25日、エチオピアのアビィ・アハメド首相は、北部ティグライの州都メケレに潜伏するティグレ人民解放戦線(TPLF)への攻撃を開始すると発表した。
アハメド首相は声明の中で、政府軍はメケレの住民(約50万人)を傷つけないよう努めると述べ、住民に武装解除したうえで自宅にとどまるよう促した。
メケレを支配するTPLFは最後まで戦い続けることを誓っている。
国連は、エチオピア政府軍がメケレへの攻撃を開始した場合、致命的な戦争犯罪につながる可能性があると警告している。
国連人権高等弁務官のミシェル・パチェレ氏はBBCニュースの取材に対し、「武装解除した住民が戦闘に巻き込まれない保証はなく、危機的な状況。人々を救うために、停戦命令を出す必要がある」と述べた。
政府当局は11月4日の戦闘開始から約3週間後、軍事作戦は「最終段階」にあると述べ、TPLFに72時間以内に降伏するよう促していた。
また、メケレの住民に対しても、「猶予時間以降も町にとどまる場合、容赦しない」と警告している。
伝えられるところによると、ティグライ地域での政府軍とTPLFの戦闘やそれに関連する虐殺行為で数百人が殺害され、数万人が隣国スーダンに逃げ込んだという。
しかし、同地域の通信網は完全に遮断され、国連や人権団体などによる違法行為の監視も機能しておらず、情報が正確かどうかは分からない。
州都メケレのジャーナリスト、ダニエル・ベルハネ氏はBBCニュースに、「攻撃の兆候はまだなく、市内の飲食店やカフェはほぼ満席の状態」と述べた。
アフリカ連合(AU)議長国を務める南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は3人の元大統領をエチオピアに派遣し停戦交渉を試みようとしたが、政府はTPLFとの交渉を拒否している。
エチオピアに到着したモザンピーク、リベリア、南アフリカの元大統領はティグライ地域への移動を許可されていない。
政府軍の動向
アハメド首相はTPLFに与えた72時間の降伏猶予が終了したことを受け、メケレへの攻撃を指示した。
首相は声明の中で、住民を保護するために細心の注意を払い、被害を最小限に抑えるあらゆる努力がなされるだろうと述べた。
アビィ・アハメド首相:
「宗教および歴史的な施設、場所、住宅地は攻撃対象にならないだろう」
「住民は武装解除したうえで自宅にとどまり、軍事目標から離れること」
TPLFの動向
TPLFのリーダー、デブレツィオン・ゲブレミチャエル氏はロイター通信の取材に対し、「ティグレの軍隊は最後まで戦い、土地の権利を守るために死ぬ準備ができている」と述べた。
TPLF軍の部隊は準軍組織と訓練された地元民兵で構成され、戦力は25万人ほどと考えられている。一部のアナリストは、武装解除した住民がゲリラ戦に巻き込まれることを恐れている。
国連
国連が発表した最新の情報によると、ティグライ地域では現金と燃料が不足しており、隣国エリトリアからの難民約10万人に支給する食糧も1週間で尽きてしまうという。
ティグライ地域で食料配給に依存している60万人以上の市民が戦闘激化に伴い、今月の配給を受け取っていない。
国連世界食糧計画は輸送ルートが遮断され、食糧などの救援物資を運び込めない状態だという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「救援物資の輸送と通信網を故意に遮断する行為は、国際人道法に違反する可能性がある」と述べた。
一方、隣国スーダンに逃げ込んだ40,000人以上のエチオピア難民にも危機が迫っている。
人道支援団体によると、難民のほぼ半分は18歳未満の子供で、大半が服以外何も持っておらず、食糧と治療の確保に苦労しているという。
ティグライについて知っておくべきこと
・2020年11月22日、国連、エチオピア政府軍によるティグライ地域への「最後通告」について、市民を巻き込む致命的な戦争犯罪につながると懸念を表明。
・2020年11月22日、アビィ・アハメド首相がティグレ人民解放戦線(TPLF)に降伏する機会を与える。
・2020年11月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、「即時の一時停戦」を求める。
・2020年11月、国連、「本格的な人道的危機」が発生していると警告。
・2020年11月14日、TPLFが、近隣地域の空港などをロケット弾で攻撃。
・2020年11月13日、国連はマイカドラの町で発生したと伝えられている大量殺戮について、事実であれば「戦争犯罪」の可能性もあると述べた。
・2020年11月、ティグライ地域、南西エリアに位置するマイカドラの町で、数百人が刺されるなどして死亡した。
・2020年11月4日、TPLFが政府軍の軍事キャンプを攻撃。TPLFは関与を否定している。
・2020年9月、アハメド政権はコロナウイルスへの対応として国内での選挙活動を禁じ、TPLFはこれに猛反発した。TPLFはこの制限を、「中央政権の独裁体制を強化する違法行為」と見なしている。
・国内最大の民族グループはオロモ民族。TPLFはこれに属する。
・オロモ民族グループとソマリア民族グループの衝突が長年続いてる。
・1970年代~1980年代、政府の崩壊、干ばつ、飢饉で100万人以上が死亡、約800万人が影響を受けたと伝えられている。指導者はマルクス主義の独裁者、メンギスツ・ハイレ・マリアム。
・1989年、TPLFは他の反政府組織と合併、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成。
・1991年、EPRDFの軍事攻勢により、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権崩壊。
・1991年7月、EPRDF、オロモ解放戦線(OLF)などが87名の国民議会を形成。エチオピア暫定政府(TGE)を設立。
・2018年4月2日、アビィ・アハメドが首相に就任。
・2018年7月、エチオピアとエリトリア国の首脳が20年ぶりに会談、和平協定に署名。
・2018年10月25日、サーレ・ワーク・ゼウデが大統領に就任。エチオピア初の女性大統領。
・2018年の避難民数は推定140万人。
・2019年、アハメド首相がノーベル平和賞を受賞。
・政府とTPLFの緊張関係は年々悪化している。
・TPLFはエリトリア国との和平を認めていない。
・オロモ民族グループによる虐殺(数十人規模)が横行。オロモに属するアハメド首相はこれを非難している。