分析:4月の日本株・円は波乱含み、持たざるリスクに一巡感
2026年春の市場は、地政学リスクとマクロ経済要因が複雑に絡み合う過渡期にある。
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現状(2026年3月時点)
2026年3月時点の国際金融市場は、2025年後半から続くインフレ鈍化と主要中銀の利下げ期待を背景に、基本的にはリスク選好が維持されてきた局面から一転し、地政学リスクの再燃によって不確実性が急速に高まっている状況にある。特に2026年2月末以降の中東情勢の緊迫化は、原油市場・為替市場・株式市場の相関構造を大きく変化させ、従来のリスクオン/オフの単純な枠組みでは説明しきれない複合的な値動きを生んでいる。
日本市場においても同様であり、日経平均株価は高値圏にあるものの、ボラティリティは顕著に上昇している一方、為替市場では円が安全資産としての性格を維持しつつも、原油高による経常収支悪化懸念から売られる場面も見られ、方向感に乏しい展開となっている。
米イラン戦争(26年2月末~)とホルムズ海峡封鎖
2026年2月末以降の米国とイランの軍事衝突は、局地的衝突の段階からエネルギー供給に直結する戦略的リスクへと発展した点において、従来の中東危機とは異なる性格を有している。特にホルムズ海峡周辺での軍事的緊張は、原油輸送の約2割が通過する要衝という性質上、グローバル経済への影響が極めて大きい。
現時点では完全封鎖には至っていないものの、部分的な航行制限や保険料の急騰により実質的な供給制約が発生しており、原油価格は急騰基調を示している。これは単なる需給ショックにとどまらず、物流コストやインフレ期待を通じて金融市場全体に波及する構造的リスクとして認識されている。
情勢の総括:楽観と警戒の交錯
市場参加者の認識は大きく二分されており、一方では過去の中東紛争と同様に限定的衝突で収束するとの楽観が存在する。他方では、エネルギー供給網への影響が長期化する可能性を織り込む警戒的見方も強まっている。
この結果、株式市場では押し目買いとリスク回避売りが交錯し、為替市場では安全資産としての円買いと資源高による円売りが同時に発生するという、相反する力が共存する構図となっている。
日本株の分析:「持たざるリスク」の一巡
2024年から2025年にかけての日本株上昇局面では、「持たざるリスク(FOMO)」が強く意識され、海外投資家を中心に継続的な資金流入が観測されてきた。しかし2026年3月時点では、この需給構造に変化が生じつつある。
具体的には、すでにポジションを積み上げた投資家が多く、追加的な買い余力が限定的となる一方、地政学リスクを理由とした利益確定売りが増加している。この結果、「持たざるリスク」は一巡し、「保有リスクの管理」へと市場心理が転換している。
需給の変化
海外投資家のフローを見ると、長期資金は依然として日本株を評価しているものの、短期資金はボラティリティ上昇を背景に回転売買を強めている。また国内機関投資家も年度末要因からポジション調整を進めており、需給はやや弱含みとなっている。
一方で、自社株買いや配当政策の強化といった企業側の資本効率改善は下支え要因として機能しており、急落局面では一定の押し目買い需要が存在する構造は維持されている。
新年度入り(4月)の影響
日本の会計年度が切り替わる4月は、機関投資家の資金配分がリセットされる重要なタイミングである。新規資金の流入期待はあるものの、2026年は地政学リスクの高さから慎重なスタートとなる可能性が高い。
特に年金基金や保険会社は、外部環境の不確実性を踏まえ、リスク資産への配分を段階的に行う可能性があり、従来のような4月初旬の一方向的な買いは期待しにくい状況にある。
テクニカル面
テクニカル分析の観点からは、日本株は長期上昇トレンドを維持しているものの、短期的には過熱感の解消局面に入っている。移動平均線との乖離やRSIの水準からも、調整圧力は無視できない。
ただし、大幅なトレンド転換を示唆するシグナルは現時点では限定的であり、地政学リスクの帰趨次第で再び上昇トレンドに回帰する余地も残されている。
為替(円)の分析:安全資産か原油高による円安か
円相場は従来、安全資産として有事に買われる特性を有してきたが、近年はエネルギー輸入依存度の高さから、原油価格上昇時に売られる側面も強まっている。このため今回の局面では、円の方向性は一義的に決まらず、複数要因の綱引きとなっている。
結果として、短期的にはニュースフローに敏感に反応し、急激な上下動を繰り返す展開が続いている。
有事の回避買い(円高要因)
地政学リスクが顕在化した局面では、グローバル投資家はリスク資産を縮小し、安全資産へ資金を移す傾向がある。この際、日本の対外純資産の大きさや金融市場の安定性が評価され、円買いが発生する。
特に株式市場の急落局面では、ヘッジ目的の円買いが加速しやすく、短期的な円高圧力として作用する。
エネルギー価格高騰(円安要因)
一方で、日本はエネルギー輸入国であるため、原油価格の上昇は貿易収支の悪化を通じて円安要因となる。今回のように供給制約が意識される局面では、この影響は通常よりも強く出る。
さらに企業収益への圧迫や国内インフレの再加速が懸念される場合、実質金利の低下を通じて円売りが進む可能性もある。
日米金利差(円安要因)
日米金利差も依然として重要な為替決定要因である。米国の政策金利が高水準を維持する一方、日本銀行の金融政策正常化が緩やかである場合、金利差を背景とした円売り圧力は持続する。
この構造は地政学リスクが存在しても大きくは変わらず、中長期的には円安バイアスを維持する要因となる。
4月の注目リスクシナリオ
4月に向けて市場が注視するのは、軍事衝突の拡大有無とエネルギー供給への実質的影響である。特にホルムズ海峡の通航状況は、原油価格と為替の両方に直結するため、最重要指標となる。
また、各国中央銀行の対応やインフレ指標の動向も重要であり、金融政策の方向性が市場のボラティリティを増幅させる可能性がある。
ホルムズ海峡の完全封鎖リスク
最悪シナリオとして想定されるのが、ホルムズ海峡の完全封鎖である。この場合、原油価格は急騰し、世界経済に深刻な供給ショックをもたらす。
日本にとってはエネルギー輸入コストの急増と企業収益の悪化を通じて、株安・円安の同時進行という厳しい環境が生じる可能性がある。
スタグフレーション懸念
エネルギー価格上昇と景気減速が同時に進行する場合、スタグフレーションへの懸念が現実味を帯びる。この場合、金融政策の選択肢は制約され、市場の不安定性は一段と高まる。
株式市場にとってはバリュエーション調整圧力が強まり、為替市場では通貨ごとのファンダメンタルズ差がより重視される局面となる。
トランプ米大統領の発言と狙い
ドナルド・トランプ大統領の発言は、市場に大きな影響を与えている。強硬姿勢を示しつつも、交渉余地を残す発言スタイルは、意図的に市場の不確実性を高める側面を持つ。
この戦略はエネルギー価格やドルの強さを通じて国内経済への影響を調整する狙いがあると考えられ、市場参加者は政策意図の読み解きを迫られている。
今後の展望
今後の市場動向は、軍事的緊張のエスカレーションの有無と、それに対する各国の政策対応によって大きく左右される。短期的にはボラティリティの高い展開が続く一方、中長期的には企業業績と金融政策が再び主導要因となる可能性がある。
日本株については構造的な改善期待が維持されているため、急落局面では押し目買いが入りやすいが、上値追いには新たな材料が必要である。
まとめ
2026年春の市場は、地政学リスクとマクロ経済要因が複雑に絡み合う過渡期にある。日本株では「持たざるリスク」が一巡し、需給主導の相場からファンダメンタルズ重視の局面へ移行しつつある。
為替市場では円の二面性が際立ち、安全資産としての側面と資源輸入国としての弱点が同時に作用している。4月は新年度要因も重なり、市場の方向性を見極める重要な転換点となる。
参考・引用リスト
- 国際エネルギー機関(IEA)統計資料
- 国際通貨基金(IMF)世界経済見通し
- 各国中央銀行(FRB、日本銀行)公表資料
- 主要金融機関リサーチレポート(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー等)
- 主要メディア(Bloomberg、Reuters、Financial Times)報道
- 海運・エネルギー関連統計資料(Lloyd’s List等)
追記:新年度の新規資金流入vs中東リスクを嫌気した利益確定
新年度入りに伴う新規資金流入は、日本株における需給面の下支え要因として毎年重要な役割を果たしてきたが、2026年4月はその効果が相対的に弱まる可能性が高い局面にある。年金基金や投資信託によるリバランス資金は例年通り流入が見込まれるものの、中東情勢の不透明感が強い中では、積極的なリスクテイクは抑制されやすい構造にある。
一方で、2024年以降の上昇局面で積み上がった含み益を背景に、海外投資家を中心とした利益確定売りが出やすい環境が形成されている。特に短期筋は地政学リスクの高まりをトリガーとしてポジション圧縮を進める傾向があり、「新規資金流入」と「利益確定売り」が同時に発生することで、指数ベースでは方向感の乏しいボックス圏相場が形成されやすい。
この二項対立は、単なる需給の均衡にとどまらず、ボラティリティの上昇を通じて市場構造そのものを変化させる可能性を持つ。すなわち、資金の流入規模以上に回転売買が活発化し、短期的な価格変動が拡大する一方で、中長期投資家は段階的なエントリーを志向するという、時間軸の分断が鮮明化する局面と位置付けられる。
個別銘柄のファンダメンタルズと原油耐性が試される選別局面
指数全体の方向感が乏しい環境では、個別銘柄のファンダメンタルズに対する評価が相対的に重要性を増す。特に今回の局面では、原油価格上昇という明確なマクロショックが存在するため、「原油耐性」の違いが企業価値の差異として顕在化しやすい。
例えば、エネルギーコストの価格転嫁力を持つ企業や、サプライチェーンの多様化が進んでいる企業は、収益への影響を限定的に抑えられる可能性が高い。一方で、燃料コスト依存度が高く、価格転嫁が困難な業種では、利益率の急低下が懸念され、バリュエーションの修正圧力が強まる。
さらに、輸出企業においては為替の影響も複合的に作用するため、単純な円安メリットが必ずしも収益改善に直結しない点が重要である。すなわち、原材料価格の上昇と物流コストの増加が為替効果を相殺するケースが増えることで、従来の「円安=輸出株買い」という単純な投資ロジックは機能しにくくなる。
この結果、市場はセクター単位ではなく、企業ごとの収益構造やコスト管理能力に着目したミクロ分析へとシフトする。いわば「指数相場から選別相場への移行」が進行する局面であり、アクティブ運用の重要性が再評価される環境といえる。
市場の関心の変化:「衝突そのもの」から「供給網(サプライチェーン)への波及」へ
当初、市場の焦点は米イラン間の軍事衝突そのものの激化度合いに置かれていたが、時間の経過とともに関心はより実体経済への影響へと移行している。特に重要なのは、エネルギー供給を起点としたサプライチェーン全体への波及である。
ホルムズ海峡周辺の緊張は、単なる原油供給の問題にとどまらず、海上輸送の遅延や保険コストの上昇を通じて、あらゆる貿易財の価格形成に影響を及ぼす。このような「二次的ショック」は、企業の在庫戦略や調達行動を変化させ、結果として世界的な供給制約を引き起こす可能性がある。
また、サプライチェーンの混乱は地域的にも非対称に影響を与えるため、国・地域ごとの経済格差を拡大させる要因ともなる。エネルギー自給率の低い日本にとっては、コスト増加の影響が相対的に大きく、企業収益だけでなく家計部門にも波及する点が重要である。
市場参加者の視点がこのように「戦争イベント」から「経済波及経路」へとシフトすることで、分析の軸も短期ニュースから中期的な需給構造へと移行する。これは価格形成の時間軸を長期化させる一方で、短期的には不確実性を増幅させる要因ともなる。
追記まとめ:需給・ファンダメンタルズ・マクロの三層構造
以上を踏まえると、2026年4月の日本市場は、①新年度資金と利益確定売りの需給対立、②企業ごとの原油耐性に基づく選別、③サプライチェーンへの波及というマクロ視点、の三層構造で理解する必要がある。
この三層は相互に独立しているわけではなく、例えば原油価格上昇(マクロ要因)が企業収益(ファンダメンタルズ)に影響し、それが投資家行動(需給)を変化させるという連鎖的な関係にある。したがって、単一の視点ではなく、多面的な分析が不可欠となる。
最終的に市場の方向性を決定づけるのは、これら三層のバランスであり、いずれか一つが突出した場合にトレンドが明確化する。現時点では均衡状態にあるものの、ホルムズ海峡情勢や原油価格の変動がその均衡を崩すトリガーとなる可能性が高く、引き続き高い注意が必要な局面である。
