コンテンプト・オブ・コート 2-16
アンカレッジ。
マイクの事務所。
外は暗くなっていた。
窓の向こうを車のライトが通り過ぎていく。
マイクが事務所に戻ってきた。
ドアを開ける。
中にはローリーがいた。
机の上に書類を広げ、事件資料を整理している。
マイクはローリーを見る。
「まだやってたのか」
ローリーは顔を上げた。
「あなたこそ遅いわね」
「仕事熱心だな」
「あなたに言われたくないわ」
ローリーは書類を一枚めくった。
「明日の裁判の準備よ」
マイクは自分の机へ向かった。
「初公判か」
「ええ」
「証拠は見た?」
「全部じゃないけど、確認したわ」
ローリーは資料を閉じた。
「それより、聞きたいことがあるの」
マイクは椅子に座らず、机の横に立った。
「何だ?」
「なぜカーター刑事がオースティン弁護士を信じないと?」
マイクはローリーを見る。
数秒、黙った。
「なぜそれを?」
「今日、ひとりでカーター刑事と面会したの」
「刑務所へ?」
「そう」
「何を話した?」
「事件のことよ」
マイクは何も言わない。
ローリーは椅子から立ち上がった。
「カーター刑事は、自分が犯人だと思われていることに怒っていた」
「当然だな」
「でも、それだけじゃなかった」
ローリーは机の上に手を置いた。
「オースティン弁護士の話をしたら、明らかに態度が変わった」
「どう変わった?」
「信用してない」
マイクは黙って聞いている。
「単に気に入らないという感じじゃない」
ローリーは言った。
「自分を弁護する気がないと思ってる」
「本人がそう言ったのか?」
「そこまでは言ってないわ」
「じゃあ、なぜそう思った?」
「話していれば分かるわ」
ローリーはマイクを見る。
「カーター刑事は、自分に不利な証拠が出ていることを知ってる」
「指紋の付いたナイフ」
「それだけじゃない」
「血の付いたズボンと靴」
「そう」
ローリーは頷いた。
「現場の足形まで一致している。明日の法廷では、それが全部出てくる」
「そうなるだろうな」
「それなのに、カーター刑事が気にしていたのは証拠だけじゃない」
マイクは眉を動かさない。
「何を話した?」
「事件に関係している人間のこと」
ローリーは少し間を置いた。
「誰が自分を陥れたのか。それを気にしているように見えた」
「本人がそう言った?」
「直接は言ってない」
「なら、君の推測だ」
「そうね」
ローリーは認めた。
「でも、私は間違ってないと思う」
マイクは机の上の事件資料を見る。
「真犯人は他にいると思ってるのか?」
「そうよ」
ローリーは答えた。
「カーター刑事は、真犯人は他にいると思ってるのね」
マイクはしばらく黙っていた。
「君ならそれも分かるはずだ」
ローリーはマイクを見る。
「どういう意味?」
「そのままだ」
「私はカーター刑事と一度会っただけよ」
「一度会えば十分なこともある」
「あなたは何を知ってるの?」
マイクは答えなかった。
ローリーはマイクを見つめる。
「あなた、何か隠してるでしょう」
「弁護士が依頼人について調べるのは普通だ」
「私が聞いているのは、それじゃないわ」
「なら、何だ?」
「カーター刑事の事件を引き受けた理由よ」
マイクは黙った。
ローリーはそれ以上追及しなかった。
机の上の資料を取り上げる。
「明日はどうするの?」
「傍聴する」
「オースティンは?」
「オースティンが弁護する」
「証拠が大量に出てくるわ」
「見れば分かる」
「あなた、余裕ね」
「余裕じゃない」
マイクは事件資料を手に取った。
表紙には、カーターの名前が記されている。
「確認したいだけだ」
「何を?」
マイクは資料を閉じた。
「明日の法廷で分かる」
ローリーはマイクを見た。
「本当にそれだけ?」
「今はな」
マイクは資料を持ったまま、自室へ向かった。
数歩進んだところで足を止める。
振り返らない。
「ローリー」
「何?」
「明日は俺の隣にいろ」
ローリーは少し黙った。
「分かったわ」
マイクは自室のドアを開けた。
「おやすみ」
「まだ寝ないでしょう」
マイクは答えなかった。
自室へ入り、ドアを閉める。
ローリーは一人、事務所に残った。
机の上には、カーターの事件資料がある。
ナイフ。
血液。
指紋。
ズボン。
靴。
どれもカーターが犯人だと示している。
カーターはオースティンを信用していない。
そして、マイクは何かを知っている。
ローリーは資料を開いた。
明日の初公判で、何が出てくるのか。
直接確かめるしかなかった。
