対立する構図が形成されれば、エチオピア政府は一つの地域に軍事力を集中させることが難しくなる。

これが次の段階である「多正面作戦の強要」につながる。ティグレで軍事的緊張が高まり、アムハラ州やオロミア州でも武装勢力との戦闘が続けば、連邦政府は北部だけでなく国内各地に軍事力、警察力、情報機関、財政資源を配分しなければならなくなる。

この意味で、2026年の危機は2020年のティグレ戦争とは構造が異なる。2020年にはティグレを中心とした大規模な戦争だったのに対し、現在は複数地域の反政府運動が並行して存在し、それらが部分的に連携し始めているためである。

ここまでを整理すると、現在のティグレ危機には少なくとも3つの層が存在する。第1層は西ティグレなどの領土と避難民をめぐる問題、第2層は連邦政府とティグレ人民解放戦線の統治権限をめぐる問題、第3層はエチオピアとエリトリアの安全保障・紅海アクセスをめぐる地域的対立である。

さらに2026年9月には、これらに全国的な反政府勢力の連携という第4層が加わった。したがって、現在の危機は単純な「和平合意の破棄」ではなく、和平合意が処理しきれなかった複数の政治問題が、軍事問題と地域地政学を巻き込みながら再結合している過程と見ることができる。

「反アビー政権」の多極化と全国的危機への波及

2026年9月のエチオピア情勢を過去のティグレ戦争と区別する最大の特徴は、連邦政府とティグレ人民解放戦線だけの対立ではなくなっている点にある。ティグレ人民解放戦線、アムハラ州のファノ、オロミア州のオロモ解放軍など、異なる民族・地域を基盤とする武装勢力が、アビー政権への対抗という一点で連携する構図が形成された。

9月21日に発表された「エチオピア人民生存同盟」には7つの武装勢力が参加し、アビー政権を退陣させ、包括的な暫定政府を樹立することを掲げている。参加勢力には、2020~2022年のティグレ戦争で連邦政府側に立ってティグレ勢力と戦ったファノも含まれており、過去の敵同士が現在は同じ中央政府に対抗するという大きな政治構造の変化が起きている。

ただし、この連合をそのまま統一された反政府軍と見ることには注意が必要である。各勢力は民族的背景、地域的利益、領土要求、政治制度に関する立場が異なり、とりわけティグレとアムハラの間には西ティグレをめぐる根深い対立が残っているためである。

それでも、この連合には従来とは異なる意味がある。これまで個別に存在していたティグレ、アムハラ、オロミアなどの紛争が、少なくとも政治的には「アビー政権に対する全国的な反対」という共通枠組みに組み込まれたからである。

重要なのは、各勢力が必ずしも同じ国家像を持っているわけではないことである。むしろ現段階では、アビー政権への反対を共通項として、それぞれの地域的・民族的要求を一時的に横に置いていると見る方が実態に近い。

この構造は、エチオピア連邦政府にとって軍事的な負担を増大させる。北部のティグレだけに戦力を集中させればアムハラやオロミアでの武装活動への対応能力が低下し、逆に国内各地へ戦力を分散させればティグレ正面での軍事的優位を確保しにくくなる。

反政府勢力の広域同盟

今回の反政府連合には、ティグレ人民解放戦線、アムハラ・ファノ国民運動、オロモ解放軍のほか、オガデン民族解放戦線、アファール革命民主統一戦線、ベニシャングル人民解放運動、グムズ人民民主運動が参加している。地理的には北部から東部、中央部、西部にまで勢力が広がっており、エチオピアの複数地域を横断する政治・軍事ネットワークになっている。

この点は、2020年に始まったティグレ戦争との重要な違いである。当時は連邦政府、エリトリア、アムハラ勢力などがティグレ人民解放戦線に対して軍事的に結集する構造だったのに対し、現在はその一部だった勢力が中央政府との対立へ転じ、ティグレ側と連携する側に回っている。

特にファノの動向は重要である。ファノはティグレ戦争では連邦政府とともに戦ったが、2023年以降はアビー政権との武力衝突を続けているため、現在はティグレ人民解放戦線と共通の敵を持つ関係になっている。

しかし、これはティグレとアムハラの領土問題が解決したことを意味しない。西ティグレについては両者の主張が依然として対立しており、連合内部にも地域によっては協力への強い抵抗が存在すると報じられている。

したがって、この広域同盟は「統一された反政府運動」というより、「それぞれ異なる理由で中央政府と戦ってきた勢力が、アビー政権への対抗を共通項として結合した政治・軍事的枠組み」と位置づけるのが妥当である。

多正面作戦の強要

このような同盟が実際に機能した場合、最大の効果は単純な兵力の合算ではなく、連邦政府軍に多正面作戦を強いることにある。ティグレでは北部戦線への対応が必要となり、アムハラではファノとの戦闘、オロミアではオロモ解放軍との対立が続くため、連邦政府は複数の戦域を同時に管理する必要が生じる。

エチオピア軍が優れた装備と組織を保持していたとしても、広大な国土の複数地域で同時に戦闘を継続することには大きな負担が伴う。兵員だけでなく、燃料、弾薬、輸送、情報収集、無人機、航空支援、医療、補給線の維持など、戦争を支える国家資源が分散するからである。

一方、反政府勢力側には地理的な分散が弱点になる。各勢力がそれぞれの地域で活動するだけなら、連邦政府軍に個別撃破される可能性が残り、首都アディスアベバに向けた統一的な軍事作戦を実施することも難しい。実際、専門家からも7勢力が統一指揮下で戦えるのか、また各勢力の政治的・領土的利害をどこまで調整できるのかについて疑問が示されている。

したがって、反政府連合の軍事的能力を判断する際には、「参加勢力の数」だけを見るべきではない。重要なのは、共同司令部、兵站協力、情報共有、作戦目標、政治的合意、戦後統治構想が実際に形成されるかどうかである。

現時点では、そこまでの統合が成立したことを示す十分な証拠はない。連合が存在すること自体は重大だが、それが直ちに連邦政府を軍事的に打倒できることを意味するわけではない。

ティグレ戦線の再拡大

それでも、ティグレ正面では状況がすでに重大な段階に入っている。2026年5月、ティグレ人民解放戦線は戦前の地域議会を復活させ、デブレツィオン・ゲブレミカエルを地域政府の指導者として再任し、プレトリア合意後に設置された暫定行政機構と並立する政治権力を形成した。

その後、8月1日にはスーダン国境近くのシェレリナ周辺で連邦政府軍とティグレ側が衝突し、重砲と無人機が使用されたと報じられている。さらに8月20日にはメケレで無人機攻撃があったとのティグレ側の主張が出され、9月に入ると軍事的緊張はさらに高まった。

そして9月23日、ティグレ側はメケレ、アクスム、シレにある空港を掌握したと報じられ、アファール州やアムハラ州でも戦闘が発生した。これによって情勢は、単なる武装勢力による散発的な攻撃ではなく、複数地域を巻き込む軍事攻勢の段階へ移った可能性がある。

アフリカ連合も9月23日、北部エチオピアでの軍事的緊張の再拡大を認め、すべての当事者に自制と直接対話への復帰を求めた。これは国際的な調停枠組みが依然として存在する一方、現地ではその枠組みを上回る速度で軍事的既成事実が形成されつつあることを意味する。

総合評価と今後の展望

ここまでの情勢を総合すると、2026年のエチオピア北部では、2022年の和平合意によって停止した戦争が単純に「再開した」というだけではない。和平後に処理されなかった領土、政治的代表権、武装解除、避難民、連邦制、エリトリアとの安全保障問題が、別々の紛争として再び動き始め、それらが相互に結びつき始めている。

その意味で、現在の危機は「和平合意の崩壊」という法的・形式的な問題以上に、「和平によって形成された政治秩序の崩壊」と捉える必要がある。2026年7月にはティグレ人民解放戦線自身がプレトリア合意を「事実上死んだ」と表現しており、少なくとも同組織の認識では合意はすでに機能を失っている。

ただし、和平合意が完全に無効になったと断定することにも注意が必要である。アフリカ連合は9月時点でもプレトリア合意を対話と停戦の基礎として扱っており、国際的な和平枠組みそのものが消滅したわけではない。

今後の最大の分岐点は、現在の軍事衝突が数日から数週間程度の局地戦で収束するのか、それとも連邦政府とティグレ側の大規模戦闘へ移行するのかである。さらにアムハラ、オロミア、アファールなどで同時に戦闘が拡大すれば、2020~2022年とは性格の異なる全国的な内戦へ発展する可能性が生じる。

一方で、反政府勢力側にも明確な制約がある。ティグレとアムハラの領土問題、各武装勢力の指揮系統、民族的利害、戦後の政治制度をめぐる意見の違いは大きく、反政府連合が長期間維持される保証はない。

したがって、現段階で最も重要なのは、反政府連合の成立そのものを「新たな内戦の勝敗」を示す出来事として見ることではない。むしろ、エチオピア国内の複数の紛争が一つの政治的対立軸へ収束し始めたことに、その重大性がある。

「内戦の第2幕」への突入

「内戦の第2幕」という表現を使うなら、それは2020~2022年の戦争がそのまま再現されるという意味ではない。むしろ、プレトリア合意によって一度凍結された武力対立が、より複雑な同盟関係と多地域紛争を伴って再構成されるという意味で捉えるべきである。

第1幕では、ティグレ人民解放戦線と連邦政府が中心となり、エリトリアとアムハラ勢力が連邦政府側に加わる構図だった。第2幕では、その旧来の陣営が崩れ、ティグレと一部のアムハラ勢力が中央政府に対抗する側で協力するという、まったく異なる勢力配置が生じている。

この変化によって、戦争の中心も「ティグレをどうするか」から「エチオピアという国家をどのような政治構造で維持するのか」という問題へ広がっている。ティグレ問題はその最大の火点ではあるが、もはや単独の原因ではなく、エチオピア全体の国家統合危機の一部になっている。

地域大戦――ホーン・オブ・アフリカへの波及リスク

さらに警戒すべきなのが、エチオピア国内の戦闘が国境を越えてホーン・オブ・アフリカ全体の安全保障危機へ発展する可能性である。エチオピアはエリトリア、スーダン、ジブチ、ソマリア、南スーダンと関係する地域大国であり、その国内情勢の悪化は周辺国の政治・軍事環境にも直接影響する。

特にエリトリアとの関係は重要である。エチオピア政府は反政府武装勢力へのエリトリアの支援を主張している一方、エリトリア側はこれを否定しており、両国間の緊張が軍事衝突に発展するかどうかは現段階では確定していない。

同時に、ティグレ西部からスーダンへ向かう国境地帯は、スーダン内戦の影響も受ける。スーダン国内の戦闘が続く状況でエチオピア北部の戦争が再燃すれば、難民流入、武器・戦闘員の越境、国境地帯の武装化が重なり、2つの紛争が相互に影響する危険性がある。

このため、ティグレ情勢を「エチオピア国内問題」とだけ捉えることは適切ではない。エリトリアとの関係、スーダン内戦、紅海の海上交通、ソマリア情勢などが連動すれば、ホーン・オブ・アフリカ全体の安全保障環境を不安定化させる可能性がある。

エリトリア・スーダン・紅海を結ぶ地政学的連鎖

2026年9月時点で最も警戒すべきなのは、ティグレで再燃した戦闘がエチオピア国内だけに封じ込められるとは限らないことである。ティグレはエリトリアと国境を接し、西側ではスーダンと接しているうえ、エチオピア政府が紅海への海上アクセスを重視しているため、国内政治、国境安全保障、紅海情勢が一つの危機として結びつきやすい。

とりわけエチオピアとエリトリアの関係は重要である。2020~2022年のティグレ戦争ではエリトリア軍が連邦政府側として介入したが、プレトリア和平合意はエリトリアを当事者として含んでいなかったため、エチオピアとエリトリアの対立構造そのものを解消するものではなかった。2026年に入って両国関係が再び悪化していることは、ティグレ情勢の不安定化をさらに複雑にしている。

特にエチオピアの紅海へのアクセス要求が大きな問題になっている。エチオピアは内陸国であり、現在の海上貿易をジブチなど周辺国の港湾に依存しているため、紅海に対する安定した経済・戦略的アクセスを確保することは国家的な重要課題になっている。

しかし、エチオピアが海へのアクセスを求めることと、エリトリアが自国領土と港湾の主権を維持することは、必ずしも両立しない。とりわけアッサブ港をめぐる問題は、単なる経済交渉ではなく、エリトリアの主権、安全保障、エチオピアの海洋戦略を同時に含むため、ティグレの軍事的緊張と結びついた場合には危険性が増す。

2026年8月に発表された研究でも、プレトリア合意後の和平が弱体化した背景として、西ティグレの領土支配、ティグレの政治的再統合の不完全さ、エチオピアとエリトリアの関係悪化、紅海へのアクセスをめぐる競争が相互作用していると分析されている。つまり、ティグレの問題は国内政治だけで完結せず、紅海をめぐる地域秩序の問題へ組み込まれている。

スーダン内戦との接続

西側のもう一つの重大な要素がスーダンである。ティグレ州とスーダンの国境地帯はもともと領土問題を抱えており、そこへ2023年以降のスーダン内戦が重なっているため、ティグレで大規模戦闘が再開すれば、難民、武器、戦闘員、補給網などを通じて両紛争が相互作用する可能性がある。

2026年8月にはティグレ州とスーダン国境付近で連邦政府軍とティグレ側の戦闘が報告され、砲撃や無人機攻撃が行われた。人権団体はこの戦闘をプレトリア合意の履行をめぐる危機の重大な兆候と位置づけ、民間人への被害と避難民問題の再拡大を警告している。

スーダン側もすでに深刻な内戦状態にあるため、国境地域の治安能力には大きな制約がある。スーダンでは2026年9月時点でも国軍と準軍事組織の戦争が継続し、経済や行政機能も大きく損なわれている。

この状況でエチオピア北部の戦闘が拡大すれば、スーダン側が国境管理を十分に行えなくなる可能性がある。逆に、スーダン内戦の勢力がエチオピア側の武装勢力と接触するようになれば、北東アフリカの紛争が国境線を越えて連結する危険性も生じる。

したがって、ティグレの戦争再燃は「エチオピア北部の内戦」という地理的範囲だけで見るべきではない。西にスーダン、北にエリトリア、東にジブチ、南東にソマリアという周辺環境を考えれば、戦闘が長期化するほど地域紛争との接続点が増える構造になっている。

「内戦の第2幕」が全面戦争へ移行する条件

ここまでの情勢から見ると、2026年9月の段階で重要なのは、すでに戦闘が発生しているかどうかではなく、それがどの条件を満たせば2020~2022年型の全面戦争へ移行するのかという問題である。

第1の条件は、ティグレ側と連邦政府側が軍事的な抑制を失うことである。9月23日にはティグレ側がメケレ、アクスム、シレの3空港を掌握したと報じられ、アムハラ州やアファール州でも連邦政府側との衝突が発生したため、すでに局地戦を越える兆候が現れている。

第2の条件は、戦闘がティグレ州の内部に限定されなくなることである。アムハラ州やアファール州への戦闘拡大は、連邦政府に複数戦線への対応を迫るため、紛争の性格を変える可能性がある。実際、9月23日にはティグレ側によるアファール、アムハラ両州の政府拠点への攻撃が報告されている。

第3の条件は、反政府勢力間の協力が軍事面にまで進むことである。9月21日に7つの武装勢力が反政府連合を結成したことは政治的に大きな変化だが、共同作戦、情報共有、兵站支援などがどこまで実現するかはまだ明らかではない。

第4の条件は、エリトリアが直接的な軍事行動に入ることである。現段階でエリトリアの直接参戦を事実として断定することはできないが、エチオピアとエリトリアの緊張が軍事衝突へ移行すれば、ティグレ戦争は直ちに国際的な性格を強める。

第5の条件は、和平仲介の機能が失われることである。アフリカ連合は2026年1月の段階からプレトリア合意の維持を求めており、9月23日にも自制と対話への復帰を要請している。したがって、現在はなお外交的な出口が残されているが、当事者が仲介を拒否し続ければ、軍事的既成事実が外交交渉に先行することになる。

プレトリア和平合意を再構築できるのか

和平合意の再構築には、単純な停戦宣言だけでは不十分である。2022年の合意が示したように、戦闘を止めても領土問題、避難民、武装解除、政治的代表権、連邦と州の権限関係が残れば、数年後に再び軍事対立が発生する可能性がある。

したがって必要なのは、まず軍事的緊張を止め、その後に未解決問題を個別に処理する多段階の政治過程である。特に西ティグレの最終的な行政的位置づけ、避難民の安全な帰還、残存する武装勢力の処遇、ティグレの合法的な政治参加を同時に扱わなければ、和平は再び暫定的な休戦にとどまる可能性が高い。

アフリカ連合にはすでに仲介の枠組みが存在している。2026年9月の危機に際しても、アフリカ連合は直接対話への復帰を求めており、過去の和平交渉を担ったオルシェグン・オバサンジョ元ナイジェリア大統領らによる外交的関与も続いている。

問題は、仲介者が存在するかどうかよりも、連邦政府とティグレ人民解放戦線の双方が、軍事的圧力より交渉による利益の方が大きいと判断するかどうかである。現在のように双方が軍事的優位を確保できると考えている間は、和平交渉は戦闘の代替手段ではなく、軍事行動と並行する交渉手段になってしまう。

2026年9月時点の状況を総合すると、2022年プレトリア和平合意は「完全に消滅した」とまではいえない。しかし、合意が想定していた戦後秩序の重要部分が履行されないまま残され、2026年には政治的・軍事的対立が再び表面化しているため、和平の実効性は大きく低下している。

特に重要なのは、現在の危機が単純な連邦政府対ティグレ人民解放戦線という二者間対立ではないことである。西ティグレの領土問題、アムハラ勢力、オロミアの武装勢力、エリトリアとの対立、スーダン内戦、紅海へのアクセス問題が重なり、一つの危機が別の危機を増幅する構造が形成されている。

2026年8月に公表された研究は、この状態を、和平合意が形式上存続しながら政治的・制度的過程によって紛争が再編される「紛争の固定化」として分析している。この視点から見ると、現在の問題は「和平合意があるか、ないか」ではなく、「和平合意が実際に政治的秩序を支配しているか」という点にある。

現時点では、少なくとも3つの進路が考えられる。第1は軍事衝突が限定的な範囲にとどまり、アフリカ連合などの仲介によって交渉が再開する経路、第2は停戦も全面戦争も成立せず、北部エチオピアが長期的な不安定状態になる経路、第3はティグレ、アムハラ、オロミアなど複数地域の戦闘が連結し、全国的な内戦へ拡大する経路である。

このうち、どの経路に進むかを現段階で断定することはできない。ただし、9月23日に複数の空港がティグレ側に掌握されたと報じられ、周辺州にも戦闘が広がったことは、局地的な危機を越える方向への圧力が高まっていることを示している。

「内戦の第2幕」への突入

「内戦の第2幕」という表現は、2020~2022年の戦争がそのまま復活したという意味ではない。現在進行しているのは、和平後に解決されなかった問題が、別の勢力配置と異なる政治環境の中で再び軍事化する現象である。

第1次のティグレ戦争では、ティグレ人民解放戦線と連邦政府が中心となり、エリトリアやアムハラ勢力が連邦政府側に加わった。2026年にはその構図が変化し、かつてティグレ側と戦ったアムハラ勢力の一部が、ティグレ人民解放戦線とともにアビー政権へ対抗する側に位置している。

この変化は、エチオピアの政治危機が民族間の単純な対立では説明できなくなったことを示す。中央政府の権力集中への反発、地域自治、領土問題、経済的利害、国境安全保障、紅海へのアクセスという複数の争点が、異なる勢力を一時的に同じ方向へ動かしている。

一方で、反政府勢力の連携には明確な限界もある。ティグレとアムハラの間には領土問題が残り、各武装勢力の政治目的も一致していないため、反アビーという共通項だけで長期的な統一戦線を維持できるかは不透明である。

そのため、「内戦の第2幕」は、単一の前線を持つ大規模戦争というより、複数の地域紛争が同時進行し、それらが政治的・軍事的に接続する形になる可能性がある。この点が2020~2022年のティグレ戦争との最も大きな違いである。

エチオピアで全面戦争が発生した場合、最も深刻なのは国内の人的被害だけではない。エチオピアはホーン・オブ・アフリカの人口、軍事力、経済規模において重要な国家であり、その不安定化は周辺国の安全保障環境を直接変化させる。

エリトリアとの国境で軍事衝突が発生すれば、ティグレ戦争は再び国境を越える戦争となる。スーダンではすでに大規模な内戦が続いているため、両国の紛争が重なれば、国境地域の避難民、武装勢力、武器供給、交易路を通じた相互作用が強まる可能性がある。

さらに紅海では、イエメン情勢やバブ・エル・マンデブ海峡をめぐる安全保障問題が存在する。エチオピアが紅海へのアクセスを追求し、エリトリアがそれを安全保障上の脅威と認識する状態が続けば、エチオピア北部の紛争は紅海の戦略環境とも接続する。

このため、将来の危機を「第2次ティグレ戦争」とだけ呼ぶことには限界がある。最悪の場合、エチオピア国内の複数戦線、エリトリアとの国境問題、スーダン内戦、紅海の海上安全保障が連鎖し、ホーン・オブ・アフリカ全体を巻き込む複合的な地域危機になる可能性がある。

ただし、これは現時点で確定した未来ではない。アフリカ連合が依然として和平合意の維持と直接対話を呼びかけており、国際的な仲介経路も残されているため、軍事的拡大を外交的に止める余地は存在する。

今後の展望

今後の最大の焦点は、戦闘の規模そのものよりも、和平合意を再び政治的な交渉枠組みとして機能させられるかどうかにある。戦闘停止だけを実現しても、領土、避難民、武装解除、政治参加、連邦制、エリトリアとの関係を処理できなければ、同じ問題が数年後に再発する可能性がある。

第1に必要なのは、連邦政府とティグレ人民解放戦線の双方が軍事的既成事実の拡大を停止することである。第2に、西ティグレを含む係争地域について、帰還する住民の安全を確保しながら政治的・法的な処理を進める必要がある。

第3に、ティグレの政治的代表権を回復する枠組みが必要になる。2026年の国政選挙でティグレが実質的に政治過程から外れた状態は、和平後の政治統合という観点から大きな問題を残している。研究者が指摘するように、政治的再統合が進まないまま軍事的な安定だけを求めれば、和平は非常に脆弱なものになる。

第4に、エリトリアとの関係を別個の外交問題として処理する必要がある。ティグレ問題と紅海アクセス問題を一つの安全保障問題として扱い続ければ、国内政治上の対立が国境問題へ拡大する可能性があるためである。

そして第5に、スーダン情勢との連鎖を防ぐ国境管理と人道支援の仕組みが重要になる。エチオピアとスーダンの双方が不安定化すれば、難民流入や武器・戦闘員の移動を通じて、2つの内戦が相互に悪化させる可能性がある。

まとめ

2026年9月時点のエチオピア情勢は、2022年11月のプレトリア和平合意によって終結したティグレ戦争が、同じ形で再開したという単純な状況ではない。和平後に未解決のまま残された領土問題、避難民問題、武装解除、政治的代表権、連邦政府とティグレ州の権限関係が、アビー政権への反発、エリトリアとの緊張、紅海へのアクセス問題と結びつき、新しい紛争構造を形成している。

2026年9月にはティグレ側による軍事攻勢が報じられ、複数の空港が掌握されたほか、アファール州やアムハラ州にも戦闘が広がった。さらにティグレ人民解放戦線を含む7つの武装勢力が反政府連合を結成したことで、危機はティグレ単独の問題から全国的な政治・安全保障危機へ拡大する可能性を持つようになった。

したがって、2022年和平合意について最も適切な評価は、「正式に消滅した」と断定することではなく、「大規模戦闘を停止させた和平枠組みが、未解決問題の累積によって実効性を大きく損ない、再び戦争を防げるかどうかの瀬戸際に立っている」というものになる。アフリカ連合もなお合意を和平の基礎として位置づけ、直接対話を求めている。

最も危険なのは、ティグレでの戦闘そのものが長期化することだけではない。ティグレ、アムハラ、オロミアなどの国内紛争が連結し、エリトリアとの国境緊張やスーダン内戦、紅海の地政学的対立まで重なれば、2020~2022年とは異なる形の「内戦の第2幕」が成立する可能性がある。

逆にいえば、まだ決定的な段階を越えたわけでもない。アフリカ連合による仲介、当事者間の直接対話、係争領土と避難民問題の処理、ティグレの政治的再統合、エリトリアとの外交的緊張緩和を同時に進める余地は残されている。

現時点での最大の論点は、「和平合意が存在するか」ではなく、「和平合意を現実の政治秩序へ戻せるか」である。2026年9月の戦闘拡大はその可能性が急速に狭まっていることを示しているが、全面的な地域大戦が不可避になったことを意味するものではない。

2026年9月時点でのエチオピア情勢を総合すると、2022年11月のプレトリア和平合意は、形式上は存続しているものの、実質的な和平構築能力を大きく失いつつあると評価できる。アフリカ連合は9月23日にも同合意を「持続的な平和、安定、和解の礎」と位置づけており、法的・外交的には合意が消滅したわけではないが、同時にティグレ側による空港占拠、連邦要員の拘束、南ティグレ州やアファール州での戦闘拡大を深刻な危機として認識している。

したがって、「2022年和平合意は崩壊したのか」という問いへの答えは、単純な「はい」でも「いいえ」でもない。より正確には、合意そのものは存続しているが、その主要な履行過程と、それによって形成されるはずだった戦後政治秩序が大きく損なわれ、合意が再び大規模戦争を防止できるかどうかが問われる段階に入ったと整理するのが妥当である。

2026年8月に公表された政治学研究も、プレトリア合意について、正式に消滅するのではなく、履行が選択的・遅延的となることで紛争が別の形に再編される状態を指摘している。同研究では、西ティグレの領土支配、ティグレの政治的再統合の不完全さ、2026年6月の選挙へのティグレの不参加、エチオピアとエリトリアの関係悪化が相互に作用し、和平合意の機能を弱めていると分析している。

この点は今回の危機を理解するうえで非常に重要である。和平合意は「戦闘を止める」という第1段階では大きな成果を上げたが、「戦争が再び起きない政治秩序を作る」という第2段階では十分な成果を上げられなかった。

「内戦の第2幕」という評価の妥当性

2026年9月の情勢を「内戦の第2幕」と表現することには一定の根拠がある。2022年以降の停戦によって大規模戦闘が停止していたにもかかわらず、2026年8月にはティグレとスーダン国境付近で激しい戦闘が発生し、9月には複数の空港をめぐる軍事的対立にまで発展したためである。

しかし、これは2020~2022年の戦争の単純な再現ではない。現在はティグレ人民解放戦線だけでなく、アムハラ州のファノ、オロミア州のオロモ解放軍など複数の武装勢力が連邦政府と対立しており、9月21日には7つの武装勢力が連合を形成してアビー政権の退陣と暫定政府の樹立を掲げた。

この点から見ると、現在の「第2幕」は、ティグレを中心とする単一戦線型の内戦ではなく、複数の地域紛争が政治的・軍事的に接続する多正面型の内戦へ発展する可能性を持つ段階と表現する方が適切である。

ただし、反政府勢力の連合を過大評価することも避ける必要がある。参加勢力には過去に互いに戦った組織が含まれ、領土問題や政治制度についての意見も一致していないため、現在の連携がそのまま統一された軍事指揮系統へ発展する保証はない。

それでも、連合の成立には重大な意味がある。ティグレ、アムハラ、オロミアなどの地域紛争が「中央政府への反発」という共通の政治軸で結びついたことで、連邦政府は複数の戦線を同時に管理しなければならなくなったからである。

反政府勢力の広域同盟が持つ意味

9月21日に発表された反政府連合には、ティグレ人民解放戦線、アムハラ・ファノ国民運動、オロモ解放軍などが参加した。特に重要なのは、ティグレ人民解放戦線とファノが2020~2022年の戦争では異なる陣営に属していたことであり、かつての戦争当事者が現在は同じ連邦政府に対抗している。

これは、エチオピアの政治対立が「ティグレ対アムハラ」という民族間の固定的対立だけでは説明できなくなっていることを示す。中央政府による権限集中への反発、地域自治、領土問題、政治的排除などが、異なる民族・地域勢力を一時的に同じ方向へ動かしている。

もっとも、この連合が政権を軍事的に打倒できるかどうかを現段階で判断することはできない。専門家からも、地理的に分散した武装勢力が共同軍事指揮を実現できるか、また仮に政権交代が起きた場合に各勢力がどのような政治体制を構築するのかについて疑問が示されている。

したがって、この連合の最大の意味は「政権転覆が近づいた」ということではなく、アビー政権に対する反発が地域ごとの孤立した武装闘争から、全国的な政治連携へ移行し始めたことにある。

多正面作戦の強要

連邦政府にとって最大の問題は、敵対勢力の数そのものよりも戦線の広がりである。ティグレ、アムハラ、オロミアなどで同時に軍事活動が発生すれば、連邦政府軍は兵力、情報、航空戦力、補給能力を複数地域へ分散しなければならない。

一方、反政府勢力はそれぞれの地域で活動するため、必ずしも巨大な統一軍を必要としない。複数地域で同時に政府軍を拘束できれば、それだけで連邦政府の軍事的・財政的負担を増やすことができる。

ただし、これには反政府側の弱点もある。勢力が分散しているため、連邦政府が各戦線を個別に処理できれば、逆に反政府連合の軍事的効果は限定される可能性がある。

したがって、今後の焦点は共同声明そのものではなく、共同作戦、情報共有、兵站協力、指揮系統の統合が実際に形成されるかどうかになる。ここが実現しなければ、反政府連合は政治的には大きな意味を持っても、軍事的には限定的な連携にとどまる可能性がある。

エリトリアと紅海がもたらす地域大戦リスク

ティグレ問題を国内紛争としてのみ分析できない理由は、エリトリアとの関係にある。エリトリアは2020~2022年のティグレ戦争で連邦政府側として軍事介入したが、2022年のプレトリア合意の直接的な署名当事者ではなかったため、和平合意だけではエチオピアとエリトリアの安全保障上の対立を解消できなかった。

さらに2026年には、エチオピアの紅海へのアクセス要求が両国関係の重要な争点になっている。2026年8月の研究は、紅海をめぐるエチオピア・エリトリア間の競争がティグレの未解決問題と結びつき、和平を不安定化させる要素になっていると分析している。

ここで重要なのは、エチオピアの海上アクセス問題とティグレ問題が本来別々の問題であるにもかかわらず、安全保障上は連結していることである。ティグレはエリトリアと直接国境を接しているため、両国関係が軍事的に悪化すれば、ティグレが再び戦略的な前線となる可能性がある。

さらに西側ではスーダン内戦が続いている。ティグレとスーダンの国境地域で戦闘が拡大すれば、難民、武器、戦闘員、物資の移動を通じて両国の紛争が相互に影響する危険性が高まる。

このため最悪の場合、エチオピア北部の内戦、エリトリアとの国境対立、スーダン内戦、紅海の安全保障問題が同時に悪化する可能性がある。ただし、これは現時点で確定した事態ではなく、複数の危機が連鎖した場合に発生し得るリスクとして理解する必要がある。

ホーン・オブ・アフリカへの波及リスク

エチオピアはホーン・オブ・アフリカにおける人口、経済、軍事の主要国である。そのため国内の大規模な政治・軍事危機は、周辺国の安全保障にも直接的な影響を与える。

とりわけスーダンとの国境地帯は危険である。すでにスーダンでは内戦が続いているため、エチオピア北部で戦闘が再拡大すれば、国境地域に複数の武装主体が集中し、人道危機と安全保障危機が同時に進行する可能性がある。

エリトリアについても同様である。エチオピア政府はエリトリアによる反政府勢力への支援を主張している一方、エリトリア側はこれを否定しており、こうした主張には当事者間の認識の違いが存在する。したがって、エリトリアの関与については確認済みの事実と各当事者の主張を区別する必要がある。

さらに紅海では、バブ・エル・マンデブ海峡を含む海上交通の安全保障が重要な問題となっている。エチオピアとエリトリアの緊張が高まれば、国内紛争が紅海の地政学的競争と接続する危険性も高まる。

つまり、エチオピアの危機が地域大戦へ発展する場合、その起点は必ずしも大規模な外国軍の直接参戦とは限らない。難民、武器、人員、資金、補給路、国境地帯の武装勢力などを通じて、複数の紛争が徐々に結びつくこと自体が地域不安定化の重要な経路になる。

プレトリア和平合意を再構築する条件

和平を再構築するためには、単なる再停戦だけでは不十分である。2022年合意が残した問題を改めて政治交渉の対象にし、軍事的な問題と政治的な問題を同時に処理する必要がある。

第1の課題は、西ティグレを中心とする係争地域の扱いである。行政上の帰属だけでなく、避難民の安全な帰還、土地所有権、住民の政治的権利、地域行政の再構築まで含めた包括的な解決が必要になる。

第2は、ティグレの政治的再統合である。2026年6月の選挙にティグレが参加しなかったことは、和平後の政治統合が完成していないことを示している。研究者は、政治的排除が続けば、武装勢力が政治制度の外側で自らの権益を確保しようとする誘因が強まると分析している。

第3は、武装解除と安全保障の問題である。和平合意ではティグレ側の武装解除が重要な柱だったが、双方が相手の軍事動員を警戒する状況では、一方的な武装解除は成立しにくい。

そのため、武装解除を求めるだけではなく、相手側の軍事行動についても検証できる仕組みが必要になる。アフリカ連合の監視・検証・遵守確認機構をより実効的に機能させ、双方の違反主張を独立して確認することが重要になる。

第4は、エリトリアとの関係を別個の外交問題として扱うことである。ティグレ問題と紅海へのアクセス問題を一つの軍事的対立として処理すれば、和平交渉の対象が過度に広がり、合意形成がさらに難しくなる。

今後のエチオピア情勢には、大きく3つの可能性がある。第1は、アフリカ連合などの仲介によって軍事的緊張を抑え、プレトリア合意を再活性化する経路である。

第2は、和平合意を形式的には維持しながら、戦闘と政治対立が断続的に続く長期的な膠着状態である。2026年8月の研究が示す「制度的侵食」や「長期的膠着」は、この可能性を分析する枠組みとなる。

第3は、ティグレ、アムハラ、オロミアなどの戦線が軍事的に結合し、エリトリアやスーダンをめぐる地域的緊張まで加わることで、より大規模な内戦へ移行する経路である。

ただし、現時点でいずれかの経路が確定しているわけではない。アフリカ連合は9月23日にも直接対話への復帰を求めており、和平仲介の制度的枠組み自体は残っている。

重要なのは、和平の窓が完全に閉じたと判断することでも、逆に2022年の合意がそのまま機能していると考えることでもない。現在はその中間にあり、軍事的既成事実が拡大する一方で、外交的な出口もまだ残されているという不安定な段階にある。

2026年9月時点のエチオピアでは、2022年11月のプレトリア和平合意がもたらした停戦体制が重大な試練に直面している。ティグレ人民解放戦線と連邦政府の軍事的緊張が再び高まり、9月にはティグレ側による複数空港の占拠が報告され、アフリカ連合が緊急の自制と対話を求める事態となった。

しかし、この問題を「和平合意が破棄された」という一言だけで説明するのは適切ではない。合意は依然として国際的な和平枠組みとして認識されている一方、その履行が十分に進まず、西ティグレ、避難民、武装解除、政治的統合、連邦と州の権限などの問題が残されたまま、再び軍事的対立が発生している。

さらに2026年9月の7勢力による反政府連合は、危機の構造が大きく変わったことを示している。ティグレ人民解放戦線、ファノ、オロモ解放軍などが共通してアビー政権に対抗することで、これまで個別に存在していた地域紛争が全国的な政治対立へ接続する可能性が生まれた。

一方、この連合がそのまま統一軍として機能するとは限らない。各勢力には異なる民族的、領土的、政治的利益があり、特にティグレとアムハラの間には西ティグレをめぐる未解決問題が存在するため、連合の持続性には大きな不確実性がある。

したがって、2026年9月の段階で最も妥当な総合評価は、「プレトリア和平合意は正式には存続しているが、その実効性が大きく低下し、エチオピアは和平後の政治秩序が再び軍事化する危険な局面に入っている」というものになる。

そして最大のリスクは、ティグレで戦闘が再燃することだけではない。アムハラ、オロミア、アファールなどの国内紛争、エリトリアとの緊張、スーダン内戦、紅海へのアクセス問題が相互に接続すれば、ティグレ紛争はエチオピア国内の一地域紛争を超え、ホーン・オブ・アフリカ全体の安全保障問題へ転化する可能性がある。

その意味で、「内戦の第2幕」という表現は、2020~2022年の戦争の単純な再現を意味するものではない。むしろ、プレトリア合意によって一度停止された紛争が、未解決の領土・政治問題、複数の反政府勢力、エリトリアとの緊張、紅海の地政学を取り込み、より複雑な形で再構成されつつあることを意味する。

最終的な分岐点は、軍事力によって既成事実を積み重ねる方向へ進むのか、それともプレトリア合意を土台として、領土、政治参加、武装解除、避難民、連邦制を改めて交渉する方向へ戻るのかにある。アフリカ連合が9月23日に直接対話への復帰を要求したことは、少なくとも外交的解決の枠組みがまだ消滅していないことを示している。

したがって、現段階を「第2次ティグレ戦争が完全に始まった」と断定するより、「プレトリア和平合意の実効性が崩れ、再内戦へ向かう危険性が急速に高まっている段階」と位置づけるのが最も慎重である。今後、戦闘がティグレ州外へどこまで拡大するか、反政府勢力の共同軍事行動が成立するか、エリトリアが直接的な軍事関与を強めるか、そしてアフリカ連合による仲介が機能するかが、情勢を左右する主要な指標となる。


参考・引用リスト

  • アフリカ連合委員会「北部エチオピアにおける最大限の自制と即時の緊張緩和を求める委員長声明」2026年9月23日。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ「高まるティグレの緊張、アフリカ連合の対応が試される」2026年9月9日。
  • フロンティアーズ・イン・ポリティカル・サイエンス「プレトリア合意後のエチオピア――紅海の地政学と脆弱な和平の課題」2026年8月14日。
  • ロイター「7つのエチオピア武装勢力が反政府連合を結成」2026年9月21日。
  • AP通信「エチオピアの野党・武装勢力7組織がアビー政権に対抗する連合を結成」2026年9月。
  • アルジャジーラ「エチオピアの7武装勢力による反政府連合はアビー政権に挑戦できるのか」2026年9月23日。
  • アルジャジーラ「エチオピアの武装勢力が反政府連合を結成」2026年9月21日。
  • アフリカ連合「北部エチオピアにおける緊張と軍事的エスカレーションへの対応」2026年9月23日。
  • アフリカ連合「和平合意の遵守と信頼醸成に関する能力強化」2025年12月。
  • アディス・スタンダード「オルシェグン・オバサンジョ氏ら国際使節がメケレを訪問、プレトリア合意と地域安全保障を協議」2026年。
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