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便秘と下痢を繰り返すのは大腸がん?「過敏性腸症候群」と似た症状、どう見分ける?

便秘と下痢を繰り返す症状は、過敏性腸症候群をはじめとする機能性の病気でも、大腸がんなどの器質的な病気でも起こり得る。両者には症状の重なりがあるため、便通異常のパターンやストレスとの関連だけで、原因を確実に見分けることはできない。
便秘のイメージ(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

便秘と下痢を繰り返す症状は、日常生活で比較的よく経験される消化器症状の1つである。食生活の乱れやストレス、腸の運動機能の変化などが原因となる一方、大腸がんをはじめとする器質的な病気でも、便通の異常が現れることがある。

とりわけ注意が必要なのは、過敏性腸症候群と大腸がんでは、腹痛、便秘、下痢、便通の変化といった症状が重なる点である。症状だけを根拠に「ストレスのせいだ」と判断することも、反対に「大腸がんに違いない」と考えることも、医学的には適切ではない。

2026年10月時点で参照できる国立がん研究センターの公開資料によると、日本では大腸がんと診断される人が年間15万人を超えており、大腸がんは国内で特に患者数の多いがんの1つである。また、早期の大腸がんでは自覚症状がほとんどない場合も多く、症状がないことだけで病気を否定することはできない。

一方、日本消化器病学会が公表する過敏性腸症候群の診療指針では、腸の運動機能や知覚、脳と腸の相互作用、心理的要因などが複合的に関係する病態として、この疾患が整理されている。したがって、便通の異常を正しく評価するには、症状の現れ方だけでなく、持続期間、年齢、家族歴、出血の有無、体重の変化などを総合的に確認する必要がある。

本稿では、便秘と下痢を繰り返す仕組みを整理したうえで、過敏性腸症候群と大腸がんの特徴を比較し、医療機関での診断や受診を検討すべき危険な兆候について検証する。なお、以下は一般的な医学情報の解説であり、個々の症状から病気を確定するものではない。

なぜ「便秘と下痢を繰り返す」のか?(メカニズムの違い)

便の硬さや排便回数は、大腸が水分を吸収する働きと、便を肛門へ送り出す運動によって左右される。便が大腸内に長くとどまれば水分が多く吸収されて硬くなり、反対に腸内の通過が速くなれば水分が十分に吸収されず、軟便や下痢になりやすい。

便秘と下痢を交互に繰り返す場合、腸の運動が不安定になっている可能性がある。ただし、その原因は1つではなく、腸の機能的な異常、便の通過障害、薬の影響、感染症、炎症性腸疾患など、さまざまな病態を考慮する必要がある。

重要なのは、便秘と下痢が交互に起こるという事実だけでは、原因を特定できないことである。特に、以前は規則的だった排便習慣が急に変わり、その状態が持続している場合には、単なる体調の変化として片づけず、背景にある病気を調べることが重要となる。

過敏性腸症候群の場合

過敏性腸症候群は、腸に明らかな構造的異常が見つからない場合でも、腹痛や腹部不快感とともに便通の異常が慢性的に続く病気である。腸の運動、内臓の知覚、脳と腸の情報伝達などが関係し、便秘が主体となる型、下痢が主体となる型、両者が混在する型などに分類される。

例えば、緊張する場面や通勤・通学の前に腹痛や便意が強まり、排便すると症状が軽くなる人がいる。また、便秘が数日続いた後に軟便や下痢が現れるなど、排便の状態が日によって変化することもある。

ただし、過敏性腸症候群を単純に「ストレスが原因の病気」と説明するのは正確ではない。ストレスは症状を悪化させる要因になり得るものの、腸内細菌の変化、感染性腸炎の後に生じる変化、内臓知覚の過敏化なども関係すると考えられている。

大腸がんの場合

大腸がんは、大腸の内側を覆う粘膜から発生する悪性腫瘍である。腫瘍が大きくなって腸の内側の空間を狭めたり、表面から出血したりすると、便通の変化や血便などの症状が現れることがある。

腸の通り道が狭くなると、便が通過しにくくなり、便秘や腹部膨満感が起こる場合がある。一方、狭くなった部分を液状の便が通過したり、便が十分に排出されなかったりすることで、下痢のような排便が生じることもあり、便秘と下痢が交互に現れる場合がある。

ただし、便秘と下痢の反復が必ずしも大腸がんを意味するわけではない。大腸がんの初期には症状が現れないこともあり、反対に、便通の異常があるからといって、直ちにがんが疑われるわけでもない。

両者の違いを理解するうえで重要なのは、過敏性腸症候群では腸の機能や知覚の変化が中心となるのに対し、大腸がんでは腫瘍という物理的な病変が存在する点である。ただし、症状には重なりがあるため、最終的な判断には医師による診察と、必要に応じた検査が欠かせない。

過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群は、腹痛や腹部の不快感に加え、下痢や便秘などの便通異常が慢性的に繰り返される病気である。検査で明らかな腫瘍や炎症などが確認されない場合でも、腸の働きや感覚に異常が生じることで症状が現れる。

過敏性腸症候群は、単に精神的なストレスによっておなかを壊す状態とは異なる。腸の運動、腸が刺激を感じ取る仕組み、脳と腸の相互作用、腸内細菌、過去の感染症など、複数の要因が関与する機能性消化管疾患として理解されている。

メカニズム

過敏性腸症候群を理解するうえで重要なのが、脳と腸が互いに情報を伝え合う「脳腸相関」という仕組みである。脳がストレスや不安を感じると、自律神経や内分泌系などを通じて腸の運動や知覚に影響が及び、腹痛や便意が強まることがある。

反対に、腸内で生じた刺激や不快感が神経を通じて脳に伝わり、不安や緊張を強めることもある。このように、心理的な状態と消化管の症状が互いに影響し合うため、症状が続くこと自体が新たなストレスとなり、悪循環が形成される場合がある。

また、腸が通常なら問題にならない程度の刺激にも過敏に反応する「内臓知覚過敏」も、重要な仕組みの1つである。腸内に便やガスがたまった際、一般には軽い膨満感で済む刺激でも、過敏性腸症候群の患者では強い腹痛や便意として感じられることがある。

便秘と下痢を繰り返す混合型では、腸の運動や便の通過時間が安定せず、硬い便と軟らかい便が交互に現れることがある。ただし、便秘が続いた後に下痢が起こるという経過だけでは、過敏性腸症候群と診断することはできない。

特徴

過敏性腸症候群の特徴は、腹痛や腹部不快感と便通の変化が関連していることである。排便によって腹痛が軽減したり、腹痛の発生とともに排便回数や便の形状が変化したりする場合は、診断を考えるうえで重要な情報となる。

症状は朝の通勤・通学時、会議や試験の前、緊張する場面などで強くなることがある一方、休日やリラックスしている時間帯には軽減する場合もある。食事の内容や摂取量によって腹痛、膨満感、下痢などが誘発される人もいる。

ただし、症状がストレスに左右されるからといって、過敏性腸症候群だと断定することはできない。大腸がんや炎症性腸疾患などを持つ人でも、ストレスによって腹部症状が悪化する可能性があるためである。

過敏性腸症候群は、主に便の状態に基づいて、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分けられる。混合型では硬便と軟便の両方が一定の頻度で認められるが、診断には症状の持続期間や腹痛との関係など、定められた基準に沿った評価が必要となる。

診断では、症状がいつから始まったか、排便によって腹痛が変化するか、便の形や頻度がどう変わったかなどを確認する。さらに、血便、原因不明の体重減少、貧血、発熱などがある場合は、別の病気が隠れていないか慎重に調べる必要がある。

大腸がん

大腸がんは、大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍であり、発生部位は結腸と直腸に大別される。発生には、加齢、遺伝的要因、生活習慣などが関与し、腺腫と呼ばれるポリープの一部が時間をかけてがん化する経路のほか、ポリープを経ずに発生する経路も知られている。

大腸がんは、早期には自覚症状がほとんどない場合がある一方、進行すると血便、便通の変化、腹痛、貧血、体重減少などが現れることがある。ただし、これらの症状はいずれも大腸がんだけに特有のものではなく、良性の病気でも生じるため、症状の有無だけで判断することはできない。

メカニズム

大腸がんによって便通が変化する主な仕組みの1つは、腫瘍が腸管の内側に突出し、便が通過する空間を狭めることである。特に腫瘍が大きくなり、腸管の内腔が狭くなると、便が通りにくくなり、便秘、腹部膨満、腹痛などが生じる場合がある。

腸管の狭窄が進むと、便が細くなったり、排便しても便が残っているように感じたりすることがある。ただし、便の細さは便の水分量や腸の収縮などにも左右されるため、細い便が出るという理由だけで大腸がんを疑うことはできない。

また、大腸がんの表面は出血しやすく、便が腫瘍に接触することで血液が混じる場合がある。出血が少量で断続的に起きると、肉眼では確認できず、長期間にわたる出血によって鉄欠乏性貧血が進行することもある。

便秘と下痢が交互に起こる背景には、腫瘍による通過障害に加え、腸管内の便や液体の移動の変化などが関係する可能性がある。しかし、こうした症状の組み合わせは大腸がんに特有ではなく、過敏性腸症候群や便秘に伴う便の漏出などでも見られるため、症状の経過と検査結果を合わせて評価する必要がある。

さらに、がんが進行すると、腸管の閉塞によって便やガスが排出できなくなることがある。強い腹痛、腹部の著しい膨満、嘔吐、便もガスも出ない状態が生じた場合は、腸閉塞などの緊急性の高い病態が疑われるため、速やかな医療機関での評価が必要である。

特徴

大腸がんを疑ううえで重要なのは、以前と比べて排便習慣が変化したかどうかである。これまで便通に問題がなかった人に便秘や下痢が新たに現れ、その状態が続く場合は、年齢やほかの症状も考慮して原因を調べる必要がある。

特に、血便、便通異常の持続、原因不明の体重減少、貧血などが重なっている場合は、医療機関への受診を先延ばしにすべきではない。ただし、こうした症状があっても必ず大腸がんとは限らず、痔、腸炎、消化管出血を起こす別の病気なども鑑別の対象となる。

大腸がんの症状は、腫瘍の発生部位によっても異なる。一般に、右側の結腸では腸管の内腔が比較的広く、便も液状に近いため、狭窄症状が目立ちにくく、慢性的な出血による貧血や倦怠感が先に現れる場合がある。

一方、左側の結腸や直腸では、便が固形に近づいていることなどから、腸管の狭窄による便通の変化や、血便、残便感などが症状として現れることがある。ただし、これは一般的な傾向であり、部位だけで症状や進行度を一律に予測することはできない。

大腸がんは早期発見が重要であり、症状が出るまで待つことが望ましいわけではない。日本では、対象年齢の人に対して便潜血検査による大腸がん検診が推奨されているが、検診は主に無症状の人を対象とするものであり、血便や持続する便通異常がある人は、検診だけで済ませず診療として評価を受ける必要がある。

症状の比較と見分け方のポイント

便秘と下痢を繰り返す場合、過敏性腸症候群と大腸がんのどちらが原因なのかを、症状だけで確実に見分けることはできない。診断では、発症した時期、症状の持続期間、便の性状、出血の有無、年齢、家族歴、体重や血液検査の変化などを総合的に評価する。

過敏性腸症候群では、腹痛と排便の関係が比較的明確で、症状が長期間にわたり変動することが多い。一方、大腸がんでは、新たに生じた便通異常が持続したり、血便や貧血などの症状が加わったりすることがあるが、こうした違いは絶対的なものではない。

また、過敏性腸症候群の症状がある人に大腸がんが発生する可能性も否定できない。過去に過敏性腸症候群と診断されていても、症状の質が変わった場合や、新たな危険な兆候が現れた場合には、改めて医師の評価を受けることが重要である。

主な原因

便秘と下痢を繰り返す原因は多岐にわたる。過敏性腸症候群や大腸がん以外にも、慢性便秘、感染性腸炎、炎症性腸疾患、薬剤の副作用、甲状腺機能の異常などが便通の変化を引き起こすことがある。

食事内容や生活習慣も排便に影響する。食物繊維や水分の摂取量、脂肪分の多い食事、飲酒、カフェイン、運動不足、睡眠不足などによって便の状態が変わる場合があるが、これらの要因だけで説明できると決めつけるべきではない。

また、便秘が続いた後に液状の便が少量ずつ漏れ出す「溢流性下痢」という状態もある。硬い便が直腸などにたまっているところを液状の便が通過することで下痢のように見えるため、下痢があるからといって、腸の内容物が正常に排出されているとは限らない。

薬剤の影響にも注意が必要である。下剤、抗菌薬、マグネシウム製剤、一部の糖尿病治療薬、鉄剤、オピオイド系鎮痛薬などは、種類や使用状況によって下痢や便秘を引き起こすことがあるため、服用中の薬を医師に伝えることが大切である。

年齢層

大腸がんは年齢とともに発症リスクが高まる傾向があり、特に40歳代以降は注意が必要となる。日本の大腸がん検診では、原則として40歳以上を対象に、年1回の便潜血検査が推奨されている。

ただし、40歳未満なら大腸がんにならないという意味ではない。若年者でも大腸がんは発生し、家族歴や遺伝性の疾患などによってリスクが高くなる場合があるため、年齢だけで受診の必要性を判断してはならない。

過敏性腸症候群は若年から中年の人にも多く見られ、仕事や学校でのストレス、生活リズムの変化などが症状に影響することがある。しかし、年齢が若いことやストレスを自覚していることは、大腸がんなどの器質的疾患を除外する根拠にはならない。

特に、親や兄弟姉妹などの近親者に大腸がんの既往がある場合は、家族歴を医師に伝える必要がある。家族の発症年齢や人数によっては、一般的な検診開始年齢より早い段階での評価が検討されることもある。

血便・粘血便

血便は、大腸がんを含む消化管の病気を調べるうえで重要な症状である。便に鮮やかな赤い血が付着する場合、直腸や肛門に近い部分からの出血が考えられる一方、暗赤色の血便では大腸の奥などからの出血が疑われることもあるが、色だけで出血源を特定することはできない。

粘血便は、粘液と血液が混じった便を指し、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患で見られることがある。大腸がんでも出血が生じる場合はあるものの、血便や粘血便だけで原因を判定することはできず、痔や感染性腸炎なども含めた鑑別が必要となる。

黒く、粘り気のあるタール状の便は、胃や十二指腸など上部消化管からの出血を示す可能性がある。ただし、鉄剤などの服用によって便が黒くなる場合もあるため、自己判断で原因を決めつけず、黒色便が見られた場合は速やかに医療機関に相談することが重要である。

出血量が多い場合、めまい、冷や汗、息切れ、動悸、強い腹痛などを伴う場合には、緊急性の高い状態も考えられる。大量の出血や意識が遠のくような症状がある場合は、救急医療を利用する必要がある。

便の形状

便の形状は、腸内の水分量や便の通過時間、腸管の状態などを反映する。硬くて小さな便は便秘で見られやすく、水のような便は下痢で見られるが、形状の変化だけで特定の病気を診断することはできない。

大腸がんによって腸管が狭くなると、便が細くなることがある。特に、以前と比べて便が急に細くなり、その変化が持続する場合には注意が必要だが、便の太さは排便時の力みや便の硬さなどにも左右されるため、細い便が出るだけでがんを意味するわけではない。

排便後も便が残っているように感じる残便感は、直腸の病変のほか、便秘、過敏性腸症候群、骨盤底の排便機能の異常などでも生じる。残便感が持続したり、便通の変化や血便を伴ったりする場合には、医療機関で原因を調べることが望ましい。

便の形状を記録する際には、ブリストル便形状スケールという分類が参考になる。この分類では、硬い粒状の便から水様便までを7段階に分け、排便の状態を評価するが、便の形状だけで過敏性腸症候群と大腸がんを区別することはできない。

全身症状・体重

過敏性腸症候群では、腹痛や便通異常が長期間続いても、通常は病気そのものによって進行性の体重減少や貧血が生じるわけではない。症状によって食事量が減ったり、外出を控えたりすることで生活の質が低下することはあるが、意図しない体重減少が続く場合には、ほかの病気がないか確認する必要がある。

大腸がんでは、腫瘍からの慢性的な出血によって貧血が生じたり、病気の進行に伴って食欲低下や体重減少が現れたりすることがある。特に、食事制限や運動量の増加などの明確な理由がないのに体重が減少した場合は、軽視すべきではない。

貧血があると、疲れやすさ、息切れ、動悸、顔色の悪さなどが現れる場合がある。ただし、貧血の原因は大腸がんに限らず、胃潰瘍、月経による出血、栄養不足などさまざまであるため、血液検査などを通じて原因を特定することが重要となる。

また、発熱や夜間に目が覚めるほどの下痢、強い倦怠感などがある場合も、過敏性腸症候群だけでは説明できない病態を検討する必要がある。全身症状があるから必ず重い病気というわけではないが、便通異常と組み合わさっている場合は、診断の手掛かりとして医師に伝えるべきである。

痛みの性質

過敏性腸症候群では、腹痛や腹部不快感が排便と関連して変化することが多い。排便すると痛みが軽くなったり、便秘や下痢が悪化する時期に腹痛も強まったりする場合は、診断を考えるうえで参考となる。

一方、大腸がんでは、腫瘍による腸管の狭窄や腸閉塞などに伴って腹痛が現れる場合がある。痛みが持続する、次第に強くなる、腹部膨満や嘔吐を伴うなどの変化があれば、速やかな診察が必要となる。

ただし、痛みの強さや性質だけで両者を区別することはできない。過敏性腸症候群でも強い腹痛が起こることがあり、大腸がんでも早期には痛みがほとんどない場合があるため、痛みが軽いことや排便で改善することを理由に重大な病気を否定することはできない。

突然の激しい腹痛、腹部の著しい膨満、繰り返す嘔吐、便やガスがまったく出ない状態などは、腸閉塞などの緊急性の高い病気を示す可能性がある。このような症状がある場合は、通常の外来受診を待たず、救急医療機関での評価を受けることが重要である。

「除外診断」と医療機関でのアプローチ

過敏性腸症候群は、症状の特徴や経過を確認し、ほかの病気の可能性を適切に評価したうえで診断される。これを一般に「除外診断」と説明することがあるが、あらゆる病気を無制限に検査して否定しなければ診断できないという意味ではない。

実際の診療では、腹痛と排便の関係、便の形状や回数、症状が始まった時期、年齢、家族歴、服薬状況などを確認し、必要な検査を選択する。血便、原因不明の体重減少、貧血、発熱、進行する症状などがある場合には、大腸がんや炎症性腸疾患をはじめとする器質的な病気を調べる重要性が高まる。

問診と診察

医師は、便秘と下痢がいつから続いているか、両者がどのような順序で起こるか、腹痛が排便によって変化するかなどを確認する。便の形状、排便回数、血液や粘液の有無、夜間の症状、食事との関係も、原因を絞り込むための重要な情報となる。

また、年齢や大腸がんの家族歴、過去の大腸ポリープ、炎症性腸疾患の既往、服用中の薬なども診断に影響する。症状が始まった時期と、それ以前の排便習慣を比較することで、一時的な変化なのか、新たな異常が持続しているのかを判断しやすくなる。

血液検査・便検査

血液検査では、貧血や炎症の兆候などを調べ、出血や炎症性疾患などの可能性を評価する。必要に応じて、鉄の状態、甲状腺機能、電解質などを調べることもあるが、実施する項目は症状や診察所見によって異なる。

便潜血検査は、便に混じった微量の血液を検出する検査であり、大腸がん検診にも用いられる。ただし、陰性であっても大腸がんを完全に否定できるわけではなく、症状が続いている場合は、結果だけを根拠に受診を取りやめるべきではない。

便検査では、必要に応じて感染症などの可能性を調べることもある。検査の選択は、下痢の持続期間、発熱の有無、渡航歴、食事歴、服薬歴などを踏まえて行われる。

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査は、大腸の内側を直接観察し、ポリープや腫瘍、炎症などの病変を確認する検査である。疑わしい病変があれば組織を採取して詳しく調べることができ、大腸がんの診断に重要な役割を果たす。

大腸がんが疑われる症状がある場合や、便潜血検査で陽性となった場合などには、医師が必要性を判断して精密検査を行う。検査の対象や実施時期は個々の状況によって異なり、すべての便通異常に直ちに大腸内視鏡検査が必要というわけではない。

一方、症状が過敏性腸症候群に合致していても、年齢や危険な兆候、家族歴などによっては追加検査が必要となる。診断の目的は、単に大腸がんを否定することではなく、症状の原因を適切に特定し、必要な治療につなげることにある。

受診を検討すべき「危険なサイン」のまとめ

便秘と下痢を繰り返す症状がある場合、最も重要なのは、経過を観察してよい状態なのか、早急に検査を受けるべき状態なのかを見極めることである。以下の兆候がある場合は、過敏性腸症候群と自己判断せず、医療機関で原因を調べることが望ましい。

なお、危険な兆候がなくても大腸がんを完全に否定することはできない。症状が続く場合や以前と明らかに排便習慣が変わった場合には、年齢だけで判断せず、医師に相談することが重要である。

「便通の異常(下痢・便秘)が4週間以上続いている、または悪化している」

便秘や下痢が4週間以上続いている場合、あるいは症状が次第に悪化している場合は、医療機関で原因を確認することが望ましい。4週間という期間は、すべての患者に共通する絶対的な診断基準ではないが、症状が長引く場合に受診を検討する実用的な目安となる。

便通異常の背景には、過敏性腸症候群のほか、慢性便秘、炎症性腸疾患、薬剤の影響、大腸がんなどが考えられる。特に、これまで問題がなかった人に新たな便通異常が現れ、改善せずに続く場合は、単なるストレスや食生活の乱れと決めつけないことが重要である。

「便に血が混じっている、または黒い便(血便・下血)が出る」

便に血液が混じっている場合は、痔などの比較的よくある病気だけでなく、大腸がんや炎症性腸疾患なども考慮する必要がある。出血が少量であったり、痛みがなかったりしても、原因を自己判断せず、医療機関で評価を受けるべきである。

黒く粘り気のある便は、胃や十二指腸などからの出血を示す可能性があるため、速やかな受診が必要となる。大量の血便、黒色便に伴うめまいや冷や汗、失神、強い腹痛などがある場合は、緊急性が高いため救急医療を利用する。

「便の形が急に細くなった、あるいは残便感が常にスッキリしない」

便が以前より急に細くなり、その変化が続いている場合は、大腸や直腸の病変によって便の通過が妨げられていないかを調べる必要がある。ただし、便の太さは便の硬さや排便時の力みなどでも変化するため、細い便だけで大腸がんと判断することはできない。

残便感が続く場合も、直腸の病変、慢性便秘、過敏性腸症候群、排便機能の異常など、複数の原因が考えられる。便の形状の変化が持続する場合や、血便、腹痛、体重減少などを伴う場合には、早めに医師へ相談することが望ましい。

「特に食事制限をしていないのに、体重が急に減った(または貧血を指摘された)」

食事量や運動量に大きな変化がないにもかかわらず体重が減少している場合は、消化器疾患を含むさまざまな病気を調べる必要がある。大腸がんでは、慢性的な出血や病気の進行に伴って、貧血、食欲低下、体重減少などが現れることがある。

特に、鉄欠乏性貧血を指摘された場合や、疲れやすさ、息切れ、動悸などが続く場合は、出血源を含めて原因を確認することが重要である。ただし、体重減少や貧血には多くの原因があるため、これらの症状だけで大腸がんと決めつけず、適切な検査を受ける必要がある。

「40代以上である、または家族に大腸がんの既往歴(経験者)がいる」

大腸がんは40歳代以降に発症する人が増えるため、40歳以上では定期的な大腸がん検診が重要となる。日本では、無症状の人を対象に、40歳以上で年1回の便潜血検査による検診が推奨されている。

ただし、症状がある人は、検診の時期まで待つのではなく、診療として医療機関を受診することが重要である。また、親や兄弟姉妹などの近親者に大腸がんの経験者がいる場合は、家族歴を医師に伝え、必要に応じて検査の開始時期や方法について相談するべきである。

若年者であっても、大腸がんや炎症性腸疾患などが発生する可能性はある。年齢が若いこと、ストレスが強いこと、過去に過敏性腸症候群と診断されたことだけを理由に、持続する便通異常や血便を放置してはならない。

今後の展望

過敏性腸症候群の研究では、脳腸相関、腸内細菌、免疫反応、内臓知覚過敏など、症状に関与する仕組みの解明が進んでいる。今後は、患者ごとの病態や症状に合わせて、食事指導、生活習慣の改善、薬物療法、心理的な支援などを組み合わせる個別化医療の発展が期待される。

一方、大腸がん対策では、検診による早期発見と、適切な精密検査への接続が重要である。便潜血検査は無症状の人を対象とする有効な検診方法だが、陽性の場合には精密検査を受ける必要があり、陰性でも症状がある場合には診療として評価を受けることが求められる。

人工知能を用いた画像解析や内視鏡診断支援なども研究・実用化が進んでいるが、こうした技術がすべての病変を確実に検出できるわけではない。技術の進歩を活用しながらも、症状の変化を見逃さず、適切な時期に医療機関を受診することが、今後も重要な対策となる。

また、一般向けの健康情報では「便秘と下痢を繰り返したら大腸がん」といった単純化された説明や、「ストレスが原因だから心配ない」とする説明が、過度な不安や受診の遅れにつながるおそれがある。今後は、症状だけでは病気を区別できないこと、危険な兆候がある場合には検査が必要であること、無症状の人には定期検診が重要であることを、正確に伝える取り組みが求められる。

まとめ

便秘と下痢を繰り返す症状は、過敏性腸症候群をはじめとする機能性の病気でも、大腸がんなどの器質的な病気でも起こり得る。両者には症状の重なりがあるため、便通異常のパターンやストレスとの関連だけで、原因を確実に見分けることはできない。

過敏性腸症候群では、腹痛と排便の関係、症状の反復、脳腸相関などが診断を考えるうえで重要となる。一方、大腸がんでは血便、持続する便通の変化、貧血、原因不明の体重減少などに注意が必要だが、早期には自覚症状がない場合もある。

便通異常が4週間以上続く、症状が悪化する、便に血が混じる、便の形が急に変わる、体重が減少するといった兆候がある場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関で相談することが望ましい。大量出血、失神、激しい腹痛、繰り返す嘔吐などがある場合には、緊急の診療が必要となる。

大腸がんの早期発見には、無症状の段階から定期的に検診を受けることも重要である。日本では40歳以上を対象とした年1回の便潜血検査が推奨されているが、症状がある場合は検診だけに頼らず、診療として原因を調べる必要がある。

最も大切なのは、便秘と下痢の反復を過度に恐れることでも、ストレスのせいだと決めつけることでもない。症状の変化を正しく把握し、危険な兆候があれば早めに受診し、必要な検査を受けることが、適切な診断と治療につながる。


参考・引用リスト

公的機関・専門機関

1. 国立がん研究センター「大腸がん検診について」

2. 国立がん研究センター「大腸がん(結腸がん・直腸がん)予防・検診」

3. 国立がん研究センター中央病院「大腸がんの症状について」

4. 厚生労働省「大腸がん検診」

5. 日本消化器病学会『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)』

医学的解説・診断基準

6. 慶應義塾大学病院「過敏性腸症候群」

7. 福士審「過敏性腸症候群の診療総論―現状と今後の展望―」『日本消化器病学会雑誌』第116巻第7号、2019年。

8. 千葉俊美「改訂学会ガイドラインに基づく過敏性腸症候群の診断」『臨牀消化器内科』第36巻第5号、2021年。


追記:便秘と下痢を繰り返す症状を正しく理解するために

症状の記録が診断の精度を高める

便秘と下痢を繰り返す場合、医療機関を受診する前に症状の経過を記録しておくと、診断の手掛かりになる。排便の回数、便の形状、腹痛の程度、血液や粘液の有無、食事との関係、服薬状況などを記録すれば、医師が症状の特徴を把握しやすくなる。

特に重要なのは、以前の排便習慣と比べて何が変わったかという点である。便秘や下痢が始まった時期、症状が続く期間、体重の変化、夜間の症状などを整理しておけば、過敏性腸症候群とほかの消化器疾患を鑑別する際に役立つ。

ただし、症状の記録は医師の診察や検査の代わりにはならない。血便、急激な体重減少、強い腹痛などがある場合は、記録を続けることよりも受診を優先する必要がある。

自己判断による対処に潜むリスク

便秘と下痢が交互に現れると、市販の下剤や止瀉薬を使って症状を抑えようとする人もいる。しかし、原因が特定されていない段階で薬を繰り返し使用すると、症状の悪化につながったり、背景にある病気の発見が遅れたりする可能性がある。

例えば、便が腸内にたまっているために液状便が漏れ出す溢流性下痢では、下痢だけを抑えようとすると状態が悪化することがある。また、発熱や血便を伴う下痢では、感染症や炎症性疾患などが疑われるため、自己判断で止瀉薬を使用せず、医師や薬剤師に相談することが重要である。

食事についても、自己流の極端な制限は避けるべきである。特定の食品を一律に排除するのではなく、症状との関係を確認しながら、必要に応じて医師や管理栄養士の助言を受けることが望ましい。

大腸がん検診と症状がある場合の診療は別のもの

大腸がんの早期発見には、症状がない段階から定期的に検診を受けることが重要である。日本では40歳以上を対象に、便潜血検査による大腸がん検診を年1回受けることが推奨されている。

便潜血検査で陽性となった場合は、精密検査を受ける必要がある。一方、陰性であっても大腸がんを完全に否定できるわけではなく、血便や持続する便通異常などの症状がある場合には、検診結果だけで安心せず、医療機関で診察を受けることが重要である。

検診は主に無症状の人を対象としたものであり、症状がある人に対する診療とは目的が異なる。この違いを理解することは、受診の遅れを防ぎ、大腸がんを含む消化器疾患の早期発見につながる。

最後に

便秘と下痢を繰り返す症状は、過敏性腸症候群だけでなく、大腸がん、慢性便秘、炎症性腸疾患、感染症、薬剤の影響など、さまざまな原因によって起こる。症状の現れ方には一定の傾向があるものの、過敏性腸症候群と大腸がんを症状だけで確実に区別することはできない。

血便、黒色便、持続する便通異常、急な便の形状変化、原因不明の体重減少、貧血などは、医療機関での評価を検討すべき重要な兆候である。大量出血、失神、激しい腹痛、繰り返す嘔吐、便もガスも出ない状態などがある場合には、緊急の受診が必要となる。

症状がストレスと関連している場合でも、それだけを根拠に過敏性腸症候群と決めつけるべきではない。症状の変化を記録し、適切な時期に医療機関を受診し、必要な検査を受けることが、正確な診断と適切な治療への第一歩となる。

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