コラム:中国がレアアース加工で圧倒的なシェアを占める理由
中国がレアアースの精製工程で約91%という圧倒的なシェアを有するのは、単なる資源埋蔵量の多さだけではなく、国家戦略的投資、低コスト構造、大規模な加工インフラ、技術蓄積、環境規制の差、垂直統合など複数の要因が複合的に作用した結果である。
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現状(2026年1月時点)
レアアース(希土類元素、Rare Earth Elements: REEs)は、17個の元素からなる化学元素群であり、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム、セリウムなどが含まれる。これらは、電気自動車(EV)や風力発電機の高性能磁石、スマートフォン・ディスプレイ、光学部品、軍事電子機器など現代の高度技術産業に不可欠な材料である。
世界のレアアース供給チェーンにおいて、中国は採掘段階では世界シェア約60%を占め、分離・精錬工程では圧倒的なシェア(約91%)を支配している。このような支配構造は、単なる資源保有によるものではなく、加工・精製能力の圧倒的集積によって形成されている。中国は鉱石採掘だけでなく、化学的分離と高純度酸化物への精製、さらには磁石まで含むサプライチェーン全体で優位性を持つ。
レアアースとは
レアアースとは、周期表のランタノイド系列に属する17元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)と、しばしば関連して扱われるイットリウムおよびスカンジウム等を指す。これらはその名の通り地殻中に広く分布するが、それぞれの元素を単離し高純度化するプロセスが極めて困難であり、経済的に重要な資源となっている。
レアアースは、高強度・高温耐性磁石や触媒、蛍光体、センサーなど、電気・電子・自動車・防衛産業など多様な用途を持つ。特に、ネオジム・ジスプロシウムを主体とする永久磁石は、EVモーターや風力発電などのクリーン技術で不可欠の素材であるため、近年の脱炭素化の進展に伴い需要が急増している。
中国がレアアースの加工(分離・精錬)工程を支配した経緯
国家戦略としての位置付け
中国がレアアースを国家戦略の基幹資源として位置付けたのは1990年代前半である。当時の指導者は「中東には石油がある。中国にはレアアースがある」との認識を示し、国家戦略資源としての政策的な育成を行う方針を明確にした。
1970年代以降、中国政府はレアアース産業に対する国家プロジェクトを立ち上げ、研究開発支援、資源探査政策、加工産業へのインセンティブを継続的に提供した。1980年代から90年代にかけて、地方政府および中央政府はレアアース鉱山の開発と分離精製技術への投資を拡大し、研究機関や企業に対して一貫した支援を行った。これが 今日の加工能力の基盤形成に繋がった。
国際競争環境の変化
1980年代以前、レアアース精製技術は米国や日本、欧州においても存在した。しかし、中国政府による積極的な投資と産業政策によって、精製コストを低く抑え、国際市場への輸出を拡大する戦略が奏功し、多くの海外企業が競争力を失い撤退した。結果として、世界の多くの精製設備が中国に集約することとなった。
一方、西側諸国では1970年代以降の環境規制強化や労働コストの上昇などにより、精製工程の環境負荷対策・規制遵守コストが増大した。これに対し、中国は長年相対的に規制が緩く、低コストでの精製体制を維持してきた。
結果として、レアアース加工・精製は中国に集積し、今では分離・精製工程での世界シェアが約91%に達するという集中度となっている。
世界の約9割(91%)という圧倒的なシェア
国際エネルギー機関(IEA)の報告などによると、2024年時点でのレアアースの分離と精製工程における世界シェアは中国が約91%を占める。
この数字は、単に採掘量の多さでは説明できない。実際に採掘段階では中国は約60%のシェアを持つが、そこから純度の高い元素を分離・精製して機能材料にするプロセスの大部分を中国が担っていることが突出している。
この加工集中は、世界のサプライチェーンにとって「ボトルネック」として機能しており、どの国・産業にとっても中国の精製能力に依存せざるを得ない構造を形成している。
環境負荷と規制の差
精製工程に伴う環境負荷
レアアースの精製・分離工程には溶媒抽出(solvent extraction)や高温処理など化学的工程が不可欠であり、その過程で大量の廃水・廃液、残渣が発生する。特に、ウランやトリウムなどの放射性元素(Technically Enhanced Naturally Occurring Radioactive Materials: TENORM)が鉱石中に含まれる場合、これらを分離する際に有害廃棄物が生成されることが指摘されている。
このような廃棄物は適切な処理・管理が求められるが、放射性廃棄物処理の安全基準やコスト負担が厳格な国ほど精製事業の参入障壁が高くなる。
西側諸国の環境規制とコスト
米国や欧州、日本などの先進国では、精製工程における廃棄物管理・排水規制、労働安全規制などが強化されており、これらを遵守するための設備投資や運用コストが膨大である。これが精製事業再興の大きな障壁となる。
これに対し中国では、これまで相対的に規制が緩やかであったことや、国家が環境コストをある程度許容する体制をとってきたため、低価格で大規模な精製体制を構築できた。
放射性物質(ウランやトリウム)を含む大量の有害廃棄物が発生
レアアース鉱石にはしばしばウランやトリウムが含まれる。これらは良好な資源である一方で、精製プロセス中に分離されることから放射性廃棄物が大量に発生する。
TENORM廃棄物の適切な処理には高度な技術と規制遵守が必要であり、先進国の厳格な環境基準ではこれが大きなコスト要因となる。
中国では、このような有害廃棄物処理についての規制が歴史的に緩かったことから、環境負荷をある程度許容しながら低コストでの精製が可能であった。結果として、中国の精製事業者は国際市場で競争力を保持し続けた。
先進国の動向
近年、米国や欧州、日本、豪州などの主要消費国は中国依存を低減するために、レアアース採掘・精製・リサイクル技術の開発、サプライチェーン構築支援政策、輸入多元化戦略を推進している。
米国では国内採掘や精製能力の回復、リサイクル技術の開発支援、国家備蓄の強化などが進められている。また、軍事用途の供給網を中国以外に移行する規制も導入されつつある。
しかし、中間素材や重希土類の加工能力では依然として中国への依存が高いため、脱中国依存は容易ではないという評価が存在する。
中国の対応
環境負荷や健康被害を許容
中国政府は長年、環境規制と経済成長のバランスを国家戦略の中で判断してきた。レアアース精製工程における環境負荷や健康リスクは存在するが、国家としてこれをある程度許容し、コスト優位性を保つ体制を選択した。
低コストな精錬体制を確立
中国は労働コストが相対的に低いこと、大規模インフラにより廃棄物処理や物流が効率的であることを背景に、コスト競争力の高い精製体制を確立した。また、国家主導による補助金政策により、精製企業は長期的視野で投資と生産能力増強を行うことができた。
圧倒的なコスト競争力
中国の精製コストは、他国と比較して30〜50%低いとの指摘がある。これは、環境規制遵守コスト、労働コスト、エネルギーコストの違いに起因する。これに加えて、大量生産による規模の経済効果も中国モデルのコスト優位性を強める要因である。
安価な労働力とインフラ、政府の補助金を受けた大規模な加工拠点
中国は地方政府と中央政府による補助金政策を活用し、大規模な精製・加工拠点を全国に展開してきた。これによって、技術インフラや労働力供給、物流網が強化され、規模の経済を実現している。
規模の経済
中国の精製企業は、大量の原料を国内外から集めて処理することができるため、生産規模を拡大しコストを低く抑えることが可能となっている。これが世界市場での価格競争力を生み、他国の新規参入を阻む要因となっている。
国家主導の技術蓄積と垂直統合
中国は、レアアースの採掘から最終製品(永久磁石など)までを国内で垂直統合する体制を構築してきた。これにより、中間素材や加工技術、最終製品への応用に至るまで高い付加価値を国内に取り込むことが可能となった。
この垂直統合には、溶媒抽出技術や分離化学プロセスなど高度な専門技術が必要であり、特許蓄積や熟練技術者の育成が進んでいることが他国の参入障壁を高めている。
技術的優位
中国企業および研究機関は、レアアースの精製・分離技術に関する特許数の多さや実用化された技術基盤において優位性を持つと評価される。これにより、高度な分離プロセスや効率的な精製工程を実現し、競争力を支えている。
サプライチェーンの独占
中国のサプライチェーン支配は、単一工程の支配にとどまらない。採掘・分離・精製・磁石生産までの垂直統合が、他国にとって巨大な参入障壁となっている。
この結果として、中国は世界の高度技術産業の重要な原材料供給先として不可欠な地位を占めているが、その集中度はエネルギー安全保障や産業戦略の観点で国際的な懸念を生む。
今後の展望
今後、脱中国依存を目指して、米国・欧州・日本・豪州などは国内生産能力の再構築、リサイクル技術開発、政策支援の強化に取り組んでいる。これには鉱山開発・精製設備への政府資金投入や国際協力が含まれる。
しかし、現時点では中国の精製能力を短期間で大幅に代替することは難しいとの評価が一般的であり、特に重希土類の精製工程では中国のシェアが依然として高い。
まとめ
本稿では、2026年1月時点での中国のレアアース加工(分離・精錬)支配の実態を、歴史的背景、環境規制の差、コスト構造、サプライチェーンの垂直統合、技術的優位性など多角的な観点から分析した。
結論として、中国がレアアースの精製工程で約91%という圧倒的なシェアを有するのは、単なる資源埋蔵量の多さだけではなく、国家戦略的投資、低コスト構造、大規模な加工インフラ、技術蓄積、環境規制の差、垂直統合など複数の要因が複合的に作用した結果である。
この集中度は今後の国際経済・安全保障環境に重大な影響を与える可能性があり、世界各国が供給網の多元化・国内能力の強化を進めているものの、短期的な解決は容易ではない。
参考・引用リスト
International Energy Agency, Global Critical Minerals Outlook 2025(2025) – レアアース精製シェアと供給集中の評価データ。
Muflih Hidayat, “China’s Processing Dominance in Rare Earths Explained” (2026) – 分離・精製プロセスの戦略的意義と中国の支配構造分析。
Oxford Institute for Energy Studies, China’s rare earths dominance and policy responses (2023) – 中国のレアアース政策、歴史的背景および環境規制との関係分析。
- 報道・専門分析資料(日本国内メディア・国際経済研究所等) – レアアース供給網と環境コストについての解説。
追記:西側諸国は中国のレアアース独占を切り崩せるか
結論の先取り:短期は困難、中長期は部分的可能
結論から述べると、西側諸国が短期(5〜10年程度)で中国のレアアース加工独占を全面的に崩すことは極めて困難である。一方で、中長期(10〜20年)では特定分野・特定元素に限り、中国依存を大幅に低下させる余地は存在する。
この評価は悲観論でも楽観論でもなく、産業構造・コスト・技術蓄積・環境制約を冷静に分析した結果である。
なぜ西側は不利なのか
1. 加工工程は「後戻りできない産業集積」である
レアアースの加工(分離・精錬)は、単なる設備産業ではない。
以下の要素が数十年単位で蓄積された複合知識産業である。
元素ごとに異なる溶媒抽出条件
不純物を抑えつつ歩留まりを最大化するノウハウ
廃液・残渣処理を前提とした工程設計
下流(磁石・材料)との最適化
これらは設計図だけでは再現できず、現場経験と失敗の蓄積が不可欠である。
中国は1990年代からこの工程を国内に集積させ、西側は逆に撤退した。この「産業の空洞化」は、単に工場を再建すれば解決する問題ではない。
2. 環境規制と民主主義のコスト
西側諸国が中国に比べて不利なのは、技術力ではなく制度的制約である。
放射性廃棄物(トリウム等)の処理に厳格な基準
住民合意・環境アセスメントに10年以上かかる事例
訴訟リスクと政治的コスト
これらは「正しい制度」ではあるが、精錬産業の国際競争力という観点では致命的なコスト要因となる。
結果として、西側でレアアース加工を行う場合、
「中国より高コスト・小規模・断続的」
という構造から抜け出しにくい。
3. 中国は「資源国」ではなく「加工覇権国」
重要なのは、中国がレアアースを支配している本質は資源量ではなく加工能力である点である。
中国は他国産の鉱石も大量に輸入して加工
オーストラリア、アフリカ、東南アジアの鉱石が中国に集まる
加工できる国が中国しかないため、資源国も中国依存になる
この構造は、単に「別の鉱山を開く」だけでは崩れない。
日本のレアアース開発と問題点
日本は「資源小国」だが「技術大国」
日本はレアアース鉱山をほぼ持たない一方で、
高性能磁石
精密材料
モーター・電子部品
といった下流技術では世界トップクラスである。この非対称性が、日本の強みであり同時に弱点でもある。
日本の主な取り組み
1. 中国依存低減の象徴:2010年代以降の政策転換
2010年の尖閣諸島問題を契機に、日本は以下を推進した。
中国以外からの調達(オーストラリア等)
重希土類使用量の削減技術
リサイクル技術の研究開発
この結果、日本の「表面的な」中国依存度は一時的に低下した。
2. 海底レアアース泥という潜在資源
日本近海(特に南鳥島周辺)には、膨大なレアアースを含む海底泥が存在するとされる。
しかし問題は以下である。
商業採算が未確立
揚鉱・分離・精製まで含めた技術体系が未完成
環境影響評価が極めて困難
現時点では戦略的カードではあるが、即戦力ではない。
日本の根本的問題点
1. 「加工」を国内で完結できない
日本最大の弱点は、分離・精錬工程を国内に持たない、あるいは極めて限定的である点である。
環境規制が極めて厳しい
廃棄物処理コストが高すぎる
地域住民の合意形成が困難
結果として、日本は「高付加価値製品は作れるが、原料加工は国外依存」という構造から脱却できていない。
2. 国家戦略としての一貫性不足
中国はレアアースを数十年スパンの国家戦略として扱った。
一方、日本の政策は以下の特徴を持つ。
政権交代・予算年度ごとに優先順位が変わる
民間企業任せの部分が大きい
赤字覚悟の長期投資が困難
この差は、加工産業のような「回収までに20年かかる分野」では致命的である。
レアアース加工で中国に勝つために必要なこと
前提:同じ土俵では勝てない
まず明確にすべきなのは、
中国と同じモデル(低規制・低コスト大量生産)で競争しても、西側は勝てない
という現実である。
必要なのは「別の勝ち方」である。
1. 全量代替ではなく「戦略的分断」
西側が目指すべきは、
世界シェア50%奪取
中国完全排除
ではない。
現実的な目標は以下である。
軍事・安全保障用途は非中国化
重要産業向けの一部元素を自前化
中国が供給制限しても経済が止まらない水準
つまり依存度を下げること自体が勝利条件である。
2. 「環境対応型精錬」という新しい競争軸
西側が中国に対して持ちうる最大の武器は、
環境規制を逆手に取った技術革新である。
放射性廃棄物を最小化する新プロセス
溶媒抽出を減らす分離技術
副産物を資源化する循環型設計
これらは短期的には高コストだが、長期的には中国モデルを陳腐化させる可能性を持つ。
3. リサイクルを「補助」ではなく「柱」にする
中国の最大の弱点は、
一次資源依存が依然として高い点である。
西側は以下に集中すべきである。
使用済み磁石・モーターからの回収
都市鉱山の高度化
設計段階からリサイクル前提の製品開発
これは中国が後追いしにくい分野であり、日本・欧州が相対的に強い。
4. 国家が「赤字」を引き受ける覚悟
最も重要なのはこれである。
レアアース加工で中国に対抗するには、
初期投資は確実に赤字
10年以上は採算が合わない
市場原理だけでは成立しない
この現実を国家が引き受ける覚悟がなければ不可能である。
中国が勝った最大の理由は、
「儲かるからやった」のではなく
「国家戦略だからやり続けた」
という点にある。
追記の結論
西側諸国が中国のレアアース加工独占を短期で崩すことは不可能
しかし、中長期的には分野限定・用途限定で中国依存を下げることは可能
日本は下流技術では世界トップだが、加工工程の空白が最大の弱点
中国に勝つには「同じことをする」のではなく、「違う勝ち方」を選ぶ必要がある
環境対応型精錬、リサイクル、国家主導投資が鍵となる
レアアース問題の本質は資源ではなく、時間・覚悟・国家戦略である。
中国が数十年かけて築いた独占は、同じく数十年単位の視野を持たなければ崩せない。
追記分・参考文献リスト(まとめ)
International Energy Agency, Critical Minerals and Clean Energy Transitions
Oxford Institute for Energy Studies, Rare Earth Supply Chains
米国国防総省・エネルギー省関連報告書
日本経済産業省 資源エネルギー政策資料
欧州委員会 Critical Raw Materials Act 関連文書
学術論文(Journal of Cleaner Production, Resources Policy 等)
軍事・安全保障用途に限定した分析
レアアースは「現代戦の不可欠資材」である
軍事・安全保障分野において、レアアースは単なる産業資源ではなく、戦闘能力そのものを規定する戦略物資である。現代の軍事技術は電子化・高度化・無人化が進んでおり、その中核部品の多くにレアアースが用いられている。
代表例は以下である。
精密誘導兵器(ミサイル、スマート爆弾)
レーダー、ソナー、電子戦装置
戦闘機・艦艇用高性能モーター
無人機(ドローン)・ロボティクス
衛星通信・宇宙関連機器
これらの多くは、高耐熱・高磁力・小型軽量という特性を要求し、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどの重希土類が不可欠である。
最大の脆弱性:供給遮断=戦力低下
軍事用途において最も深刻なのは、レアアース供給遮断が即座に戦力低下に直結する点である。
半導体不足は代替が可能
鋼材不足は在庫で凌げる
しかし、重希土類磁石は短期間で代替できない。
設計・材料・熱処理が一体化しており、材料変更は兵器の再設計を意味する。
このため、中国が仮に以下の措置を取った場合、
軍事用途向けレアアースの輸出制限
特定元素(ジスプロシウム等)の供給停止
西側諸国の軍需生産は数年単位で混乱する可能性がある。
米国・同盟国の現状評価
米国国防総省はすでに、
「中国依存のレアアースは国家安全保障上の重大リスク」
「特に重希土類は致命的なボトルネック」
と公式に位置づけている。
実際、米国は軍事用途に限定した非中国サプライチェーン構築を最優先課題としており、
軍需向け磁石の国内生産
国家備蓄の拡充
同盟国(日本・豪州)との共同調達
などを進めている。
重要なのは、民生用途と軍事用途を切り分けて考えている点である。
軍事分野ではコストよりも「確実な供給」が最優先される。
EV・風力発電向け磁石の中国依存リスク
ネオジム磁石は脱炭素社会の「心臓部」
EVや風力発電に用いられる永久磁石(Nd-Fe-B磁石)は、
高出力
高効率
小型・軽量
という特性を持ち、脱炭素社会の基盤技術である。
しかしこの磁石のサプライチェーンは、以下の点で極端に中国依存している。
レアアース分離・精錬:ほぼ中国
磁石製造能力:世界シェア70〜90%が中国
重希土類添加技術:中国が主導
リスク1:価格支配による産業競争力の左右
中国は輸出制限を行わなくても、
価格調整
補助金による国内優遇
だけで、EV・再エネ産業の国際競争力を左右できる。
たとえば、中国国内EVメーカーは、
磁石を国内価格で調達
外国企業は国際価格で購入
という構造が可能であり、これは事実上の産業補助金である。
リスク2:供給不安=脱炭素政策の停滞
EV・風力発電は政策主導型産業であり、部材供給が不安定になると、
EV普及計画の遅延
再エネ投資の停滞
電力インフラ計画の再設計
が発生する。
つまり、中国依存が続く限り、
脱炭素政策そのものが中国の供給判断に左右される。
これはエネルギー安全保障上、極めて深刻である。
リスク3:軍民両用(デュアルユース)問題
EV・風力向け磁石技術は、軍事用途と高度に重なる。
高効率モーター
耐熱磁石
小型化技術
これらは民生と軍事の境界が曖昧であり、
民生向け供給制限が軍事にも波及する構造を持つ。
中国が今後取り得る対抗戦略
中国は「防御」ではなく「進化」を選ぶ
重要なのは、中国はすでに圧倒的優位にあるため、
単なる防衛ではなく、支配構造を高度化する方向に動く可能性が高い。
以下に、現実的に想定される戦略を整理する。
1. 「輸出制限カード」の戦略的使用
中国は全面禁輸ではなく、
特定元素のみ
特定用途(軍事・先端技術)
特定国向け
といった精密な輸出管理を行う可能性が高い。
これは、
WTO違反を回避しやすい
市場混乱を最小化
政治的メッセージ性が高い
という利点を持つ。
2. 下流製品へのさらなるシフト
中国はすでに、
レアアース → 酸化物 → 磁石 → モーター → 完成品
という付加価値の最大化を進めている。
今後は、
「原料は売らないが、完成品は売る」
「磁石ではなくEVを輸出する」
という形で、資源カードを産業支配カードへ転換する可能性が高い。
3. 環境技術分野での先取り
西側が「環境対応型精錬」で優位を築こうとすれば、中国も黙ってはいない。
国主導で環境対応精錬技術に投資
国際標準化で主導権確保
「中国方式=グローバル標準化」
という動きが予想される。
中国は過去にも、
一度不利とされた分野を国家動員で短期間に克服してきた実績を持つ。
4. サプライチェーンの分散と不可視化
表向きは、
東南アジア
アフリカ
中央アジア
に加工拠点を分散させつつ、
実質的には中国資本・中国技術で支配する構造を取る可能性も高い。
これにより、
「中国依存が下がったように見える」
実際には支配は維持
という状況が生まれる。
総合結論(補論のまとめ)
軍事分野では、レアアースは即戦力を左右する致命的資源である
EV・風力向け磁石の中国依存は、脱炭素と安全保障を同時に脅かす
中国は禁輸よりも「精密制御」「下流支配」を選ぶ可能性が高い
西側は全面対抗ではなく、用途限定・戦略限定での自立を目指すべき
勝敗を分けるのは技術ではなく、時間軸と国家の覚悟である
レアアース問題は、資源戦争ではない。
それは21世紀型の産業覇権と安全保障が交差する構造問題であり、
対応を誤れば、経済・軍事・環境政策すべてが連鎖的に制約される。
