コンテンプト・オブ・コート 2-32
アンカレッジ連邦地方裁判所。
市長殺害事件の公判が始まろうとしていた。
法廷には傍聴人が並んでいる。
検察側の席にはアトキンソン検事とラングドン検事が座っていた。
被告人席にはカーター。
その隣には、見慣れない男が座っている。
マリベル裁判官が入廷した。
「全員、着席してください」
法廷が静かになる。
マリベルは書類を確認した。
「それでは、市長殺害事件の公判を始めます」
カーターを見る。
「被告人は弁護人を変更したのですね」
カーターは黙っている。
マリベルは弁護人席を見る。
「あなたがマイク・ハンター弁護士ですか?」
男は立ち上がった。
「いいえ」
アトキンソン検事が口を挟む。
「裁判長」
マリベルがアトキンソンを見る。
「何ですか?」
アトキンソンは男を見る。
「彼はマイク・ハンターではありません。あの男は裁判が不安で逃げ出したようです」
法廷に小さなざわめきが起きる。
カーターがアトキンソンを見る。
だが、何も言わない。
マリベルは男に向き直った。
「被告人の横に座っているあなた」
「はい」
「名前は?」
男が立ち上がった。
「共同弁護人です、裁判長」
マリベルの眉が動いた。
「共同弁護人?」
「はい」
「マイク・ハンター弁護士から、あなたが弁護を担当するという連絡は受けていません」
男は落ち着いて答えた。
「本人から指示を受けています」
「それを証明できますか?」
男は一瞬黙った。
「現在、書類を確認中です」
アトキンソンが口を開く。
「裁判長。予定通り、審理を進めてはいかがでしょうか」
マリベルはアトキンソンを見る。
「その件は後で判断します」
マリベルはカーターを見る。
「被告人。マイク・ハンター弁護士に弁護を依頼したのですね?」
カーターは男を見た。
それから裁判官を見る。
「俺はマイク・ハンターに弁護を頼んだ」
「本人が来ていません」
「それは分かっている」
「なら、どういうことですか?」
カーターは答えなかった。
マリベルはしばらくカーターを見た。
そのとき、法廷の入口が開いた。
警備員が入ってくる。
「裁判長」
「何ですか?」
「外に数人の男が来ています」
「何の用ですか?」
「分かりません。ただ、法廷に入りたいと言っています」
マリベルが眉をひそめる。
「誰です?」
「被告人の関係者だと言っています」
アトキンソンが立ち上がる。
「退廷させてください」
マリベルは警備員を見る。
「法廷の秩序を乱すようなら、入れないでください」
「分かりました」
警備員が入口へ向かう。
アトキンソンが時計を見る。
「裁判長。そろそろ審理を始める時間です」
「分かっています」
マリベルは机の上の書類を整えた。
「検察側、準備はできていますか?」
「はい」
「それでは――」
その瞬間、廊下から大きな物音が響いた。
法廷内の全員が入口を見る。
続いて、誰かの怒鳴り声が聞こえた。
「邪魔するな!」
マリベルが立ち上がる。
「何事ですか?」
警備員が入口の前で振り返った。
「裁判長、少し問題が――」
別の男の声が響く。
「中に入れろ!」
法廷がざわつく。
アトキンソンが立ち上がった。
「これは何の騒ぎですか?」
マリベルは法廷内を見回した。
「全員、席を離れないでください」
カーターは黙って前を見ていた。
その隣に座る男だけが、時計を確認した。
法廷の外では、さらに大きな物音が響いた。
