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コラム:軍事クーデターから5年、ミャンマーの現状

2021年2月のミャンマー軍事クーデターは、その後の政治的混迷と武力衝突を通じて深刻な人道危機と国家の分裂を招いた。
2021年2月1日/ミャンマー、首都ネピドー(AP通信)
現状(2026年1月時点)

2026年初頭のミャンマーは、2021年2月1日の軍事クーデター以降、5年以上に及ぶ政治的混迷と武力衝突が継続している。国軍(正式名称:ミャンマー国軍)が主導する事実上の軍事政権は、2025年末から総選挙を強行し、親軍政党の「連邦団結発展党(USDP)」が勝利したとされるが、選挙の正当性は国際社会の多くから疑問視されている。国内では広範な地域で抵抗勢力と少数民族武装組織が対峙する状態が続いており、内戦状態の深刻さは増している。国民の多数は依然として戦火や政治的不安に直面しており、避難民と人道危機が累積している。


クーデター発生(2021年2月1日)から5年

背景

ミャンマーは2011年の形式的な民政移管後、旧軍出身の政権と民主勢力の間で政治的な緊張関係が続いていた。2015年総選挙でアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、2016年に政権を発足させたものの、軍は憲法上大きな影響力を保持していた。2020年総選挙でもNLDが大勝したが、軍は選挙の不正を理由に介入を強め、2021年2月1日にクーデターを強行した。

クーデター当日の展開

2021年2月1日未明、国軍は首都ネピドーをはじめ全国で主要政府機関を掌握し、アウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領をはじめとする政治指導者を拘束した。国軍は非常事態宣言を発出し、軍総司令官ミン・アウン・フラインを事実上の統治者として国家行政評議会(State Administration Council, SAC)を設置した。これによって、民選政府は一夜にして失権した。


経緯

クーデター直後、都市部では大規模な市民抗議運動が発生した。医療従事者、学生、労働者を含む市民は非暴力的なデモと市民的不服従運動(CDM)を展開したが、軍は実弾を用いた弾圧により多数の死傷者を出した。治安部隊は暴力的な拘束、拷問、殺害を含む弾圧を進め、多くの市民が逮捕・拘禁された。特にジャーナリストや医療従事者への抑圧が顕著であり、報道・医療活動が著しく制限された。

武力衝突への発展

軍の弾圧が激化する中で、抵抗運動の一部は武装化へと移行し、都市周辺から地方の少数民族地区へと広がっていった。国民統一政府(National Unity Government, NUG)が結成され、その防衛部隊である人民防衛隊(People’s Defence Force, PDF)が各地でゲリラ戦を展開した。また、カレン民族同盟(KNU)など歴史的な民族武装組織がNUGと連携し、国軍と激しい戦闘を行った。


首謀者(ミン・アウン・フライン国軍総司令官)

ミン・アウン・フラインは、クーデターの首謀者として国軍総司令官の地位を利用し、軍による政治支配の継続を追求した。フラインの政策は民主勢力の排除と軍の優越性の強化を目指しており、非常事態宣言の延長や憲法改定を通じて軍政の正統性を国内外に訴える試みがなされている。国際社会からは人権侵害の責任を問われており、国際刑事裁判所(ICC)への訴追を求める動きも存在する。


拘束(アウンサンスーチー氏やウィンミン大統領ら)

クーデター当日、アウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領ら主要な政治指導者は拘束され、その後も長期拘禁状態が続いている。ミャンマー政治囚支援協会(AAPP)によると、多数の政治家、活動家、デモ参加者が拘束され、数千人規模の政治犯が存在している。こうした拘束は政治的弾圧として国内外から批判を受けている。


内戦激化

クーデター後の抵抗は単なる都市部の抗議にとどまらず、少数民族地域を中心に軍事衝突が全国的に拡大した。国軍と抵抗勢力、民族武装組織の間での戦闘は頻発し、国境地帯や中部山岳地帯でも激しい戦闘が発生した。2024年には国軍がミャワディの包囲戦など重要な局面を迎え、局地的な勝敗はあったものの、全面的な軍政側の勝利には至っていない。

戦力と戦術

抵抗勢力はゲリラ戦、待ち伏せ戦術、都市部での小規模戦闘を駆使し、国軍の正規戦力と対峙した。一方、国軍は航空機や重火器を用いた大規模作戦をして抵抗勢力を圧倒しようとしたが、地理的条件や抵抗勢力の結束により進撃は困難を極めた。


抵抗勢力

抵抗勢力は主としてNUG傘下のPDFと、歴史的に武装闘争を継続してきた少数民族武装組織で構成されている。カレン民族同盟、カチン独立軍など主要な民族勢力がNUGと協調し、軍事的・政治的な連携を模索している。抵抗勢力の結束は一枚岩ではないものの、共通の敵である軍政に対する戦闘意志は根強い。


支配領域の変化

国軍が公式統治を主張する地域は主要都市と交通・行政のハブに集中している一方、抵抗勢力と少数民族組織は国境地帯や山岳地帯で影響力を保持している。報告によると、軍政側は国土の約20~30%程度を支配し、抵抗勢力と民族武装組織が広大な地域を掌握していると指摘されている。


人道危機

内戦状態は深刻な人道危機を引き起こした。戦闘による死傷者の増加、避難民の急増、食料不足、医療崩壊、教育機会の喪失などが生じている。国連開発計画(UNDP)の報告によれば、数千万人規模で貧困状態にあるとされ、一部地域では甚大な飢餓と医療不足が深刻化している。国内避難民は数百万に及び、一部は周辺国へ逃れた。


最新の状況(2026年1月時点):2025年末から2026年初頭にかけて総選挙を強行

軍事政権は2025年末に総選挙を実施し、親軍政党である連邦団結発展党(USDP)が圧勝したと発表した。選挙は複数段階で実施され、2026年初頭にも投票が継続されているが、その公正性・自由度については国際社会から強い疑念が示されている。多数の政党が排除され、NLDや主要な野党は解体または参加を拒否したため、選挙競争の公平性は極めて低いと評価されている。

親軍政党の勝利

USDPは選挙で大多数の議席を獲得したとの公式発表がなされたが、投票率は主要都市で低迷し、半数を大きく下回る地域もあったと報じられている。人民の間では投票への恐怖感や報復を避けるための消極的な参加が指摘され、選挙結果は実質的な民意とは言い難いとの評価が一般的である。


国際社会の反応

国際社会の反応は分裂している。欧米諸国や国際人権団体は選挙を「茶番」と強く非難し、軍事政権とその支援勢力に対して制裁の強化や政治的圧力を続けている。一方で、中国やロシアは主権尊重の立場を取り、軍政との政治・経済関係を維持している。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)は公平で包括的な対話の必要性を強調しつつも、実効的な解決策を見いだせずにいる。


今後の展望

ミャンマー情勢の今後については、複数のシナリオが考えられる。第一に、軍政側が国際的な正当性を獲得しつつ国内統治を強化する道筋があるが、抵抗勢力の根強い反発と内戦状態により容易ではない。第二に、抵抗勢力や少数民族勢力が連携し、国軍の支配を揺るがす可能性があるが、外部支援の不足や内部分裂が課題となる。第三に、長期化する内戦が国土の分断、バルカン化を進行させ、地域の安定を損なう可能性も指摘される。


まとめ

2021年2月のミャンマー軍事クーデターは、その後の政治的混迷と武力衝突を通じて深刻な人道危機と国家の分裂を招いた。2026年初頭時点でも内戦は収束せず、軍事政権と抵抗勢力の対立は激しさを増している。総選挙の実施にもかかわらず、民主的正統性の回復は遠く、国際社会の対応は分裂したままである。今後の展開は不透明であり、和平プロセスの構築と人道支援の強化が喫緊の課題である。


参考・引用リスト

  • Human Rights Watch「ミャンマー:人道に対する犯罪につながった軍事クーデター」(HRW)

  • Human Rights Watch “World Report 2025: Myanmar”

  • CFR “Civil War in Myanmar | Global Conflict Tracker”

  • アジア経済研究所「2025–2026年ミャンマー総選挙――正当性なき国軍主導の民政移管へ」

  • IDEスクエア(渡邊康太)分析

  • 平和研究論集(ミャンマー軍事クーデター)

  • AP News「Myanmar holds second round of voting … criticised as 'sham' election」

  • Reuters「Myanmar votes second phase military-run election」

  • CNN Japan「ミャンマーで総選挙始まる」

  • Crisis Group「Myanmar’s Dangerous Drift…」


追記:ミャンマー内戦が泥沼化した経緯

ミャンマー内戦の泥沼化は、軍事クーデター直後の政権転覆に対する国民の広範な反発を出発点としている。2021年2月1日のクーデターにより、アウンサンスーチーをはじめとする民選政府指導者が拘束され、国軍が政治権力を掌握した。この軍事介入自体が重大な民主主義侵害であり、市民・労働組合・専門職団体などを含む広範な市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement, CDM)が全国的に展開された。軍による弾圧と市民運動の激しい衝突は早期に武装闘争への転換を促し、都市部だけではなく地方の抵抗へと拡大した。

軍政の暴力的抑圧は戦闘の激化を促進した。治安部隊は非暴力デモに対しても実弾射撃や拘束、拷問、拷問死を含む広範な弾圧を行い、これが市民の武装化を加速させた。この状況下で、国民統一政府(NUG)が結成され、人民防衛隊(PDF)など武装組織が出現した。また、クーデター以前より存在していた少数民族武装組織(Ethnic Armed Organizations, EAOs)が急進し、NUGとの非公式な協調関係を築いた。これらの勢力は国軍と対峙する形で複数戦線を形成し、統一された軍事戦略を欠いたまま分散・多層的な戦闘状態が恒常化した。

地域ごとの歴史的な対立や自治要求も内戦泥沼化の要因となっている。ラカイン州ではアラカン軍(Arakan Army)が勢力を拡大し、チン州ではチンランド防衛隊とPDFの連合が軍を押し返すなど、国軍が全土統制を確立できない現状が続いている。こうした軍と複数の武装勢力との複雑な対立は、単一の和平合意を困難にし、内戦の長期化・複雑化を助長している。また、国軍の戦略的失敗や兵力の分散、経済の深化する混乱が戦闘の膠着状況をもたらし、一時的に停戦・交渉の可能性が模索されても、再び戦闘が激化する悪循環が続いている。


各地の戦況

多様な戦域で激しい戦闘が継続している。西部のラカイン州では、アラカン軍が複数の重要拠点で軍政側に対して優勢を保っている。例えば、アン(Ann) では2024年末までにアラカン軍が国軍を完全に打倒し、重要な軍事拠点と空港を掌握したとの報告がある。これは軍政の戦略的要所での敗北を象徴する出来事であり、ラカイン戦線の重要性を浮き彫りにしている。

北部・中部では、チン州クインドゥエ(Kyindwe) の奪還戦が2023年末から2024年にかけて行われ、反軍勢力が4か月超の激戦の末に同地を制圧した。これにより国軍の地域支配力は更に低下し、抵抗勢力の統治地域が拡大した。

ラカイン州と国境付近の別地域では、マウンダウ(Maungdaw) の戦いにおいてもアラカン軍が国軍に勝利し、バングラデシュとの国境沿いの支配を確立した。これに伴い民間人の避難と難民移動が激増していることが報告されている。

また、戦闘は全土的な連鎖反応を引き起こしており、タニ国境周辺地域でも歴史的戦略地点が破壊されるなど、インフラの損失が続いている。特に2025年12月10日には、軍隊による空爆で病院が被害を受け多数の民間人が死亡・負傷した事件が発生しており、国軍の軍事作戦が民間生活に深刻な破壊的影響を及ぼしている事例として国際社会の非難を集めた。

これら戦闘は単独戦線ではなく複合的な情勢を示し、戦況は地域によって異なるものの、軍政側が全国的に制圧したという状況には至っていない。広範な地域が抵抗勢力やEAOsの支配下にあり、対立は膠着状態を続けている。


軍が総選挙を強行した背景

軍事政権が2025年末から2026年初頭にかけて総選挙を強行した背景には、主に正統性の獲得と内外圧力への対応戦略という2つの動機がある。軍政はクーデター直後から非常事態宣言を繰り返し延長し、直接統治を継続してきたが、その政治的正当性は内外から強く疑問視されていた。多くの国際機関・人権団体は選挙実施を民主主義回復の条件と主張し、国軍側も政治的正当性と制裁緩和を求める必要から、形式的な選挙の実施を模索してきた。

しかし、選挙の準備は戦闘状態の継続に阻まれ、全国的な投票実施が困難な状況が続いたため、複数段階に分けた選挙となった。軍政は選挙を「民政移管のプロセス」と位置づけながらも、主要野党であるNLDや反軍派勢力の参加を排除し、親軍政党であるUSDPなどを中心とした政治勢力に有利な体制を構築したと批判されている。

軍が選挙を強行したもう一つの背景は、戦争疲弊による国軍の政治的弱体化の回避である。戦闘の泥沼化と経済悪化により軍政の統治基盤が脆弱化する中、選挙による政治的正当化を通じて統治の安定化を図る意図があったと見られている。また、軍用機や重火器による都市・地方の軍事行動が続く中で、選挙を通じた政治移行が国際的な制裁緩和や外交関係正常化への足がかりになるとの軍政側の判断が背景にあると指摘されている。

ただし、多くの地域では選挙への参加が戦闘状態に阻まれており、自由かつ公平な選挙条件は整っていないとの指摘が多数ある。国軍側が選挙を形式的なものとして、権力維持のための「正当性の仮面」として位置づけているとの評価が国際人権団体やメディアから広く示されている。


ミャンマーの未来

ミャンマーの未来は依然として多様なシナリオが重層的に交錯する不透明な状況にある。主要な可能性として、以下の選択肢が考えられる。

1. 内戦の長期化と地域分断

最も現実的なシナリオとして、内戦が長期化し、地域ごとの支配勢力が固定化する形で国土の分断が進行する可能性がある。抵抗勢力やEAOsは各地域での自治的統治を強め、軍政は主要都市と交通要所での支配を維持しようとするため、地域的な分断が進行する恐れがある。この場合、国家としての統合的な政治秩序の回復は困難となる。

2. 部分的和平と政治的交渉

国際社会の圧力と人道危機の深刻化を背景として、部分的な停戦・交渉が模索される可能性がある。ただし、交渉における主要な条件である停戦合意・監視メカニズム・政治的包括性の確保が欠ける限り、和平は限定的・断続的なものにとどまる危険がある。このシナリオは、限定的な地域停戦や交渉が局地的に成立するものの、国家全体の安定には至らない可能性が高い。

3. 国際的枠組みの介入

国連・ASEAN・主要国の協調による包括的な政治解決枠組みが形成される可能性もあるが、現状では軍政・抵抗勢力双方が譲歩し難い立場を取っているため、短期的な実現は見通しが立っていない。しかし、人道危機と難民流出が地域安全保障への影響を拡大する中で、国際的な枠組みが徐々に圧力を強化する可能性は存在する。

いずれのシナリオにおいても、国内の政治的正当性の回復と包括的な対話の成立、そして人道支援の強化が不可欠である。現地住民の平和と安全、基本的人権の保障、社会・経済の再建は長期的な取組として不可避の課題である。


参考・引用リスト

  • AP News, “Myanmar holds second round…general election since military takeover” (2026)

  • Reuters, “Myanmar votes again in military’s lopsided election” (2026)

  • Reuters, “Pacts, patronage and fear: how Myanmar’s junta chief holds on to power” (2026)

  • AP News, “Military airstrike on gem mining town…” (2025)

  • AP News, “Myanmar will hold its first general election in 5 years…” (2025/2026)

  • 日テレNEWS NNN, “ミャンマー軍のクーデターから4年…内戦は泥沼化…” (2025)

  • Ideスクエア「2025–2026年ミャンマー総選挙――正当性なき国軍主導の民政移管へ」 (2025)

  • Britannica, “2025 Myanmar General Election | Background, Conditions, & Controversy” (2025)

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