終わりなき戦い
人類はコロナウイルスの猛襲にさらされ、厳しい戦いを強いられている。一部の国では、依然として大規模なパンデミックやクラスターが連日発生、世界の感染者および死者数は右肩上がりで上昇し続けている。
現在、ウイルスをある程度制御している国でも「第二波」への懸念が日増しに高まっている。世界は100年に大流行したスペイン風邪の悪夢(感染者約5億人、数千万人が死亡した)を思い起こし、同じような事態を防ぐべく、各種対策を推し進めている。
スペイン風邪は、第一波より第二波の方が強烈だった。しかし、コロナウイルスが同じようになるか否かは、まだ分からない。ウォーリック大学のマイク・ディルデスリー博士はBBCの取材に対し、「第一波や第二波は科学的に定義された現象ではない。一定のサイクルで打ち寄せる波をウイルス発生に例えている」と述べた。
世界最大の感染源になったアメリカでは、5月以降の感染者数および死者数の減少に伴い、ロックダウンを段階的に緩和。人々が街に繰り出した結果、南部テキサス州などで再びパンデミックが発生し、世界は第二波発生を目撃した。
しかし、コロナウイルス対策チームの最高顧問を務めるアンソニー・ファウチ医師は記者団に対し、「我々は第一波の真っただ中にいる。第二波の心配をする前に、まず、現状を打破しなければならない。経済活動再開も大切だが、ロックダウンの緩和、解除は慎重に行うべきだ」と警告した。
コロナウイルスの第二波に直面した国(地域)の例は、北海道やシンガポールを見ると分かりやすい。北海道は感染が拡大した段階で、即、地方自治レベルの緊急事態宣言を発出、道民に対し、外出の自粛と感染予防対策の徹底を呼び掛けた。
シンガポールも感染が拡大した時点でロックダウンを発動。結果、他の南アジア諸国に比べ、感染者を著しく抑えることに成功した。しかし、北海道では緊急事態宣言を解除してから数日後に再び感染者が一気に増加、再度宣言し直す事態に至った。
シンガポールも同様。ロックダウンを段階的に緩和し感染予防対策の徹底を呼び掛けたが、感染者数の激増につながった。ただし、いずれもその後の抑え込みに成功し、死者数はかなり低い水準に抑えられている。
なお、ロックダウン完全解除から24日後に新規感染者を確認したニュージーランドと、感染者ゼロを50日継続したのちクラスターに直面した北京も、ウイルスの抑え込みに成功。第二波を粉砕した適切な対処は称賛に値する。
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セカンドウェーブとロックダウン
「世界は第二波の危機に瀕している」と恐れる前に、まずニュージーランドを見習い、第一波を完全に封じ込めなければならない。目の前の敵に集中し、打ち勝つことが重要である。
マイク・ディルデスリー博士は、「欧州諸国はウイルスをある程度抑え込み、一定レベルの鎮圧に成功した。しかし、非常に大きな不確実性を秘めていることは確かだと思う」と述べた。
コロナウイルスは死滅したわけでも、地球上から消え去ったわけでもない。アメリカやブラジルの感染状況を見れば、性急なロックダウンが危険であることは火を見るより明らかである。そして、第二波はいつどこで起こってもおかしくないと考えるべきだ。
ロンドン大学衛生熱帯医学部のアダム・クチャスキー博士はBBCの取材に対し、「免疫抗体に期待を寄せる声も一部聞かれるが、まずは、今できる感染予防対策を徹底すべきである。焦ってロックダウンを解除すれば、これまでの努力が水泡に帰すかもしれない。焦らず、無謀と思われる規制緩和を今すぐ撤回することが大切だ」と述べた。
ロックダウンは世界経済に甚大な影響を及ぼし、航空産業や観光業、国民の仕事、ティーンエイジャーの学校生活を破壊した。しかし、コロナウイルスに対する効果は抜群であり、ニュージーランド、オーストラリア、台湾、香港、日本などは、ロックダウンによって救われたと言っても過言ではない。
クチャスキー博士は、「我々は生活の混乱を最小限に抑え、ウイルスを制御すべく政府やWHOのガイドラインを遵守しつつ戦わねばならない。それを主導する政府は、究極のパズルをプレイしている気分だろう。手段を誤れば、取り返しのつかない事態につながるのだから」と述べた。
感染者数および死者数の少なかったドイツでも、ロックダウンを段階的に緩和したことで、大規模なクラスターが発生した。食肉処理場で発生した集団感染の累計は600人を超えている。
トランプ大統領のように経済活動ファーストでロックダウンの解除を推し進めれば、数カ月に及んだロックダウンの努力は消し飛び、感染者数と死者数の爆発的な増加を招く。ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、アメリカの累計感染者数は236万人超、これまでに122,000以上の死亡が確認されている。
冬、コロナウイルスの爆発的感染が現実になる、と多くの専門家が警鐘を鳴らしている。ノッティンガム大学のウイルス学者であるジョナサン・ボール教授はBBCの取材に対し、「春と夏の暖かい気候は私たちを助けてくれた。しかし、第二波はまず避けられないだろう。今年の冬に向け政府は、医療システムの拡充を進め、社会的距離やマスク着用、手洗いのルール化などを国民に浸透させ、来たるべき時に備えねばならない」と語った。
ウイルスの進化に伴う危険性(重篤化)の低下も一部議論されている。その理論によると、ウイルスは進化を遂げることでホストを殺さず、穏やかになり、拡散する力を増すという。しかし、この理論がコロナウイルスに適用されるという保証は、ない。
感染が長期に渡ることでウイルスが変異し、致死率を下げるという明確な証拠はなく、「いずれ誰もが免疫抗体を取得する。それまでのんびり待てばよい」という運を天に任せるような対策は危険極まりない。ブラジルのボルソナロ極右大統領はこの考えに近い思想でウイルスを放置し、5万人以上の国民を見殺しにした。
第二波はいつ起きてもおかしくない。その時に備え、準備と対策を推し進めることが大切である。また、第一波を防ぎきれていない国や地域は、目の前の敵に集中し、ひとりでも多くの国民を救わなければならない。
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Coronavirus: What is a second wave and is one coming? - BBC News https://t.co/LyULWlsoLG
— Nikkie (@Nikkie38383) June 23, 2020