コンテンプト・オブ・コート 5-15
アンカレッジ連邦地方裁判所。
第4回公判。
法廷には多くの傍聴人が集まっていた。記者席では、新聞記者たちが手元の資料を確認している。
被告人席にはカーター。弁護人席にはマイクが座っている。
マリベルが書類を閉じた。
「それでは、証人に対する尋問を続けます」
エルマ・アトキンソンは席につき、証人席の男を見た。
ブローカーは落ち着かない様子で、法廷内を見回している。
マリベルがマイクに視線を向けた。
「弁護人、質問をどうぞ」
マイクはゆっくり立ち上がった。
「はい」
証人席へ向かって歩く。
ブローカーはマイクを見た。
マイクは正面で足を止め、静かに尋ねた。
「市長を殺害した殺し屋をご存じですか?」
ブローカーは一瞬、目を動かした。
「知りません」
「本当に?」
「はい」
マイクはブローカーの顔を見つめた。
「そうですか……」
短い沈黙。
マイクは手元の資料を確認する。
「では、殺し屋に市長を殺害するよう依頼しましたか?」
ブローカーは首を横に振った。
「いいえ」
マイクはすぐには質問しなかった。
法廷内に静けさが広がる。
傍聴席では、コールの部下が腕を組んで座っていた。
マイクはブローカーから視線を外し、傍聴席の方へ目を向けた。
まるで、誰かに聞かせるように話し始める。
「……質問を間違えました」
エルマが眉をひそめた。
マイクはブローカーへ向き直った。
「証人。あなたはブローカーですね?」
「……はい」
「人と人を仲介し、依頼を取り次ぐ仕事をしている」
「……そうです」
マイクは小さく頷いた。
「では、もう一度聞きます」
一歩、ブローカーに近づく。
「誰かに頼まれて、殺し屋を仲介しましたか?」
ブローカーの表情がわずかに強張った。
「……」
「証人?」
「私は……」
ブローカーは言葉を止めた。
マイクは黙って答えを待った。
そのとき、エルマが立ち上がった。
「裁判長、異議があります」
マリベルが顔を上げる。
「理由は?」
エルマはマイクを見た。
「弁護人は、殺し屋と主張する男性が死亡した現場にいました」
法廷内がざわつく。
エルマは続ける。
「その男性が実行犯だったという確かな証拠もないまま、証人に根拠のない質問を繰り返し、裁判を遅らせています」
マイクはエルマを見た。
「根拠がないかどうかは、証人の答えを聞いてから判断すべきでしょう」
「あなたの推測だけで、証人を犯罪に関与したかのように扱うべきではありません」
「私は質問しているだけです」
「その質問自体に問題があると言っているんです」
二人の視線がぶつかる。
マリベルが指で机を叩いた。
「静粛に」
法廷内が静まる。
マリベルはマイクを見た。
「ハンター弁護士」
「はい」
「弁護人は必要な質問のみを。根拠のない推測を繰り返すことは認めません」
「承知しました」
マイクは頭を下げ、ブローカーに尋ねる。
「証人。私の質問に、まだ答えていませんね」
エルマが再び口を開こうとした。
「裁判長――」
「検察側も、発言は順番に」
マリベルが制した。
エルマは口を閉じた。
マイクはブローカーへ視線を戻した。
「あなたは、誰かから依頼を受けて殺し屋を仲介したのですか?」
ブローカーは唇を結んだ。
法廷内の視線が、一斉にブローカーに集まる。
ブローカーは傍聴席に目を向け、マイクを見た。
「……答えられません」
マイクは表情を変えなかった。
「答えられない理由があるのですか?」
ブローカーは何も言わなかった。
マイクはしばらくブローカーを見つめた。
やがて、ゆっくりと一歩下がる。
「分かりました」
それ以上は追及しなかった。
だが、マイクの視線はブローカーから離れなかった。
傍聴席の後方で、ローリーが身を乗り出す。
ブローカーの様子がおかしい。
質問を受けるたびに、誰かの顔色をうかがっている。
ローリーは傍聴席を見渡したが、ブローカーが何を気にしているかは分からなかった。
マイクは弁護人席へ戻った。
カーターが小声で尋ねる。
「何を考えている?」
マイクは前を向いたまま答えた。
「もう少しだ」
「何が?」
マイクは答えなかった。
