「住みたい街ランキング」がもたらす4つの弊害、「人気のない街(穴場)」にこそチャンスがある
「住みたい街ランキング」は、街を知るための便利な入口ではあるが、住宅選びの最終回答ではない。

現状(2026年9月時点)
「住みたい街ランキング」は、住宅選びを考える際の分かりやすい情報として定着している。駅や自治体を対象にしたランキングは、交通利便性、商業施設、文化・娯楽、街のイメージなどを一つの順位に集約することで、複雑な都市情報を短時間で比較できるため、住宅購入や賃貸を検討する人にとって便利な判断材料になっている。
一方で、ランキングの順位は「その街が誰にとっても住みやすい」という意味ではない。例えば2026年の首都圏版「住みたい街ランキング」では、横浜が9年連続で1位、大宮が2位、吉祥寺が3位となり、上位には交通網、商業施設、知名度などの面で強い都市が並んだが、この順位は20~49歳の9000人を対象にしたアンケートから算出された「住んでみたい」という意向の順位である。
ここには、「住みたい」という心理的評価と、「実際に生活した場合の満足度」が必ずしも一致しないという重要な問題がある。住宅を選ぶ場合、本来は家賃や住宅価格、通勤時間、買い物、医療、教育、治安、自然環境、騒音、人口密度、将来の資産価値などを総合的に検討する必要があるが、ランキングはこうした異なる尺度を単純な順位に置き換えてしまう。
さらに2026年には、「住みたい街」と「住み続けたい街」の違いも明確になっている。2026年9月に公表された「住み続けたい街ランキング」では、1位が鵠沼、2位が千駄ケ谷、3位が赤坂となっており、一般的な「住みたい街ランキング」とは上位の顔ぶれが大きく異なる。これは、外部から見た憧れや知名度と、実際に暮らしている住民の継続居住意向が、同じものではないことを示す材料になる。
つまり、住みたい街ランキングには一定の情報価値がある一方、それを住宅市場や都市生活の総合評価として受け取ることには限界がある。むしろランキングによって人気が集中することで、住宅価格や家賃、開発、人口構成、地域文化などに二次的な影響が生じる可能性があり、ここにランキング社会特有の弊害が存在する。
「住みたい街ランキング」がもたらす4つの弊害
ランキングの最大の特徴は、「多数の人が選んだ」という事実そのものが、新たな人気を生み出すことである。これは単純な情報提供にとどまらず、住宅需要や企業の出店、自治体の政策、メディア報道などを連鎖的に動かす可能性がある。
そのため、ランキング上位の街がさらに注目され、注目された街の住宅需要が増え、それが地価や家賃を押し上げ、結果として「人気の街」というイメージがさらに強化される循環が生じる。逆にランキングに登場しない街は、実際の居住環境とは無関係に「人気がない」という印象を持たれやすくなる。
① 地価・家賃の急騰と「住人の分断(ジェントリフィケーション)」
人気ランキングの上昇が住宅需要の増加と重なれば、住宅価格や家賃に上昇圧力がかかる。特に駅前再開発、商業施設の増加、交通利便性の向上などが同時に進む地域では、「住みたい」という需要と「投資したい」という需要が重なり、住宅市場そのものが変化する可能性がある。
この現象を考えるうえで重要なのが、都市社会学で研究されてきたジェントリフィケーションである。新しい住民や高所得層の流入によって地域の商業環境や住宅環境が改善する一方、住宅費の上昇によって従来から住んでいた低所得層が住み続けにくくなる場合があり、街の発展がすべての住民に同じ利益をもたらすとは限らない。
ランキングそのものが地価上昇の直接的な原因だと断定することはできないが、人気を可視化して需要を集める効果は無視できない。国土交通省の2026年の地価公示でも、住宅地について交通利便性や生活利便性に優れ、転入者が多い地域などで地価上昇が見られることが示されており、人気と住宅コストの関係を考える際には、ランキングだけでなく人口移動や都市開発を合わせて見る必要がある。
さらに問題となるのは、地価上昇が地域住民の入れ替わりを促すことである。住宅費の上昇によって若年層や子育て世帯、高齢者などが従来の地域に住み続けられなくなれば、街の経済的な構成が変化し、商店や飲食店の価格帯も変わる可能性がある。
つまり「人気の街になること」は、必ずしも「すべての住民にとって暮らしやすくなること」と同義ではない。街の価値が上昇するほど、そこに住み続けるためのコストも上昇するという逆説が生まれるのである。
② 「憧れ」と「現実」のギャップによる生活満足度の低下
ランキングには、実際の居住経験よりも「街に対するイメージ」が入り込む。おしゃれな店、便利な交通網、有名な観光地、洗練された住宅街といった要素は外部から見た街の魅力を形成するが、日常生活では別の問題が重要になる。
例えば、駅から住宅までの距離、朝夕の混雑、住宅の狭さ、騒音、物価、駐車場料金、保育施設の利用状況、医療機関へのアクセスなどは、広告やランキングでは目立ちにくい。しかし実際の生活では、こうした地味な要素が毎日の満足度を左右する。
この点から見ると、「住みたい街」と「住みやすい街」は区別する必要がある。2026年に公表された「住み続けたい街ランキング」で、一般的な「住みたい街ランキング」と異なる駅が上位に並んだことは、この違いを考えるうえで象徴的である。
また、街の評価は住民の年齢や家族構成によって大きく変わる。独身の若年層にとって駅前の飲食店や娯楽施設が大きな魅力であっても、子育て世帯にとっては保育、学校、公園、医療、住宅面積のほうが重要になる。
したがって、ランキング上位だから自分にも適しているとは限らない。むしろランキングをきっかけに街を知った後、実際の生活条件を個人の価値観に照らして再評価することが必要になる。
③ 自治体間の過剰な消耗戦
ランキングは自治体にとっても無視できない存在になっている。順位が高ければ都市の知名度向上につながり、企業誘致、人口流入、住宅開発、観光振興などにも一定の効果が期待できるため、自治体が「選ばれる街」を意識すること自体は不自然ではない。
しかし、自治体同士がランキング上昇を競うようになると、似たような再開発や施設整備、イベント、都市ブランド戦略が増える可能性がある。結果として、各地域が本来持っている歴史、産業、自然、生活文化よりも、「ランキングで評価される要素」を優先する傾向が強まる。
特に問題なのは、ランキングの順位を上げること自体が政策目的になってしまう場合である。順位を上げるための広告や広報に力を入れるより、老朽化したインフラ、公共交通、福祉、教育、防災など、住民の生活に直接関係する分野へ資源を配分するほうが重要な場合もある。
ランキングは都市政策を評価する唯一の指標ではない。住民の定住意向、生活満足度、人口構成、住宅費、行政サービス、地域経済などを別々に確認しなければ、順位だけでは自治体の実態を把握できないのである。
④ 多様性の喪失と画一化
人気ランキングが長期間にわたって同じ地域を上位に押し上げると、「価値のある街」のイメージそのものが固定される。大規模商業施設、再開発された駅前、洗練された飲食店、タワー型住宅、便利な鉄道路線などが評価されやすくなれば、全国各地で似たような街づくりが進む可能性がある。
しかし、都市の魅力は本来、必ずしも効率や利便性だけでは測れない。古い商店街、地域固有の祭り、個人経営の店舗、農地、河川、森林、空き地、歴史的建造物など、一見するとランキングに反映されにくい要素が地域の個性を形成している。
内閣府の調査でも、身近な環境への満足度は全体で77.0%に達し、豊かな緑地については78.4%が満足していると回答している。また、緑地や大気などについては、小都市や町村で満足度が高く、大都市では不満が高い傾向も確認されている。
この結果は、「大都市や有名な街ほど生活環境に優れている」という単純な見方に修正を迫る。ランキングに表れにくい静けさや自然環境を重視する人にとっては、知名度の低い街がむしろ合理的な選択肢になり得るのである。
そして、ここから「人気のない街」に対する見方を変える必要が出てくる。ランキング上位ではないことは、必ずしも街そのものに価値がないことを意味しない。
むしろ、まだ評価が集中していない街には、住宅コスト、生活環境、地域との関係、将来的な発展余地という別の価値が残されている場合がある。
なぜ「人気のない街(穴場)」にこそチャンスがあるのか?
「住みたい街ランキング」の上位に入らない地域には、ランキングだけでは見えにくい価値が存在する。知名度が低いことと、居住地としての条件が悪いことは同じではなく、むしろ評価が集中していないために住宅費が抑えられ、生活環境の良さが残されている地域もある。
ここでいう「人気のない街」とは、人口減少が著しい地域や行政サービスが不足している地域を一括して指すものではない。駅や自治体として全国的な知名度が高くなく、住宅市場で過度な需要が集中していない一方、日常生活に必要な機能が一定程度確保されている地域を、ここでは「穴場」として捉える。
この視点は、街選びの基準を「他人からどう評価されているか」から「自分にとってどのような価値があるか」へ転換する考え方でもある。ランキングは他者の評価を知るためには便利だが、実際に住宅を選ぶ場合には、自分の所得、家族構成、通勤・通学、休日の過ごし方、必要な施設などを基準に判断する必要がある。
① コストパフォーマンスの圧倒的な高さ(低家賃・低地価)
人気が集中していない地域の最大のメリットとして挙げられるのが、住宅コストである。住宅価格や家賃は立地、交通、需給、住宅の広さ、築年数など複数の要因で決まるため、知名度が低い地域では、同程度の住宅面積をより低い価格で確保できる場合がある。
これは住宅費が家計に占める割合を考えると重要になる。住宅ローンや家賃が低ければ、その分を食費、教育費、貯蓄、旅行、趣味、老後資金などに振り向けられるため、単純な住宅価格の差以上に生活全体への影響が生じる。
特に大都市圏では、同じ沿線でも駅によって住宅価格に大きな差が生じる。主要駅から数駅離れるだけで価格水準が変わるケースもあり、「有名な駅の近くに住む」という選択肢を外すことで、住宅面積や住環境を改善できる可能性がある。
例えば、駅徒歩数分の狭い住宅を選ぶ代わりに、少し離れた地域で広い住宅を選択するという考え方がある。通勤時間が許容範囲に収まるなら、住宅費と居住空間のバランスを改善できるため、「人気駅からの距離」だけを基準にする必要はない。
国土交通省の地価公示を見る場合も、全国平均だけではなく、都道府県、都市、住宅地の区分ごとの違いを見ることが重要になる。2026年の地価公示では、全国の地価が上昇する一方、上昇率には地域差があり、都市部と地方部、交通利便性の高い地域とそうでない地域の間で異なる動きが確認されている。
したがって、住宅選びでは「地価が高い街だから価値がある」という考え方ではなく、「必要な生活条件を満たしながら、どれだけ住宅費を抑えられるか」という視点が重要になる。人気の低い街は、この価格と生活条件の組み合わせを探す際の候補になり得る。
② 「住環境の質(静けさ・治安・緑)」の高さ
人気の街では、利便性が高い一方で、人の多さや交通量、商業活動による騒音、住宅密度の高さなどが生活上の負担になる場合がある。駅前に店舗や飲食店が集中していることは便利である反面、夜間の人通り、車両の出入り、建物の密集などが気になる人もいる。
これに対して、中心駅から少し離れた住宅地や知名度の低い地域では、比較的静かな生活環境を確保できる可能性がある。もちろん地域によって治安や騒音などには大きな違いがあるため、「人気がない街なら安全で静か」と一般化することはできないが、ランキングでは評価されにくい環境要素を個別に確認する価値は高い。
特に自然環境については、都市の知名度と必ずしも比例しない。内閣府の調査では、身近な緑地について満足している人の割合が高く、小都市や町村では大都市より満足度が高い傾向が示されている。
これは「便利な街」と「快適な街」が完全には一致しないことを示している。毎日の買い物や通勤に便利な場所を評価する一方で、公園、河川、森林、農地などへのアクセスや、住宅周辺の静けさを重視すれば、ランキング上位ではない地域が候補に浮上する。
生活の質を考える場合、1日数回しか利用しない大型商業施設より、毎日過ごす住宅周辺の環境のほうが重要になることもある。窓を開けたときの騒音、徒歩圏の緑地、道路の交通量、夜間の明るさなどは、ランキングの数字には表れにくいが、長期間暮らすうえでは無視できない。
つまり、穴場を探す作業とは「人気がない場所を探す」ことではなく、「人気という指標では測りにくい生活価値を探す」ことでもある。ここにランキング中心の街選びから離れる意味がある。
③ 日常生活の利便性と「自分らしい開拓」の楽しさ
知名度の低い街には、利便性が低いという先入観が付きまといやすい。しかし、実際の生活に必要な施設がそろっていれば、全国的な知名度や駅名のブランドは必ずしも重要ではない。
例えば、徒歩圏や自転車圏に食品スーパー、ドラッグストア、診療所、学校、保育施設、公園、金融機関などがあれば、日常生活の基本的な需要を満たせる。さらに鉄道やバスなどの公共交通が一定程度確保されていれば、中心都市へのアクセスを維持しながら住宅費を抑えられる場合もある。
ここで重要なのは、「生活に必要なもの」と「街の知名度」を分離して考えることである。有名な商業地域が近くになくても、日常生活に必要な店舗がそろっていれば、毎日の暮らしに大きな支障がないケースは少なくない。
むしろ、人気の街では多くの人が知っている店舗や施設を利用するのに対し、知名度の低い地域では自分で店やサービスを探す余地がある。地域の小規模店舗、個人経営の飲食店、地元の市場、公共施設などを発見することは、街との接点を増やすきっかけにもなる。
この「自分で街を発見する」という要素は、ランキングでは評価できない。あらかじめ他人によって価値づけされた街を選ぶのではなく、自分自身の生活パターンに合わせて地域を評価するためである。
もちろん、利便性を過小評価してはいけない。特に高齢者、子育て世帯、車を利用できない人にとっては、医療、買い物、公共交通などの存在が生活の継続性に直結するため、単に家賃が安いという理由だけで居住地を決めるのは危険である。
したがって、穴場を選ぶ際には「安いかどうか」ではなく、「必要な生活機能を確保したうえで安いか」を確認する必要がある。価格と利便性の両方を比較すれば、ランキング上位の街とは異なる合理的な選択肢が見つかる可能性がある。
④ 将来の「隠れた資産価値(再評価)」の芽
人気のない街を考えるうえで、もう一つ注目されるのが将来の再評価である。現在のランキングで注目されていない地域でも、交通インフラの整備、駅周辺の再開発、企業や大学の進出、行政による都市政策などを契機として、住宅需要が変化する可能性がある。
実際、現在では高い評価を受けている地域も、常に現在のような評価だったわけではない。鉄道路線の整備や都市開発、人口移動、産業構造の変化などによって、地域の位置づけが長期的に変わることは都市発展の歴史からも確認できる。
ただし、ここは特に注意が必要な部分である。「今人気がないから将来必ず値上がりする」という論理は成立しない。日本では人口減少と高齢化が進んでおり、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計でも、地域によって人口規模や年齢構成が大きく変化すると見込まれている。
したがって、「穴場=将来値上がりする場所」と考えるのではなく、「将来変化する可能性を持つ地域」と捉えるほうが適切である。人口動態、交通計画、都市計画、産業集積、災害リスク、公共施設の維持可能性などを確認したうえで、現在の価格とのバランスを見る必要がある。
特に重要なのは、すでに人気が高まった後ではなく、その前段階を見極めることである。ランキングが上昇し、メディアで繰り返し取り上げられるようになれば、住宅市場にはすでに期待が織り込まれている可能性がある。
逆に、まだ一般的な知名度が低いものの、交通アクセスや都市計画などの基礎条件が改善している地域には、再評価の余地が残っている場合がある。ただし、これは投資判断ではなく、長期的な街の変化を考えるための一つの視点として捉えるべきである。
体系的まとめ:これからの「街選び」のパラダイムシフト
ここまでの議論から見えてくるのは、「人気のある街を選ぶ」という従来型の街選びから、「自分に必要な条件を満たす街を探す」という選択への転換である。ランキングは他人の評価を知るための資料として利用し、その後に自分自身の生活条件で再評価するという二段階の判断が重要になる。
街の価値を考える際には、少なくとも住宅費、生活の質、交通、買い物、医療、教育、自然環境、防災、将来の人口動態などを分けて確認する必要がある。これらを一つの順位にまとめるのではなく、自分にとって重要な項目を明確にして比較することで、ランキングでは見えなかった地域の価値が見えてくる。
特に住宅費については、「家賃が安いか」「住宅価格が安いか」だけではなく、住宅の広さや通勤費、通勤時間、車の維持費などを含めた総合的な居住コストを見る必要がある。安い住宅でも交通費や自動車費用が大きければ、実質的な負担はそれほど低くならない可能性がある。
生活の質については、利便性だけでなく、静けさ、自然、混雑、地域コミュニティ、住宅の広さなどを含めて考える必要がある。内閣府の環境に関する調査が示すように、生活者が感じる満足度には、都市規模や地域環境による違いが存在するためである。
そして、最も重要なのは「ランキングに載っているかどうか」を街の価値そのものと混同しないことである。ランキングは多数の人の意向を可視化する道具であり、個人の生活に適した住宅地を自動的に示す地図ではない。
この観点に立てば、「人気のない街」は単なるランキング外の地域ではなく、まだ十分に比較されていない選択肢として見直すことができる。人気が集中していないからこそ、住宅費、住環境、地域の個性、将来性を自分自身の基準で検討できる余地が大きいのである。
評価の基準
これからの街選びでは、「何位の街か」ではなく、「自分の生活にどれだけ適合する街か」を評価する必要がある。2026年の首都圏版「住みたい街ランキング」では、横浜、大宮、吉祥寺などが上位を占める一方、同年の「住み続けたい街ランキング」では鵠沼、千駄ケ谷、赤坂など異なる街が上位となったため、「住みたい」という外部からの期待と、「住み続けたい」という居住者の実感は別の指標として扱うべきである。
したがって、街を評価するときには少なくとも「コスト」「生活の質」「交通・生活利便性」「将来性」「安全性・災害リスク」の5分野に分けて考える必要がある。ランキングはこのうちの一部を把握する入口として使い、最終的な判断では複数の指標を組み合わせる方法が適している。
コスト(家賃・物価)
最初に確認すべきなのは住宅費である。家賃や住宅価格は毎月または長期間にわたって家計に影響するため、街の知名度よりも優先して確認すべき基本条件になる。
ただし、家賃だけを比較すると判断を誤る可能性がある。中心部から離れた地域では家賃が安くても通勤・通学の交通費が増えたり、自動車が必要になったりする場合があるため、住宅費と交通費を合わせた「居住コスト」で比較する必要がある。
同様に、物価にも地域差がある。日常的な食品や外食、駐車場、光熱費、保育、医療など、自分が実際に利用する支出項目を確認しなければ、住宅費だけ安い街を「割安」と評価することはできない。
また、住宅価格を見る場合には現在の価格だけでなく、住宅の広さや築年数も考慮する必要がある。同じ価格で20平方メートルの住宅と70平方メートルの住宅を比較すれば、単純な価格差だけでは生活上の価値を正確に評価できない。
この観点からすると、「人気駅の近くに狭い住宅を持つ」ことと、「少し離れた街で広い住宅を持つ」ことは単純な優劣ではなく、異なる生活設計である。自分が住宅に求める広さ、立地、通勤時間の許容範囲を決めたうえで価格を比較することが重要になる。
生活の質
次に見るべきなのが、日常生活そのものの質である。交通や商業施設の数だけではなく、騒音、混雑、緑地、住宅密度、景観、地域の雰囲気など、毎日の生活で継続的に接する環境を評価する必要がある。
特に注目すべきなのが自然環境である。内閣府の調査では、身近な緑地について満足している人の割合が高く、小都市や町村では大都市より満足度が高い傾向が確認されている。これは、都市規模の大きさや知名度だけでは住環境の満足度を説明できないことを示している。
静けさについても同様である。繁華街や主要駅に近いことは利便性につながる一方、交通量や人通りが多く、静かな環境を求める人には負担となる場合がある。
したがって、「駅から徒歩何分」という情報だけでは十分ではない。実際に昼と夜、平日と休日に現地を歩き、騒音、交通量、人通り、店舗の営業時間、街灯、公園などを確認することが、ランキングよりも具体的な情報になる。
さらに、生活の質は個人差が大きい。単身者、子育て世帯、高齢者、在宅勤務者では必要とする環境が異なるため、万人に共通する「最高の街」を設定すること自体が難しい。
本質的なメリット
人気のない街を選択する最大の意味は、「他人から評価されている街」ではなく、「自分に必要な条件を満たす街」を選べることにある。これは単なる節約ではなく、住宅費を抑えることで生活全体の選択肢を広げるという考え方である。
例えば、住宅費を下げたことで貯蓄額を増やせる場合もあれば、広い住宅を確保して在宅勤務の環境を改善できる場合もある。子育て世帯であれば、中心駅への近さよりも、住宅の広さ、公園、学校、保育施設などを優先することで、生活上の満足度が高まる可能性がある。
また、地域との距離が近くなることも重要である。大規模な都市では匿名性が高くなりやすい一方、規模の小さい地域では地域商店、自治会、公共施設、地域活動などを通じて住民との接点を持ちやすい場合がある。
ただし、地域コミュニティへの参加を誰にとってもメリットと考えるべきではない。人付き合いを重視する人もいれば、一定の距離を保った生活を望む人もいるため、ここでも「自分にとって必要か」という基準が重要になる。
街選びの本質は、街そのものの評価ではなく、街と自分の生活との適合性を見つけることにある。ランキングが示すのは平均的な人気であり、自分自身の生活設計に対する適合度ではない。
今後の展望
今後の街選びでは、人口減少と高齢化を無視できない。国立社会保障・人口問題研究所は、2020年の国勢調査を基準として、2050年までの市区町村別人口を推計しており、地域によって人口規模や年齢構成が大きく変化することが見込まれている。
この変化は、「今人気があるか」だけでなく、「将来も生活機能を維持できるか」という視点を街選びに加える必要があることを意味する。人口が減れば、商店、公共交通、学校、医療機関などの維持が難しくなる地域もあるため、現在の家賃が安いという一点だけでは長期的な居住価値を判断できない。
逆に、人口規模が比較的安定し、交通や医療、商業などの生活基盤が維持される地域には、知名度とは異なる価値がある。ランキングでは目立たなくても、生活機能が維持され、住宅コストが抑えられている地域は、今後の街選びにおいて重要な選択肢になる。
また、2026年の「住みたい街ランキング」では、横浜が9年連続で首都圏1位となる一方、同年の「穴場だと思う街ランキング」では北千住が9年連続1位となっている。つまり、ランキングの中にも「人気」と「割安感や穴場性」を別々に評価する考え方がすでに存在している。
これは、街の価値が単一の尺度では測れないことを示している。これからは「人気がある街」と「自分にとって価値がある街」を区別し、複数のデータを組み合わせて判断することが重要になる。
まとめ
「住みたい街ランキング」は、街を知るための便利な入口ではあるが、住宅選びの最終回答ではない。ランキング上位には交通、商業、知名度などの強みがある一方、その人気が住宅費の上昇や人口集中につながる場合もあり、順位そのものを生活の質と同一視することには限界がある。
一方、ランキングで目立たない街には、低い住宅コスト、広い住宅、静かな環境、豊かな緑、地域固有の文化など、別の価値が存在する可能性がある。重要なのは「人気がないから安い」と単純化することではなく、必要な生活機能を確認したうえで、価格と環境のバランスを見極めることである。
これからの街選びでは、「何位の街に住むか」から「何を重視して暮らすか」への転換が求められる。ランキングは他人の評価を知るために使い、その後は家賃、物価、通勤時間、生活環境、医療、教育、防災、人口動態などを自分の基準で評価するという使い方が合理的である。
そして、「人気のない街にこそチャンスがある」という命題も、「人気のない街ならどこでもよい」という意味ではない。正確には、まだ評価が集中していない街の中から、価格に対して生活環境が優れ、将来にわたって生活基盤を維持できる地域を探すことにチャンスがあるという意味で捉えるべきである。
街の価値はランキングによって決まるものではない。ランキングの外側にある地域まで視野を広げることで、住宅費を抑えながら生活の質を高めるという、これまでとは異なる街選びが可能になる。
参考・引用リスト
- 株式会社リクルート「SUUMO住みたい街ランキング2026 首都圏版」2026年2月25日。首都圏20~49歳9000人を対象とした「住んでみたい街」の調査結果を参照した。
- 株式会社リクルート「SUUMO住みたい街ランキング2026 首都圏版――その他(穴場だと思う街、住みたい沿線)」2026年2月26日。穴場だと思う街に関する調査結果を参照した。
- 株式会社リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2026 首都圏版」2026年9月1日。現在居住している住民の継続居住意向に関する調査結果を参照した。
- 国土交通省「令和8年地価公示」。全国および地域別の地価動向、住宅地の地価変動に関する資料として参照した。
- 内閣府「身近な環境に関する世論調査」。緑地などの身近な環境に対する生活者の満足度と、都市規模による差を検討する資料として参照した。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口――令和5年推計」。2020年国勢調査を基準とした2050年までの市区町村別人口推計を、地域の将来性を検討する基礎資料として参照した。
追記:今後の「街選び」のパラダイムシフト
これまでの街選びでは、駅名の知名度や交通利便性、商業施設の充実度、住宅地としてのブランドなどが重要な評価材料になってきた。特に「住みたい街ランキング」は、多数の人がどの地域に魅力を感じているのかを簡単に把握できるため、住宅情報を集める際の入口として一定の役割を果たしている。
しかし、人口構造や住宅市場、働き方が変化するなかで、ランキングの順位だけを街の価値とみなす方法には限界がある。2026年時点では、住宅を購入するのか賃貸するのか、都心へ毎日通勤するのか在宅勤務を組み合わせるのか、子育てをするのか単身で暮らすのかによって、同じ街でも評価が大きく変わるからである。
これから重要になるのは、「人気がある街を探す」という発想ではなく、「自分の生活条件に対して費用と便益のバランスが取れている街を探す」という発想である。これは単なるランキング批判ではなく、街の評価を一つの順位から複数の指標へ分解するという考え方である。
例えば、住宅費が低くても通勤時間が極端に長ければ、そのメリットは小さくなる。一方、中心部から距離があっても、住宅が広く、生活必需品を近隣で購入でき、公共交通が確保され、自然環境にも恵まれているなら、生活全体では高い価値を持つ可能性がある。
したがって、今後の街選びでは「駅から何分」「ランキング何位」という単純な尺度から離れ、複数の条件を組み合わせて評価する必要がある。街の価値を相対的な人気ではなく、自分自身の生活に生み出す実質的な利益から考えるのである。
評価の基準
街を比較する際には、まず「絶対条件」と「希望条件」を分ける必要がある。例えば、職場まで1時間以内、医療機関まで一定時間以内、日常的な買い物が徒歩圏内などは絶対条件とし、駅前の大型商業施設や有名飲食店などは希望条件として扱うことができる。
この方法を採用すると、ランキング上位の街が必ずしも候補の中心になるとは限らない。自分にとって不要な機能が大量に存在していても、そのために高い住宅費を負担するのであれば、生活全体の効率が高いとはいえないためである。
反対に、知名度の低い地域でも必要な条件を満たしていれば、候補として十分に検討できる。街の評価を「他人がどれだけ住みたいと思っているか」から「自分が必要とする生活条件をどれだけ満たしているか」へ変更することが、パラダイムシフトの中心となる。
さらに、街選びでは現在だけでなく10年程度先を考える必要がある。人口、公共交通、学校、病院、商業施設、道路などの変化によって、現在便利な地域が将来も同じ条件を維持できるとは限らない。
逆に、現在は目立たない地域でも、駅周辺の整備や道路の改善、企業の進出、公共施設の更新などによって生活環境が変わる可能性がある。ただし、将来の発展を期待するだけで判断するのではなく、現在の生活条件が十分に確保されていることを前提に考える必要がある。
コスト(家賃・物価)
街選びで最初に数値化しやすいのがコストである。家賃や住宅価格、管理費、駐車場料金、交通費、日常的な物価などを合計すれば、地域ごとの生活費をある程度比較できる。
特に住宅費については、単純な金額ではなく所得に対する割合を見ることが重要である。同じ月額10万円でも、世帯所得や住宅面積、家族構成が違えば、その負担感は大きく異なる。
また、住宅費を下げることによって生まれる余裕も考える必要がある。毎月の住居費が2万円低ければ、年間では24万円の差になるため、長期間では貯蓄や教育費などに回せる金額に大きな違いが生じる。
ただし、家賃の安さだけを追求すると別のコストが発生する場合がある。駅から遠く自動車が必要になる地域では、車両購入費、保険、燃料、駐車場、維持費などが住宅費の差を相殺する可能性がある。
そのため、実際の比較では「家賃+交通費+自動車費+日常生活費」という考え方が必要になる。人気のない街を探す場合も、単に最安値の地域を探すのではなく、生活全体の支出がどれだけ抑えられるかを見るべきである。
生活の質
生活の質は数値化が難しいが、長期間暮らす場合には極めて重要な要素である。住宅の広さ、騒音、緑地、日照、街の混雑、景観、地域の雰囲気などは、毎日の生活に継続的に影響する。
特に住宅周辺の環境は、ランキングで過小評価されやすい。大型商業施設や有名な飲食店は目立つ一方、徒歩圏の公園、河川、緑地、静かな道路などはランキングの順位に反映されにくい。
内閣府の調査で、身近な緑地への満足度について小都市や町村のほうが大都市より高い傾向が示されていることは、この問題を考えるうえで重要である。都市規模が大きくなれば利便性が高まる一方、自然環境や静けさなど別の価値が低下する場合があるためである。
したがって、生活の質を評価する際には、便利な施設の数だけではなく、「住宅から徒歩10分程度の範囲に何があるか」を見ることが有効である。スーパー、公園、診療所、薬局、学校、飲食店、公共交通などを地図上で確認すれば、街の実用的な姿が見えてくる。
さらに、現地確認も重要になる。昼間だけではなく夜間にも歩くことで、騒音、交通量、街灯、人通り、店舗の営業状況など、資料だけでは把握しにくい情報を確認できる。
このように考えると、人気ランキングは「街全体の評価」ではなく、あくまで一つの参考情報にすぎない。最終的には、生活者が日常的に利用する範囲の環境を自分自身で確認する必要がある。
本質的なメリット
人気のない街を選択することの本質的なメリットは、単純な「安さ」ではない。重要なのは、住宅費を抑えながら、その分を住宅の広さ、貯蓄、教育、余暇、趣味など別の生活価値に振り分けられる可能性である。
これは経済学的に考えれば、限られた所得をどこに配分するかという問題でもある。住宅費に多くの所得を使うことで得られる利便性が、自分にとって本当に必要なものなのかを考えることで、住居にかける金額を再検討できる。
例えば、毎日都心へ通勤する人にとっては駅への近さが重要になる。一方、在宅勤務の比率が高い人にとっては、駅徒歩5分よりも住宅の広さや静かな仕事環境のほうが重要になる可能性がある。
つまり、働き方の変化は街選びにも影響を与える。毎日同じ場所へ移動する必要がなければ、中心駅への近さに支払う「利便性の価格」を見直す余地が生まれる。
同じことは子育て世帯にも当てはまる。都心へのアクセスより、住宅面積、公園、学校、保育施設、医療機関、道路環境などを優先する場合、ランキング上位の街とは異なる地域が候補になる。
したがって、「人気のない街に住む」という選択は、妥協の結果とは限らない。自分にとって不要な都市機能を削り、必要な機能に資源を集中するという、積極的な生活設計として捉えることもできる。
今後は、人口減少による地域間格差が街選びに与える影響がさらに大きくなる。国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口では、2020年の国勢調査を基準に2050年までの市区町村別人口が推計されており、全国的な人口構造の変化だけでなく、地域ごとの違いも大きいことが示されている。
このため、現在の家賃や住宅価格だけではなく、将来的に地域の生活機能が維持されるかを見る必要がある。人口減少が進めば、店舗、公共交通、学校、医療機関などの維持が難しくなる地域もあるため、「安い」という理由だけで長期的な居住地を決めるのは適切ではない。
一方、人口規模が比較的安定しており、公共交通や医療、商業などが維持されている地域であれば、全国的な知名度が低くても居住地としての価値を持つ。ここに、これからの「穴場」を探すうえで重要な視点がある。
将来性については、再開発や新駅、企業誘致などの明るい材料だけを見るのではなく、人口動態、行政財政、災害リスク、インフラ更新などを合わせて確認する必要がある。街の将来価値は単一の事業によって決まるものではなく、複数の要素が長期間にわたって作用するためである。
結論
「住みたい街ランキング」は、人気の傾向を把握するための便利な情報である。しかし、その順位をそのまま自分の住宅選びに適用すると、住宅費や生活環境、家族構成、働き方などの個人的な条件を見落とす可能性がある。
これからの街選びでは、「人気」「知名度」「ブランド」から一定の距離を置き、家賃・住宅価格、交通費、生活利便性、住宅の広さ、自然環境、医療、教育、防災、将来の人口動態などを個別に評価することが重要になる。
その結果として、ランキング上位ではない街が候補になることは十分に考えられる。重要なのは「人気のない街を選ぶこと」ではなく、「人気という共通尺度だけでは発見できない価値を探すこと」である。
そして、穴場の本当の価値は、将来必ず値上がりすることではない。現在の住宅コストを抑えながら必要な生活機能を確保し、自分にとって快適な生活環境を得られること自体が、十分に大きな価値になり得る。
街の価値を他人の順位だけで決める時代から、自分自身の生活条件と将来設計によって評価する時代へ移行することが、これからの街選びにおける大きな変化になる。ランキングを見ることをやめる必要はないが、ランキングを「出発点」にとどめ、「答え」にしないことが重要になる。
2026年9月時点で「住みたい街」をめぐる評価は、単純な人気競争から少しずつ複雑化している。2026年の首都圏「住みたい街ランキング」では横浜が9年連続で1位となる一方、「穴場だと思う街」では北千住が9年連続で1位となり、さらに9月公表の「住み続けたい街」では鵠沼が1位となった。つまり、「住みたい」「穴場だと思う」「住み続けたい」は、それぞれ異なる価値を測っている。
この違いは、これからの街選びを考えるうえで重要である。知名度や憧れによって選ばれる街と、実際に暮らしている住民が長く住みたいと感じる街が一致するとは限らないからである。
2026年の「住みたい街ランキング」は20~49歳の9000人を対象として、「住んでみたい街」を1位から3位まで回答してもらう方式で集計されている。一方、「住み続けたい街ランキング」は首都圏の20歳以上を対象に、実際に住んでいる街への継続居住意向を調べており、調査対象と質問内容が異なる。
したがって、両者の順位を単純に比較して「どちらが正しい」と判断することはできない。しかし、同じ「街の価値」を扱っていても、評価する人と質問方法が変われば結果も変わるという事実は、ランキングを絶対的な尺度として扱うことの難しさを示している。
さらに、2026年9月の国土交通省の都道府県地価調査では、全国の住宅地、商業地などの地価が上昇基調を続けている一方、地域や用途による差も存在している。住宅コストが上昇する局面では、「人気の街」という評価が生活者にとって必ずしも利益だけをもたらすとは限らず、むしろ住宅取得や居住継続の負担を高める側面にも目を向ける必要がある。
このため、これからの街選びでは「人気があるか」という問いを出発点にするのではなく、「その街で暮らすために何を負担し、何を得られるのか」という問いに変える必要がある。
「人気」と「価値」を分離する
街の人気には、交通、商業、文化、知名度、ブランド、再開発など多くの要素が含まれている。しかし、これらはすべての人に同じ価値を持つわけではない。
例えば、駅前に数多くの飲食店があることを大きなメリットと感じる人がいる一方、自炊中心の生活をする人にとっては、それよりも大型スーパーが近いことのほうが重要になる。休日に繁華街へ出かける人と、休日の大半を自宅や公園で過ごす人でも、適した街は当然異なる。
つまり、街の「人気」と個人にとっての「効用」は別物である。多くの人が高く評価する街を選ぶことに合理性がある場合もあるが、自分に必要のない価値まで高い住宅費として負担する必要はない。
この視点に立つと、人気のない街には「評価されていない」のではなく、「評価軸が違うために見落とされている」地域が含まれる可能性がある。そこに穴場としての意味が生まれる。
「穴場」はどのように見つけるべきか
穴場を探す場合、最初から「ランキング外の街」を選ぶという方法は適切ではない。必要なのは、ランキングとは別の情報を使って候補地域を絞り込むことである。
第一に確認すべきなのは交通である。主要駅までの所要時間、運行本数、乗り換え回数、終電、バス路線などを確認し、実際の通勤・通学時間を計算する必要がある。
第二に、日常生活の基盤を見る必要がある。食品スーパー、薬局、診療所、病院、学校、保育施設、金融機関、公園などがどの程度の距離に存在するかを調べることで、その街の「生活上の便利さ」を具体的に評価できる。
第三に住宅コストを見る。家賃や住宅価格だけではなく、管理費、駐車場代、交通費、光熱費などを含めて比較しなければならない。
第四に将来性を見る。人口推計、都市計画、公共交通、再開発、産業、災害リスクなどを確認し、「現在安いが将来生活機能が失われる可能性がある地域」と「現在は目立たないが基盤が比較的安定している地域」を区別する必要がある。
国立社会保障・人口問題研究所は、2020年国勢調査を基準に2050年までの市区町村別人口を推計している。今後の街選びでは、現在の住宅価格だけでなく、人口規模や年齢構成がどのように変化するのかを確認することが重要になる。
「人気のない街=衰退する街」ではない
ここで注意しなければならないのは、「人気のない街」と「衰退している街」を同一視しないことである。全国的な知名度が低くても、一定の人口規模、交通、商業、医療、教育などが維持されている地域は存在する。
反対に、現在ランキング上位にある地域でも、住宅費の上昇、人口構成の変化、災害リスク、インフラ更新などの問題を抱える可能性がある。人気の高さだけを見て街の将来を判断することはできない。
特に人口減少社会では、「人気があるか」よりも「生活機能が持続するか」が重要になる。住民が減少すれば、商店や公共交通の採算が悪化し、学校や公共施設の統廃合が進む可能性があるためである。
したがって、穴場を探す際には「安い」「空いている」という短期的なメリットだけではなく、10年後、20年後にも一定の生活基盤が維持される可能性を確認する必要がある。
2026年の地価動向が示すもの
2026年の地価を見ると、人気や利便性の高い地域に需要が集まる一方、地方圏でも地価上昇が見られる地域がある。国土交通省による2026年地価公示では、全国平均で住宅地、商業地、全用途平均が5年連続で上昇した。
さらに2026年9月に公表された都道府県地価調査でも、全国平均の住宅地、商業地、全用途平均は上昇を続けている。三大都市圏では上昇が継続し、地方圏でも上昇傾向が続いているが、地域による差は残っている。
ここで重要なのは、地価上昇を単純に「人気の街の証拠」と考えないことである。地価には人口移動、住宅需要、商業需要、再開発、観光、交通、建築費など複数の要因が作用するためである。
むしろ、この状況は「人気が高まる前の地域を探す」という考え方を難しくしている。将来性を期待される地域では、すでに地価や住宅価格に期待が反映されている場合があるからである。
その意味では、穴場探しの本質は「将来値上がりする街を当てること」ではない。現在の価格と生活環境のバランスが良く、将来的にも一定の生活基盤が維持される地域を見つけることである。
生活の質を中心に据える
今後の街選びで特に重要になるのが、生活の質である。これは単なる快適さだけではなく、時間、費用、心理的負担、住宅空間、自然環境などを含む総合的な生活条件として考える必要がある。
内閣府の「身近な環境に関する世論調査」では、身近な豊かな緑地について78.4%が「満足している」と回答しており、小都市や町村では満足している割合が高く、大都市では不満の割合が高い傾向が確認されている。
この結果からも、都市規模が大きいことと生活環境への満足度が必ずしも比例しないことが分かる。大型商業施設や鉄道路線の多さは都市生活の利便性を高める一方、自然、静けさ、住宅の広さなどでは小規模な地域に優位性がある場合もある。
したがって、「便利な街」と「豊かに暮らせる街」を同一視する必要はない。どちらを重視するかは生活者によって異なり、街選びの本質はその違いを自覚することにある。
「自分らしい街選び」への転換
ランキング社会では、「みんなが評価しているものを選ぶ」という判断が簡単である。住宅選びでも、人気駅、人気自治体、人気沿線などを順番に確認すれば、一定の候補を作ることができる。
しかし、それでは自分自身の生活に必要な条件が後回しになる。特に住宅は衣服や家電などと違い、一度選ぶと引っ越し費用や手間が発生するため、他人の評価よりも自分の生活設計との適合性を優先する必要がある。
「人気のない街にこそチャンスがある」という考え方は、ランキングを否定するものではない。ランキングによって人気の方向を把握したうえで、その反対側にある地域にも目を向けることで、選択肢を増やすという意味である。
人気駅から2駅、3駅離れた地域、行政区域の境界に近い地域、複数の自治体の中間に位置する地域などには、知名度の差によって住宅価格や家賃に違いが生じる場合がある。こうした「隣接地域の価格差」を調べることは、穴場を探す具体的な方法の一つになる。
また、駅名の知名度だけでなく、実際の生活圏を見ることも重要である。駅が人気でなくても、徒歩圏内の商業施設、公共交通、医療、自然環境などが充実していれば、居住地として十分な価値を持つ可能性がある。
総合評価の考え方
街選びを体系化するなら、評価を「人気」「コスト」「生活の質」「利便性」「将来性」「安全性」の6項目程度に分解すると分かりやすい。各項目を自分の優先順位に合わせて確認すれば、ランキングに左右されにくい判断ができる。
例えば、単身者であれば交通と住宅費を重視し、子育て世帯であれば住宅面積、教育、医療、公園などの比重を高めることが考えられる。在宅勤務者なら駅距離の比重を下げ、住宅面積や静けさを重視する方法もある。
この方法には「万人にとっての最良の街」を決めなくてよいという利点がある。街の評価を一つの順位にする必要がなく、「自分にとって必要な条件を満たしているか」という形で判断できるからである。
そして、この評価方法を採用すると、ランキング上位の街にも、ランキング外の街にも同じ基準を適用できる。結果として、人気に引っ張られず、実際の生活価値を比較できるようになる。
最後に
「住みたい街ランキングがもたらす弊害、人気のない街にこそチャンスがあるのか」という問いに対しては、ランキングには情報価値がある一方、それを住宅選びの総合的な評価として使うことには明確な限界がある、と整理できる。
ランキング上位の街は、多くの場合、交通や商業、知名度など何らかの明確な強みを持つ。しかし、人気が集中すれば住宅費が上昇し、混雑や住宅密度が高まり、従来の住民にとって住み続けることが難しくなる場合もある。
一方、人気のない街には、低い住宅コスト、広い住宅、静けさ、自然、地域固有の文化など、ランキングに反映されにくい価値が残っている可能性がある。特に2026年のように住宅コストへの関心が高まり、地価上昇が続く局面では、「人気があること」そのものが必ずしも生活者にとって有利とは限らない。
ただし、すべての人気のない街に価値があるわけではない。人口減少、交通縮小、医療・商業機能の低下、災害リスクなどを抱える地域もあるため、「人気がない=穴場」という短絡的な判断も避けなければならない。
本当に探すべきなのは、「まだランキング上位ではないが、必要な生活機能があり、住宅コストが相対的に低く、生活の質が高く、将来的にも一定の持続性が期待できる街」である。これは「穴場」という言葉を、単なる安い街ではなく、「価格に対して生活価値が高い街」と定義し直すことでもある。
最終的に、これからの街選びで重要なのは「何位の街に住むか」ではなく、「何にお金を払い、どのような生活を手に入れるか」である。ランキングは他人の評価を知るための入口として活用し、その後は家賃、住宅価格、交通費、生活利便性、住宅の広さ、自然環境、医療、教育、防災、人口動態などを自分自身の基準で検証するべきである。
そして、「人気のない街にこそチャンスがある」という命題は、投資のように将来の値上がりを予測する話ではない。むしろ、人気という一つの尺度から離れることで、他人には見落とされている生活上の価値を発見できる可能性があるという意味で捉えるべきである。
街の価値はランキングの数字だけでは決まらない。2026年以降の街選びでは、「人気」から「適合性」へ、「知名度」から「実質的価値」へ、「他人の評価」から「自分の生活設計」へと評価軸を移すことが、より合理的な選択につながる。
参考・引用リスト(追記)
- 株式会社リクルート「SUUMO住みたい街ランキング2026 首都圏版」
2026年2月25日公表。首都圏在住の20~49歳、9000人を対象とした「住んでみたい街」の調査結果を参照した。2026年は横浜が9年連続で1位となった。 - 株式会社リクルート「SUUMO住みたい街ランキング2026 首都圏版――その他」
2026年2月26日公表。「穴場だと思う街」の調査結果を参照した。2026年は北千住が9年連続で1位となった。 - 株式会社リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2026 首都圏版」
2026年9月1日公表。実際に居住している住民の継続居住意向を調査したもので、1位は鵠沼となった。1次調査は25万1356人、2次調査は4万8961人が対象となった。 - 国土交通省「令和8年地価公示」
2026年3月公表。全国平均では全用途、住宅地、商業地のいずれも5年連続で上昇し、三大都市圏では上昇幅が拡大した。住宅費と地域人気の関係を検討する基礎資料として参照した。 - 国土交通省「令和8年都道府県地価調査」
2026年9月公表。7月1日時点の地価を調査したもので、全国の住宅地、商業地、全用途平均が上昇を続けていることを示している。 - 国土交通省「地価公示」「不動産情報ライブラリ」
地価だけでなく、都市計画、防災、人口などを重ねて地域を分析できる資料として参照した。街選びでは単一の価格指標ではなく、複数の地域情報を組み合わせることが重要である。 - 内閣府「身近な環境(水辺、緑地、大気など)に関する世論調査」
2024年10月調査。身近な豊かな緑地について78.4%が「満足している」と回答し、小都市や町村では満足度が高く、大都市では不満の割合が高い傾向が示された。 - 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口――令和5年推計」
2020年国勢調査を基礎として、2020年から2050年まで5年ごとの市区町村別人口を推計した資料である。人口減少社会における地域の持続性を考えるための基礎資料として参照した。 - 総合的な検証について
本稿では、住みたい街の人気、住み続けたいという居住者の実感、住宅コスト、地価動向、自然環境、人口動態を別々の指標として扱った。これらを分離して考えることで、「人気の高さ」と「個人にとっての居住価値」を同一視しない分析を行った。
