尿素肥料の価格高騰続く、アルゼンチンの小麦生産に打撃、ホルムズ封鎖
2月末に始まったイランを巡る戦闘はペルシャ湾地域からの肥料供給を大きく混乱させた。
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南米有数の穀物輸出国であるアルゼンチンで、小麦生産が深刻な危機に直面している。背景には、イラン戦争の影響で急騰した尿素肥料価格があり、農家の経営判断に大きな影響を及ぼしている。
2月末に始まったイランを巡る戦闘はペルシャ湾地域からの肥料供給を大きく混乱させた。とりわけ窒素肥料の主成分である尿素の価格は1カ月余りでほぼ倍増し、1トン当たり約1000ドルに達した。戦争による物流の停滞や、ホルムズ海峡を通る輸送の制約が供給を圧迫したことが主因である。
尿素は小麦の収量を左右する重要な資材であり、その価格高騰は農家にとって死活問題である。アルゼンチンでは年間約250万トンの尿素が使用され、小麦だけでなくトウモロコシなど主要作物の生産にも不可欠な存在となっている。
しかし、作付けを目前に控えた農家の間では、肥料コストの急騰により従来の栽培計画を見直す動きが広がっている。ブエノスアイレス州の農業生産者はロイター通信の取材に対し、「小麦を作らないか、肥料を大幅に減らして収量を諦めるかの二択だ」と語り、厳しい判断を迫られている現状を明らかにした。
実際、サンタフェ州などの穀倉地帯では肥料の購入を控える農家が増加している。収益性の悪化を懸念し、小麦から大麦やオート麦といった肥料依存度の低い作物へ転換する動きや、後作としてトウモロコシや大豆の作付けに重点を移す傾向も見られる。
アルゼンチンは前シーズンに約2950万トンという過去最高水準の小麦を収穫し、世界市場における重要な供給国である。しかし、今回の肥料価格高騰が続けば、次期収穫量の減少は避けられないとの見方が強まっている。
この問題は一国にとどまらない。国連はイラン戦争による肥料不足が発展途上国の食料安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性を警告してきた。肥料は石油やガス以上に食料生産に直結するため、その供給不安は収穫量の減少や価格上昇を通じて世界的な食料危機につながりかねない。
さらに、世界の尿素や関連原料の多くが中東地域に依存していることも、問題を複雑にしている。ホルムズ海峡は肥料輸送の重要なルートであり、戦争による封鎖や混乱は供給網全体に波及する構造となっている。その結果、各国で肥料価格が上昇し、農業コストの増大が共通の課題となっている。
市場関係者は仮に中東情勢が沈静化したとしても、肥料価格が短期間で元の水準に戻る可能性は低いと指摘する。供給網の回復には時間がかかり、価格の高止まりが続く可能性があるためだ。
今回の事態は地政学的リスクが農業と食料供給に直結する現実を改めて示している。アルゼンチンの小麦生産が減少すれば、国際市場における供給不足や価格上昇を招き、世界の食料事情にも影響を及ぼす可能性がある。農家はコストと収益の間で難しい判断を迫られており、その選択が今後の食料供給の行方を左右する局面となっている。
