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コラム:ウクライナ戦争の行方、和平交渉停滞

ウクライナ戦争は2026年1月時点で依然として継続しており、和平交渉は複雑な政治的・軍事的・社会的要因により停滞している。
2025年11月23日/ウクライナ、首都キーウ近郊ブチャの墓地(AP通信)
現状(2026年1月時点)

ウクライナ戦争はロシアによる侵攻開始からまもなく4年を迎える。2026年1月時点でも両軍は激しい戦闘を続け、前線は膠着状態にある。ウクライナの戦況は依然として厳しく、首都キーウや主要都市を含むエネルギーインフラへの攻撃が続き、深刻なエネルギー危機が発生している。国際社会は停戦・和平へ向けた交渉を模索しているものの、具体的な合意には至っていない。

トランプ政権は仲介を試みてはいるものの、交渉の進展は限られている。戦争は消耗戦の様相を呈し、ウクライナ国内のインフラや生活基盤の破壊が進行しているのが現状である。


侵攻開始からまもなく4年

ロシア軍は2022年2月24日の侵攻を開始、2026年2月で4年となる。ロシア軍は初期にキーウ攻略を試みたものの失敗し、戦略を東部ドンバス地方や南部占領にシフトさせた。2025年末時点では、ドンバス地方の要衝ポクロウシクがほぼロシア側の制圧下に置かれ、戦況はロシア優位で推移しているとの分析がある。この間、前線は長期化した防御戦・消耗戦に入り、戦局は双方にとって困難なものとなっている。


トランプ政権による仲介努力続く

2025年に発足したトランプ政権は、ロシア・ウクライナ和平協議の仲介者役を自負し、交渉を主導しようとしている。トランプ大統領は和平案について「自らの承認が必要」と発言するなど、交渉の主導権を強調している。米国とウクライナが「20項目の和平案」を協議しているとの報道もあるが、領土問題等の核心課題では合意できていない。

一方で、トランプ政権の停戦へのアプローチはロシア寄りと批判されることもあり、欧州など同盟国の間で懸念が拡大している。


交渉が停滞している主な理由

和平交渉が進展しない背景には複数の要因が存在する:

  1. 領土問題の深刻な対立
    ロシアはウクライナ東部やクリミアを含む一部領土の併合を維持したい意向を示しており、ウクライナは主権と領土保全を譲らない立場を取っている。この基本的立場の隔たりが合意の最大の障害となっている。

  2. 安全保障の保証の不一致
    停戦後の安全の保証を巡る理解の差も問題である。米国とウクライナは安全保障条項で協調しているとするが、ロシア側はこれを受け入れていない可能性が高い。

  3. 国内世論・国民の抵抗意志
    ウクライナ国民の多くが領土放棄に反対しており、軍隊撤退や領土譲渡を含む和平案を受け入れる政治的圧力が極めて高い。これが政府の妥協を困難にしている。

  4. 大国間の戦略的利害の対立
    米国、欧州、ロシアそれぞれの戦略的利害が交錯し、交渉の均衡点を見出すことが困難となっている。


戦況の現状と行方

戦局は依然として流動的であるが、戦線は広範囲にわたり膠着状態となっている。

膠着する前線とインフラ攻撃

前線では大規模な突破口の形成は見られず、双方が消耗戦に入っている。ロシア軍は空爆・無人機攻撃を継続し、ウクライナのエネルギーインフラへの攻撃を強化している。2025年を通じて数百回に及ぶインフラ攻撃が行われ、電力網や発電所が頻繁に損傷を受けている。

ウクライナのエネルギー危機

継続的な攻撃により、ウクライナの発電能力は開戦前の約4割程度まで低下しているとの分析もある。複数の大型火力発電所が損傷し、配電網の脆弱性が露呈している。首都キーウでも供給電力が必要量の約半分しか確保できない状況が続いており、冬季における停電や暖房停止が発生している。

これらの攻撃は戦術的な軍事目標に留まらず、社会機能の麻痺と民衆の士気低下を狙った戦略的な攻撃とみなされる。


2026年中の終結見通し(ロシア国内の世論調査)

一部ロシア国内の世論調査では、戦争の長期化と経済負担が国民生活にも影響を及ぼし、2026年中の戦争終結を希望する声が一定程度存在するとの指摘もある。しかし、このような世論が直接的に政策転換に結びつくかは不透明である。


ウクライナの抵抗意志

ウクライナ国内の最新の世論調査では、領土を放棄する代わりに安全の保証を得る案に対して過半数が反対している。多くの国民が国家主権の保持を最優先としており、部分的な領土譲歩を含む和平案にも慎重な姿勢を示している。


和平に向けた枠組み(20ポイントの和平案など)

トランプ政権とウクライナ政府が協議しているとされる20項目の和平案は、停戦後の安全の保証、国際平和維持部隊の配備、復興支援などを網羅しているとみられる。しかし、領土や主権に関わる核心部分で隔たりが大きく、最終合意には至っていない。

一部報道では、ウクライナが平時の兵力維持範囲の制限や限定的な安全保障枠組みを受け入れる方向性の案が議論されているとされるが、ロシア側の受け入れ条件は不明確である。


領土問題と主権の譲歩

和平交渉で最大の障害となっているのは領土問題である。ロシアは占領地の一部を事実上の支配下に置き、ウクライナは全領土の回復を求める。特にクリミアやドンバス地域に関する扱いは両者の基本的立場の相違が顕著であり、折り合いを付けることが和平の鍵となる。


ゼレンスキー大統領「脆弱な和平合意」には応じない

ウクライナのゼレンスキー大統領は、自国の主権・領土を大幅に譲歩するような「脆弱な和平合意」には応じないとの立場を明確にしている。これには国民世論や軍・政治エリートの支援も背景にある。この姿勢は和平交渉を難しくしているが、ウクライナの国家としての一貫性を示すものである。


安全保障の保証をめぐる対立

停戦後の安全保障を巡っても対立が続いている。ウクライナは欧米を中心とする集団的安全保障の枠組みを求めているが、ロシアはこれを受け入れることを拒否している。米国はウクライナへの安全の保証を提示する意向を示し、復興支援を含む広範なパッケージを協議しているものの、その具体的内容や実効性について両国間で認識の差が残る。


米政権との不協和音

米国とウクライナの間でも戦略やアプローチに不協和音が見られる。米国は戦争終結のための妥協を促す一方で、ウクライナは自国の主権保持を優先しているため、米国の一部和平提案に対して慎重な姿勢を取ることがある。この微妙な関係は交渉の停滞を助長している。


今後の展望

今後の展望としては、以下の複数のシナリオが考えられる:

  1. 膠着継続シナリオ
    両者が現状の立場を維持しつつ、長期的な停戦ないし限定的な戦闘休止に至る可能性。

  2. 部分的和平合意シナリオ
    領土や安全保障の一部譲歩を含む限定的な和平合意が成立するが、恒久的和平には至らないシナリオ。

  3. 全面講和シナリオ
    国際社会の強力な介入と外交的圧力により包括的和平合意が成立する可能性。ただし現時点では実現可能性は低いと評価される。


まとめ

ウクライナ戦争は2026年1月時点で依然として継続しており、和平交渉は複雑な政治的・軍事的・社会的要因により停滞している。領土問題、安全の保証、国民世論の抵抗意志、大国間の戦略的利害対立が主な障害となっている。エネルギーインフラへの攻撃と深刻なエネルギー危機が戦争の現実的な側面をさらに困難にしている。今後の和平プロセスの進展には、各国の戦略的妥協とウクライナ側の政治的決断が不可欠である。


参考・引用リスト

  • トランプ政権の和平仲介と主導権の強調についての報道。

  • 米ウクライナ首脳会談・領土問題の未合意についての報道。

  • トランプ外交と和平交渉停滞に関する分析報道。

  • ロシア軍によるインフラ・エネルギー攻撃と冬季危機の最新報道(AP/Reuters/CNN等)。

  • 子どもたちの低体温リスクを含む人道危機の報道。
  • エネルギーインフラへの攻撃が発電能力の低下をもたらしている分析。


追記:米国主導の外交努力とその問題点

米国が主導する和平外交の構造

ウクライナ戦争における外交努力の中心は、依然として米国である。第2次トランプ政権の発足以降、米国は「早期停戦」と「現実的妥協」を前面に掲げ、ロシア・ウクライナ双方に対し圧力と誘因を組み合わせた外交を展開している。
その特徴は以下の三点に集約される。

第一に、軍事支援と外交交渉を不可分のパッケージとして扱う点である。米国はウクライナへの軍事・財政支援を交渉カードとして用い、戦場での膠着を外交的妥協へと転換させようとしている。

第二に、ロシアを完全な敗北に追い込む戦略を放棄しつつある点である。核保有国ロシアとの直接衝突リスク、国内世論の戦争疲れ、対中戦略への集中という要因から、米国は「管理された終戦」を優先する方向へと舵を切っている。

第三に、欧州諸国を含む多国間枠組みよりも、米国の主導権を重視する傾向である。これは交渉の迅速化を狙ったものであるが、同盟国との温度差を生み、外交的正統性を弱める要因ともなっている。

米国主導外交の内在的問題点

しかし、米国主導の外交努力には構造的な問題が存在する。

第一の問題は、当事者であるウクライナの安全保障観と米国の戦略的優先順位が必ずしも一致していない点である。米国にとってウクライナ戦争は「多数ある国際問題の一つ」であるのに対し、ウクライナにとっては国家存亡そのものに関わる問題である。この非対称性が、妥協をめぐる認識のズレを生んでいる。

第二に、米国の提案がロシアに対して十分な抑止力を伴っていない点である。制裁緩和や占領地の事実上の容認が交渉材料として示唆されることで、ロシア側に「時間は味方である」という認識を与えかねない。

第三に、国際法秩序の原則と現実政治の折り合いが不十分である点である。主権尊重や領土保全という原則を明確に守らない形での和平は、短期的安定をもたらしても、長期的には不安定要因を拡大させる。


「領土の割譲」と「戦後の安全保障の枠組み」をめぐる根本的対立

領土問題が持つ不可逆性

ウクライナ戦争の交渉が最も困難である理由は、領土問題が本質的に不可逆的な性格を持つ点にある。
ロシアが求めるのは、占領地域の法的・政治的承認、あるいは少なくとも事実上の支配の固定化である。一方、ウクライナにとって領土割譲は、以下の意味を持つ。

  • 国家主権の否定

  • 戦没者への裏切り

  • 将来の再侵攻を招く前例の形成

したがって、領土問題は単なる交渉条件ではなく、国家の存在理由そのものに関わる問題である。

戦後の安全保障枠組みをめぐる相克

領土問題と並ぶもう一つの核心が、戦後の安全保障の枠組みである。

ウクライナ側は、NATO加盟あるいはそれに準ずる集団的安全保障を求めている。これは「再侵攻を絶対に防ぐ仕組み」がなければ、いかなる和平も意味を持たないという現実認識に基づく。

これに対しロシアは、

  • ウクライナの非同盟化

  • 軍事力の制限

  • 西側軍事インフラの排除

を安全保障条件として要求している。
この対立は、ウクライナの安全を高めればロシアの不安が増し、ロシアの安全を優先すればウクライナが無防備になるというゼロサム構造に陥っている。

両問題が分離不可能である理由

交渉をさらに難しくしているのは、領土問題と安全保障問題が相互に連動している点である。
ウクライナにとって、領土を失ったまま安全保障が不十分であれば、国家は恒常的な脅威に晒される。
ロシアにとっては、占領地を維持したままウクライナが強固な安全保障を得ることは、戦略的敗北を意味する。

このため、両国の主張は部分的妥協では解消できず、根本的対立として固定化している。


力による現状変更を認めた先にある世界

ウクライナ戦争の国際的意味

ウクライナ戦争は地域紛争ではなく、戦後国際秩序の根幹を問う戦争である。もし侵略による領土獲得が事実上認められれば、それは以下の原則を空洞化させる。

  • 主権国家の不可侵

  • 武力行使の禁止

  • 国境の不可侵

これらは第二次世界大戦後の国際秩序を支えてきた基本原則である。

前例がもたらす連鎖的影響

力による現状変更を容認する前例が確立すれば、その影響は連鎖的に拡大する。

  • 他地域における領土紛争の激化

  • 中小国の安全保障不安の増大

  • 核抑止や軍拡競争の加速

特に、国際法より軍事力が重視される世界では、「力を持たない国家ほど不安定になる」という構造が強化される。

抑止と妥協のジレンマ

現実には、戦争を終わらせるための妥協が必要である一方、妥協が原則を破壊する危険もある。このジレンマこそが、現在の和平交渉を最も困難にしている要因である。

短期的な停戦を優先すれば、長期的な不安定を招く。
原則を守ろうとすれば、戦争は長期化する。

ウクライナ戦争は、国際社会がどこまで原則を守る覚悟を持つのかを問う試金石となっている。


追記まとめ

米国主導の外交努力は、戦争終結への現実的道筋を模索する試みである一方、当事国の安全保障観や国際秩序の原則と深刻な緊張関係を抱えている。
「領土の割譲」と「戦後の安全保障」という二つの核心部分で、ロシアとウクライナの主張は正面から衝突しており、部分的調整では解決できない段階にある。

そして何より、ウクライナ戦争の帰結は一国の問題にとどまらず、力による現状変更を認める世界か、法と原則に基づく世界かという選択を国際社会に突き付けている。
この選択の結果が、21世紀の国際秩序を規定することになる。


国際法と安全保障理論の枠組み

ウクライナ戦争を理解するためには、国際政治を説明する二つの主要理論――リアリズムとリベラリズム――と、それらが前提とする国際法秩序との関係を整理する必要がある。
この戦争は、単なる理論対立ではなく、どの理論が現実をどこまで説明し得るのか、またどの原則が実際に守られているのかを明確に示している。


リアリズムから見たウクライナ戦争

リアリズムの基本前提

リアリズムは、国際社会を以下の前提で捉える。

  • 国際社会は無政府状態である

  • 国家は自己保存を最優先する合理的行為主体である

  • 権力(特に軍事力)が安全を保証する

  • 国際法や道徳は、権力関係に従属する

この視点から見れば、ウクライナ戦争は大国による勢力圏防衛と小国の地政学的犠牲として説明可能である。

ロシアの行動とリアリズム

リアリズムの観点では、ロシアの侵攻は以下の論理で説明される。

  • NATO拡大はロシアの安全保障環境を悪化させた

  • 緩衝地帯としてのウクライナを失うことは戦略的脅威である

  • 軍事力行使は、脅威を排除するための合理的選択である

この立場では、国際法違反は本質的な問題ではなく、力による現状変更は国際政治の常態とみなされる。

米国外交とリアリズム的妥協

第2次トランプ政権の「現実的和平」路線も、リアリズム的色彩が強い。

  • 完全勝利よりも紛争管理を重視

  • 領土問題での事実上の妥協を容認

  • 国際秩序より国益を優先

これは、力関係を前提に安定を追求する典型的なリアリズム外交といえる。


リベラリズムから見たウクライナ戦争

リベラリズムの基本前提

リベラリズムは以下の原則を重視する。

  • 国際法と制度は国家行動を制約し得る

  • 主権、領土保全、人権は普遍的価値である

  • 国際協調と相互依存は戦争を抑制する

  • 民主主義国家間では戦争が起こりにくい

この理論に立てば、ウクライナ戦争は国際秩序に対する重大な挑戦である。

ウクライナの立場とリベラリズム

ウクライナの主張は、明確にリベラリズム的である。

  • 国境は武力によって変更されてはならない

  • 主権国家は同盟を自由に選択する権利を持つ

  • 安全保障は国際的保証によって担保されるべきである

ゼレンスキー政権が「脆弱な和平」を拒否する姿勢は、国際法秩序の維持を優先する立場に立脚している。

欧州諸国と制度主義

EU諸国が制裁、国際裁判、人道支援を重視するのも、リベラリズム的制度主義に基づく行動である。
彼らにとって重要なのは、戦争の即時終結以上に、ルールを破った行為が報われないことを示すことである。


国際法の位置づけと理論間の緊張

国際法は拘束力か、装飾か

ウクライナ戦争は、国際法の二面性を露呈させた。

  • リベラリズム的視点:国際法は守られるべき規範

  • リアリズム的視点:国際法は力の反映にすぎない

現実には、国際法はロシアの侵攻を阻止できなかった。しかし同時に、制裁・孤立・正当性の剥奪という形で、一定の政治的コストを課している。

和平交渉における理論の衝突

和平交渉では、以下の対立が顕在化している。

論点リアリズムリベラリズム
領土力の結果として固定化不法占拠は無効
安全保障勢力均衡が安定を生む集団安全保障が抑止
和平妥協による安定原則に基づく秩序

米国外交はこの二つの間で揺れており、ウクライナは後者を強く主張している。


「力による現状変更」をめぐる理論的帰結

リアリズム的世界の帰結

もし力による現状変更が黙認されれば、国際社会は以下の方向へ進む。

  • 軍事力が最大の安全保障手段となる

  • 中小国は自衛力か核武装に依存せざるを得なくなる

  • 国際法は象徴的存在へ後退する

これは安定ではなく、恒常的緊張の世界である。

リベラリズム的秩序維持の困難

一方、リベラリズム的秩序を守ろうとすれば、

  • 長期的制裁と支援が必要

  • 短期的な戦争終結は遅れる

  • 国内世論の負担が増大する

つまり、原則を守ること自体が高コストとなる。


ウクライナ戦争が突きつける理論的問い

ウクライナ戦争は、次の根源的問いを突きつけている。

  • 国際秩序は力に従属するのか、それとも力を拘束できるのか

  • 小国の主権は大国政治の前にどこまで守られるのか

  • 安定とは妥協によって得られるものか、原則によって得られるものか

この問いに対する答えは、戦争の結末によって事後的に定義される。


最後に

ウクライナ戦争において、

  • ロシアの行動と一部の和平論はリアリズム的論理に基づき

  • ウクライナと欧州の主張はリベラリズムと国際法秩序に依拠している

米国は両者の間で現実的調整役を担おうとしているが、その曖昧さが交渉停滞を招いている。

最終的に問われているのは、
21世紀の国際社会が「力の論理」に回帰するのか、それとも「法と制度」を再強化するのかという選択である。

ウクライナ戦争は、その分岐点に位置している。

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