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コラム:SNSの偽情報に騙されない、必要なこと

今後、生成AIの進化により、偽情報はさらに高度化する。一方で、教育現場でのメディアリテラシー教育、ファクトチェック文化の浸透、技術的検証手段の発展も期待される。
主要SNSアプリ(Getty Images)
1.現状(2025年12月時点)

2025年12月時点において、SNSは社会インフラの一部として完全に定着している。総務省「情報通信白書」やOECDのデジタル社会に関する報告書によると、日本国内におけるSNS利用率は全年代で上昇を続け、とりわけ災害時、政治的意思形成、健康情報の取得といった分野において、SNSが主要な情報源として機能していることが確認されている。

一方で、SNS上の偽情報(フェイクニュース、ディスインフォメーション、ミスインフォメーション)は依然として深刻な社会問題である。世界保健機関(WHO)は新型感染症流行時に「インフォデミック」という概念を提唱し、虚偽情報の拡散が公衆衛生上のリスクとなることを明確に示した。日本国内でも、災害時の虚偽の避難情報、選挙期間中の誤情報、生成AIによる精巧な偽画像・偽動画(ディープフェイク)の流通が問題化している。

このような背景から、SNSの偽情報に「騙されない」ことは、個人の問題にとどまらず、民主主義や社会の安全性を左右する公共的課題となっている。

2.SNSの偽情報に騙されないために(総論)

SNSの偽情報対策は、単一の技術やルールによって解決できるものではない。プラットフォーム事業者による規制、法制度の整備、ファクトチェック機関の活動などが進められているが、最終的に情報を受け取り、判断し、拡散する主体は個人である。

そのため、個々人が「情報をどのように受け取るか」「どのような姿勢で向き合うか」という心構えを持つことが不可欠である。本稿では、偽情報に騙されないための具体的行動を、認知心理学、メディア研究、情報科学の知見を踏まえながら整理する。

3.情報を受け取る際の心構え

3.1 一度立ち止まる

SNSでは情報が高速で流れるため、利用者は無意識のうちに反射的な判断を下しがちである。しかし、偽情報対策の第一歩は「すぐに信じない」「すぐに反応しない」ことである。

米国スタンフォード大学のデジタルリテラシー研究では、情報に触れた際に数秒でも立ち止まるだけで、誤情報を信じる確率が有意に低下することが示されている。拡散前に立ち止まる行為そのものが、最も基本的かつ効果的な防御策である。

3.2 冷静に疑う

「疑う」とは否定することではなく、検証可能性を意識する態度である。特に、「断定的」「過度に単純」「極端な主張」を含む情報は、冷静な検討が必要である。学術的知見では、真実は多くの場合、曖昧さや条件付きの表現を伴う。

3.3 「心地よい」情報に注意する

人間は自分の価値観や信念に合致する情報を好む傾向がある。これは確証バイアスと呼ばれ、心理学において広く知られている。SNS上では「自分が正しいと思える情報」「怒りや共感を強く刺激する情報」が拡散されやすい。

「読んでいて気持ちがよい」「溜飲が下がる」情報ほど、偽情報である可能性を意識する必要がある。

3.4 拡散する前に確認する

拡散は情報流通における「増幅行為」である。情報を投稿・共有する行為は、無意識のうちに社会的影響力を行使していることを意味する。欧州ジャーナリズム研究では、「拡散責任」という概念が提唱され、個人の共有行動が公共空間に与える影響が指摘されている。

4.真偽を確かめる具体的な手順(ファクトチェック)

4.1 チェックポイント

ファクトチェックは専門家だけの作業ではない。一般利用者でも以下の基本手順を踏むことで、誤情報を見抜く可能性を高められる。

4.2 発信源・情報源を確認する

最初に確認すべきは「誰が発信しているか」である。匿名アカウント、プロフィールが曖昧なアカウント、過去に極端な投稿ばかりしているアカウントは注意が必要である。また、引用元が示されていない情報は信頼性が低い。

4.3 他のメディアの報道と照合する

一つの情報源だけで判断することは危険である。新聞社、公共放送、複数の報道機関が同様の内容を報じているかを確認することが重要である。学術的には「クロスチェック」が信頼性評価の基本原則とされている。

4.4 画像・動画の真偽を確認する

画像検索、逆画像検索を用いることで、過去に同じ画像が別文脈で使われていないかを確認できる。生成AIの普及により、視覚情報の信頼性は大きく低下しているため、画像や動画は「証拠」ではなく「検証対象」として扱う必要がある。

4.5 公的機関の情報と照合する

災害、健康、制度、法律に関する情報は、政府機関、自治体、国際機関の公式発表と照合することが有効である。公的機関の情報が常に正しいとは限らないが、少なくとも虚偽である可能性は低い。

5.SNSで偽情報が拡散する理由

5.1 SNSの特性と技術的要因

SNSは「注目」を基準に設計されている。アルゴリズムは、エンゲージメントの高い投稿を優先的に表示するため、刺激的で感情を喚起する情報が拡散されやすい。

5.2 拡散の速さ・容易さ

ワンクリックで情報を共有できる仕組みは、利便性と引き換えに誤情報拡散のリスクを高めている。

5.3 アルゴリズムによる情報の偏り

フィルターバブルやエコーチェンバー現象により、利用者は似た意見ばかりに囲まれやすくなる。その結果、誤情報が「事実のように」見える環境が形成される。

5.4 匿名性

匿名性は表現の自由を守る一方で、責任の所在を曖昧にする。虚偽情報を流しても社会的制裁を受けにくい構造が存在する。

6.人間の心理的要因

6.1 感情の増幅

恐怖、怒り、不安は情報拡散を促進する。神経科学の研究でも、感情刺激が判断を短絡化させることが示されている。

6.2 確証バイアス

既存の信念を補強する情報だけを信じる傾向は、偽情報の温床となる。

6.3 社会的証明(同調圧力)

「多くの人がいいねしている」「拡散されている」という事実が、情報の正しさの証拠として誤認されやすい。

6.4 デジタルリテラシーのばらつき

世代、教育、経験によって情報判断能力には大きな差がある。この格差が偽情報被害を拡大させる。

7.意図的な情報操作の存在

7.1 愉快犯・確信犯

注目を集めること自体を目的とした虚偽投稿は後を絶たない。

7.2 政治的・経済的目的

世論操作、広告収益、株価操作など、組織的な情報操作も確認されている。国際政治学では、情報戦の一形態として研究が進んでいる。

8.取り返しのつかない事態になることも

偽情報は名誉毀損、差別、暴力、医療被害など、不可逆的な結果を生む可能性がある。個人の軽率な拡散行為が、他者の人生を左右する場合もある。

9.注意点と対策まとめ

SNSの偽情報対策は、
1.立ち止まる
2.疑う
3.確認する
4.拡散責任を意識する
という基本原則に集約される。

10.今後の展望

今後、生成AIの進化により、偽情報はさらに高度化する。一方で、教育現場でのメディアリテラシー教育、ファクトチェック文化の浸透、技術的検証手段の発展も期待される。

最終的に、SNSの健全性を支えるのは、個々人の判断力と倫理観である。偽情報に騙されないことは、情報社会を生きる市民としての基礎的能力であり、今後ますます重要性を増すと考えられる。

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