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「加熱式タバコ」に切り換えれば「高血圧」のリスクは下がる?紙巻きタバコとの違いと「誤解」

ここまでの研究を総合すると、「紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り換えれば、高血圧のリスクも下がる」と結論づけることはできない。むしろ2026年10月時点では、加熱式タバコ使用者にも高血圧発症との関連が確認されており、少なくとも高血圧対策という観点から、加熱式タバコを安全な代替品とみなす根拠は不足している。
加熱式タバコのイメージ(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

「紙巻きタバコよりも煙が少ない」「燃焼させないから健康への負担が小さい」といった印象から、紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り換えれば、高血圧のリスクも低下するのではないかと考える人は少なくない。しかし、2026年10月時点の研究を整理すると、加熱式タバコへの切り換えによって高血圧の発症リスクが下がると判断できるだけの根拠はない。

むしろ注目すべきなのは、2026年9月24日に医学誌「高血圧研究」に先行公開された日本の大規模な実世界データ研究である。この研究は、2021~2025年に健康診断などの情報を収集した30,979人を対象とし、開始時点で高血圧がなかった人を追跡したもので、加熱式タバコ使用者では追跡中に高血圧が発症した割合が8.2%となり、非喫煙者の5.1%を上回った。

研究では、背景因子を統計的に調整したうえでも、非喫煙者と比較した高血圧発症リスクは加熱式タバコ使用者で1.23倍、紙巻きタバコ使用者で1.28倍、両方を使用する人では1.47倍だった。ただし、この研究は観察研究であり、加熱式タバコそのものが高血圧を直接引き起こしたという因果関係まで証明したものではないため、この数字をそのまま「加熱式タバコによって高血圧が23%増える」と解釈することはできない。

それでも重要なのは、加熱式タバコ使用者について、少なくとも「紙巻きタバコから切り換えれば高血圧リスクが明確に下がる」という結果にはなっていない点である。これまで加熱式タバコについては長期的な健康影響を判断する研究が不足していたが、2026年の研究によって、実際の日本人集団における高血圧発症との関連を検討する材料が新たに加わった。

さらに2025~2026年に公表された複数の総説では、加熱式タバコ使用後に血圧や心拍数の上昇、血管機能の障害、酸化ストレスなどが確認されている。紙巻きタバコとの比較では、一部の有害物質への曝露が減少する可能性がある一方、循環器系への影響まで大幅に小さくなるとは確認されていない。

この問題を考えるうえで最も重要なのは、「有害物質の一部が減ること」と「高血圧という病気のリスクが減ること」は同じではないという点である。加熱式タバコは紙巻きタバコとは異なる製品だが、ニコチンを摂取するという基本的な特徴は共通しており、血圧や血管に作用する経路も残されている。

結論:「加熱式タバコに切り換えても、高血圧のリスクが下がるとは言えず、紙巻きタバコと同等あるいはそれに匹敵するリスクが残る」

現時点の研究から導かれる結論は明確である。紙巻きタバコから加熱式タバコへ変更しただけで、高血圧のリスクが下がると考えるのは適切ではない。

特に2026年の日本の大規模研究では、加熱式タバコ使用者の高血圧発症リスクが非喫煙者より有意に高く、その大きさは紙巻きタバコ使用者と統計的に大きくかけ離れていなかった。加熱式タバコ使用者8.2%、紙巻きタバコ使用者9.3%という発症割合も、少なくとも「加熱式タバコなら高血圧について安全性が大幅に高い」という単純な説明を支持していない。

ここで重要なのは、「加熱式タバコは紙巻きタバコと完全に同じ危険性がある」と断定することでもない。製品の構造、燃焼の有無、発生する化学物質、曝露量などには違いがあり、特定の有害物質への曝露が紙巻きタバコより低くなる場合もあるためである。

しかし、高血圧という観点では、現在確認されている研究だけから「加熱式タバコへの切り換えによってリスクが下がる」と結論づけることはできない。2025年の循環器系に関する系統的レビューでも、加熱式タバコによって生じる急性の血行動態変化や血管への影響は紙巻きタバコと類似しているとされ、長期的な臨床結果については十分な研究がないと指摘されている。

リスク低下は期待薄、主原因はニコチン

なぜ「燃焼させない」加熱式タバコでも高血圧との関係が残るのか。その中心的な要因の1つがニコチンである。

ニコチンは単純に「タバコの煙に含まれる有害物質の1つ」と捉えるだけでは不十分である。ニコチンそのものが神経系や循環器系に作用し、心拍数を増加させたり、血管を収縮させたりすることで、使用直後の血圧を上昇させる方向に働く。

つまり、紙巻きタバコの問題を「煙」だけの問題として考えると、加熱式タバコの健康影響を誤って評価する可能性がある。燃焼によって発生する物質を減らすことと、ニコチンによる循環器系への作用をなくすことは別の問題だからである。

2025年から2026年に発表された研究を総合すると、加熱式タバコは血圧、心拍数、血管機能など循環器系の複数の指標に影響する可能性が示されている。2025年に公表された総説でも、加熱式タバコ使用によって血圧や心拍数の上昇、血小板凝集、炎症反応、血管内皮機能障害などが観察された研究が整理されている。

このため、高血圧を予防したい人にとって、「紙巻きタバコから加熱式タバコに変えること」を高血圧対策そのものと考えるのは適切ではない。血圧への影響を小さくするという目的だけを考えるなら、ニコチンへの曝露そのものを減らすことが重要になる。

なぜ加熱式タバコでも高血圧のリスクが下らないのか

高血圧は、単純に「血圧が一時的に上がる」だけで決まる病気ではない。血管の状態、交感神経の活動、腎臓による体液調節、生活習慣、遺伝的要因など複数の要素が長期間にわたって関係する。

したがって、加熱式タバコ使用後に血圧が一時的に上昇するという事実だけで、長期的な高血圧発症を直接証明することはできない。しかし、血圧上昇を繰り返す要因や血管機能を損なう要因が継続すれば、長期的な循環器疾患のリスクを考えるうえで無視できない。

特に問題となるのが、ニコチンによる交感神経への刺激と血管収縮である。加熱式タバコでは燃焼がないため、紙巻きタバコとは発生する化学物質の構成が異なるが、ニコチンを吸入するという基本的な経路は残っている。

また、2026年の日本の研究では、加熱式タバコ使用者だけでなく、紙巻きタバコとの併用者でも高血圧発症リスクが高かった。紙巻きタバコを完全にやめず、加熱式タバコを追加するだけでは、少なくとも高血圧リスクの観点からは問題を解決したことにならない。

① ニコチンによる血管収縮と交感神経の刺激

加熱式タバコでも高血圧との関係が残る最大の理由の1つが、ニコチンである。加熱式タバコはたばこ葉を燃焼させずに加熱することでニコチンなどを含むエアロゾルを発生させる製品だが、ニコチンそのものを体内に取り込むという点では紙巻きタバコと共通している。

ニコチンが体内に入ると、自律神経のうち交感神経系が刺激される。これによって心拍数が増加し、心臓が血液を送り出す力が強まる一方、末梢の血管が収縮し、血圧を上昇させる方向に作用する。

この反応は使用直後に現れる一過性の変化として捉えられることが多いが、問題はそれを繰り返すことである。たばこを日常的に使用していれば、ニコチンによる交感神経刺激と血管収縮が繰り返されるため、血圧管理という観点から無視できない負荷になる。

また、ニコチンの作用は単純な血圧上昇だけではない。交感神経活動の亢進は心拍数や心筋の酸素需要にも影響し、血管の収縮と組み合わさることで循環器系全体への負担を増加させる可能性がある。

2025年に公表された加熱式タバコの健康影響に関する総説では、人を対象とした研究や細胞を用いた研究を検討した結果、加熱式タバコ使用後に血圧や心拍数の上昇、血小板の凝集、炎症反応の増加などが確認された研究が整理されている。特に循環器系については、血管内皮機能の障害につながる変化も報告されている。

ここで重要なのは、紙巻きタバコの健康被害を生じさせる要因がニコチンだけではない一方で、加熱式タバコに変更してもニコチンによる循環器系への作用は基本的に消えないという点である。したがって、「燃焼しない」という製品上の違いだけから、高血圧に対する影響まで小さくなると判断することはできない。

さらに、ニコチンによる作用に加えて、加熱式タバコから吸入される化学物質が血管内皮や酸化ストレス、炎症反応などに影響する可能性も研究されている。近年の研究では、酸化ストレスによって血管を拡張させる働きを持つ一酸化窒素の利用可能性が低下し、血管内皮機能が損なわれるという機序も検討されている。

つまり、高血圧との関係を考える際には、「ニコチンによる直接的な血圧上昇」と「血管機能に対する長期的な影響」を分けて考える必要がある。加熱式タバコは前者を残しているだけでなく、後者についても安全性が十分に確認されているわけではない。

② 最新の疫学調査・研究結果

2026年10月時点で、この問題を考えるうえで特に重要なのが、日本人を対象とした大規模な全国実態データによる研究である。2026年9月24日に公表された研究では、健康診断などのデータを利用し、開始時点で高血圧ではなかった30,979人を対象として、加熱式タバコの使用と新たな高血圧発症との関連が調べられた。

平均年齢は46.8歳で、女性が37.0%を占めていた。追跡期間中に高血圧を発症した割合は、非喫煙者では5.1%だったのに対し、現在加熱式タバコを使用している人では8.2%、紙巻きタバコ使用者では9.3%、加熱式タバコと紙巻きタバコを併用している人では8.2%だった。

さらに、年齢などの背景要因を統計的に調整した解析では、非喫煙者を基準にした高血圧発症リスクは、加熱式タバコ使用者で1.23倍、紙巻きタバコ使用者で1.28倍、両方を使用する人で1.47倍となった。加熱式タバコ使用者についても統計的に有意な関連が確認されており、少なくとも「加熱式タバコなら高血圧のリスクは問題にならない」という説明とは一致しない。

ただし、この研究結果の読み方には注意が必要である。研究は観察研究であるため、加熱式タバコの使用そのものが高血圧を直接引き起こしたという因果関係を証明したものではない。

例えば、喫煙者と非喫煙者では、飲酒、運動、食事、睡眠、体重などの生活習慣が異なる可能性がある。研究ではこうした要素を統計的に調整しているが、観察研究では測定されていない要因や調整しきれない交絡因子が残る可能性があるため、「加熱式タバコによって高血圧が1.23倍になる」と直接的に解釈するのは適切ではない。

それでも、この研究が重要なのは、加熱式タバコ使用者を実際の人口集団の中で追跡し、高血圧の新規発症との関連を調べた点にある。従来は、加熱式タバコについて短期間の血圧変化や血管機能を調べた研究が多く、長期間の健康影響については不明な部分が大きかったからである。

紙巻きタバコと加熱式タバコを比較した2025年の系統的レビューでも、加熱式タバコによる急性の血行動態変化や血管への影響は、紙巻きタバコと類似していることが報告されている。このレビューでは5つの研究、計460人を対象に検討したが、中長期的な臨床結果を評価した研究はなく、現段階で加熱式タバコが循環器系に明確な利益をもたらすとは判断できないと結論づけている。

一方で、研究全体を見れば加熱式タバコについて必ずしも一方向の結果だけが存在するわけではない。2025年に発表された別の総説では、紙巻きタバコと比較して有害物質への曝露が減少する可能性や、一部の生物学的指標が改善する可能性を示した研究も整理されているため、「加熱式タバコと紙巻きタバコはあらゆる点で完全に同じ」とするのも科学的には正確ではない。

問題は、曝露する有害物質が減少したとしても、それが高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの実際の疾病リスクの低下に直結するとは限らないことである。疾病の発症には複数の経路が関係するため、短期間の血液検査や化学物質の測定だけでは、数年から数十年後の健康状態まで判断できない。

この点は2025年の別の系統的レビューでも明確になっている。加熱式タバコに関する臨床試験を総合すると、一部の有害性指標が紙巻きタバコより低下する可能性はあるものの、研究の質や対象、製品の違いが大きく、長期的な疾病発症については十分なデータが存在しないとされている。

したがって、2026年時点の研究を総合すると、「加熱式タバコは紙巻きタバコより有害物質への曝露が少ない場合がある」という事実と、「加熱式タバコに切り換えれば高血圧のリスクが下がる」という主張は切り離して考える必要がある。前者については一定の研究結果が存在する一方、後者を裏付ける長期的かつ一貫した疫学的証拠はまだ不足している。

特に日本の最新研究で、加熱式タバコ使用者の高血圧発症率が非喫煙者より高かったことは重要な材料になる。ただし、それだけを根拠に加熱式タバコの高血圧リスクが紙巻きタバコと完全に同一だと断定することもできず、現段階では「リスクが低下すると確認されていない」という表現が最も研究結果に忠実である。

紙巻きタバコとの違いと「誤解」

加熱式タバコをめぐる議論で最も多い誤解の1つは、「紙巻きタバコより有害物質が少ない」ことと「健康へのリスクが低い」ことを同じ意味で捉えることである。両者には明確な違いがある。

紙巻きタバコではたばこ葉を燃焼させるため、燃焼に伴って一酸化炭素や多数の化学物質が発生する。加熱式タバコでは燃焼を避けるため、一部の有害物質への曝露量が紙巻きタバコより少なくなる可能性があるが、それは「有害物質がなくなる」という意味ではない。

また、加熱式タバコにはニコチンが含まれる。したがって、血圧や心拍数を上昇させるニコチンの作用までなくなるわけではなく、循環器系への負担を考える際には、この点を別途評価する必要がある。

さらに、紙巻きタバコから加熱式タバコへ変更した人が、紙巻きタバコを完全にやめずに併用するケースもある。日本の2026年研究では、こうした併用者でも非喫煙者より高血圧発症リスクが高く、統計上の相対リスクは1.47倍だった。

したがって、「紙巻きタバコを減らして加熱式タバコを足す」という行動と、「紙巻きタバコを完全にやめる」という行動は、健康影響を評価するうえで同じではない。高血圧予防という目的から見ると、単純な製品変更だけでなく、ニコチンへの曝露そのものをどう減らすかが重要になる。

タール・一部の有害物質

加熱式タバコをめぐる議論では、「燃焼しないため、紙巻きタバコより有害物質が少ない」という説明がしばしば使われる。この説明には一定の根拠があるものの、それだけで高血圧を含む健康リスク全体が同じ割合で低下すると考えるのは適切ではない。

紙巻きタバコでは、たばこ葉を約600~900℃程度で燃焼させることで煙が発生する。一方、加熱式タバコはたばこ葉などを燃焼させず、より低い温度で加熱してニコチンを含むエアロゾルを発生させるため、燃焼によって生じる一部の有害物質については曝露量が少なくなる場合がある。

ここで注意が必要なのが「タール」という言葉である。紙巻きタバコの煙に含まれるタールは、燃焼によって生じる粒子状物質の集合体を指すが、加熱式タバコでは同じ形で燃焼生成物が発生するわけではない。そのため、「加熱式タバコはタールが少ないから安全」という単純な比較はできない。

また、健康被害をタールだけで説明することもできない。ニコチン、一酸化炭素、アルデヒド類、揮発性有機化合物、微粒子など、循環器系や呼吸器系に影響し得るさまざまな物質が関係するためである。

厚生労働省も、加熱式タバコについて、紙巻きタバコに比べて一部の有害化学物質の曝露量が低減しているものの、健康影響が紙巻きタバコより小さいかどうかについては明らかになっていないとしている。この点は、「有害物質の一部が減る」ことと「疾病リスクが減る」ことを区別するうえで重要である。

さらに、加熱式タバコから発生するエアロゾルには、紙巻きタバコとは異なる化学物質の組み合わせが含まれる可能性がある。製品の種類や使用方法によって発生量が変化するため、すべての加熱式タバコを一括して「有害物質が少ない製品」と評価することにも限界がある。

2025年に公表された総説でも、加熱式タバコは紙巻きタバコと比較して一部の有害物質への曝露を減少させる可能性がある一方、複数の毒性物質への曝露は依然として存在し、長期的な健康影響については十分な証拠がないと整理されている。したがって、「燃焼しない」という製品上の特徴を、そのまま「高血圧になりにくい」という医学的結論に置き換えることはできない。

ニコチン量

高血圧との関係を考える場合、タール以上に重要なのがニコチンである。加熱式タバコはニコチンを含む製品であり、使用するとニコチンが吸収されるため、血圧や心拍数に対する作用が残る。

「加熱式タバコならニコチン量も少ない」というイメージを持つ人もいるが、製品ごとにニコチンの含有量や供給特性が異なるため、一律にそう判断することはできない。さらに、実際に使用者が吸入する量は、製品だけでなく吸い方や使用頻度によっても変化する。

重要なのは、表示されるニコチン量と実際に身体へ取り込まれる量を同一視しないことである。深く吸う、吸引回数を増やす、使用時間を長くするなどの行動によって、ニコチン曝露量が変化する可能性がある。

加熱式タバコに切り換えたことで紙巻きタバコの本数が減ったとしても、ニコチン摂取が十分に減っているとは限らない。特に紙巻きタバコと加熱式タバコを併用している場合には、ニコチンへの曝露機会が残り続ける。

この点からも、高血圧対策として「紙巻きタバコから加熱式タバコへの製品変更」だけを見るのでは不十分である。重要なのは、ニコチンによる交感神経刺激や血管収縮を含め、身体への総合的な曝露がどう変化したのかという視点である。

知っておくべきその他の健康リスク

加熱式タバコの健康問題は高血圧だけではない。循環器系では、血管内皮機能の低下、酸化ストレス、炎症反応、血小板機能への影響などが研究されており、これらは将来的な心血管疾患を考えるうえでも重要な要素となる。

また、呼吸器系への影響も無視できない。加熱式タバコは紙巻きタバコの煙とは異なるエアロゾルを発生させるが、それを吸入すること自体が無害という意味ではない。

さらに、ニコチンを継続的に摂取することによる依存も重要である。依存が形成されれば、使用を継続しやすくなり、結果として長期間にわたってニコチンやその他の化学物質への曝露が続く可能性がある。

特に「健康への負担を減らすために加熱式タバコへ変更した」という場合には、そこで安心して使用を継続してしまうことが問題になり得る。加熱式タバコへの変更を「禁煙」と同じものとして扱うことはできず、ニコチンを摂取し続ける限り依存の問題も残る。

血管内皮機能障害

高血圧との関連を理解するうえで、もう1つ重要なのが血管内皮である。血管内皮は血管の内側を覆う細胞の層で、血管を拡張・収縮させる物質の調節、血液凝固、炎症などに関与している。

健康な血管では、血管内皮から一酸化窒素などが産生され、血管を適切に拡張させる働きが保たれている。ところが、喫煙などによる酸化ストレスや炎症が続くと、この機能が損なわれ、血管が拡張しにくくなることがある。

加熱式タバコについても、血管内皮機能を低下させる可能性を示す研究が存在する。2025年に公表された研究では、加熱式タバコの使用によって血管内皮機能に関連する指標が悪化する可能性が検討され、ニコチンだけでは説明できない血管への影響についても研究が進められている。

血管内皮機能障害がそのまま高血圧を意味するわけではない。しかし、血管の柔軟性や拡張能力が損なわれれば、血圧を適切に調節する仕組みに影響する可能性がある。

このため、「加熱式タバコは紙巻きタバコより煙が少ない」という視覚的な違いだけで血管への影響を判断するのは危険である。実際には目に見える煙の量よりも、吸入する物質が血管や神経系にどのように作用するかが重要になる。

妊娠高血圧症候群

妊娠中の使用については、さらに慎重な評価が必要になる。妊娠中のニコチン曝露は母体だけでなく胎児にも影響する可能性があり、加熱式タバコだから安全と考えることはできない。

妊娠高血圧症候群は妊娠中に発症する高血圧を中心とした病態で、母体や胎児の健康に重大な影響を及ぼす場合がある。たばこと妊娠高血圧症候群の関係は単純ではなく、喫煙者における発症リスクについては他の要因も含めて慎重に解釈する必要があるが、だからといって妊娠中の加熱式タバコ使用を安全とみなす根拠にはならない。

特に加熱式タバコについては、妊娠期間を含む長期的な安全性を確認するための研究が十分ではない。妊娠中は「紙巻きタバコより有害物質が少ない可能性がある」という情報だけで安全性を判断せず、ニコチン曝露そのものを避けることが重要になる。

ニコチン依存症

高血圧との関連を考える際、ニコチン依存も見落とせない。ニコチンには強い依存性があり、繰り返し使用することで脳内の報酬系に変化が生じ、使用をやめにくくなる。

加熱式タバコへの切り換えによって紙巻きタバコの煙への曝露が減ったとしても、ニコチン依存が解消されるわけではない。むしろ「紙巻きタバコより安全だから」という認識が強くなると、使用継続を正当化しやすくなる可能性がある。

高血圧の予防という観点から見ると、製品を変更することだけではなく、ニコチンへの依存をどう解消するかが重要になる。加熱式タバコを使用している人が血圧管理を考える場合には、単純な製品比較ではなく、禁煙・禁ニコチンという長期的な視点から考える必要がある。

ここまでを整理すると、加熱式タバコには「燃焼によって発生する一部の有害物質を減らせる可能性」という特徴がある一方、ニコチンによる血圧上昇作用、交感神経刺激、血管への影響、依存性などは残る。したがって、紙巻きタバコから加熱式タバコへ変更したことだけを根拠として、高血圧リスクが十分に低下したと判断することはできない。

今後の展望

2026年10月時点で、加熱式タバコと高血圧の関係について最も慎重に評価すべき点は、「分かっていること」と「まだ分かっていないこと」を区別することである。厚生労働省は、加熱式タバコについて紙巻きタバコより健康影響が少ないかどうかは、まだ明らかになっていないとしている。

一方、研究そのものは着実に増えている。2025年の総説では、2021~2025年に公表された55件の研究を検討し、加熱式タバコ使用によって血圧や心拍数の上昇、血小板の凝集、炎症反応、血管内皮機能障害などが確認された研究が整理されている。

さらに、2025年に公表された循環器系への影響に関する系統的レビューでは、5研究、計460人を対象として加熱式タバコと紙巻きタバコを比較した結果、加熱式タバコによる急性の血行動態変化や血管への影響は紙巻きタバコと類似していたと報告されている。ただし、中長期的な疾病発症を直接評価した研究はなく、長期的な循環器リスクについては依然として不確実性が残る。

この「長期データの不足」は重要である。高血圧は一度の喫煙直後に血圧が上昇するだけで決まる疾患ではなく、血管、腎臓、自律神経、体重、食塩摂取、運動、遺伝的要因などが長期間にわたって関係するため、短期間の実験だけでは最終的な疾病リスクを判断できない。

その意味で、2026年9月に公表された日本の全国実態データ研究は大きな意味を持つ。30,979人を対象とした研究では、追跡期間中の高血圧発症率が非喫煙者5.1%に対して加熱式タバコ使用者8.2%、紙巻きタバコ使用者9.3%となり、統計的な調整後も加熱式タバコ使用者の高血圧発症リスクは非喫煙者より高かった。

ただし、この研究も観察研究であるため、加熱式タバコが高血圧を直接引き起こすという因果関係を証明したものではない。研究者自身も、加熱式タバコ使用と高血圧発症との関連を示すものであって、加熱式タバコへの曝露による因果効果を確定するものではないと明記している。

今後必要なのは、使用開始から何年後に高血圧、心筋梗塞、脳卒中などがどの程度増えるのかを追跡する長期研究である。また、紙巻きタバコを継続する人、加熱式タバコへ完全に切り換えた人、両方を使用する人、禁煙した人、非喫煙者を明確に区別した研究も必要になる。

まとめ

ここまでの研究を総合すると、「紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り換えれば、高血圧のリスクも下がる」と結論づけることはできない。むしろ2026年10月時点では、加熱式タバコ使用者にも高血圧発症との関連が確認されており、少なくとも高血圧対策という観点から、加熱式タバコを安全な代替品とみなす根拠は不足している。

その最大の理由の1つがニコチンである。ニコチンは交感神経を刺激し、心拍数を増加させ、血管を収縮させることで血圧を上昇させる方向に作用するため、燃焼方式を紙巻きタバコから加熱方式へ変更しても、この作用そのものが消えるわけではない。

加熱式タバコでは、燃焼を伴わないことから紙巻きタバコより一部の有害化学物質への曝露が少なくなる可能性がある。しかし、厚生労働省も指摘するように、それによって健康影響全体が紙巻きタバコより小さくなるかどうかは明らかになっていない。

したがって、「有害物質が一部減る可能性」と「高血圧の発症リスクが下がること」は分けて考える必要がある。前者については一定の研究結果がある一方、後者については2026年時点で明確な低下効果を示す十分な長期的証拠が存在しない。

特に注意すべきなのが、紙巻きタバコと加熱式タバコの併用である。2026年の日本の研究では、両方を使用する人の高血圧発症リスクは非喫煙者より高く、統計的調整後の相対リスクは1.47倍だった。

つまり、「紙巻きタバコを減らして加熱式タバコを使う」ことと、「ニコチンを含むたばこ製品そのものをやめる」ことは同じではない。高血圧を予防するという目的に限って考えれば、製品を変更することよりも、ニコチンへの曝露を減らし、最終的には禁煙することの方が重要な意味を持つ。

ただし、ここでも科学的な表現には注意が必要である。加熱式タバコと紙巻きタバコの健康影響がすべて完全に同一であることが証明されたわけではなく、逆に加熱式タバコの方が高血圧リスクを明確に低下させることも証明されていない。

したがって、2026年10月時点で最も妥当な結論は、「加熱式タバコに切り換えても、高血圧のリスクが下がるとは言えず、紙巻きタバコと同等あるいはそれに匹敵するリスクが残る可能性を考える必要がある」というものである。より厳密に表現すれば、「紙巻きタバコから加熱式タバコへの変更によって高血圧発症リスクが低下することは、現時点では確認されていない」とするのが研究結果に忠実である。

加熱式タバコについては、今後さらに長期的な疫学研究が必要になる。特に高血圧だけでなく、心筋梗塞、脳卒中、動脈硬化、血管内皮機能、慢性腎臓病などを含めて評価することで、加熱式タバコが循環器系に及ぼす長期的な影響がより明確になると考えられる。


参考・引用リスト

  • 厚生労働省「加熱式たばこの健康影響」
    加熱式タバコの基本的な仕組み、有害化学物質への曝露、紙巻きタバコとの健康影響の比較についての公的情報。
  • 2026年・日本全国実態データ研究「加熱式タバコ使用と新規高血圧発症との関連」
    30,979人を対象に、加熱式タバコ使用者、紙巻きタバコ使用者、併用者、非喫煙者における高血圧発症を比較した研究。加熱式タバコ使用者では非喫煙者より高血圧発症リスクが高かったが、観察研究であり因果関係は証明されていない。
  • ベン・サードら「加熱式タバコ製品と従来型紙巻きタバコの循環器系への影響に関する系統的レビュー」
    2025年公表。5研究、計460人を対象に、血圧などの急性・短期的な循環器系への影響を比較し、加熱式タバコに紙巻きタバコと類似した血行動態・血管への影響が認められたと報告。
  • 2025年「加熱式タバコ製品の健康影響に関する総説」
    2021~2025年に公表された55研究を検討し、血圧、心拍数、血小板凝集、炎症反応、血管内皮機能などへの影響を整理した総説。
  • 2025年「加熱式タバコ製品による潜在的有害性指標と有害事象に関する系統的レビュー・メタ解析」
    加熱式タバコと紙巻きタバコなどを比較した臨床試験を体系的に評価し、有害性指標について一定の改善を示す結果がある一方、研究結果の解釈には限界があることを示した研究。
  • 2025年「加熱式タバコ製品による害の低減に関する系統的レビュー・メタ解析」
    紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り換えた場合の複数の生物学的指標を検討した研究。紙巻きタバコより一部の指標が改善する可能性を示す一方、疾病そのものの長期的な発症リスクとは区別して解釈する必要がある。

追記:「リスクが下がらない」と「同じ危険性」は同じではない

今回のテーマで最も重要なのは、「加熱式タバコに切り換えても高血圧リスクが下がるとは言えない」という結論と、「加熱式タバコと紙巻きタバコの高血圧リスクは完全に同じである」という主張を混同しないことである。2026年10月時点の研究から支持できるのは前者であり、後者については長期的な比較研究が十分ではない。

2026年9月に公表された日本人30,979人の研究では、加熱式タバコ使用者の高血圧発症率は8.2%で、非喫煙者の5.1%を上回った。また、背景要因を調整した解析でも加熱式タバコ使用者と高血圧発症との統計的な関連が確認されたが、観察研究であるため、これだけで加熱式タバコが高血圧を直接引き起こしたと証明することはできない。

一方、紙巻きタバコには燃焼によって発生する多数の化学物質が存在するため、加熱式タバコとの曝露状況が完全に同一ではない。加熱式タバコでは一部の有害物質への曝露が減少する可能性があるものの、その減少が高血圧や心血管疾患の発症リスクを同じ割合で低下させることを意味するわけではない。

この違いを理解するためには、「曝露量」「生理学的影響」「疾病発症」という3つの段階を分けて考える必要がある。ある化学物質の曝露量が減少しても、その製品に残る別の物質やニコチンが血圧や血管に作用すれば、最終的な疾病リスクがどの程度変化するかは別途検証しなければならない。

高血圧対策として見た場合の意味

高血圧は、血圧計で測定される数値だけの問題ではない。長期間にわたる血管、心臓、腎臓、自律神経などの状態が関係し、その結果として心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患につながる可能性がある。

そのため、「加熱式タバコを使った直後に血圧がどの程度上がるか」だけを調べても、長期的な疾病リスクを完全には評価できない。反対に、短期間の研究で明確な悪影響が見つからなかったとしても、それを長期間の安全性の証明と解釈することもできない。

現段階では、ニコチンによる交感神経刺激、血管収縮、心拍数上昇などの作用が確認されていることが重要である。さらに、血管内皮機能障害や酸化ストレス、炎症反応など、循環器系に関係する複数の経路についても研究が進められている。

したがって、高血圧を予防する目的であれば、「燃焼する紙巻きタバコか、燃焼しない加熱式タバコか」という二択だけで考えるのでは不十分である。ニコチンを継続的に摂取すること自体が循環器系にどのような影響を与えるのかを考える必要がある。

「紙巻きタバコよりまし」という情報の読み方

加熱式タバコについては、紙巻きタバコと比較して一部の有害化学物質への曝露が低下するという研究結果がある。この情報そのものを否定する必要はないが、それを「健康への危険が小さい」「高血圧になりにくい」「安全である」という意味に拡大解釈することには注意が必要である。

医学研究では、化学物質の曝露量、生体への短期的な反応、長期的な疾病発症はそれぞれ別の評価対象になる。加熱式タバコについて現在不足しているのは、とりわけ長期間使用した場合に高血圧、心筋梗塞、脳卒中などの発症率がどう変化するのかというデータである。

このため、現在の科学的知見からは「加熱式タバコは紙巻きタバコより有害物質への曝露が少ない場合がある」という説明と、「加熱式タバコに変更すれば高血圧リスクが下がる」という説明を明確に区別する必要がある。

併用には特に注意が必要

もう1つ見落とせないのが、紙巻きタバコと加熱式タバコの併用である。日本の2026年研究では、両方を使用する人についても非喫煙者と比較して高血圧発症との関連が認められ、調整後の相対リスクは1.47倍だった。

これは、加熱式タバコを追加することと、紙巻きタバコを完全にやめることは健康影響の面で同じではないことを示す材料になる。ただし、この結果についても観察研究であることから、併用そのものが1.47倍のリスクを直接発生させたと断定することはできない。

健康上の目的で紙巻きタバコから加熱式タバコへ移行する場合にも、「切り換えた」という自己認識だけでなく、実際に紙巻きタバコの使用がなくなったのか、ニコチン摂取量がどう変化したのかを区別して考える必要がある。

最後に

2026年10月時点の研究を体系的に整理すると、加熱式タバコには紙巻きタバコとの明確な違いがある一方、その違いから高血圧リスクの低下を直接導くことはできない。特にニコチンによる交感神経刺激や血管収縮は残るため、「燃焼しない」という一点だけで循環器系への影響が小さいと判断することはできない。

現在確認されている研究では、加熱式タバコ使用者にも高血圧発症との関連が認められている。したがって、「加熱式タバコに切り換えれば高血圧のリスクも下がる」という説明は、2026年10月時点の科学的根拠によって支持されているとは言いにくい。

ただし、「加熱式タバコと紙巻きタバコは高血圧リスクが完全に同じ」とまで断定することも避けるべきである。長期的な比較研究が不足しているため、現時点で最も科学的に慎重な表現は、「加熱式タバコへの切り換えによる高血圧リスクの低下は確認されておらず、ニコチンを含む製品である以上、循環器系へのリスクが残る」というものになる。

この問題を判断する際には、「紙巻きタバコより有害物質が少ない可能性がある」という情報だけを見るのではなく、ニコチン、血管収縮、交感神経刺激、血管内皮機能、依存性、併用、そして長期的な疾病発症という複数の要素をまとめて考える必要がある。これが、2026年10月時点で得られる研究結果を過不足なく理解するための基本的な視点となる。


参考・引用リスト(追記)

  • 厚生労働省「加熱式たばこの健康影響」
    加熱式タバコの基本的な仕組み、有害化学物質への曝露、紙巻きタバコとの健康影響の比較についての公的情報。
  • 2026年・日本全国実態データ研究「加熱式タバコ使用と新規高血圧発症との関連」
    30,979人を対象に、加熱式タバコ使用者、紙巻きタバコ使用者、併用者、非喫煙者における高血圧発症を比較した研究。加熱式タバコ使用者では非喫煙者より高血圧発症リスクが高かったが、観察研究であり因果関係は証明されていない。
  • ベン・サードら「加熱式タバコ製品と従来型紙巻きタバコの循環器系への影響に関する系統的レビュー」
    2025年公表。5研究、計460人を対象に、血圧などの急性・短期的な循環器系への影響を比較し、加熱式タバコに紙巻きタバコと類似した血行動態・血管への影響が認められたと報告。
  • 2025年「加熱式タバコ製品の健康影響に関する総説」
    2021~2025年に公表された55研究を検討し、血圧、心拍数、血小板凝集、炎症反応、血管内皮機能などへの影響を整理した総説。
  • 2025年「加熱式タバコ製品による潜在的有害性指標と有害事象に関する系統的レビュー・メタ解析」
    加熱式タバコと紙巻きタバコなどを比較した臨床試験を体系的に評価し、有害性指標について一定の改善を示す結果がある一方、研究結果の解釈には限界があることを示した研究。
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