旅行代理店Panaで開催されたZoom会議。一部の従業員に解雇が通知された

Zoom解雇通知

旅行代理店の新興企業”Pana”は、全従業員を介したZoom会議を開催し、一部の従業員に解雇を通知した。1回目の会議(AM9:00)で解雇通知が行われ、解雇を免れた者たちは2回目の会議(AM9:45)に参加したという。

Zoom会議は、主催者から出席者に通知メールなどで開催する旨を伝える。同社の営業責任者を務めるルーシー・タウンゼント氏は、デスクトップ画面から事実を伝えられたことに驚愕し、目の前が真っ白になった。

「全従業員が集まっている場で解雇を通知されることはストレス以外の何ものでもない。頭が混乱し、情報を処理することができず、何が起きたのか分からなかった。私はAM9:00の会議に参加し、解雇された。その瞬間、ビデオをオフにした

タウンゼント氏は15人の同僚との”面談中”に解雇を通知された。その後幹部は、福利厚生、退職金、今後の身の振り方について説明したという。

コロラド州デンバーに拠点を置くPanaは、コロナウイルスの影響で業績が大幅に悪化。従業員たちは海外および国内旅行という概念が崩壊したことに焦り、不安な日々を過ごしていた。

パンデミックに伴う企業の倒産、大量解雇事案は世界中で発生している。航空、旅行、飲食店、小売店、アパレル店、あらゆる業界業種がコロナショックの真っただ中にあり、Panaのような事案は残念ながら一般的になってしまった。

コロナショック以前の解雇通知は、マネジャーが従業員とマンツーマンで面談し、悪い知らせを伝えていた。説明の仕方は企業によって大きく異なる。ウォールストリートのIT関連企業であれば、事実を淡々と伝え、次のステップを説明し終了。少し冷たいようにも思えるが、従業員もこれが普通だと割り切っている。

日本は”面談説明形式”が一般的である。まず上司に、「大切な(重要な)話がある」と伝えられる。別室に移動すると、目の前にイスがセッティングされており、向かいには険しい表情を浮かべる上司。従業員は最悪の事態をある程度想定し、大きく深呼吸、心の準備をする。

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Zoomでさようなら

イギリスのイベント会社”Sparq”でオーディオビジュアル技術者として働いていたクリス・マローン氏は、人事担当者とチームマネジャーがZoom会議に参加すると通知され、最悪の事態を想定。予想通り会議中に解雇を通知され、頭を抱えた。

Zoom会議はマローン氏の日常のひとつ、業務に欠かせない大切なツールだったが、解雇通知の場としては不適切かつ厄介だと感じざるを得なかったという。

「重々しい空気の中で上司と向かい合って座るのは辛い。Zoom会議はそれらの問題を解決してくれるだろう。しかし、プレッシャーは当然ある。また、相手と向かい合って、目を見て話さなければ伝わらないことも多い。感謝、別れ、悲哀、それらは言葉でなく相手の表情や身体の動きから読み取ることができる。Zoom会議でそれらを感じ取ることはできなかった」

しかしマローン氏は、”1対1”のZoom会議解雇通知はよい手段になると述べた。解雇を免れることはできない。会社で事実を伝えられ意気消沈するより、リラックスできる自宅で通知された方がよい場合もあるかもしれない。

Panaのタウンゼント氏は、複数名が参加するZoom会議中の解雇通知を否定した。彼女は、「大量解雇であっても、それが正しい方法とは思わない。上司がどういう想いでいるかを知ることも大切だと思う。私は同僚たち全員が事態を共有していた結果、会社に対し重要な質問をすることができなかった」と述べた。

法律事務所JMWのサラ・エヴァンス氏は、通知前のコミュニケーションが重要だと説明した。同氏は「大企業であれば、Zoomで大規模な会議を開催し、対象となった”従業員全員”に通知を行っても良いとは思う。事務所に従業員を集め、大量解雇を言い渡すことと同じである」と述べた。

ただし、あくまで複数名に対して解雇通知を行う場合に限る。ある従業員1名が解雇されることになったとしよう。その事実を全従業員が参加するZoom会議の場で発表すれば、恐らく当人はショックを受けるはずだ。

イギリスではPana社の行ったグループ単位での「一部社員に向けられた解雇通知」は許可されていない。エヴァンス氏は、「従業員には個別の相談を行う権利がある。そのため、Zoom会議で一部の従業員にのみ解雇を通知すれば、不当解雇として訴えられてもおかしくない。ただし、全従業員に解雇を通知するのであれば問題ないだろう」と述べた。

法律事務所”Corker Binning”のピーター・ビニング氏はBBCの取材に対し、誰もがあらゆる種類の会話を録音(録画)する場合、その事実を相手に伝え同意を得る必要があり、また、同意の有無に関わらず、記録された会話は不当解雇の証拠になると述べた。ただし、Zoom会議の録画映像を不当解雇の訴訟に使用したい人は、それが適切に記録され、本物であることを証明しなければならない。

コロナショックに伴い、多くの企業がテレワークを導入、Zoom会議での打ち合わせは日常になった。「Zoomでさようなら」の時代はすぐそこまで来ている。業績が急速に悪化し、倒産や大量解雇をZoomで伝える企業は、今後さらに増えるのではないだろうか。

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