コンテンプト・オブ・コート 1-38
二十年前。
アンカレッジ。
夜。
「一つ……」
コールの声が事務所に響いた。
マイクは棚の陰で息を殺していた。
「二つ……」
リサがコールを睨む。
「やめて」
コールは答えない。
「三つ」
マイクは棚の陰から飛び出した。
「お母さん!」
リサへ向かって走る。
「マイク!」
リサが叫んだ。
その瞬間、コールの部下がリサの両腕をつかんだ。
「離して!」
リサが激しく抵抗する。
男はリサを押さえつけた。
マイクは母親のところまで走った。
「お母さん!」
「マイク、逃げて!」
コールが二人の間に入った。
マイクは足を止める。
コールは少年を見下ろした。
そして、ゆっくりと手を伸ばした。
マイクの右手を取る。
「いい子だね」
マイクは手を振りほどこうとした。
「離せ!」
コールは手を離さない。
「お母さんの言うことを聞かなかったな」
「お母さんを離せ!」
コールはマイクの手を握ったまま、リサを見る。
「息子か?」
リサは答えなかった。
「そうか」
コールはマイクから手を離した。
そしてリサに向き直る。
「メモリーカードはどこだ?」
「知らない」
「俺は持っていると聞いている」
「誰に聞いたの?」
「それはどうでもいい」
「本当に知らないわ」
コールはリサを見つめた。
「そんなものはないんだったな」
「ええ」
コールの後ろで、部下がリサを押さえ続けている。
マイクは母親を見た。
「お母さん……」
「マイク、大丈夫よ」
リサは息子を見ながら言った。
「怖くないから」
その言葉とは反対に、声は震えていた。
コールは上着の内側へ手を入れた。
拳銃を取り出す。
リサの目が銃に向いた。
コールは拳銃をマイクへ向けた。
マイクは動かなかった。
銃口が目の前にある。
マイクには、何が起きているのか理解できなかった。
「お母さん……」
リサが叫ぶ。
「やめて!」
コールはリサを見る。
「カードは?」
「知らない」
コールは拳銃を少し上げた。
銃口がマイクの顔へ向く。
「もう一度聞く」
リサの呼吸が止まった。
「メモリーカードはどこだ?」
「……分かった」
リサの声が小さくなる。
「渡すわ」
「最初からそうすればいい」
「マイクには何もしないで」
「カードを渡せばな」
「約束して」
コールは答えなかった。
リサはマイクを見た。
それから、机の方へ視線を向ける。
「……机の引き出し」
コールが部下を見る。
「探せ」
男が机へ向かう。
一番上の引き出しを開ける。
書類を一枚ずつ確認する。
「ない」
「その下」
男が二段目を開ける。
中には封筒や書類が入っていた。
男が奥を探る。
指先が小さなケースに触れた。
「これか?」
コールが近づく。
ケースを受け取る。
蓋を開ける。
中には小さなメモリーカードが入っていた。
コールはカードを取り出した。
「これだな」
リサは黙っている。
コールはカードを確認し、ポケットへ入れた。
「これでいい」
マイクは母親を見た。
「お母さん……」
リサは答えなかった。
ただ、マイクを見つめている。
そのとき、建物の外から車のエンジン音が聞こえた。
一台ではない。
コールが窓の方を見る。
雨の向こうに、車のライトが近づいてくる。
コールは時計を確認した。
「来たか」
リサの顔が変わった。
「誰が来るの?」
コールは答えない。
拳銃をしまう。
「もうすぐ終わる」
マイクはその言葉の意味が分からなかった。
事務所の前に高級セダンが止まった。
