コラム:世界の「SNS規制」の現状 2026年2月
SNS規制は今後も深化し、国際的な協調と個別国の価値観・法制度の対立が顕在化すると予想される。
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現状(2026年2月時点)
世界各国でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に対する規制が急速に強化されている。欧州連合(EU)は包括的な法制度を整備し、プラットフォームに高度な責任や透明性義務を課している。米国では国家安全保障と表現の自由の間で法的・政治的な議論が活発化し、州レベルでも独自の規制が進む。アジア・オセアニア地域では子ども保護や安全対策が主要な論点となり、世界初の未成年者禁止制度を導入した国もある。権威主義体制下の中国やロシアでは、国家情報統制とインターネット主権の名の下に表現の自由が大幅に制限されている。本稿ではこれらの動向を体系的に整理し、主要地域・国別に具体的事例と規制トレンドを分析する。
SNSとは
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とは、利用者がオンラインでコンテンツを生成・共有し、他者とコミュニケーションを取ることを可能にするプラットフォームを指す。代表例としてFacebook、Instagram、Twitter(現X)、TikTok、YouTubeなどが挙げられる。利用者数の爆発的な増加とともに、政治的議論、情報拡散、マーケティング、文化交流など多様な機能を果たすようになった一方、誤情報、ヘイトスピーチ、プライバシー侵害、メンタルヘルスへの悪影響といった社会的リスクも顕在化している。
SNS規制の法的焦点は、(1)有害コンテンツの管理・削除義務、(2)プライバシーとデータ保護、(3)プラットフォームの責任、(4)未成年者の保護、(5)国家安全保障、(6)表現の自由の保障といった複合的なテーマを含む。各国の法制度は歴史的・文化的背景に応じて多様なアプローチを採用している。
世界各国のSNS規制
世界的にSNS規制は一様ではなく、法制度の成熟度、政治体制、人権保障の状況に応じて大きな差がある。民主主義国では通常、表現の自由を尊重しつつ、プラットフォームに責任と透明性を課す方向で規制が進む。一方、権威主義国家では国家による情報統制の一環としてSNSの活動を直接管理・制限する制度が導入されている。
民主主義国家における傾向
民主主義国家ではプラットフォーム責任を強化しつつ、表現の自由を保護する均衡を図る試みが続いている。欧州は包括的な規制枠組みを構築し、SNS運営企業に対して透明性とリスク管理を義務付けている。米国は伝統的に表現の自由の立場を重視するが、国家安全保障や青少年保護を根拠とした規制強化の議論が進んでいる。
権威主義国家における傾向
中国やロシアなどでは国家による情報統制が極めて強く、SNSやインターネット全般に対する政府の支配力を高める法制度が整えられている。これらは国家主権と安全保障を名目に、オンライン上の発言やアクセスを細かく監視・制限するもので、表現の自由は大幅に制約されている。
主要な地域・国別の規制動向
以下では地域・国別に特徴的なSNS規制の法制度と動向を詳述する。
欧州(EU):世界で最も厳格な法的枠組み
欧州連合はSNSおよびプラットフォームに対する包括的な法的枠組みとして、デジタルサービス法(DSA)とデジタル市場法(DMA)を策定し運用している。これらは単なるガイドラインではなく、加盟国において直接効力を持つ規則であり、プラットフォームのリスク管理や透明性、競争条件の整備を義務付けている。
デジタルサービス法(DSA)
デジタルサービス法は2022年に制定され、SNS企業・デジタルサービス提供者に対して透明性、コンテンツ管理、リスク評価、アルゴリズムの情報提供義務などを規定する枠組みである。DSAはプラットフォームの規模に応じた階層的義務を課すことで、特に巨大なオンラインプラットフォームに対して厳格なリスク管理と透明性義務を課している。これには有害コンテンツや偽情報の拡散リスクの評価、データアクセスの保証、外部研究者への情報提供などが含まれる。欧州委員会は大手SNSに対し、アルゴリズムのリスクや有害影響に関する通知を求め、対応が不十分な場合に罰金の対象としている。
2026年初頭、欧州委員会はTikTokが無限スクロールや自動再生などの「中毒性」の高い設計を放置しているとしてDSA違反の可能性を指摘し、設計の変更や機能制限を求める手続きに入った。違反が確認された場合、最大で企業の年間売上高の6%の罰金が科される可能性がある。
デジタル市場法(DMA)
デジタル市場法はネットワーク効果の強いプラットフォームの独占的支配を抑制し、競争を促進することを目的とする。いわゆるゲートキーパー企業を指定し、特定のサービス(SNSを含む)に対して行為規範を課す。違反した場合、全世界売上高の10%までの制裁金が科され得る。
GDPR(一般データ保護規則)
GDPRは欧州における個人データ保護の基準法であり、SNS企業に対してユーザーデータの利用・移転・透明性に関する厳格な規制を課している。違反した場合には高額な制裁金が科される仕組みであり、TikTokがEUユーザーデータの中国転送に関して数億ドル規模の制裁を受けた事例がある。
欧州では加盟国レベルでもSNS利用年齢制限の議論が進んでいる。フランスやスペインなど複数の国が年齢確認技術の義務化や未成年者制限を提案している。
アメリカ:安全保障と「表現の自由」の対立
米国ではSNS規制は伝統的に表現の自由とイノベーション保護の価値観に根差してきたが、近年国家安全保障や青少年保護を根拠とした規制強化の動きも見られる。
安全保障(TikTok規制)
米国連邦議会は2024年に「Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act(外国の敵対勢力が支配するアプリから米国人を保護する法案)」を成立させ、国家安全保障上の脅威と判断される「外国敵対者が支配するアプリ」を禁止する権限を大統領に与えた。この法は特にバイトダンス(ByteDance)傘下のTikTokを対象としており、条件を満たさない場合には国内でのサービス停止が可能となっている。
第230条(免責条項)の再考
米国におけるSNS規制の核心となっているのが第230条であり、インタラクティブ・コンピュータ・サービスが第三者の投稿内容に対して責任を負わないことを定めている規定である。これによりプラットフォームはユーザー生成コンテンツについて免責され、自由な表現空間が保護されてきた。
しかし、2026年時点で第230条は大規模な見直し圧力に直面している。法の成立から30年を経て、議会内では撤廃や再設計を求める動きが活発化し、特に有害コンテンツや青少年安全の観点から免責範囲を狭める提案が浮上している。
州レベルの規制
連邦レベルの法整備が限定的である一方、州レベルではMetaなどプラットフォームを対象とした児童保護訴訟や消費者保護法による規制が進んでいる。複数の州でSNS企業に対する訴訟が提起され、プラットフォームの設計や安全性対策が法廷で争点となっている。
加えて、連邦政府はAI関連の害コンテンツ(例:非合意型のディープフェイク)に対応する法律を整備し、SNSにおけるコンテンツ削除義務や技術的対応を促進している。
アジア・オセアニア:安全性と実効性の追求
アジア・オセアニア地域では、安全性、青少年保護、オンライン上の有害コンテンツへの対応が主要な政策課題となっている。
オーストラリア
オーストラリアは2025年12月に世界で初めて16歳未満のSNS利用を原則禁止する法令を施行した。プラットフォームは合理的な年齢確認措置を実施する義務を負い、違反した場合には高額な罰金が科される。これは青少年のメンタルヘルスと安全性に対する政府の強い懸念を反映している。
この措置は国際的にも注目を集め、英国やマレーシアなど他国が類似の規制の検討に乗り出している。
日本
日本では特定の包括的SNS規制法は存在しないものの、青少年保護や有害情報対策を目的としたガイドラインや自主規制が進んでいる。また政府SNSアカウントの運用ポリシー策定等により透明性や信頼性の向上が図られている。
シンガポール
シンガポールは「オンライン安全(救済および説明責任)法案(OSRA)」を通じて、TikTokやInstagramなどのSNSに対して有害コンテンツ削除の義務を拡大する権限を当局に付与している。違反時には刑事罰やアプリ遮断の可能性もある。
権威主義諸国:国家による情報統制
権威主義国家ではSNS規制は国家統制と密接に結びつき、政府が情報流通を管理する主要手段となっている。
中国
中国は「オンライン情報内容エコシステム管理規定」などを通じて、SNSやオンラインプラットフォームのコンテンツを国家の価値観・社会秩序に順応させる法制度を運用している。また実名制の導入や政府への協力義務などが課され、表現の自由は大幅に制限される。
ロシア
ロシアでは国家主導のインターネット制御政策に基づき、TelegramやWhatsAppといったSNS・メッセージングアプリに対する規制が強化されている。通信規制当局は違反を理由にアクセス制限や機能制限を実施し、国家支配する独自プラットフォームの普及を促進している。
さらに、過激派関連法などを用いて単なる検索行為すら罰則対象とする法制度を導入し、自己検閲や市民のオンライン活動への抑圧が深刻化している。
規制の3トレンド
世界のSNS規制には次の3つの主要なトレンドが認められる。
若年層保護
未成年者の安全を確保するための年齢制限や年齢確認義務が強化されている。オーストラリアの16歳未満SNS禁止法はその最たる例であり、EU加盟国でも同様の議論が進行中である。
透明性の強制
プラットフォームに対してアルゴリズムやコンテンツ管理の透明性を義務付け、外部研究者による検証や監督を強化する動きが広がっている。欧州のDSAはその具体例であり、プラットフォームの説明責任と透明性が法的に担保されつつある。
フェイクニュース・偽情報対策
フェイクニュースや政治的偽情報による民主主義への影響を抑制するため、削除義務や速やかな対応義務が定められつつある。欧州では選挙期間中の透明性義務が厳格化され、SNS企業に広告ライブラリの公開や偽情報の迅速な是正措置が求められている。
今後の展望
SNS規制は今後も深化し、国際的な協調と個別国の価値観・法制度の対立が顕在化すると予想される。民主主義国家でも表現の自由と安全対策を両立させるための新たな規制枠組みや国際的ガイドラインの策定が議論されるだろう。一方、権威主義体制では情報統制が強化される傾向が続き、国家主権とサイバー空間の管理が国内法の主要テーマとして立法化される可能性が高い。
まとめ
本稿では世界各国のSNS規制を包括的に整理した。欧州はDSA、DMA、GDPRといった法制度によりプラットフォーム責任と透明性を強化している。米国では国家安全保障上の議論と伝統的な表現の自由保護(第230条)がせめぎ合い、州レベルでも独自の規制が進む。アジア・オセアニアでは青少年保護が政策の中心となり、オーストラリアの未成年者禁止法が注目される。中国やロシアなど権威主義国家では情報統制と国家主権の強化が進む。これらの動向から、SNS規制は単なるコンテンツ管理を超え、安全保障、データ保護、民主主義保護といった広範な政策課題と結びついていることが明らかである。
参考・引用リスト
TikTokの欧州DSA違反疑い(The Guardian, Reuters, The Verge)
欧州によるTikTokデータ転送制裁(Business Insider)
オーストラリアの未成年者SNS禁止法(Reuters, Washington Post)
ドイツでの未成年者規制提案(Reuters)
Section 230の再考(The Verge)
ロシア当局によるTelegram規制(Reuters, The Guardian)
米国Meta児童保護訴訟(AP News)
ロシアのインターネット検閲トレンド(Le Monde)
AIコンテンツ規制法(Time)
EU DSA概要(Wikipedia)
EU DMA・対象プラットフォーム(ICR Newsletter)
年齢制限議論(Bloomberg)
SNS規制のグローバルトレンド(Cullen International)
Section 230解説(Wikipedia, EFF)
中国ネットワーク情報管理規定(Wikipedia)
中国実名制度(Wikipedia)
SNS規制フレームワーク研究(arXiv)
追記:SNS規制に対する反対意見の整理
SNS規制は国や地域によって推進されつつあるが、規制推進論に対しては多様な反対意見が存在する。これらは基本的に「言論の自由」「表現の自由」「民主主義的討論の保護」「技術革新・競争の阻害」という価値観に基づく批判が中心である。
言論・表現の自由に対する脅威
反対意見の核心は、政府や第三者機関によるSNS規制が過度な検閲につながる可能性であるという懸念である。特に民主主義の価値として自由な討論・批判が不可欠であるという立場から、「有害情報」の定義が恣意的に拡大されると、合法的な意見表明や批判的議論まで規制対象となるリスクが指摘されている。こうした批判は、欧州や英国のSNS関連の安全法制に対しても表現の自由への深刻な影響を警戒する国際人権団体の意見として報告されている。例えば英国の法律(Online Safety Act 2023)では、言論の自由や情報アクセスに重大な脅威を与えるとの批判が国際的な人権団体や民間権利団体から提出されている。
また、米国の伝統的自由主義系の議論では、政府がプラットフォーム内容を規制すること自体が憲法上の自由権を脅かすという批判が提出されている。これは、規制が内容を政治的に誘導する道具として利用される懸念にも基づくものである。
自主規制・教育等の代替案の重視
専門家の一部には、SNS上の有害コンテンツの問題は「技術的な規制より教育とリテラシー強化で対処すべきだ」との主張がある。若者へのデジタルリテラシー教育やメディアリテラシー向上を通じて、SNSの安全な利用方法を身につけさせる方が、強制的なアクセス制限や法的罰則よりも効果的との見解である。特に完全禁止や強力なアクセス制限は「安易な反射的対応」であり、若者のネット利用や社会的つながり形成に負の影響を与える可能性があると指摘されている。
イノベーションと競争への影響
SNSプラットフォームを公益事業(public utility)として規制すべきという主張に対する反対論も存在する。反対論者は、SNSの技術・サービスは日々変化しており、伝統的な公益事業のような規制体系に固定すると競争や革新を損なうと主張する。政府がSNSを公益事業と同様に扱うと、その規制の重さによって新規参入や技術革新が阻害されるリスクがあるとの批判である。
SNS規制のメリットとデメリット
SNS規制の是非は世界的に議論されている。以下は主要なメリットとデメリットを整理したものである。
規制のメリット
(A)有害コンテンツの削減・社会的リスクの低減
国家・地域レベルの規制により、誹謗中傷、ヘイトスピーチ、偽情報・誤情報、不正選挙運動などの有害コンテンツを迅速に削除・制御できる可能性が高まる。これにより個人・集団の権利保護や選挙プロセスの健全性維持に寄与する。
(B)被害者救済の迅速化・透明性向上
日本の「情報流通プラットフォーム対処法」など、被害者が迅速かつ透明性のある対応を求められる制度は、被害者救済の実効性を高め、SNS事業者の対応を法的義務として明確化するというメリットがある。
(C)青少年保護
未成年者や脆弱な利用者を有害情報から守るため、年齢制限や年齢確認義務、時間制限等の規制導入が進んでいる。これらは児童や青年の精神的・社会的健康の保全を目的としている。
規制のデメリット
(A)言論・表現の自由の制約
政府や行政の裁量によって「有害」「違法」とされる範囲が拡大すると、合法的な意見表明まで削除・制限される可能性がある。この点は国際人権団体による批判が強い。
(B)規制コストと事業者負担の増加
プラットフォーム企業にとって、コンテンツ審査・削除・透明性報告等の義務は人件費・技術コストを増大させ、特に中小企業や新規参入者にとって重い負担となる可能性がある。
(C)規制回避行動や表現の変質
厳格な規制は、ユーザーの規制回避(暗号化コミュニケーション、別サービスへの移行など)や、表現内容の曖昧化を促す可能性がある。また、アルゴリズム的な介入によって意見形成の質が低下するリスクも指摘される。
(D)政治的・社会的分断の深化
規制が政治的に悪用されると、特定の意見や集団を排除する基盤となりうるとの懸念があり、社会的分断を深める可能性も存在する。
日本国内の「SNS誹謗中傷」に対する法的手段
日本ではSNS上での誹謗中傷に対して、複数の法的救済手段が存在している。
刑事法による対応
侮辱罪・名誉毀損罪
誹謗中傷に該当する投稿は、刑法上の侮辱罪(刑法第231条)や名誉毀損罪として処罰対象となる。侮辱罪については法定刑の引き上げが行われ、懲役・禁錮・罰金刑の選択が可能となった。
民事法による対処
発信者情報開示請求・損害賠償請求
被害者はSNS投稿者に対して発信者情報(氏名・住所等)の開示を求める法的手続きや、損害賠償請求を民事裁判として進めることが可能である。(具体例として弁護士による手続きガイドも存在する。)
プラットフォーム対応(行政・民間)
通報・削除依頼
各プラットフォームの通報機能(通報/報告)を利用して、ガイドライン違反として投稿削除を直接依頼する方法がある。
相談窓口利用
総務省の違法・有害情報相談センターや法務省人権侵害相談窓口等、行政機関を通じた助言・削除要請支援を受けられる仕組みも存在する。
日本における削除手続きの法理的変更分析
2024年〜2025年にかけて、日本の法律では誹謗中傷対応の実効性を高めるために「プロバイダ責任制限法」の全面的な改正が進められ、「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」として再構築された。
削除申請対応義務の明確化
従来のプロバイダ責任制限法では、プラットフォーム事業者の削除対応は一定の裁量が認められていた。しかし改正後は、月間アクティブユーザー数等の要件を満たす「大規模指定事業者」に対して誹謗中傷・権利侵害情報への迅速な対応義務を法的に課す内容となった。これにより、削除申請から一定期間内での対応と基準・実績の公開が法的義務となる。
透明性・基準公表の義務
改正法は事業者に対して削除基準や対応体制を公表し、対応状況の透明性を確保する義務を明記した。また、被害者側が対応状況を客観的に検証できる仕組みが強化された。
迅速対応と救済の強化
改正法では誹謗中傷等への対応の迅速化が期待されており、従来より被害者救済手続きがスムーズで迅速に進む仕組みに改善されている。プラットフォーム側の審査遅延や不透明さによって被害が拡大するリスクが減少する方向にあるとされる。
追記まとめ
SNS規制への反対意見は主として言論・表現の自由の脅威への懸念、教育等による代替策の重視、技術革新の阻害リスクに基づく。
規制のメリットとしては有害コンテンツ抑止・被害者救済・青少年保護等がある一方、デメリットとして表現の自由制約・コスト増・規制回避の問題が挙げられる。
日本のSNS誹謗中傷対応法的手段には刑事法(侮辱罪等)、民事訴訟(開示請求・損害賠償)、プラットフォームの通報機能利用、行政相談窓口の活用がある。
法理的変更としての情プラ法では、削除義務の明確化、基準・対応の透明性義務化、迅速対応の強化が進められ、被害者保護と対応実効性が強化されている。
