7月1日、当局は香港の治安に介入すべく、国家安全法を導入した

7月1日、当局が香港に導入した国家安全法は、「香港領土の法制度を根本から覆す」。

香港の弁護士と法律の専門家はBBCの取材に対し、「それが導入されたことで、当局の治安維持部隊(軍隊や警察官など)は免責等を一切心配せず、香港で合法的かつ好きなように治安維持活動を行えるようになった。また、逮捕された者に対する厳しすぎる刑も規定されている。すなわち、国家安全法には、当局に都合の良いことばかりが記されているのだ」と述べた。

国家安全法が適用されたことにより、北京は香港国内でも独裁的な力を得た。国家安全法は香港の法律を飲み込むことができる。7月1日以前であれば、中国に対するデモ活動や扇動を裁く(違法なものに限る)役目は香港の法律が担っていた。

しかし、7月1日以降はデモや扇動の罪の大半が国家安全法で裁かれることになる、と思われる。ただし、当局がこれに該当しないと判断した場合や、国家転覆罪(反逆罪)には当たらないと判断されれば、これまで通り香港の法律で裁かれるのだろう。

すなわち、当局は北京に喧嘩を売る愚か者だけを選別し、見せしめとして逮捕、裁くことができるのだ。アメリカと香港の法的専門家チームであるNPCオブザーバーは、国家安全法の恐ろしい点を指摘した。

チームメンバーの一人はBBCの取材に対し、「国家安全法は、逮捕の対象にならなかった平和的な抗議活動スピーチも許さない。また、表現が非常に曖昧であり、広く解釈すれば、タグに中国共産党反対、と書きそれを所持しているだけで逮捕される可能性もある」と述べた。

国家安全法第29条がこれに該当する。

そこには、「外国人と共謀して中国政府や香港当局への”憎悪を誘発する”者は罪に問われる」といったニュアンスで反逆罪の定義(?)が明記されている。憎悪を誘発するという表現はあまりにも曖昧過ぎる。

北京の悪口を言い、友人がそれに触発され同じように悪口を言えば、憎悪の誘発と取られるかもしれない。要は、当局のサジ加減ひとつで逮捕するか否かを好きなように決めることができるのだ。

7月2日、香港のテレサ・チェン司法長官は、国家安全法29条の規定を明確に定義してほしいと記者団に問われたが、答えを出すことはできなかった。

第55条にも非常に曖昧な表現が含まれている。

「・・・これにより、中国本土の治安部隊は、香港で発生する”複雑、深刻または困難”ないくつかの国家安全保障事件を調査する権利を得る」ことができると書かれている。

「複雑、深刻または困難」に当てはまる国家安全保障事件とは何なのか。事件の具体的な例が明記されていればよいのだが、それもない。恐らく、当局が「取り締まれ」と指示を出した事件が国家安全保障事件に該当するのだろう。

小規模かつ非暴力を徹底した抗議活動であろうと、当局が対象事件と判断すれば、好きな時に好きなタイミングで治安部隊を投入し取り締まることができる。さらに、ツイッター上に北京への非難ツイートを投稿しただけで逮捕、という事態も十二分に考えられるだろう。

危険な条文(抜粋)はさらに続く。

「第41条:裁判は秘密裏に行うことができる

「第42条:保釈可否は当局の判断により決めることができる」

「第44条:裁判官は北京からの指示を受けて”正しく”行動できる者を選ぶことができる」

「第46条:第41条の裁判は陪審(一般市民から選ばれた人々)なしで行うことができる」

これらの規定には、平等や司法権の独立といった概念が存在しない。当局は逮捕された者を国家安全法に基づき、好きなように裁くことができる。また、裁判官には北京の息がタップリかかっており、公平なジャッジが下される可能性も皆無である。

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香港は終わったのか?

「第38条:国家安全法は香港に足を踏み入れた全ての外国人に適用される

「第56条:当局は香港警察、香港司法による逮捕→調査→判決の過程を一切気にせず、好きなタイミングで容疑者の身柄を本土に移送できる」

中国共産党の問題に焦点を当てたブログ「チャイナコレクション」にコラムを寄稿するアメリカのドナルド・クラーク氏はBBCの取材に対し、「北京や香港当局に不快感を与える可能性のある行動、発言、SNSへの投稿などを行ったことのある方は、香港に近づいてはならない」と述べた。

ジョージ・ワシントン大学で教鞭をとるクラーク氏は、法律が確立するまでのプロセスと法の中身に致命的な欠陥があり、そして、それがまかり通ることに懸念を示している。

当局は、香港に絶対的権力を有する国家安全保障局を設置できる

「第60条:国家安全保障局の局員は香港の法律を無視し、好きなように治安維持活動を行うことができる。また局員は、いかなる理由があろうと、検査、捜査、逮捕または拘留の対象にならない」

国家安全保障局は、向かうところ敵なし、最強の権力を香港国内で行使できると言っても過言ではない。

香港議会議員を務めるクラウディア・モ氏はBBCの取材に対し、「国家安全法は香港を無力化するために制定された。市民はおびえ、おののき、威嚇され、委縮する。市民は言葉を発しなくなり、行動することもなくなる。国家安全法は市民を石に変えた」と述べた。

7月2日、香港マカオ事務弁公室の張暁明(チャン・ジャウミン)氏は、国家安全法が施行されたことで、香港は安定とあるべき姿を取り戻すだろうと述べた。

国家安全法を食い止めようと世界各国が行動した。しかし、北京は全てを無視したうえで、施行に踏み切った。残念ながら当局を封じこめる各国の策は全く実らず、好き放題やられてしまった。

林鄭月娥(りんていげつが)行政長官は、同法を「転機」と述べ、熱烈に歓迎した。

イギリスのボリス・ジョンソン首相は、香港市民最大300万人に英国市民権への道を提供すると表明。これに対し中国の劉暁明(リウ・シアオミン)英大使は、「重大な内政干渉である」と警告した。

香港を1997年6月30日まで統治したイギリス政府は、「香港市民を見捨てない」と宣言したうえで、門戸を開いた。なお、ドミニク・ラーブ外務大臣は大使の脅迫を拒否した。

大使はSNS上に記者会見動画を投稿、「ジョンソン政権は香港問題について無責任な発言を続けている。北京は対応を検討しており、間もなく詳細(制裁)が公表されるだろう」と述べた。

また、イギリス政府とファーウェイを巡る問題についても触れ、「もし、不当な理由でファーウェイおよび5Gネットワークを締め出せば、イギリス国内の中国企業に誤ったメッセージを送る羽目になる。困るのはイギリス政府だ」と圧力をかけた。

イギリス政府は、中国が1997年7月1日の香港返還合意(英中合意文書)に違反したと主張している。合意文書には、香港を返還する代わりに、「50年間香港に自由を提供する」と書かれている。

7月5日、香港教育当局は、国家安全法に違反する全ての本を学校から破棄するよう命じた。ロイター通信によると、北京は生徒に悪影響を与えるあらゆる本を破棄し、本土と同じものを揃えるよう指示したという。

同日、図書館に置かれていた民主主義活動家の発行した本も全て破棄された。今後は、国家安全法に抵触する本を販売するだけで罪に問われ、本土で秘密裁判にかけられたのち、刑務所に収監されるのだろう。

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