コンテンプト・オブ・コート 1-37
二十年前。
アンカレッジ。
夜。
雨が降り続いていた。
古い四階建ての建物の前に、数台の車が止まった。
エンジンが切れる。
先頭の車から男が降りた。
ケンドリック・コール。
その後ろから、数人の男が続いた。
コールは建物を見上げた。
傘は差さなかった。
男たちは無言のまま入口へ向かう。
扉が開く。
コールが中へ入り、部下たちが続いた。
階段を上がる。
一階。
二階。
三階。
四階。
そのころ、リサは事務所の入口に立っていた。
マイクは奥の部屋に身を隠している。
リサが振り返る。
「そこにいて」
小さな声だった。
マイクは頷いた。
階段を上がってくる足音が近づく。
やがて、四階の廊下に男たちが姿を現した。
先頭のコールがリサを見る。
「リサ・グリーンだな」
リサは黙っていた。
「あなたは誰?」
「名前はどうでもいい」
コールは事務所の中を見た。
「少し聞きたいことがある」
「ここは弁護士事務所よ。用件があるなら、正式な手続きを取って」
「そんな必要はない」
コールは事務所へ入った。
リサは動かなかった。
男たちが後ろから入ってくる。
「勝手に入るのは不法侵入よ」
「そうかもしれないな」
コールは机の上を見る。
書類。
法律書。
電話。
そのまま視線を動かした。
「メモリーカードはどこだ?」
リサの表情がわずかに変わった。
「知らない」
「そんなものはない?」
「ええ。そんなものはない」
コールはリサを見た。
「本当に?」
「何のことか分からないわ」
コールは答えなかった。
ポケットから黒い革手袋を取り出す。
片方ずつ、ゆっくりとはめていく。
リサはその手元を見ていた。
「何をするつもり?」
「探すだけだ」
「令状は?」
「必要ない」
コールはそう言って、机の引き出しを開けた。
中の書類を確認する。
次の引き出し。
本棚。
部下の一人が奥の部屋へ向かおうとする。
「待って」
リサが止めた。
コールが振り返る。
「何かあるのか?」
「そこは私の仕事場よ」
「だから?」
リサは答えなかった。
コールは数秒、リサを見た。
そして、ゆっくりと事務所の奥へ視線を向けた。
マイクは息を殺していた。
母親から言われた言葉が頭に残っている。
――絶対に出てきちゃ駄目よ。
足音が近づいてくる。
マイクは棚の陰に身を寄せた。
コールは奥へ進まず、その場で立ち止まった。
「ひとりじゃないな?」
リサの顔が固まる。
「何のこと?」
「誰かいるだろ」
「いないわ」
「そうか」
コールは笑わなかった。
部下たちも動きを止めた。
雨音だけが聞こえる。
コールは事務所の奥を見た。
「さっきから気になっていた」
リサは何も言わない。
「誰かがいる」
「気のせいよ」
「そうかな」
コールは一歩前へ出た。
マイクは動かなかった。
コールはさらに一歩進む。
「ぼうや」
返事はない。
「出ておいで」
沈黙。
リサが言った。
「子どもなんていないわ」
コールはリサを見る。
「そうか」
そして、再び奥へ視線を向けた。
「ぼうや、出ておいで」
声は低かった。
「3つ数えるうちに出てこないと、お母さんが大変なことになるよ」
リサの表情が変わった。
「やめて」
コールは動かない。
マイクは棚の陰で息を止めた。
「一つ……」
コールの声が事務所に響いた。
雨はまだ降っていた。
