インド2025年詐欺被害額250億ドル超、対策急ぐ政府・中銀
インドでは近年、統一決済インターフェース(UPI)などを軸にデジタル決済が爆発的に拡大した。
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インドでオンライン詐欺が社会問題となっている。2025年に同国の一般市民が被った被害額は約250億ドル(約4兆円)に達し、世界でも突出した規模となった。スマートフォン決済やオンライン取引の急速な普及の裏で、犯罪の手口も高度化し、被害は若者から高齢者まで幅広い層に及んでいる。こうした事態を受け、中央銀行であるインド準備銀行(RBI)は対策強化に乗り出した。
インドでは近年、統一決済インターフェース(UPI)などを軸にデジタル決済が爆発的に拡大した。利便性の高さから現金に代わる主要な支払い手段として定着し、農村部にも急速に浸透している。一方で、この急拡大が詐欺グループに新たな機会を与えた。電話やメッセージアプリを使って銀行職員や警察を装い、個人情報やワンタイムパスワードをだまし取る手口が横行しているという。
特に近年注目されているのが「デジタル逮捕」と呼ばれる詐欺である。犯人は警察や政府機関を装い、被害者に対して「犯罪に関与している」などと告げ、ビデオ通話で長時間拘束しながら送金を強要する。心理的圧力をかけて判断力を奪うこの手法は、従来のフィッシング詐欺よりも巧妙で被害額も大きいとされる。
こうした詐欺は組織化・国際化も進んでいる。複数の銀行口座や携帯番号を使い分ける「マネーミュール」と呼ばれる仕組みを通じて資金を分散させ、追跡を困難にしている。実際、インドでは1日に数千件規模で不正口座が作られているとの指摘もあり、金融システム全体の脆弱性が浮き彫りになっている。
被害の拡大を受け、RBIは複数の対策を打ち出している。その一つが、小口のデジタル詐欺被害に対する補償制度の導入である。一定額までの損失については、被害者の過失を厳しく問わず補填する仕組みを検討し、特に低所得層や高齢者の保護を狙う。
さらに、銀行に対してはサイバーセキュリティ体制の強化を求めている。第三者サービスの監視強化や不審取引の早期検知システムの導入など、より「予防型」の対策が重視されている。また、不正に利用される口座を迅速に凍結できる仕組みの整備が進められ、従来よりも早い段階で被害拡大を防ぐことが期待されている。
政府も警察や通信事業者、金融機関との連携を強化している。詐欺に使われたSIMカードの無効化や不正口座の摘発、資金凍結などの取り組みが進められ、一定の成果も報告されている。2025年までに多額の不正資金が凍結され、数万人規模の関係者が逮捕された。
もっとも、対策の実効性には課題も残る。詐欺グループは新たな手口を次々と生み出し、規制や技術的対策が追いつかない側面がある。また、急速なデジタル化に伴い、金融リテラシーが十分でない利用者が増えていることも被害拡大の一因となっている。
中央政府とRBIは技術対策だけでなく啓発活動にも力を入れている。詐欺の典型的な手口や注意点を周知し、利用者自身の防御力を高めることが不可欠であるためだ。特に「警察や政府機関が電話やオンラインで送金を要求することは絶対にない」といった基本的な知識の普及が重視されている。
デジタル経済の拡大はインドの成長を支える重要な柱である一方、その安全性が揺らげば信頼そのものが損なわれかねない。250億ドルという巨額被害は単なる犯罪問題を超え、金融システムの安定や社会の信頼基盤に直結する課題である。RBIによる今回の対策はその転換点となる可能性があるものの、技術革新と犯罪のいたちごっこは今後も続くとみられる。
