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イランの死刑制度:公開処刑および残酷な処刑方法

イランの死刑制度は、単純な「死刑の多い国」という説明だけでは全体像を捉えられない。殺人に対するキサス、薬物犯罪、性的犯罪、国家安全保障関連犯罪など複数の法的根拠が存在し、さらに公開処刑、身体刑、切断刑など、死刑とは別の刑罰体系も組み合わさっている。
イラン、首都テヘラン、指導部の弾圧に抗議するデモ(Getty Images)
現状(2026年9月時点)

2026年9月時点のイランでは、死刑制度が刑事司法の中に広く組み込まれており、公開処刑も完全には廃止されていない。2025年には死刑執行が大幅に増加し、国際人権団体の集計では少なくとも1,639人、国際的な監視機関であるアムネスティ・インターナショナルの集計では少なくとも2,159人が処刑されたとされ、集計方法の違いによって大きな差が生じている。

この数字の違いは、イラン当局がすべての死刑執行を包括的に公表していないことと関係している。イラン人権および死刑廃止運動団体による2025年の調査では、確認された1,639件のうち当局が公式に発表したものは113件、全体の7%未満にとどまり、1,524件は公式発表によらず確認されたものだった。

したがって、イランの死刑執行数を論じる際には、政府発表だけを実数として扱うことはできない。以下では、国際機関、専門的な人権監視団体、報道機関などが独立に確認した数字を併用し、確認可能な最低値として扱うことが適切である。

2025年の状況は、とりわけ深刻だった。イラン人権と死刑廃止運動団体の共同報告によれば、1,639人という数字は1989年以降で最多の記録となり、2024年の975人から68%増加したとされている。

一方、2026年に入ってからも死刑の利用は続いている。アムネスティ・インターナショナルは、2026年2月28日以降の戦争と政治的緊張を背景に、政治的動機を伴う罪で少なくとも36人が処刑されたと5月時点で報告し、78人以上の抗議活動参加者、反体制派などが死刑判決を受けた状態にあるとしている。

2026年7月28日には、イスファハンのアリハニ広場で2人の男性が公開絞首刑に処されたと報じられた。2人は同年1月の抗議活動中に警察官4人を殺害した罪で有罪とされた人物であり、この事例は、公開処刑が現在も実施され得ることを示す具体例となっている。

イランの法体系と死刑の背景

イランの死刑制度を理解するためには、単純に「刑法に死刑が規定されている」と考えるだけでは不十分である。現在の制度にはイスラム法の解釈を基礎とする刑罰体系と、近代的な刑事司法制度が重なって存在しており、死刑には複数の法的根拠がある。

特に重要なのが、刑罰を定めるイスラム刑法の体系である。そこでは、犯罪類型に応じて、国家が刑罰を決定する場合だけでなく、被害者や遺族の権利と結び付いた「キサス」と呼ばれる報復刑が存在する。

国連人権高等弁務官事務所の資料では、キサスは「同害報復」を意味し、殺人、過失致死、重大な傷害など、加害者の行為によって被害者が死亡または身体的損害を受けた事件に適用される制度として説明されている。殺人事件では、司法機関が裁判と判決を担当する一方、死刑の実施に至る過程では被害者遺族の意思が重要な位置を占める。

これとは別に、イスラム刑法には「フドゥード」と呼ばれる刑罰体系がある。これは宗教的・法的に定められた犯罪に対する刑罰を指し、犯罪類型によっては死刑が選択肢となるため、イランの死刑制度には国家刑罰としての側面と宗教法上の刑罰としての側面が併存している。

さらに国家安全保障に関係する犯罪については、「神に対する敵対」、「地上における腐敗」、「武装反乱」などに相当する罪が死刑につながる場合がある。イラン人権の調査によると、2025年にはこれらの国家安全保障関連罪で少なくとも57人が処刑され、2024年の31人から増加した。

ここで重要なのは、死刑の適用範囲が殺人だけに限定されていないことである。薬物犯罪、殺人、性的犯罪、国家安全保障関連犯罪など複数の犯罪類型に死刑が適用されており、2025年の記録では、殺人に対するキサスと薬物犯罪だけで死刑執行全体の大部分を占めている。

適用される主な罪状

2025年の統計を見ると、死刑執行の最大の類型の1つが薬物犯罪である。イラン人権の集計では、2025年に薬物犯罪によって処刑された者は少なくとも795人で、全体の48.5%を占め、2024年の503人から58%増加した。

アムネスティ・インターナショナルの集計では、薬物犯罪による執行数はさらに多く、2025年のイランでは少なくとも998件とされている。これは同団体が確認したイランの全死刑執行数の46%に相当し、薬物犯罪に対する死刑執行が制度全体の中心的部分を占めていることを示している。

次に重要なのが殺人に対するキサスである。イラン人権の2025年統計では、殺人を理由とするキサスによる死刑執行が少なくとも747人に達し、全執行数の45.6%を占めた。2024年の419人から79%増加しており、薬物犯罪と殺人が死刑制度の大部分を形成していることが分かる。

性的犯罪も死刑の対象となり得る。2025年には少なくとも37人が強姦罪によって処刑されたとイラン人権は集計している。ただし、これらの犯罪についても個々の事件の証拠、裁判手続、判決理由がすべて十分に公開されているわけではなく、統計上の数字だけから個々の有罪判決の正当性を判断することはできない。

国家安全保障関連の罪も重要である。2025年には「神に対する敵対」、「地上における腐敗」、「武装反乱」に相当する罪によって少なくとも57人が処刑され、その中には政治囚18人、イスラエルへのスパイ行為を理由に有罪とされた13人などが含まれていたと報告されている。

このカテゴリーについては、通常犯罪と政治的事件の境界が問題になる。イラン人権は、これらの国家安全保障関連罪が政治活動家や抗議参加者だけでなく、武装強盗、スパイ、武装組織関係者などにも適用されていると指摘しており、罪名そのものだけでは事件の政治的性格を判断できない。

また、死刑制度には性別、国籍、民族的少数者などをめぐる問題も存在する。2025年には少なくとも48人の女性が処刑され、アフガニスタン国籍者も少なくとも84人が処刑されたとイラン人権は報告している。

以上から、2026年9月時点のイランの死刑制度は、単一の犯罪類型に対する特殊な刑罰ではなく、薬物犯罪、殺人、性的犯罪、国家安全保障関連犯罪など広範な領域に及ぶ制度として捉える必要がある。

執行数の規模

イランの死刑制度を考えるうえで最も重要な特徴の1つは、執行件数の多さである。イラン人権と死刑廃止運動団体の共同調査によれば、2025年に確認された死刑執行は少なくとも1,639件で、2024年の975件から68%増加し、1989年以降で最多となった。

一方、アムネスティ・インターナショナルは2025年のイランについて、少なくとも2,159人の処刑を記録している。両者の数字が一致しないのは、イラン国内で情報公開が限定され、秘密裏に行われる執行が多数存在することに加え、各団体の確認基準や情報源が異なるためであり、したがって「正確な年間総数」を断定するよりも、独立した複数の調査がいずれも非常に大規模な執行を確認している点に注目する必要がある。

イラン人権の調査では、2025年に確認された1,639件のうち、当局が公式に発表したものは113件にすぎず、93%以上に当たる1,524件は公式発表によらず確認された。さらに同団体は、2つ以上の独立した情報源による確認ができなかった執行についても553件の報告を受けていたと説明しており、実際の件数が確認済み統計を上回る可能性を示している。

死刑の規模を犯罪類型別に見ると、2025年は薬物犯罪と殺人に対するキサスが大半を占めた。人権団体によると、薬物犯罪による執行は少なくとも795件、殺人に対するキサスは747件であり、この2つだけで確認された全執行の94%以上に達している。

この数字から、イランの死刑制度を政治犯に対する処刑だけとして理解することはできない。大量の執行は一般犯罪にも及んでおり、その一方で国家安全保障関連罪による処刑も存在するという二重の構造を持っている。

公開処刑の実態

刑務所内での執行が多数を占める一方、イランでは死刑囚を一般市民が見ることのできる場所で処刑する公開処刑も続いている。イラン人権の集計によれば、2008年以降、毎年複数件の公開処刑が確認され、2020年には1件、2021年には0件まで減少したものの、2022年に2件、2023年に7件、2024年に4件、2025年には11件へと再び増加した。

2025年に確認された11件は、いずれも男性に対する公開絞首刑だった。11件のうち10件は国営または司法系の公式媒体によって公表され、残る1件は公式発表を伴わない形で確認されたとされている。

公開処刑は通常、刑務所の内部ではなく、道路、広場、街区など一般人がアクセスできる空間で実施される。過去の事例では、クレーンなどの設備を使用して死刑囚を吊り上げる方式が確認されており、周囲から執行の様子を見ることが可能な形で実施されている。

公開処刑には、単に刑罰を実施するという司法上の機能とは異なる特徴がある。処刑そのものを多数の人間が目撃できるようにすることで、刑罰の結果を社会に直接示すという性格を持つためである。

2025年7月12日には、西アゼルバイジャン州ブカンで20歳の男性が公開絞首刑にされた事例が報告されている。イラン人権によれば、この男性は7歳の少女の死亡を伴う強姦事件で死刑判決を受けており、公開処刑の映像には子供を含む観衆が写っていたとされる。

公開処刑の対象となる犯罪は一定していない。2025年には殺人を理由とするキサスの執行が複数確認されたほか、強姦などの重大犯罪に対する刑罰として公開処刑が行われており、公開という執行形態と、死刑判決の法的根拠は分けて考える必要がある。

2026年にも公開処刑は確認されている。7月28日、イスファハンのアリハニ広場で、1月の抗議活動中に警察官4人を殺害したとして有罪判決を受けた2人が公開絞首刑にされたと報じられており、公開処刑が現在も制度上および実務上存続していることを示す事例となっている。

公開処刑の目的と影響

公開処刑の目的については、イラン政府がすべての事例について明確な政策目的を説明しているわけではないため、個々の執行について政府の意図を一律に断定することはできない。ただし、人権監視団体は、公開処刑が市民に刑罰の威嚇効果を直接認識させる仕組みとして機能していると分析している。

イラン人権は2025年の公開処刑について、子供を含む市民が処刑を目撃する状況を問題視し、公開空間での執行が恐怖を広げる効果を持つと指摘している。ここで重要なのは、これは同団体による分析であり、政府が「恐怖を広げるため」という単一の目的を公式に認めていることを意味しない点である。

公開処刑には、社会的な影響という側面もある。処刑を見せることによって犯罪に対する抑止を図るという考え方が存在する一方、国際的な人権機関や死刑廃止団体からは、公開処刑そのものが人間の尊厳を傷つけ、観衆に心理的影響を与えるとの批判が続いている。

また、公開処刑は情報統制との関係でも特徴的である。イランでは秘密裏に実施される執行が多数存在する一方、公開処刑については国営メディアや司法当局系媒体が氏名、写真、映像などを発表する場合があり、死刑制度の存在を社会に可視化する役割を果たしている。

2007年から2008年にかけて公開処刑への国際的な批判が強まったことを受け、当時の司法府長官マフムード・シャフルーディは公開処刑の利用を制限する指示を出したとイラン人権は記録している。しかし、2020年と2021年の大幅な減少を経て、2022年以降は再び公開処刑が確認されるようになっている。

手法

イランで最も一般的な死刑執行方法は絞首刑である。イラン人権の法制度調査によると、イランの刑法体系には絞首刑のほか、銃殺、磔刑、石打ちなど複数の執行方法に関する規定が存在するが、実際の執行では絞首刑が主要な方法となっている。

過去には銃殺による執行も確認されている。イラン人権は、2020年にクルド系政治囚ヘダヤト・アブドゥラプールが銃殺によって処刑された事例を挙げており、絞首刑が圧倒的に多いとはいえ、法制度上および実務上、他の方法が完全に存在しないわけではないとしている。

石打ちについては、法制度上の規定が残されていることと、実際に近年執行されたこととは区別しなければならない。アムネスティ・インターナショナルは2025年について、確認できた司法上の石打ちによる執行はなかったとしており、法典に残る規定と現実の執行状況を同一視することは適切ではない。

通常の刑務所内での死刑では、専用の執行室や刑務所内の特定区域が使用される場合がある。イラン人権によれば、殺人事件でキサスによる死刑となった場合には被害者側の申立人が執行場所に立ち会うことが求められ、制度上、遺族の意思が刑罰の実施に重要な位置を占める。

この点は、次回扱うキサス法の理解に直結する。イランの死刑制度では、国家が犯罪者に刑罰を科すという一般的な刑事司法だけでなく、殺人被害者の遺族が報復、赦免、金銭的補償などに関与する独自の法的構造が存在するためである。

残酷な刑罰と報復刑(キサス法)

イランの刑罰制度を理解するうえで重要なのが、「キサス」と呼ばれる報復刑である。キサスは、犯罪によって生じた生命または身体への侵害について、加害者に被害と対応する刑罰を科すという考え方であり、殺人の場合には生命に対する報復として死刑が適用され得るほか、身体への故意の傷害についても同害の報復が法的に規定されている。

この制度は、国家が一方的に刑罰を決定する通常の刑事司法とは異なる側面を持つ。殺人事件のキサスでは、被害者遺族が報復を求める権利を持つ一方、遺族が加害者を赦免したり、金銭的補償である血の代償を受け取ったりすることで、死刑を回避できる仕組みが設けられている。

したがって、キサスによる死刑を単純に「国家が殺人犯を処刑する制度」と捉えると、その法的構造を見誤る。イランの制度では、裁判所が有罪と刑罰の法的根拠を判断する一方、故意の殺人に対するキサスの実施をめぐっては、被害者側の権利が非常に大きな位置を占めている。

この点は、キサスがイスラム刑法上の独立した概念として存在していることとも関係する。イラン人権の法制度分析では、キサスは生命だけでなく身体的損害にも及び、「同害」を基本原則として傷害への報復を可能にする制度として説明されている。

一方、被害者側が報復を放棄すれば必ず無条件に釈放されるという単純な制度でもない。事件の種類や法的根拠によっては、血の代償の支払い、その他の刑罰、司法上の手続などが関係するため、キサスによる死刑と一般的な国家刑罰を完全に同一視することも、逆に完全に切り離すことも適切ではない。

キサスと血の代償

キサスを理解するうえでもう1つ重要なのが、血の代償である。これは加害者側が一定の金銭を支払うことによって、被害者または遺族が報復を放棄する仕組みであり、殺人事件における死刑回避の重要な手段となっている。

この制度によって、殺人事件の判決後も被害者遺族と加害者側の交渉が続くことがある。遺族が赦免すれば死刑が回避される可能性があるため、イランでは死刑判決を受けた者について、処刑直前まで遺族との和解を求める活動が行われる場合もある。

ただし、ここには社会経済的な問題も存在する。血の代償を支払えるかどうかは加害者側の経済力に左右されるため、貧困層の死刑囚ほど死刑回避のための交渉で不利になる可能性があると、人権団体は指摘している。

また、被害者遺族に刑罰の選択に大きな権限を与える制度は、国家による刑罰と私的な報復との境界を複雑にする。国連の人権機関も、キサスについて、身体的完全性への侵害に対する報復を認め、その処罰または赦免が被害者や家族の判断と金銭的補償に結び付く制度であることを問題として取り上げている。

身体損壊・報復刑

キサスの対象は死刑だけではない。故意に相手の身体を傷つけた場合には、傷害の程度や部位に応じて、被害者に生じた損害と対応する身体的報復が法的に認められている。

この制度上の規定には、目を失わせる、身体の一部を切断するなど、現代の人権基準から極めて重大な問題を生じさせる刑罰が含まれている。国連の人権委員会は、イランの刑法について、キサスによる報復として身体的損傷に対応する刑罰を認め、場合によっては目を失わせる刑罰などにつながり得ることに懸念を示している。

ただし、法典に規定が存在することと、その刑罰が現実に頻繁に執行されていることは別問題である。目への報復刑については、アムネスティ・インターナショナルが過去の資料で法的に可能であることを確認している一方、近年に実際に執行された事例については確認できていないとしている。

この区別は、イランの刑罰制度を論じる場合に特に重要である。石打ち、磔刑、身体損壊などについても、法律上の規定、判決として言い渡された事例、実際に執行された事例を分けて考えなければ、イランの現状を過大評価または過小評価することになる。

指の切断刑

近年、実際の執行によって国際的な批判を受けているのが、窃盗などに対する指の切断刑である。2024年10月には、西アゼルバイジャン州のウルミア中央刑務所で2人の兄弟に対する指の切断刑が執行され、2025年7月には同じ刑務所で3人の男性に対して右手の4本の指を切断する刑が実施されたとアムネスティ・インターナショナルが報告している。

2025年7月30日の事例では、ハディ・ロスタミ、メフディ・シャラフィアン、メフディ・シャヒバンドの3人に対し、刑務所当局が切断用の装置を使用して右手の4本の指を切断したとされる。アムネスティ・インターナショナルによれば、3人はその後に医療施設へ移送され、処置を受けたものの、十分な専門的な身体的・精神的医療を受けられないまま刑務所へ戻された。

この3人については、判決に至る過程そのものにも重大な問題が指摘されている。アムネスティ・インターナショナルは、3人が2019年に有罪判決を受けた際、拷問によって得られたとされる自白が使用され、弁護士への接触も制限されていたと報告している。

また、指の切断刑は単なる身体的苦痛だけではなく、執行後の生活にも長期的な影響を及ぼす。手指の機能を恒久的に失わせることは、労働能力や日常生活に直接影響するため、特に経済的に脆弱な立場にある人にとっては、刑罰が終了した後も重大な社会的・経済的負担となる。アムネスティ・インターナショナルは、こうした刑罰の対象者には貧困層が多いと指摘している。

同団体が引用するアブドッラフマン・ボロウマンド・センターの調査では、1979年以降、イラン当局が少なくとも384件の切断刑を言い渡し、そのうち少なくとも223件を実施したとされる。ただし、イラン政府は切断刑の判決数や執行数について包括的な公式統計を公表していないため、これらも確認可能な最低値として理解する必要がある。

身体刑と医療関係者

身体損壊刑をめぐっては、医療関係者の関与も大きな問題となる。アムネスティ・インターナショナルによると、イランの法制度では身体刑の執行時に医師が立ち会うことが求められる場合があり、同団体はこれが医療倫理と拷問禁止の国際的基準に反すると批判している。

これは、刑罰によって生じる身体的損傷を最小限にするという医療行為と、意図的に身体を損壊する刑罰との間に根本的な緊張関係があるためである。医師が執行に関与する場合、医学的知識が治療ではなく刑罰の実施を可能にするために利用されることになり、医療倫理上の問題が発生する。

2025年の3人の指切断事件では、執行直後に指の切断面が縫合され、包帯が施されたと報告されている。このように「刑罰を実施する段階」と「刑罰によって生じた傷害を医療的に処置する段階」が連続して存在することは、身体刑が単なる抽象的な法規定ではなく、現実の医療行為を伴う刑罰として実施されていることを示している。

どこまでが「残酷な刑罰」なのか

「残酷な刑罰」という表現には、法的な意味と人権上の評価を分けて考える必要がある。イラン国内の法体系では、身体刑やキサスは宗教的・法的根拠を持つ合法的な刑罰として位置付けられている一方、国際人権機関は、拷問または残虐、非人道的もしくは品位を傷つける取扱いに該当すると評価している。

アムネスティ・インターナショナルは、指の切断について明確に拷問に当たると主張している。国連人権機関も、イランの刑法に身体刑、公開石打ち、鞭打ち、切断刑などが残されていることについて継続的な懸念を示しており、刑罰の法的承認そのものが国際人権法との緊張を生んでいる。

したがって、イランの「残酷な刑罰」を検証する際には、刺激的な刑罰の列挙だけでは不十分である。重要なのは、①法典上の規定、②裁判所による判決、③実際の執行、④執行過程における適正手続、⑤執行後に生じる身体的・社会的影響という5つの段階を分けて分析することである。

キサスについても同じことが言える。殺人に対する死刑、身体的傷害に対する報復、遺族による赦免、血の代償、身体損壊刑は、それぞれ異なる法的機能を持っており、それらを一括して「死刑制度」と呼ぶと、イラン刑罰体系の特徴を正確に捉えることができない。

国際法上の違反

イランの死刑制度を国際法の観点から検討する場合、最初に確認すべきなのは、死刑制度そのものと、死刑の適用方法を区別する必要があることである。イランは死刑を法律上維持しているが、死刑を維持する国であっても、国際人権法上は生命に対する権利、適正手続、拷問禁止などの義務を負っており、どのような犯罪にも自由に死刑を科せるわけではない。

イランは1975年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を批准している。同規約第6条は生命に対する権利を保障し、死刑を廃止していない締約国についても、死刑は「最も重大な犯罪」に限って科すことを求めている。国連人権委員会はこの「最も重大な犯罪」について、原則として意図的な殺人を伴う犯罪に限定されるとの解釈を示している。

この基準から特に問題となるのが、薬物犯罪に対する死刑である。国連の人権専門家は2025年のイランに関する文書で、薬物犯罪は意図的な殺人に該当しないため、国際人権規約第6条が定める「最も重大な犯罪」の基準を満たさず、薬物犯罪に死刑を適用することは生命に対する権利との関係で問題となると指摘している。

2025年の執行状況を見ると、この問題は抽象的な法解釈にとどまらない。アムネスティ・インターナショナルは同年のイランで少なくとも2,159人が処刑されたと集計し、その中には薬物関連犯罪による多数の執行が含まれていると報告している。

公正な裁判を受ける権利

死刑制度をめぐるもう1つの重大な問題が、裁判手続である。死刑は生命を奪う刑罰であるため、被告人に対して特に厳格な適正手続が保障される必要があるが、イランの裁判、とりわけ革命裁判所については、弁護士へのアクセス制限、拷問によって得られたとされる自白の使用、上訴などの手続上の問題が繰り返し報告されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2025年のイランについて、革命裁判所を中心に公正な裁判の基準を満たさない手続が続き、拷問によって得られた可能性のある自白が証拠として利用され、捜査初期段階における弁護士への接触が制限されていると報告している。こうした問題が死刑事件に存在する場合、刑罰そのものだけでなく、有罪判決に至る過程そのものが国際人権法上の問題となる。

2026年についても同様の問題が報告されている。アムネスティ・インターナショナルは2026年1月の抗議活動に関連して拘束された人々について、拷問によって汚染された証拠を用いた不公正な裁判や、迅速化された手続によって死刑判決が下される危険性を指摘している。

さらに、2026年5月の報告では、2026年2月28日以降、政治的性格を持つ罪で有罪とされた少なくとも36人が処刑され、少なくとも78人の抗議参加者、反体制派などが死刑判決を受けた状態にあるとアムネスティ・インターナショナルが報告している。これらについて同団体は、裁判が著しく不公正だったと評価している。

ここで注意すべきなのは、死刑判決を受けた者がすべて政治犯であると判断することはできないという点である。殺人、薬物犯罪、強姦など一般犯罪に対する死刑も大量に存在するため、国際法上の問題を分析する際には、一般犯罪、国家安全保障犯罪、政治活動に関連する事件をそれぞれ区別する必要がある。

拷問および残虐・非人道的な刑罰

イランの刑罰制度では、死刑だけでなく、鞭打ち、切断などの身体刑も存在する。アムネスティ・インターナショナルは2025年について、指の切断刑が実際に執行されたことを報告しており、こうした身体刑を拷問または残虐、非人道的もしくは品位を傷つける取扱いに該当するものとして問題視している。

国際法上、拷問や残虐、非人道的または品位を傷つける取扱いの禁止は、犯罪者に対する刑罰であれば自由に例外を設けられるという性質のものではない。したがって、国内法によって正式な刑罰として定められているという事実だけでは、国際人権法上の適法性を当然に意味しない。

特に身体を恒久的に損傷させる刑罰は、刑罰が終了した後も身体機能に影響を残す点で、通常の拘禁刑とは性質が異なる。2025年7月に3人の男性の右手の指を切断する刑が執行された事例について、アムネスティ・インターナショナルは拷問に該当するとしており、執行過程に医療関係者が関与することについても医療倫理上の問題を指摘している。

公開処刑も同様に問題となる。刑罰を公開空間で実施することは、単に死刑を執行するだけでなく、処刑そのものを多数の人間に見せるという特徴を持つため、国際人権機関や人権団体から、人間の尊厳との関係で強い批判を受けている。

子どもに対する死刑

さらに重大なのが、犯罪時に18歳未満だった者に対する死刑である。国際人権法では、児童が犯した犯罪について死刑を科すことは認められておらず、この点は死刑制度を維持する国にも適用される重要な制限である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2025年末の時点で、イランでは犯罪時に子どもだった多数の死刑囚が死刑執行を待っていると報告している。アムネスティ・インターナショナルも2025年について、犯罪時に18歳未満だった少なくとも1人が処刑され、さらに多数が死刑判決を受けた状態にあったと報告している。

この問題は、死刑制度の存廃そのものとは異なる。仮に死刑を維持する国家であっても、犯罪時に18歳未満だった者については特別な保護が必要であり、少年犯罪者への死刑は国際人権法上明確な問題となる。

国家安全保障犯罪と死刑

2026年に特に注目されるのが、国家安全保障を理由とする死刑の利用である。イランでは「地上における腐敗」や「神に対する敵対」など、解釈の幅が広い犯罪類型が存在し、抗議活動や反体制活動と結び付いた事件で死刑判決が出されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2025年のイランで曖昧な国家安全保障犯罪に対する死刑の利用が続き、政治的弾圧の手段としても死刑が使用されたと報告している。同団体によれば、2025年にはイスラエルとの関係や諜報活動などを理由として少なくとも13人が処刑された。

2026年にはこの傾向がさらに問題となっている。アムネスティ・インターナショナルは、2026年の抗議活動や政治的反対派に関連する事件について、死刑判決と処刑が急速に進められたと報告しており、政治的意見や表現活動など、本来は生命刑を科す根拠になり得ない権利行使と死刑制度が結び付く危険性を指摘している。

この問題では、個々の被告人が実際に殺人などの重大犯罪を行ったかどうかを事件ごとに検討する必要がある。国家が「安全保障」を理由に死刑を適用したという事実だけから、すべての事件を政治的処刑と断定することはできないが、曖昧な犯罪構成要件と不公正な裁判が組み合わされた場合には、死刑制度が政治的抑圧に利用される危険性が高まる。

今後の展望

2026年9月時点で、イランが近い将来に死刑制度そのものを廃止する方向へ大きく転換したことを示す明確な動きは確認されていない。むしろ2025年には1989年以来最多とされる規模の執行が記録され、2026年にも政治的事件や国家安全保障関連事件を含む死刑の利用が続いている。

今後の変化を考える場合、少なくとも4つの要素が重要になる。第1は薬物犯罪に対する死刑の扱い、第2は国家安全保障関連罪の定義と適用、第3は革命裁判所における公正な裁判の保障、第4は公開処刑や身体刑を含む残虐な刑罰の見直しである。

特に薬物犯罪については、国際人権法上の「最も重大な犯罪」の解釈との緊張が明確になっている。国連の人権専門家は2025年にも、薬物犯罪への死刑適用が国際人権規約第6条の生命に対する権利と両立しないとの立場を示しており、今後もイランの死刑政策をめぐる主要な国際的争点になると考えられる。

一方、国内制度の改革だけではなく、死刑判決に至る裁判手続の透明性も重要である。判決文、犯罪事実、証拠、弁護活動、上訴結果、死刑執行数を体系的に公開することが進めば、死刑制度について外部から検証できる範囲が拡大する。

現状では、独立した人権団体が確認した執行数と政府による公表数に大きな差がある。したがって今後の最初の課題の1つは、死刑の存廃以前に、何人が、どの罪で、どのような裁判を経て処刑されたのかを社会が検証できる情報公開体制を整えることにある。

まとめ

イランの死刑制度は、単純な「死刑の多い国」という説明だけでは全体像を捉えられない。殺人に対するキサス、薬物犯罪、性的犯罪、国家安全保障関連犯罪など複数の法的根拠が存在し、さらに公開処刑、身体刑、切断刑など、死刑とは別の刑罰体系も組み合わさっている。

2025年には独立した人権団体によって少なくとも1,639件から2,159件以上という非常に大規模な執行が確認され、2026年にも死刑の利用が続いている。特に薬物犯罪に対する死刑については国際人権法上の「最も重大な犯罪」の基準との明確な緊張が存在し、国家安全保障関連事件では公正な裁判を受ける権利との関係が重要な問題となっている。

公開処刑や身体損壊刑についても、国内法上の合法性と国際人権法上の適法性を区別する必要がある。国内法が刑罰として規定していることだけでは、拷問および残虐、非人道的または品位を傷つける取扱いの禁止との整合性を説明できない。

さらに、死刑制度の評価では、犯罪の重大性だけでなく、どのような証拠によって有罪とされたのか、弁護士へのアクセスが保障されたのか、拷問による自白が利用されていないか、上訴の機会が確保されたのかという手続面を検討する必要がある。死刑は生命を回復できない刑罰であるため、手続上の誤りがそのまま取り返しのつかない結果につながるからである。

2026年9月時点のイランを総合すると、死刑制度は一般犯罪に対する刑罰であると同時に、薬物取締り、宗教的・道徳的規範の維持、国家安全保障、政治的抑圧など複数の領域と結び付いている。そのため、今後の動向を分析するには、年間の執行数だけでなく、犯罪類型、被告人の属性、裁判手続、公開処刑の件数、身体刑の執行状況、国際人権機関による勧告への対応を継続的に追跡する必要がある。


参考・引用資料

  • 国際連合人権高等弁務官事務所、イランに関する人権専門家の通信資料。国際人権規約第6条、「最も重大な犯罪」と薬物犯罪に対する死刑の関係を扱っている。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ「世界報告2026・イラン」。2025年の死刑執行、国家安全保障犯罪、薬物犯罪、公正な裁判、政治的事件について整理している。
  • アムネスティ・インターナショナル「2025年の死刑判決と死刑執行」。2025年の世界およびイランの死刑執行統計をまとめている。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:抗議参加者・反体制派に対する死刑の危険」。2026年の政治関連死刑事件と裁判手続について報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:2026年1月の抗議活動と死刑の危険」。拷問による自白、不公正な裁判、迅速化された死刑手続について報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン人権状況報告」。公開処刑、身体刑、死刑、裁判手続などを総合的に扱っている。

追記:イランの法体系と死刑の背景

2026年9月時点のイランでは、死刑制度は依然として刑事司法の主要な刑罰として維持されている。2025年について、イラン人権は少なくとも1,639人、アムネスティ・インターナショナルは少なくとも2,159人の死刑執行を記録しており、集計値には大きな差があるものの、いずれの調査でもイランが世界で最も多く死刑を執行する国の1つであることが確認されている。

イラン人権による1,639件という数字は、2024年の975件から68%増加しており、同団体が1989年以降で確認した年間執行数として最多だった。さらに、2008年から2025年までの累計では少なくとも11,196人が処刑されたとされ、平均すると年間622人に相当する。

ただし、これらの数字はイラン政府が公表する完全な公式統計ではない。2025年についてイラン人権が確認した1,639件のうち、政府や司法当局など公式情報源によって発表されたものは113件、7%未満にすぎず、残る1,524件は家族、弁護士、報道機関、人権団体などを通じて確認されたものだった。

この情報公開の不完全さは、イランの死刑制度を分析する際の重要な制約となる。そのため、年間執行数については「正確な総数」ではなく、複数の独立した情報源によって確認された最低値として扱うことが妥当である。

イランの死刑制度は、一般的な刑法だけでは説明できない。イスラム法の解釈を基礎とする刑罰体系、国家が決定する刑罰、被害者や遺族の権利と結び付いたキサスなどが複合して存在している。

特に殺人事件では、キサスによる報復刑が重要となる。これは国家が単純に死刑を科す仕組みとは異なり、被害者遺族が報復を求める権利を持つ一方、赦免や血の代償を選択することによって死刑を回避できる仕組みである。

2025年のイラン人権の統計では、殺人に対するキサスによる死刑が少なくとも747件に達した。これは同年に確認された1,639件の45.6%に相当し、薬物犯罪による795件と合わせると、全体の大部分を占める。

したがって、イランの死刑を「政治犯への処刑」とだけ理解することは正確ではない。実際には薬物犯罪と殺人が大量執行の中心であり、その上に国家安全保障関連犯罪などに対する死刑が存在するという構造になっている。

適用される主な罪状

2025年に最も多く死刑執行につながった犯罪類型の1つは薬物犯罪だった。イラン人権は795件を確認しており、全執行の48.5%を占めたが、このうち公式に発表されたものはわずか3件だった。

殺人については、前述の通り747件がキサスによって執行された。さらに、強姦では37件、国家安全保障関連の罪である武装反乱、地上における腐敗、神に対する敵対などでは少なくとも57件が確認されている。

このうち国家安全保障関連罪については、政治的事件との関係が特に重要である。2025年の57件には政治囚18人、スパイ行為の罪で有罪とされた13人、抗議参加者2人などが含まれていたとイラン人権は報告している。

2026年には、この問題がさらに明確になっている。アムネスティ・インターナショナルは2026年5月、2月28日以降に政治的動機を伴う罪で有罪とされた少なくとも36人が処刑され、少なくとも78人の抗議参加者や反体制派などが死刑判決を受けた状態にあると報告した。

9月10日付のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告では、2026年3月18日から8月末までの間に、政治的動機を伴う曖昧な国家安全保障関連罪によって少なくとも59人が処刑されたとされ、そのうち29人は2025年12月から2026年1月の抗議活動との関係で逮捕された人物だった。

公開処刑の実態

イランでは刑務所内での死刑執行だけでなく、一般市民が見ることのできる場所での公開処刑も続いている。アムネスティ・インターナショナルによると、公開処刑は2008年以降継続的に確認されており、2025年には11件が記録された。

2025年に確認された11件はいずれも公開絞首刑だった。公開処刑は道路や広場などで行われ、クレーンなどを使用して死刑囚を吊り上げる方式が確認されている。

2026年にも公開処刑は続いた。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、7月28日にはイスファハンのアリハニ広場で2人が処刑され、さらに3月19日にはコムで3人が「人々の前で」処刑されたと司法系媒体が報じた。

2026年3月から8月に処刑された59人のうち、5人は公開処刑だったとヒューマン・ライツ・ウォッチは報告している。同団体は、公開処刑が単に刑罰を執行する行為ではなく、社会に恐怖を与え、抗議活動を抑止する効果を狙ったものとして機能していると分析している。

手法と残酷な刑罰

現代のイランで最も一般的な死刑執行方法は絞首刑である。一方、イランの法体系には石打ち、身体損壊など、現代の国際人権基準との関係で重大な問題を生じさせる刑罰規定も残されている。

重要なのは、法律上規定されている刑罰と、実際に執行されている刑罰を区別することである。例えば石打ちについては法制度上の規定が残されている一方、近年の実際の執行件数は限定的であり、規定の存在だけから現在頻繁に行われていると判断することはできない。

他方、身体損壊刑については実際の執行例が確認されている。2025年7月には3人の男性に対して右手の4本の指を切断する刑が執行されたとアムネスティ・インターナショナルが報告しており、同団体はこれを拷問に当たるものと評価している。

このような身体刑は、刑罰が終了した後も身体機能に恒久的な影響を残す。したがって、単に「死刑以外の刑罰」として扱うのではなく、身体的完全性、医療倫理、拷問禁止との関係から独立して検討する必要がある。

国際法上の問題

イランは「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の締約国であり、生命に対する権利を含む国際的な人権義務を負っている。死刑制度そのものを維持することと、国際法上許される範囲で死刑を適用することは別の問題である。

特に重要なのが、「最も重大な犯罪」に死刑を限定するという国際人権法上の考え方である。国連人権委員会はこの概念について、原則として意図的な殺人を伴う犯罪に限定されるとの解釈を示しているため、薬物犯罪などへの死刑適用は重大な問題となる。

この観点から、イランで大量に行われている薬物犯罪への死刑執行は国際法上の主要な争点となる。2025年だけでもイラン人権は795件、アムネスティ・インターナショナルは2,000人を超えるイランでの死刑執行を記録しており、薬物犯罪を含む死刑政策の規模は極めて大きい。

さらに、公正な裁判を受ける権利も問題となる。アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチは、革命裁判所などにおける弁護士へのアクセス制限、拷問による自白の利用、不十分な審理などを繰り返し報告している。

特に死刑事件では、この問題の重大性が増す。もし拷問によって得られた自白や十分に検証されていない証拠を基礎として死刑判決が確定すれば、誤判が発生した場合に結果を回復できないためである。

2026年9月時点で、イランが死刑制度そのものを近い将来に廃止する方向へ明確に転換したことを示す材料は確認されていない。むしろ2025年の執行数は過去数十年間で最大級となり、2026年には政治的事件に対する死刑執行と公開処刑も確認されている。

今後の変化を見る際には、年間の死刑執行数だけでなく、犯罪類型、裁判手続、公開処刑の件数、薬物犯罪に対する死刑、身体刑の執行、少年時の犯罪に対する死刑などを個別に追跡する必要がある。特に2026年については年途中の統計であるため、2025年の確定的な年間統計と単純に比較することは避けるべきである。

また、公開処刑については、2007年から2008年に国際的な批判が高まった際、司法当局がその利用を制限する措置を取った経緯がある。しかし、その後も公開処刑は消滅せず、2022年以降は再び複数件が確認され、2025年には11件、2026年にも複数件が確認されている。

このため、今後の焦点は単純な「死刑廃止か存続か」だけではない。少なくとも公開処刑の停止、身体刑の廃止、死刑対象犯罪の縮小、薬物犯罪への死刑適用の停止、公正な裁判の保障、死刑統計の透明化という複数の改革課題に分けて考える必要がある。

最後に

イランの死刑制度は、イスラム法を基礎とするキサス、薬物犯罪などに対する国家刑罰、国家安全保障関連犯罪に対する死刑などが複雑に組み合わさった制度である。2025年には少なくとも1,639件、別の国際的調査では少なくとも2,159件の死刑執行が確認され、いずれの統計から見ても世界最大規模の死刑執行国の1つである。

その特徴は執行数の多さだけではない。公開絞首刑、キサスによる死刑、身体損壊刑、薬物犯罪への死刑、国家安全保障関連犯罪への死刑という複数の制度が同時に存在している点に、イランの死刑制度の特殊性がある。

また、公開処刑については2026年にも実施が確認されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2026年3月から8月までに政治的事件で処刑された59人のうち5人が公開処刑だったとしており、公開という形式が現在も維持されていることを示している。

したがって、イランの死刑制度を評価する場合には、「死刑が存在する」という事実だけを見るのでは不十分である。どの犯罪に適用され、どのような裁判を経て、どのような方法で執行され、公開処刑や身体刑が社会にどのような影響を与えているのかを分けて分析する必要がある。

特に国際法との関係では、死刑制度の存在そのものだけではなく、「最も重大な犯罪」という限定、公正な裁判、拷問禁止、残虐・非人道的または品位を傷つける刑罰の禁止、児童に対する特別な保護などが重要となる。国内法上の合法性と国際人権法上の適合性は同じものではなく、イランの刑罰制度を検証する際には、この2つを明確に分離して考える必要がある。

総じて、2026年9月時点のイランでは死刑が例外的な刑罰として存在しているとは言い難く、一般犯罪から国家安全保障関連犯罪まで広範に利用されている。さらに、公開処刑と身体刑の存在、公的統計の不透明さ、裁判手続をめぐる国際的な批判が重なっており、イランの死刑制度は刑罰政策だけでなく、司法制度、国家安全保障、人権保障、情報公開を横断する問題として捉える必要がある。


参考・引用リスト(追記)

  • アムネスティ・インターナショナル「2025年の死刑判決と死刑執行」
    2025年の世界各国の死刑執行を集計した年次資料であり、イランについて少なくとも2,159件の執行を記録している。
  • イラン人権・死刑廃止運動団体「2025年イラン死刑年次報告」
    2025年のイランについて少なくとも1,639件の執行を確認し、薬物犯罪795件、殺人に対するキサス747件、国家安全保障関連罪57件などの内訳を示している。
  • イラン人権「2008~2025年の死刑執行統計」
    2008年から2025年までの年間執行数を整理し、同期間に少なくとも11,196人が処刑されたとする長期統計を掲載している。
  • イラン人権「2025年の公開処刑」
    2025年に確認された11件の公開処刑、過去の公開処刑の推移、国際的な批判とイラン国内の司法当局による過去の制限措置について整理している。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ「イラン:抗議参加者に対する違法な処刑が継続」2026年9月10日
    2026年3月18日から8月末までに、政治的動機を伴う国家安全保障関連罪で少なくとも59人が処刑され、5人が公開処刑されたと報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:抗議参加者・反体制派が処刑の危険に直面」2026年5月21日
    2026年2月28日以降の政治関連死刑事件について、少なくとも36人の処刑と78人以上の死刑判決者を報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:蜂起関連の死刑に子どもも含まれる」2026年2月19日
    2026年1月の抗議活動に関連する死刑事件について、迅速化された裁判、拷問による自白の疑い、未成年者を含む死刑の危険性を報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン人権状況」
    死刑、公開処刑、身体刑、拷問、公正な裁判、少数者に対する死刑の適用などを総合的に扱っている。
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