コンテンプト・オブ・コート 3-2
アンカレッジ連邦地方裁判所。
医務室。
マイクはベッドに座っていた。
額の傷を、医師が確認している。
「少し切れています」
「そうか」
「深くはありません」
医師が消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に当てる。
マイクは顔をしかめた。
「痛いですか?」
「いや」
「では、もう少し我慢してください」
「分かった」
ローリーは少し離れた椅子に座っていた。
マイクの手には、まだ血が残っている。
医師が傷口を処置し、ガーゼを当てる。
「これで大丈夫でしょう」
「終わりか?」
「はい。あとは傷口を清潔にしておいてください」
「分かった」
医師が器具を片付ける。
ローリーはマイクを見た。
「少し血が出てるぐらいがちょうどいいのに」
「何が?」
「あなた、さっき法廷で血を見せたでしょう」
マイクは立ち上がった。
「血が出てたほうが話が早い」
「あなた、わざと怪我したわけじゃないでしょうね」
「そこまで器用じゃない」
ローリーはため息をついた。
「それならいいけど」
医師が医務室を出ていく。
扉が閉まる。
二人きりになった。
ローリーはマイクを見る。
「ねえ」
「何だ?」
「あいつら、なんで私を誘拐したの?」
マイクはガーゼを指で軽く押さえた。
「暇なんだろ」
「……本気で言ってる?」
「ああ」
「そんな理由で人を誘拐する人間がいるわけないでしょう」
「いる」
「じゃあ、誰?」
「知らない」
ローリーはマイクを睨んだ。
「嘘」
「証拠は?」
「あなたの態度」
「それだけか?」
「十分よ」
マイクは答えなかった。
ローリーは椅子から立ち上がった。
「私は、あなたが何か知ってると思ってる」
「そうか」
「私を狙った人間が、あなたを狙っている可能性は?」
「あるかもしれない」
「だったら――」
「ローリー」
マイクが遮った。
「もう二度と起こらないことを願うわ」
ローリーはそう言って、腕を組んだ。
マイクはローリーを見る。
「そうだな」
短い沈黙があった。
廊下から人の足音が聞こえる。
マイクは壁の時計を見る。
そして、何でもないように言った。
「ローリー」
「何?」
「俺は裁判の途中で拘束される」
ローリーの表情が変わった。
「……は?」
「拘束される」
「誰に?」
「警察に」
「どうして?」
「そういう流れになる」
ローリーはマイクを見つめた。
「何をしたの?」
「まだ何も」
「まだ?」
「これからする」
「ちょっと待って」
ローリーが一歩近づく。
「あなた、何をするつもりなの?」
マイクは答えなかった。
「裁判の途中で拘束されるって、どうして分かるの?」
「分かる」
「理由は?」
「理由は、そのうち分かる」
ローリーは呆れたように息を吐いた。
「本当にあなたって、説明しないわね」
「必要になったらする」
「私はパートナーなんでしょう?」
「そうだ」
「だったら教えてよ」
マイクはローリーを見た。
「今はまだ早い」
ローリーは黙った。
納得はしていない。
だが、これ以上聞いても答えないことは分かった。
医務室の外から、看護師の声が聞こえる。
「処置は終わりましたか?」
「はい」
マイクが答えた。
「では、法廷へ戻ってください」
「分かりました」
マイクは椅子から立ち上がった。
ローリーも立つ。
二人は医務室の扉へ向かった。
ローリーは歩きながら、マイクを見る。
「一つだけ聞く」
「何だ?」
「拘束されるのは、あなたが何かするから?」
マイクは前を向いたまま答えた。
「そうなる」
「……分かった」
ローリーはそれ以上、聞かなかった。
二人は医務室を出る。
廊下の先には、法廷へ続く扉がある。
マイクはその扉へ向かって歩いた。
