コンテンプト・オブ・コート 3-4
アンカレッジ。
テラ・インフラテック本社。
最上階にある社長室には、大きな窓があった。
窓の向こうには、アンカレッジの街が広がっている。
道路。
商業地区。
住宅地。
港湾施設。
そして、その先に広がる雪の残った山々。
コールは窓を背にして、デスクの前に立っていた。
デスクの上には、大きな図面が広げられている。
ノース・ホライズン・シティ。
アンカレッジの大規模都市開発計画だった。
開発区域は広い。
道路の再整備。
住宅地区の建設。
大型商業施設。
ホテル。
オフィスビル。
公共施設。
さらに港湾地区まで含まれている。
コールは図面を見ながら、指を動かしていた。
「ここに道路を通す」
秘書が横から図面を見る。
「はい」
「ここには商業地区を作る」
「予定では、その区域に大型施設が入ります」
「予定じゃない」
コールは言った。
「決定事項だ」
秘書は黙ってうなずいた。
コールは別の資料を手に取った。
そこには、開発区域の土地所有者や企業名が並んでいる。
「土地の取得状況は?」
「七割まで進んでいます」
「残りは?」
「一部の地権者が売却に応じていません」
「理由は?」
「価格ではありません」
「では?」
「開発そのものに反対しているようです」
コールは資料を机に置いた。
「説得しろ」
「すでに交渉しています」
「なら、別の方法を考えろ」
秘書は黙ってうなずいた。
コールは図面へ視線を戻した。
「この計画が動けば、アンカレッジは変わる」
「はい」
「人も金も集まる」
「そうなります」
「企業も集まる」
コールは図面の中心に指を置いた。
「その中心に、俺たちがいる」
秘書は黙ってうなずいた。
コールは窓の外を見た。
「俺はこの開発でアンカレッジを手に入れる」
コールは椅子に座った。
「市長が変われば、話も変わる」
「現在の市政では、計画の一部が止まっています」
「知っている」
コールは図面から目を離さなかった。
短い沈黙。
秘書は次の資料を差し出した。
「今後の市長選についてですが――」
そのとき、秘書の携帯電話が鳴った。
秘書が画面を見る。
「はい」
電話に出る。
しばらく聞いてから、表情を変えた。
「……分かりました」
電話を切る。
コールが顔を上げる。
「どうした?」
秘書は一瞬迷った。
「マイク・ハンターが裁判所に現れました」
コールは表情を変えなかった。
「やつはカーターの弁護を?」
「そのようです」
コールは図面へ視線を戻した。
「ジョニーからは?」
「連絡はありません」
コールの指が止まった。
ジョニーには、マイク・ハンターの息の根を止めるよう指示していた。
それから時間が経っている。
マイク・ハンターは法廷に現れた。
コールはデスクの上のペンを手に取った。
指先で回す。
「使えない奴だ」
秘書は黙ってうなずいた。
コールはペンを置いた。
「マイク・ハンターは何か掴んでいると思うか?」
「市長殺害事件を調べている以上、何か掴んでいる可能性はあります」
「そうだろうな」
コールは図面の上に目を落とした。
ノース・ホライズン・シティ。
この計画が動けば、アンカレッジの勢力図は変わる。
市長が変わる。
行政が変わる。
土地が動く。
金が動く。
その途中で、マイク・ハンターが現れた。
コールは図面の端を指で押さえた。
「だが、まだ何も証明できていない」
「はい」
「なら、泳がせておけ」
秘書がコールを見る。
「よろしいのですか?」
「ああ」
コールは淡々と答えた。
「焦る必要はない」
「分かりました」
「ジョニーを呼べ」
コールは窓の外を見た。
「マイク・ハンターが何を掴んでいるのか、先に確認する」
秘書は黙ってうなずいた。
コールは再び図面を見る。
その中心には、ノース・ホライズン・シティの計画区域が描かれている。
「マイク・ハンター……」
コールは小さく名前を口にした。
窓の外には、アンカレッジの街が広がっている。
コールは図面を閉じなかった。
マイク・ハンターが動く。
それを待つ。
そして、必要になれば消す。
コールにとって、それだけのことだった。
