コンテンプト・オブ・コート 2-38
アンカレッジ市内。
マイクたちを乗せた車が、市街地を走っていた。
エンジン音だけが車内に響いている。
運転席にはエイダン。
助手席にマイク。
ローリーは後部座席に座っている。
マイクは前を見ていた。
額の傷から、まだ少し血が流れている。
ローリーはそれを見ていた。
「頭、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ」
「さっきから血が出てるけど」
「これくらいなら問題ない」
エイダンがバックミラーを見る。
「病院に寄るか?」
「必要ない」
「そうか」
エイダンは前を向いた。
信号が赤になる。
車が止まった。
エイダンが口を開く。
「あいつら、軍事企業の傭兵だろ」
「そうだろうな」
「警察に通報するかな?」
マイクがエイダンを見る。
「何て言うんだ?」
「何てって?」
「大手軍事企業の傭兵十数人が、二人組にこてんぱんにやられました。助けてください、って警察に言うのか?」
エイダンが笑った。
「確かにな」
ローリーがマイクをにらむ。
マイクは気づいた。
「何だ?」
「何でもない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない」
「そうか」
ローリーは腕を組んだ。
「あなた、私が誘拐されたことを軽く考えてない?」
マイクが振り返る。
「考えてない」
「だったら、どうしてそんな言い方ができるの?」
「事実を言っただけだ」
「私が連れて行かれたのよ」
「分かってる」
「誰が何のために?」
マイクは答えなかった。
エイダンが口を挟む。
「それは俺も知りたい」
ローリーは前の二人を見る。
「私、誰かに狙われるようなことをした覚えがない」
「本当に?」
「何よ」
「弁護士だろ」
「だから?」
「仕事で恨みを買うことはある」
ローリーは首を振った。
「業務停止になる前までは、普通に仕事をしていただけよ」
「業務停止になった理由は?」
「それは関係ない」
「本当に?」
ローリーは黙った。
あの事件。
依頼人の妻への暴力。
判決。
そして、自分が裁判官に抗議したこと。
そこから六か月の業務停止になった。
それを考えても、今回の誘拐につながるとは思えない。
ローリーは窓の外を見た。
「……私じゃない」
「何が?」
「狙われているのは、私じゃない」
マイクがローリーを見る。
「どういう意味だ?」
「あなたよ」
マイクは答えなかった。
「私を誘拐すれば、あなたが動く」
ローリーは続けた。
「私を使って、あなたをおびき出したんじゃない?」
エイダンがバックミラーを見る。
「それはありそうだな」
マイクは前を向いたままだった。
「考えすぎだ」
「じゃあ、なぜ私なの?」
マイクは答えなかった。
ローリーはその沈黙を見逃さなかった。
「やっぱり何か知ってる」
「知らない」
「嘘」
「証拠は?」
「今の沈黙」
マイクは小さく息を吐いた。
エイダンが笑う。
「ローリー、なかなか鋭いな」
「褒めてる場合じゃないでしょ」
エイダンは前を向いた。
「まあ、確かに変だ」
信号が青になる。
車が動き出す。
マイクは裁判所の方向を見た。
「とにかく戻ろう」
ローリーは窓の外を見る。
「裁判、まだ続いてるの?」
「あいつらが時間を稼いでる」
「時間を?」
「俺たちが戻るまでな」
ローリーは黙った。
自分が誘拐された。
そして、裁判所で騒ぎが起きている。
偶然とは思えなかった。
ローリーはマイクの後ろ姿を見た。
この男は、自分が思っている以上に大きな事件に関わっている。
そして、自分もその中に巻き込まれている。
車は裁判所へ向かって走り続けた。
