コンテンプト・オブ・コート 2-29
アンカレッジ連邦地方裁判所。
市長殺害事件公判前。
マイクは法廷前の廊下を歩いていた。
手には事件資料がある。
周囲には検察関係者と警備員がいた。
ローリーの姿がない。
マイクは携帯電話を取り出した。
ローリーに電話をかける。
呼び出し音が続く。
出ない。
もう一度かける。
今度はつながった。
「何してるんだ? 早く来い」
電話の向こうから、男の声がした。
「かわいい彼女じゃなくてごめんな」
マイクの足が止まった。
「お前……」
周囲を見る。
「ジョニーか。相変わらず気持ち悪い声だな」
ジョニーが笑う。
「元気そうだな」
「ローリーは?」
「目の前にいる」
マイクは黙った。
「今すぐ指定の場所に来い。かわいい彼女が待ってるぞ」
「これから裁判なんだ」
「裁判?」
ジョニーが笑う。
「そんなもの、どうでもいいだろ」
「俺には重要なんだ」
「なら、簡単な話だ」
ジョニーの声が低くなる。
「十分遅れるごとに、彼女の臓器を一つずつ取り出してやる」
マイクは時計を見る。
それから法廷の扉を見る。
「勝手にしろ」
ジョニーが黙った。
「そいつは彼女じゃない」
マイクは淡々と言った。
「事務員のひとりだ」
「……何?」
「裁判が始まる」
「おい」
「じゃあな」
マイクは電話を切った。
ジョニーは携帯電話を見つめた。
「……なんだ、こいつ」
隣にいるローリーを見る。
ローリーは拘束されたまま、ジョニーを睨んでいた。
ジョニーが尋ねる。
「お前、あいつの彼女じゃないのか?」
ローリーは即答した。
「あのクズ弁護士と付き合うぐらいなら死ぬわ。この馬鹿」
ジョニーの顔が引きつる。
「そうか」
少し考える。
「お前を殺すと言ったら、あいつ、勝手にしろと言ったぞ」
ローリーの表情が変わった。
「あの野郎……」
拳を握る。
「許さない!」
ジョニーは困ったようにローリーを見る。
「本当に彼女じゃないのか?」
「違う!」
「そうか」
ジョニーは携帯電話をポケットに入れた。
「それなら、どうするか考えないとな」
そのとき、携帯電話が鳴った。
ジョニーは画面を見る。
「……やっぱりな」
電話に出る。
「どうした? 彼女が恋しくなったか?」
マイクの声が返ってくる。
「気が変わった」
ジョニーが笑う。
「へえ?」
「お前の臭い息のせいで、弁護する気が失せた」
「何だと?」
「どこにいる?」
ジョニーの表情が変わる。
「来る気になったか」
「場所を言え」
「それは――」
「早くしろ」
ジョニーは少し黙った。
そして、場所を告げる。
「市内のバーだ」
「分かった」
「一人で来い」
マイクは電話を切った。
携帯電話をしまう。
少し離れた場所に、エイダンが立っていた。
マイクが近づく。
「エイダン」
「何だ?」
「ローリーが捕まった」
エイダンの表情が変わる。
「生きてるのか?」
「もちろん」
「場所は?」
「市内のバーだ」
「行くぞ」
「ああ」
マイクは法廷を見る。
公判開始まで時間がない。
「お前の部下を法廷に残してくれ」
エイダンがマイクを見る。
「何をさせる?」
「俺たちが戻るまで、時間を稼がせる」
「裁判を?」
「ああ」
エイダンは少し考えた。
「分かった」
「頼む」
「俺たちは?」
「ローリーを助ける」
マイクは歩き出した。
エイダンが後を追う。
「バーには何人いる?」
「分からない」
マイクは携帯電話を確認した。
「急ぐぞ」
二人は裁判所を出た。
その後ろで、エイダンの部下が一人、法廷へ向かった。
公判開始まで、時間がない。
