コンテンプト・オブ・コート 4-1
アラスカ州検察庁。
州検事正リンカーンの執務室。
窓の外には、アンカレッジの街が広がっていた。
デスクの前に、ケンドリック・コールが立っている。
その後ろには秘書がいた。
リンカーンは椅子に座ったまま、コールを見ていた。
「テラ・インフラテックのCEOが何の用だ?」
「伝えておきたい情報があったもので」
リンカーンは書類から目を離さない。
「情報?」
「ええ」
「チンピラの情報に興味はない」
コールの表情は変わらなかった。
秘書が一歩前へ出る。
「CEOは市長選に立候補します」
リンカーンの手が止まった。
ゆっくり顔を上げる。
「……市長選に?」
「はい」
リンカーンはコールを見る。
「本気か?」
「本気です」
「テラ・インフラテックの経営者が市長になる?」
「問題ありますか?」
リンカーンは立ち上がった。
「会社はどうする?」
「必要なら手放します」
リンカーンはコールを見つめた。
「……裁判官が承認したのか?」
コールは黙っている。
リンカーンが続ける。
「君の早とちりでは?」
秘書がコールを見る。
コールは表情を変えず、答えた。
「裁判官のことは、あなたの方がよく知っているはずです」
リンカーンの目が細くなる。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味です」
リンカーンは答えなかった。
コールは窓の外へ目を向けた。
「私はアンカレッジに命を捧げるつもりです」
「政治家らしい言葉だな」
「政治家になるつもりですから」
「君が市長になって、何をする?」
「市民の生活を変えます」
「具体的には?」
「街を立て直す」
リンカーンは鼻で笑った。
「北部地区の開発計画か?」
コールは一瞬だけリンカーンを見る。
「アンカレッジには、まだ発展する余地があります」
「ノース・ホライズン・シティ」
リンカーンが名前を口にした。
コールは答えなかった。
「二十年前から止まっている計画だ」
「だからこそ、動かす価値がある」
「市長が反対していた」
「知っています」
「そして、その市長は死んだ」
室内の空気が変わった。
秘書がリンカーンを見る。
コールは表情を変えない。
「……公判中でしたね」
リンカーンは椅子に座った。
「君が市長になれば、いろいろ変わる」
「変えます」
「検察にも影響する」
コールは黙った。
リンカーンはコールを見る。
「それで、私に何を求める?」
「何も」
「何も?」
「今日は報告に来ただけです」
リンカーンはコールを見た。
「私に反対するなということか?」
「そう受け取ってもらって構いません」
短い沈黙。
リンカーンは小さく笑った。
「随分と自信があるな」
「勝つつもりですから」
「誰の支持を?」
コールは答えなかった。
その沈黙だけで、十分だった。
リンカーンは目を細める。
「……分かった」
コールは一礼した。
「失礼します」
秘書も頭を下げる。
二人が執務室を出ていく。
扉が閉まる。
リンカーンは一人になった。
机の上の電話へ手を伸ばす。
だが、受話器を取る前に手を止めた。
「裁判官が……」
小さく名前を口にする。
リンカーンは椅子の背にもたれた。
コールの言葉が頭に残っていた。
市長選。
ノース・ホライズン・シティ。
そして、裁判官。
三つが一つにつながっているように見えた。
