山や森が燃える

グリーンピースインターナショナルの衛星画像分析によると、ロシアは2020年初頭から広まった森林火災で1,900万ヘクタール(東京ドーム407万個分)の緑を失ったという。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、シベリア東部が直面している異常な高温により、クラスノヤルスクから1,250マイル(約2,000km)以上離れたサハ共和国などでも広範囲におよぶ森林火災が発生していると警告する。

森林火災(山火事)がもたらす破壊は地球規模の環境問題として広く認識されている。それは森林、泥炭地の帯を焼き尽くし、無数の動物が煙に巻かれ、死ぬ。

炎が人間のテリトリーに到達すると、そこで生活する人々は資産を捨てねばならない。

2020年、オーストラリアは同国史上最悪の山火事に遭遇した。

炎は33人の尊い命を奪い、住居、車などのありとあらゆるものを炭に変え、1,800万ヘクタールを焼き尽くし、30億頭の動物を殺害もしくはその地から追放した。

2020年8月、異常気象がもたらした超高温と数万発の落雷により、カリフォルニア州全土で何百もの山火事が発生し、同州知事は緊急事態を宣言した。

カリフォルニア州の山間部エリアは長きにわたって深刻な干ばつに悩まされ、2017年と2018年にも記録的な山火事を体験している。

炎が自然に与える影響は耐え難いレベルに達する。そして、人間の生活にも深刻な影響をもたらす。

広大なエリアを燃やすことで発生する煙は、最大14マイル(約23km)上昇し、成層圏に到達。空気の流れによって世界中に広がる。

先に述べたシベリアの山火事は近隣の都市の空気を汚染、太平洋全体からアラスカにまで広がった。結果、ワシントン州シアトルから見える山や都市は靄に包まれ、大気の質を低下させている。

欧州中期気象予想センターによると、今夏のシベリアおよび北極圏での山火事は、過去18年の間に同地が放出した汚染物質量を、わずか1カ月で上回ったという。

18年分の大気汚染をわずか1カ月で更新するという有り難くない記録は、燃えている物質が地球に優しくないことを意味する。

シベリアで燃えているものは樹脂が豊富な針葉樹、沼地に埋もれた泥炭など。そして、ツンドラの永久凍土を溶かし、その奥に封印されていた高密度の二酸化炭素、メタンガス、水銀などの有害物質を大気中に放出するのである。

シベリアおよび北極圏を襲った記録的な熱波はツンドラの永久凍土を事前に溶かし、結果、山火事のエリアを拡大させる要因になった。

山火事から放出されるガスは、小さく、そしてとても軽い粒子である。

粒子状物質(PM)」は大気汚染の主要因のひとつであり、自動車の排気ガスや重工業地帯から発生する煙などにも含まれている。

そして、山火事がもたらすそれは、生活の中で発生する粒子状物質の量にプラスされ、私たちの身体に深刻な影響を与える可能性がある。

カナダの山火事シーズン中、ブリティッシュコロンビア州の都市では、平均的な日より20倍高いPM値を記録することもある。

ブリティッシュコロンビア州疾病対策センター、環境保健サービスのサラ・ヘンダーソン博士はBBCの取材に対し、「山火事は先進国に住んでいるほとんど全ての人々が見てきた大気汚染より、はるかに深刻な量の汚染物質を大気に放出する」と述べた。

山火事は「PM2.5」と呼ばれる人間の健康に深刻な影響を与えるナノ粒子を生成する。この大きさは人間の毛髪の30分の1未満、吸い込むと肺の膜を通過し、呼吸器系にダメージを与え、血流に入り込む可能性がある。

オーストラリアの森林火災

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健康被害

山火事の煙に含まれるPM2.5は、咳、息切れ、喘息の悪化につながる。2019年末頃から始まったオーストラリア火災の際、ニューサウスウェールズ州では呼吸障害による入院が34%増加したという。

関係機関の研究では、2004年から2009年の間にアメリカ西部だけで約4,600万人が1回以上山火事の煙にさらされたと推定した。

さらに、PM2.5の数値が上がった日は、呼吸器疾患で入院する患者が7.2%増加。心停止などの深刻な状態に陥るケースも報告されている。

粒子状物質(PM)は、呼吸器系の炎症、心臓病や脳卒中のリスク増加など、様々な問題と関連づけられている。

山火事の煙は自動車や工場がもたらすそれより危険だと考えられており、発がん性物質、早産につながる可能性のある反応性化学物質を大量に含む

ある研究によると、山火事の煙に含まれる粒子状物質は、肺のマイクロファージと呼ばれる免疫細胞に特別有害であることが分かったという。

さらに、山火事から放出される毒性の粒子状物質は、「火災現場から遠ざかるほど増加する」と指摘されている。

粒子(煙)は風に乗って運ばれる途中、空気中で化学反応を起こし、酸化と呼ばれるプロセスを経て老化する。これにより、粒子はより危険度の高い化合物に姿を変え、細胞や組織により深刻なダメージを与えるのである。

スイス連邦ローザンヌ工科大学と化学研究所で大気科学者を務めるアタナシオ・スネネス氏はBBCの取材に対し、「火災現場から遠く離れていても、酸化した粒子を吸引することで深刻な健康被害が発生する」と主張した。

山火事の煙は、火災の燃焼時間に応じて、数日、数週間、場合によっては数カ月間に亘って大気中を漂う。結果、煙は数千キロもの長距離移動を可能にするのだ。

大規模な山火事になると大陸全体、場合によっては太平洋や大西洋を軽々と越える。

2019年にカナダのアルバータ州で発生した山火事による煙は、大西洋を越えてヨーロッパに拡散された

2020年のオーストラリア火災では、隣国ニュージーランドで煙による火山性積乱雲を発生させ、山間部の雪が灰色になった。さらに、煙はラテンアメリカにも到達したことが確認されている。

ブリティッシュコロンビア州疾病対策センターのサラ・ヘンダーソン博士は、「空気の質が悪い状況で生活していると、気づかぬうちに身体の内部が蝕まれていく」と述べた。

インドネシアで2015年に発生した山火事では、大量の泥炭が燃え、それによって約15億トンもの二酸化炭素を大気に放出した。

ある機関の研究によると、ロシア、アラスカ、カナダの土壌には、インドネシアの約30倍の泥炭が含まれているという。これが異常気象による高温で乾燥し、燃焼のリスクに直面しているのである。

泥炭によるバイオマス火災がもたらす二酸化炭素の量は、地球をさらに暖め、異常気象に拍車をかけるだろう。

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