世界第2位の航空会社も厳しい現実に直面している
デルタ航空のエド・バスティアン最高経営責任者(CEO)は、コロナウイルス感染予防対策としてルール化した搭乗率上限を9月以降引き上げると発表した。
ロックダウンの段階的緩和により、世界各地で国内線の運航が再開された。それに伴い、各社は政府の示した社会的距離のルールを意識し、意図的に搭乗率を低く抑えている。デルタ航空は搭乗率60%以下を遵守、乗客間の距離を確保するともに、機内でのマスク着用を義務化した。
バスティアンCEOはBBCの取材に対し、「計画の詳細については、まだ検討を進めている段階である。私たちは搭乗率60%もしくはそれ以下で飛行機を飛ばしてきた。しかし、9月以降は搭乗率の上限を引き上げる予定である」と述べた。
アメリカン航空に次ぐ業界第2位の巨人が下そうとしている決断は、他社の経営方針に大きな影響を与えるだろう。そしてこの決断は、同社の経営状況が逼迫しつつあることを意味している。
アメリカ合衆国運輸省(DOT)のデータによると、昨年のデルタ航空は、膨大なコスト(機体のローン、維持費、人件費等)をカバーするために、「最低でも搭乗率70.6%(全路線平均)」を達成しなければならなかった。
航空各社の置かれている状況は”ゆっくり”と回復しつつあるが、国際線の運航が再開されなければ、膨大なコストをカバーすることはまず不可能である。デルタ航空の保有機数は850機以上。そして航空機は鉄の塊ではなく、「エサ(キャッシュ)を必要とする鉄の塊」であり、駐機場に保管するだけでキャッシュを湯水のように垂れ流し続けるのである。
コストは保有機数および会社の規模と比例する。OAGの航空アナリスト、ジョン・グラント氏はBBCの取材に対し、「デルタ航空は搭乗率70.6%以上を目指すものと思われる。これに対し業界1位のアメリカン航空は少なくとも78.6%、同4位のユナイテッド航空は73.8%以上を達成しなければならない」と述べた。ただし、これらの数字は先述の通り、昨年ベースの全路線収支から割り出された数字であり、国際線の運航状況次第では、さらに高い数字を求められるかもしれない。
またグラント氏は、他の条件も考慮すべきと述べ、「損益分岐点は各社の現状(従業員数、リストラやレイオフの有無など)によって大きく変化するだろう。2019年は素晴らしい年だったが、昨年の条件を現状にあてはめるだけでは意味がない。原油価格の低下は、燃料費の圧縮というプラス材料になるだろう。その他の各種条件を考慮したうえで、適切な搭乗率を達成すべきである。満席にしたい気持ちは大いに理解できるが、コロナウイルスを蔓延させ、営業停止にでも追いやられたら目も当てられない」と付け加えた。
今週、同社は「ワシントン⇔北京」間のフライトを再開する最初の航空会社になる予定である。
史上最悪の年
エド・バスティアンCEOは、各路線の搭乗率引き上げを「非常に難しい」と認めている。
ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、26日時点のアメリカ国内の累計感染者数は250万人を突破、127,000人以上が死亡した。さらに同日、24時間当たりの新規感染者数は過去最高を更新する44,726人に達し、アメリカ疾病予防宇管理センター(CDC)は、国内の潜在感染者数を2,000万人以上と発表。パンデミック再来を懸念する声が日増しに強まっている。
バスティアンCEOは、「パンデミックから立ち直るためには、途方もない時間を必要とする。人々が動けばウイルスも動く。満席の飛行機を楽しいと思う人はかなり少ないだろう」と述べた。
デルタ航空の搭乗率60%維持は、連邦政府から提供された54億ドル(約5,800億円)の救済計画の元で実行される。ただし、この予算規模でも9月末以降は現状を維持できなくなるという。すなわち、以降の危機を回避するためには、他の手段を講じねばならないのである。
他社と同じく、雇用の削減も当然選択肢に含まれる。生き残るためには、会社の規模とコストを縮小するしかない。同社の従業員数は約87,000人、皆、生きた心地がしないだろう。
バスティアンCEOは、「我々はお客さまを目的地に無事送り届けるだけでなく、コロナウイルスからも守らねばならない。マスク着用、社会的距離の確保、搭乗率60%を遵守し、ありとあらゆる予防策を講じる。機内で他者と距離を保てば、ウイルスの感染拡大防止に効果を発揮するだろう。しかし、ワクチンが開発されるまで、この業界は厳しい戦いを強いられる。9月以降に危機が到来した時、我々は苦痛を伴う対策を提案しなければならない」と述べた。
ロックダウンの影響を受け、現在、デルタ航空の従業員約37,000人は無給休暇(30日~1年)を取得中である。また、数千人が早期退職を願い出たという。
同社は、アメリカおよび中国東部で経営破綻に伴う救済を求めてきたLATAM航空グループ(チリ)を含む他社の株式を取得するなど、様々な成長戦略を追求してきた。また株式の49%を保有するヴァージン・アトランティック航空は既に3,000人の雇用削減を発表、厳しい財政状況にあることを公表した。
バスティアンCEOは、「我々はヴァージン・アトランティック航空に対する追加の資本注入を計画していない。できる限り彼らをサポートし、法廷でのプロセス(経営破綻)も回避できると信じている」と述べた。
航空アナリストのアンドリュー・チャールトン氏はBBCの取材に対し、ヴァージン・アトランティック航空が最悪のプロセスを回避できる、という楽観的な見通しに懸念を示した。
「コロナウイルスとパンデミックは不確実な要素に満ちている。感染者数は確実に減少する、と勝手に思っていたが、楽観的に考えロックダウンを緩和した結果が今である。航空会社は主力の国際線を取り戻さねばならない。これなしで利益を得ることはまずできないだろう」
国際航空運送協会(IATA)の調査によると、2020年は航空業界史上最悪の年であり、各社に与えるダメージは数十億ドル~百億ドル規模になると予想した。
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USA - DELTA AIRLINES COVID-19 LIMIT AHEAD FOR 60% FLIGHT LOADS.@BBCNews
— EJ@edot-edge (@edotedge) June 27, 2020
"Beyond September" limit of passenger numbers.
Infection control measures.
Distancing also to apply.
BBC News - Coronavirus: Delta to extend caps on passenger numbershttps://t.co/HpmZvU7iK5