トランプ大統領はコロナウイルスが中国で発生した証拠を見たのだろうか?
以前、アメリカの国家情報局は、「コロナウイルスがどのような経路でどのように広まったかは調査中」である、と述べた。これに対し中国当局は、人為的または遺伝子組み換えにより発生したものではなかったと説明。中国武漢研究所が発生源である可能性を否定し、アメリカの対応を厳しく非難した。
4月28日、トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、「現時点で武漢研究所からウイルスが発生したという証拠、もしくは高い確証を得る何かを見ましたか?」と記者に尋ねられ、「もちろん見た。WHOは中国が潔白と証言している。これは恥ずべき事態だ」と答えた。
なお、このコメントの裏付けとなる証拠の提示を求めたが、「それはできない。言えない」と却下された。
トランプ大統領は記者団に対し、「中国はミスを犯した。人為的に起こされたものなのか、意図しないミスから起きたものなのか・・・理由はさておき、中国が世界中にコロナウイルスを拡散したことは間違いない。当局は国民の移動を許可した。それは間違いであり、悪いことだ」と述べた。
同日、ニューヨーク・タイムズ紙は、ホワイトハウスの高官が諜報機関に対し、「コロナウイルスが武漢研究所から持ち込まれたか否かを調査するよう命じた」と報じた。
諜報機関は真実を見たのか?
28日、同国のスパイ機関を統括する国家情報局長官は、コロナウイルスの発生起源に関する「幅広い科学的調査」に同意すると発表した。すなわち、まだ答えは出ていない、ということである。
これは、中国武漢研究所から発生したとされるウイルスの情報、起源などを徹底的に調査するということだ。感染が動物から始まったのか、何かが培養され人間に感染したのか、武漢研究所で不測の事態が発生したのか、あらゆる可能性を考慮し、調査が行われるのであろう。
コロナウイルスが「生物兵器」であるという陰謀説(あくまで仮定)は、諜報機関が示したものである。しかし、28日に長官が改めて調査を行うことに同意したのであれば、現時点において明確な証拠は掴めていないのだろう(スパイ機関なので偽情報の可能性も否定できないが・・・)。
記者団に提示された発表だけを整理すると、トランプ大統領は「これから中国に対して行われる感染源調査の結果を見た」と述べ、「調査はこれから始まるが、感染源は中国である」と決めつけたことになる。
27日、トランプ大統領は、中国当局が11月の大統領選挙で政権が代わる、現政権の敗北を望んでいるのだろうと語った。似たような発言は以前にもあった。中国当局がコロナウイルスの感染拡大を隠蔽した理由は、それがアメリカの経済活動に大きなダメージを与えるためだ、と述べている。
アメリカはWHOへの資金拠出を停止、これに対し中国外務省は、「トランプ大統領は初動の遅さ、パンデミック阻止に失敗した事実を隠そうとしている」と非難した。また、コロナウイルスはアメリカで誕生し中国に持ち込まれた可能性があると述べ、関係はさらに悪化した。
ワシントン・ポストによると、トランプ政権は中国を財務的に罰する方法を模索中だという。
誰が嘘をついているのか
同国の諜報機関はコロナウイルスが生物兵器である可能性について言及し、それがパンデミックの起源になったと説明している。しかし、それならなぜ、国家情報局は再度武漢で調査を行うことになったのか。そして、答えが分かっているのなら、国家情報局長官名で調査に同意した、と発表する必要もないはず。
トランプ大統領は、なぜ武漢の研究所が発生源という明確な証拠を提示しないのか。一国の大統領たる者が証拠も無しにあれこれ発言するなど「普通」では考えられないし、あり得ない。
マイク・ポンペオ国務長官は「中国発生源」のシナリオを明確にすべく、当局に対し、外部の専門家で武漢研究所の調査を行いたいと要請。しかし、当局は根拠のない主張と捏造は看過できず、調査などあり得ない、と立ち入りを拒否している。
コロナウイルスの発生源におけるトランプ大統領と諜報機関の発言は、中国を犯人と決めつけるプロパガンダと言っても過言ではない。既に情報を掴んでいる可能性も否定できないが、関係者の話を聞く限り、調査はこれから始まると考えるのが妥当であろう。
トランプ政権は中国当局がパンデミックの情報をいち早く公開しなかったことに怒り、不満を示している。その報復として証拠もなく「話題を提供」しているとしたら、いずれ自分の首を絞めることになるだろう。ちなみに、私も中国が感染源だと勝手に思っているが、生物兵器として意図的に拡散したと解釈できる発言には反対である。
BBC News - Coronavirus: Trump seems to undercut US spies on virus origins https://t.co/vKiOYI6cHf
— Peijie Wang (@wang_peijie) May 1, 2020